戦鎚とったからパラディ島行くわ 作:匿名
今回はOADとかで出てきた『困難』
彼らがいたらどうなるか。なお、ノルドはOADの内容を知らない
気付いたら、めっちゃ長くなってる!?
そりゃ書き上げるのに、時間がかかるわな
Case:困難
「それじゃあ、第二班、俺たちも出発だ。遅れるなよ」
第一班と別れたノルドたちは、馬に乗り移動を開始する。
本日行われるのは、荒地行軍訓練と呼ばれる内容。
長距離遠征の予行演習のようなものだ。
16人で一つのグループとなり、そこから更に二つの班に分かれて互いに別ルートで目的地まで向かい、印を回収したのち、もう片方のルートで帰還するという訓練だ。
この訓練の目的は、片道40kmという長距離。
何もない時間が発生し危機感が薄れる中、如何に危機意識を維持することができるかに掛かっている。
ノルドたちのグループは
第一班に
リーダー:マルコ 記録係:アルミン
メンバー:エレン
クリスタ
サシャ
コニー
ジャン
ミーナ
第二班に
リーダー:ノルド 記録係:ミカサ
メンバー:ユミル
アニ
ライナー
ベルトルト
トーマス
ダズ
このような人員となっている。
将来の上位10人が揃い踏みとなっただけあり、このグループが向かう場所は、今回の行軍先の中で一番地形が複雑で、目的地も分かりにくいものとなっている。
今回用意されている馬は、調査兵団等が乗馬している品種改良された馬ではなく、通常の駿馬に当たる。
長距離というのも相まって、常歩で移動する事となる。馬の常歩は約5km/hなので、この訓練は一日を掛けて目的地に向かい、野営を挟んだ翌日に帰還するのが通例である。
「今のところ、大丈夫そうだな」
雲一つない空に浮かぶ太陽が頂点に至り、眩しい陽射しを一身に受ける。
長距離遠征はゆっくりの移動だろうと馬に乗っているので、かなり体力を消耗する。
太陽の位置を見て、昼時と判断したノルドは一行を日陰のある場所に誘導し、休憩時間に移らせていた。
リーダーに指名された以上、責務は果たそうとメンバーの体調管理や進路確認をしっかり行っていた。
「この進路だと夜までに到着するのは無理そうか」
「そう、進むならコッチの道」
記録係であるミカサが持つ地図と睨めっこしながら、時間と進み具合を元に進路を考えていた。
「…………日陰が足りないのが少々気になるところ。だが、間に合わないよりはマシか」
今一度、メンバーの状態を確認し、判断を下す。
「よしっ! 少し辛いが、ミカサの提示したルートで行こう」
「分かっ────っ!?」
何かを感じ取ったのか、ガバっと振り向いたミカサ。
「…………どうした、ミカサ?」
「いや、何でもない」
明らかに様子がおかしいミカサに対して、ノルドは声を掛けるも、ミカサは顔をこちらに戻し頭を横に振る。
「お前ほどの奴が、違和感を覚えたんだろ? 何でもないことはないだろ。もっかい聞くぞ、どうした?」
「…………ううん、分からない。でも、変な感じがする」
「そうか、それだけ分かれば十分だ」
座っていたノルドは膝に手をつき立ち上がり、休憩している面々に指示を出す。
「おいっ! そろそろ休憩は終わりにして移動を再開するぞ! あ、それとミカサから、この先に何かあるとのことだ。全員、警戒は怠るな! この訓練の目的を思い出せよ」
ノルドは班員に発破をかけ、行軍を再開させた。
行軍を再開させてから暫し経ち、グループ内にはある種の緩みが発生していた。
具体的には、私語である。
ライナーとベルトルト
トーマスとダズ
ノルドとユミル
いまだ、喋らず行軍しているのはミカサとアニだけだ。
最初こそノルドは他の面々を注意していたが、ダズとトーマスの子守に飽きたユミルが絡みだしてから、少しずつ緩んでいった。
ノルド自身、私語をしてはいるが周囲の警戒を怠っているわけではない。いつ異変が起こっても問題ないようには務めている。
ただ、後ろを振り返るとノルドのことをじっと睨みつけているアニと目が合うのだけが、少し怖かったりしていた。
ミカサに関しては馬のコントロールは完璧に、しかしずっと地図を見ている。
(この調子なら大丈夫だろ)
グループの大半はこの空気に流されている。
行軍も何事もなく進み、森まで辿り着くことができた。
ノルドも順調にここまで来ることができ、一安心といった様子を見せる。
その姿は前半にミカサから、もたらされた警告を完全に忘れているようだった。
だからこそ────
「本当なんだってっ!!!」
森に着いた第二班は、一度休憩を挟んだ後、野営に向いた場所を探し、夜を明かすための準備に取り掛かろうとしていた。
そんな中、ダズの大声が聞こえ、何事かと皆がその場に集まった。
「ここに置いてたはずなんだよっ!」
その場に向かうと、ライナーとベルトルト、そして何故か立体起動装置を身に着けていないダズがいた。
「どうした。何かあったか?」
リーダーであるノルドが皆を代表して話しかける。
「ああ、どうやらダズの立体起動装置がどっか行ったらしい」
「なくしたって事か。ダズ、装置はどこに置いてたんだ」
「こ、ここだよ。ここに置いてたんだ。小便したくて外したんだ」
その場所は見晴らしが悪いとはいえ、間違えるような所はない。
「ちょっといい?」
何故なくなったのか、考える間もなく周囲を散策していたアニから声が掛かる。
首で方向を指され、向かうとそこには野営の跡があった。
「だいぶ前に離れてるな」
ライナーが野営跡の燃え尽きた木に触れ、確認している。
「あっちにも同じような跡があった。それなりの人数がいる」
「それから、こっち」
ミカサは先ほどの休憩中に見つけていた野営跡のことを換算し、数が多いことを知らせてくる。
すると、またアニから声が掛かる。
考えさせてくれる暇が全くない状況に、辟易としながらノルドは向かう。
そこにあったのは、複数の馬車と人間が通った跡。
「このあたりに、住民がいるって情報はない」
ある程度、情報が集まり一度対策を考える必要があると判断したノルドは、見張りを立てて話し合う。
「なくすなんて普通はありえない。盗られたと判断するべき」
「そうだな、窃盗団と見るべきだろう。兵器や物資を盗んで闇に流す連中がいる。立体機動装置は裏じゃ高値で取引されているらしいしな」
ミカサの発言にライナーが立体機動装置の価値を交えながら、肯定する。
「ミカサの読みが当たったな」
「どうする、いったん引き返すか?」
ライナーからの進言。
本来ならそうするべきだが、状況が悪い。
「いや、進もう。あっちの方がどうなっているか分からないが、窃盗団について共有しておいたほうがいい」
「…………そうか、あっちにも行ってる可能性があるのか」
そう、この森に窃盗団の類がいることは確定した。
ならば反対側にいるであろう第一班に被害が出ないとは限らない。
この情報だけでも伝えなければ。
「だが、どうする? もう夜になる。移動するのは危険だ」
夜の森。
これは想像以上に危険を孕んでいる。
足下がおぼつかない状態で、もし会敵しようものなら、すぐにやられてしまうだろう。
「いや、行こう。俺達なら関係ないだろう」
しかし、周りを見てください。
巨人の力を人の身で再現したアッカーマン。
兵団所属前から戦士として鍛えられたマーレ組。
魔改造されたユミル。
そしてノルド。
何をどうしたら負けるでしょう?
「分かった。リーダーの判断に任せる」
皆がノルドの意見に賛成を示したことで、第一班との合流及び会敵時の作戦を綿密に詰めていった。
「動くな」
誰かの悲鳴が聞こえ目を覚ました第一班のメンバーは、身体を起こすことができなかった。
目出し帽で顔を覆い隠した幾人もの存在が、横になって眠っていた自身に対して銃口を突きつけていたからだ。
誰かが恐怖で喉を鳴らし、周囲は緊迫に包まれる。
「全員の立体機動装置を集めろ」
エレンに対して銃口を向けていた、窃盗団の頭領はその場にいた訓練兵に要求を告げた。
あまりの展開に誰も動くことはせず、話すこともない。
ただ、無為に時間だけが過ぎていく。
「…………早くしろ」
焦れたようにもう一度要求を突きつけることで、ようやく思考が回り始める。
いち早く復帰したエレンは隙を伺うついでに、頭領に理由を問うた。
「…………っ……それをどうするつもりだ」
「欲しがる連中がいる、売って金にするんだよ」
あけすけに答えられた俗すぎる、あまりに身勝手な回答にエレンの身体が硬直する。
「どうせ巨人に勝てやしねぇんだ。無駄な兵器を役立てて何が悪い?」
その言葉はエレンの心に火を灯した。
巨人を駆逐するという目的を持つ彼にとって巨人に勝てないと断言されるのは、自身を否定されること他ならない。
頭領は問いに答えている最中に、徐々に銃口が下がっていってるのをエレンは確認した。
(今なら、皆が同時に取り押さえてくれればイケる!)
勝てると判断したエレンはガバっと身体を起こし、銃口が逸れている頭領に掴みかかる。
「皆っ! 今がチャンスだっ!!」
銃身と肩を抑えつつ、この機を逃さないとばかりに皆に声を掛けるも、多くのメンバーは銃口を突きつけられた恐怖にまともに動くことが出来ていなかった。
「なっ!?」
さしものエレンも味方が誰一人として動かないこの状況に一瞬混乱する。
(なんでっ…………誰も、動かないんだ)
抑えつけていた腕の力が緩む。
それを見逃す頭領ではなく、力任せに拘束を振り払い抑えられていた鬱憤を晴らすかのように、エレンに対して銃床で殴りつける。
「うぐっ!?」
重たい一撃を喰らったエレンは地面に這いつくばらされる事となった。
「大人しくしてろって、全くふざけた野郎だ。…………いつまで見てんだ。テメェら、早く立体機動装置を集めろっ!!」
隙をつかれ、いいようにされた頭領は苛立ち気味に部下や訓練兵に命令した。
その言葉で慌ただしく、立体機動装置を取り外し始める窃盗団の部下。
「おい、そこの女の首にナイフ突きつけとけ。誰かが余計な動きをしたら、すぐに搔き斬れるようにな」
クリスタを人質にした。
そうなってしまえば、もはや抵抗できることはなく一同はされるがままになっていった。
奪われた立体機動装置が馬車に積み込まれた。
その様子をただ見てることしか出来ない面々。
「ああ、そうだ。この女はまだ人質として連れて行く」
「…………はぁ!?」
堂々としたクリスタ拉致発言に、恐怖や怒りで黙っていた人たちも、驚愕の声を上げる。
「さっきみたいに、襲われてはたまったもんじゃないからな。安心しろ、ちゃんと返してやるよ」
全くもって信用できない頭領の答え。
しかし、今何かできるかと言えば、何も出来ない。
もはや万事休すかと思われたその時――――。
「おや、すみません。もしかして襲われています?」
闇夜に響く声。
誰もいないはずの木々の間から姿を出したのは、第二班にてリーダーを担当していたノルドだった。
「ノルドっ!?」
同期たちは、彼の登場に驚きを隠せなかった。
いち早く動いた窃盗団の頭領は、銃口をノルドに向け注意勧告を飛ばす。
「まだ、居たのか。おいっ! それ以上近づくと鉛玉を頂戴することになるぞ」
「それは怖いですね。では、これ以上近づかないとしましょう」
ゆっくりとした足取りで移動していた彼は、足を止めた。そして、何事もなかったかのように問いを投げた。
「一つ疑問なのですが、貴方達は窃盗団という認識で大丈夫ですか?」
「ああ? これ見りゃわかんだろうが」
その飄々とした態度に、付き合うのは面倒と判断した頭領は、吐き捨てるようにこの状況を見せた。
「安心しました。…………では、遠慮なく潰す」
ノルドの声が一気に低くなり、ブレードが引き抜かれる。そして、キィィィンという金属同士がぶつかり合う甲高い音が、周囲に響き渡る。
ブレードの刃と刃を打ち付け合ったのだ。
「おいっ! この人質が見えっ―『パァンッ!』―!?」
その音を合図として、見張りを無力化して奪った単発式の銃から放たれた弾丸が寸分違わず、クリスタを抑えていた部下の武器を弾いた。
「……っ…………セイッ!!!」
自由になったクリスタは、武器を弾かれ手を痛めた男の腕を掴み、勢いよく投げ飛ばす。
本来の歴史より遥かに強く、判断力も大幅に向上した彼女の攻撃は、鍛えられてもいない一般男性などものともしない。
その様子を見て激昂するのは、窃盗団たち。
人質が機能しないと分かった彼等は、彼女の動きを止めようと、一斉に銃口を向けた。
陣形が乱れた。
ノルドは再度、ブレードを打ち付け合図を出す。
そして、叫ぶ。
「第一班っ!! お前らより、か弱いクリスタが根性見せたぞっ! 丸腰じゃ何も出来ないか!」
声を荒げたままに、立体起動で接近していく。
それと同時に、近くで待機していた第二班のメンバーがノルドと同様に立体起動で突貫してくる。
ブレードで器用に武器だけを叩き落としていくミカサやアニ。
一目散に、敵に囲われた友の下に向かうユミル。
ガスの勢いのままに突っ込み、体格を利用したタックルをお見舞いするライナー。
離れた位置から、的確な射撃で味方を援護するベルトルト。
残っている敵の武器を対象に攻撃を続けるノルド。
それぞれが事前に決めた行動をとり、徐々に追い詰めていく。
それをみたエレンたちがようやく動き出す。
「皆っ! 行くぞ、敵は武器を落としてるが数が多い。俺たちで取り押さえるんだ」
「「「おうっ!」」」
エレンの号令で、ダッと駆け出す。
一回目とは違って覚悟を決めたようだった。
その間にも、どんどんと武器を払い意識を飛ばし戦意を削ぐ。
途中、積まれた馬車で逃げ出そうとした奴もいたが、しっかりと天誅を下している。
そのまま敵味方が入り交じり、乱戦が続く。
────半刻後。
「よしっ! 制圧完了だな。トーマス! 周囲の様子は?」
「問題ない! 伏兵とかはいないと思う」
窃盗団を叩きのめし、全員の拘束が完了した。
現在、ダズが夜道を逆走し訓練地に戻っている。平地であるため、夜も大丈夫と判断し送り出したのだ。
彼には、教官にこのことを報告してもらいに行っている。
「分かった! それじゃあ見張りは続けるが、休憩っ!!」
あと、数時間もすれば憲兵団がやってくるだろう。
それまでの時間、見張りを持ち回りで続け休憩となった。
それぞれが話しかけている。
「また怪我してる。エレン、絶対無茶したでしょ」
「うるせぇよ。これくらいどってことない」
「アルミン」
「エレンは銃を突きつけた相手に掴みかかって、反撃で撃たれた」
「なっ…………アルミンッ!!」
エレンやミカサにアルミンという、いつもの面子。
「クリスタぁ、見てたよ~。お前、かっこいいじゃん」
「ちょっと、ユミル。くっつきすぎっ! それはユミルもでしょ。私の元まで来てくれたじゃない」
ユミルと抱き着かれたクリスタ。
「ベルトルト、お前の射撃はいつ見ても最高だな」
「そんなことないよ、僕はタックルをしてたライナーのほうが凄いと思うよ」
ベルトルトの射撃の腕を褒めるライナー。
「はぁ、リーダーって大変だ」
「お疲れ。よかったよ、あんた」
疲労で座るノルドと、労い彼の隣に座るアニ。
それ以外にも、ジャンとマルコ、サシャとコニー、ミーナとトーマス。
皆が皆、緊張から解放され安息の時間を過ごした。
数時間後、予定通り憲兵団が訪れ、今回の事件は終息を迎えた。
◆ ◇ ◆
Case:アニ
本日から訓練兵団は久しぶりの連休に突入していた。
無論、基礎トレは休暇中でも熟すよう厳命を受けている。肉体の衰えを防ぐためだ。
ノルドはその連休の一日目に、とある女子を街へ誘っていた。
「それで、いきなり『飯おごるから一緒に出掛けないか』なんて言われた訳だけど、何?」
短く束ねた金髪に鷲鼻が印象的な女の子。
アニ・レオンハートである。
「いや、普通に。日頃から鍛錬でお世話になってるから、この連休使ってお礼も兼ねて遊ばないかなって」
「…………本当に変わり者だね、あんた。前みたいな、手も足も出ずに投げられ蹴られたりしてた頃よりかは、マシになってきてるけど、それでも毎回ボロボロになってるのに」
流石のノルドも、純粋な格闘術だとアニに劣る。
それでも、持ち前の足捌きや技の応用で食い下がることはできていた。
「疲れてるのに、いつも手合わせしてもらってるからね」
「…………よく見てるよ、ほんと」
アニはある程度訓練に慣れ始めると、深夜帯を使って内地へ調査に行くことが増え始めた。
それに伴い、睡眠不足や疲労の蓄積も重なり、ノルドでも分かるぐらいには疲れが見て取れた。
そこらへんの気分転換になるかもという打算ありきで、ノルドは誘っていた背景もある。実際、普段そういったお誘いを断る傾向にあるアニだが、今回のノルドの誘いには乗っていた。
「クリスタとユミルはいないんだね。てっきり、いつも一緒にいる面子と行くもんだと思ってたけど」
「明日は彼女らと遊ぶ予定。今日はミカサやミーナたちとお出かけらしい。男子禁制ってことで追い出された」
もともと、彼女らと遊ぶという旨を聞かされていたというのに、いざ前日で『やっぱノルドはダメ』と言われたのだ。
女子たちで話すことがあるのだろうなと判断はしたが、せっかく空いた休日を使わないわけにはいかない。
そこで、予定なんて基本ないだろうアニに白羽の矢が立った。先の打算もあるにはあるが、一番は休日を無駄にはしたくないというノルドのわがままという面が強い。
そこもしっかりと話し終えた。
「はぁ、馬鹿正直というか、真面目というか。別に言わなくてもよかったのに」
そうは言うが、なんだかんだで来てくれるアニはやはり優しい。
それを再認識したノルドは、アニを連れて街へと繰り出した。
まず、一番最初に訪れた場所は───。
「ブディック…………飯奢るんじゃなかったの?」
洋服を扱う専門店である。
今のアニの格好を知っているだろうか。
私服? 残念ながら違う、訓練兵団の制服を着て来ている。
日頃のお礼で飯を奢るぐらいしか伝えていなかったノルドも悪いが、せめて簡素でもいいから私服で来てほしいものだ。
飯の前にアニの服を見繕うと決めたノルドは、訪れた街であるトロスト区の中で、かなり知名度を誇る人気店に来た。
「制服、ダメ絶対」
「はぁ? あんた、何言って────」
「おや、ノルド坊じゃないかい。予約なしなんて珍しいね」
アニの言葉を遮るように声が聞こえる。
発生場所はブディックからだ、扉が開き中からでてきたのは、仕立てのいい服を身に纏った如何にも"出来る"という雰囲気を醸し出してる、このブディックの店主でもある女性だ。
ちなみに店主とノルドは友人関係にある。
よくクリスタやユミルと服を見に行くが種類も豊富で、質もよいこともあり専らここに通っていた。
その時に知り合いになった。
「急遽すまないね。この娘を仕上げてほしいんだ」
「あら、また新しい子? いつか他の女の子に背中刺されるわよ」
「大丈夫、大丈夫。刺された程度じゃ死なないから」
「まったく…………それにしてもいい素材ね、この娘」
実際に刺されようとも死なない巨人なのは間違いない。
冗句とも取れる本当の話をするノルド。
その場の話しについていけずただ呆然としていたアニを捉える視線が一つ。
じっくりと見つめる。
店主のお眼鏡にかなったのか
平時より高めの声で喋り始める。
「仕上げればいいのね。いいわっ、テンション上がってきた。それならついでに美容のあの子も呼ぼうかしら、それと一緒に────」
自身の美容やそういうのに無頓着な女の子、それも素材が良い。
言わば手入れがされていない宝石の原石。
それを前にして、燃えないファッショニスタはいない。
徐々に思考が追いつき始めるアニだったがすでに手遅れ。
その手を引かれ、中に引き込まれていった。
「あっ、ちょっと、待って、力強い」
抵抗しようにも、想像を絶する力を前にただ引きずられるしかできない。
「いってらっしゃーい」
その様子を呑気に見ていたのは首謀者であるノルド。
「あんたっ、後で、覚えときなっ!」
まさに捨て台詞。
復習の言葉を吐いたアニはブディックへと連れ去られた。
~1時間後~
「ふんっ!!!」
「ぬわーーーっ!」
アニがノルドを投げた。
きっちりと服を決めてきた手前、砂だらけにするわけにもいかないので、空中で姿勢を整え地面には両足で着地する。
「あんたねぇ」
「めっちゃ似合ってるよ」
「っ…………そう」
一撃必殺。褒められることに慣れていない思春期の女子なんて、ノルドの相手ではない。
いつか刺されればいいのに。
「はぁ、もういいでしょ。それより、昼飯食べないの?」
「そうだった。見惚れてて忘れていたよ」
「…………もういいよ、そういうの」
マダムや貴婦人の波に押し流され、遥か彼方吹き飛んだ記憶を引き戻し、ここに来た目的を思い出したアニ。
それを指摘すれば返してくるのは肯定と、自身の外見に対する賞賛の言葉。
ノルドが何故ここまで必要以上に褒めまくっているのかというと、浮かれているというのもあるが未来の展開に備え、ここでアニポイントを出来るだけ稼ごうという魂胆がある。
目的は戦士組からの離反である。
原作の時点でも、かなりの罪悪感や後悔を抱え込んでいる様子が見て取れたアニなので、もしかしたらあり得るかもという考えだ。
父親という離反における最大の障害が残っているので、おそらく無理だろうけど。
それでも、何かしらの変化が生じれば御の字といったところ。
当然、ノルドの中には純粋にアニが可愛いというのもある。
短い期間とはいえ、女の子と一つ屋根の下で暮らした彼は、かなり耐性が付いており、褒める行為に躊躇いが無いというのも影響しているだろう。
アニ以外にも、同期の訓練兵を誰構わず褒める姿はよく確認されており、その結果、特に男子からは女神クリスタやユミルが所属前から堕とされているのを理由に、狂気にも似た嫉妬を向けられた。
果てに【女誑し】という称号をノルドに贈っている。
そんな女誑しは今、予定通りアニと一緒に昼飯を食べていた。
二人が食事をとっている場所は、路地裏にある小さなお店。奢りであっても連れてくるような立地ではない。
しかし、アニやノルドはマーレ生まれ。
少なくとも壁の世界より上等なモノを食べた経験がある。
そんな状態で、美味しくもない料理を奢るのも面白くないと思ったノルドが、時間を作っては現世の調理を再現し、教えていたのだ。
当然、現世と比べれば何もかも不足している世界。
壁の中はもっと足りないという状況の中、出来ることも限られていたが、いくつかの料理は店出ししても問題ないぐらいには成長させることができたのだ。
立地の問題もあり訪れる客は少ないが、知る人ぞ知る隠された名店として、一部の市民には人気がある店となった。
この日は、アニには視線を気にせず料理に集中してもらいたかった為に昼間を貸切にし、従業員も料理人だけにしてもらっていた。
「いい場所ね、料理も美味い」
アニは提供された料理に舌鼓を打っていた。
挽肉とみじん切りにした野菜にパン粉を混ぜ合わせて卵をつなぎとして固めた料理。
アニがマーレでもよく食べていたハンバーグである。
肉が酷く高価である為、壁の中では中々お目にかかれない肉料理。しかも、偵察した時の中央にすら無かったものだ。
「これ、どうやって用意してるの?」
純粋に気になったアニは、それを知っているであろう男に尋ねた。
「肉は高価なのは知ってるだろう? でもそれは可食部の話なのさ」
「可食部?」
アニは聞き慣れない言葉を反芻するように聞き返す。
「そう、可食部。つまりは食べられる部位は高価だよってこと」
「…………じゃあ、何? これは食べられない部位ってこと?」
「だいたい正解。これは食べられるけど調理工程が面倒だから廃棄される部位なのさ」
外縁部ではそもそも肉自体が卸されない。卸されたとしても、余すことなく消費される。
内地でも卸されるが、そういう場所ほど廃棄することが多い。
ここの従業員は、そういう内地の精肉店で廃棄部位を格安に買い取っている。
だから、値段は高めだが品質の良い肉料理が食べれると、一部の間で噂になっているのだ。
「そう」
一言、軽く返したアニは、そのまま料理を堪能する。
聞いたは良いが、料理に意識を取られ、ろくに話を聞いていなかった。
普段よりも柔らかい顔で、ノルド監修の店の料理を味わってくれている。
ノルド自身も食べ、心の中で採点をおこないつつ、あまり見ることができないアニの表情を堪能していた。
「今日は楽しかった。誘ってくれてありがと」
食事を済ませた後も解散することはなく、そのまま街を二人で散策していた。といってもほとんどが既に知っているものである為、見新しいのは殆ど無かった。
「それは良かった。俺としても不安だったからね」
街の真ん中にある噴水広場。
夕焼けによって世界が赤く染まり始める時間帯。
ベンチで隣り合って座り、お互いにボーっとするだけの時間が続いていた。何も考えず、ただ一緒にいる。
よく一人でボーッとしているアニは隣に誰かいる状況をなんとなく悪くないかも、と思い始めるぐらいには違和感が無かった。
だが、その時間も長くは続かなかった。
唐突にノルドが喋った。
「これ、プレゼント」
ノルドが懐から取り出したのは、ラッピングが施された小さな箱。
丁寧に梱包された拳くらいの箱だった。
「…………どうしたの?」
いきなりプレゼントと言われ、見せられた箱を前に困惑を隠せないアニ。
「誘った時は食事だけって言ったのにさ、服をオシャレにさせたり、食後も色々と付き合ってくれたからね。"日頃の"とはまた違ったお礼」
今日のご飯デート――――もう、ご飯デートで良いでしょう――――はアニにとって、刺激的だったのは事実。
誰かの隣にいて、戦場以外の時間を共有するのは初めてだった。
「…………別に気にしなくていいよ。何だかんだ楽しませてもらったし」
「違う違う、"俺が"楽しませてもらったから。そのお礼なんだ。受け取ってくれないかい」
どこまでも乙女の心を持つアニに刺さる言葉をくれる。恥ずかしくなって、赤く染まった顔を見られたくないアニは顔を俯かせる。
それを察した彼は茶化すことなく、あくまで真摯に対応する。俯いた彼女の視線に映るように、手が添えられた太腿の上に小さな箱を乗せる。しっかりとアニが両手で持ったのを確認し、手を離す。
「…………開けてもいい?」
恥ずかしさを紛らわせる為に、プレゼントされた箱を開けてもいいか聞く。
「いいよ。というより、むしろ開けてほしいまであるね」
アニの誤魔化しも間を置かずに答えていく。
言葉を聞いた彼女は、若干震える手を無視し丁寧にラッピングを解いていく。ちぎれないように、破けないように慎重に。
やがて、梱包は無くなり出てきたのは木箱。
この中に、と小さく喉を鳴らしたアニは、ゆっくりと箱の蓋を開いていく。
中から現れたのは────耳飾り。
深い青で彩られた、しずく型のイヤリング。
「前々から君に似合いそうだなと思って、目をつけてたんだ」
「これを…………私が?」
身に着けている自分自身が想像できていないのか、どこかフワフワとした返し。箱からそっと取り出し、手に乗せたそれをコロコロと親指で転がす。何か感想を言うでもなく、ずっと弄り続ける。
「…………耳に着けようか?」
そっと掛けられた声にビクッと肩を震わせる。 それでも口を閉ざし続ける彼女に、ちょっとだけ呆れた眼差しを向けたノルドは、そのまま彼女の手からイヤリングを取り、アニの耳に触れる。
また、肩を震わせる。今度は少しくすぐったそうに身じろぎする。
「ちょっと待ってね…………よし、できた」
アニは気が付けば耳飾りを付けられていた。もはや夕焼けを言い訳にはできない程に真っ赤に染まった顔を、絶対に見られたくないとより顔を俯かせる。
「ほら、見てごらん」
ノルドが差し出してきたのは、どこにでも売ってる手鏡。
覗き込まれたそこには、顔を真っ赤に染めながらも眼に残る深い青を耳に携えた女の子がいた。
それが自分だと気づくには、少し無理があるようだ。
忘れているかもしれないが、今アニはおしゃれをしている。
普段とは違う服。したことのなかった化粧。羞恥に染まった表情。心揺さぶられた瑠璃の雫。
「…………っ…………」
鏡に映る知らない人が自分だった。眼を瞠り、ノルドを見つめるアニ。どこか、熱が籠った視線を彼にぶつける。
ノルドもそれに答え、重ねた視線を外さない。
やがて、夕日も沈み空を支配するのが月と星になり替わる。
「…………ありがと」
小さく紡がれた感謝。
それに対する声はなく、ただそっと隣に寄り添い続けた。
どうだろうか?
いきなり詰め寄りすぎた感が否めなくもないが、可愛いアニを描きたかったのが本音。
クリスタやユミルとの絡みも描きたいんだけど、アニがそれを邪魔してくるんだっ!
あなたにとって"あの娘"とは?
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アニ
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ミカサ
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サシャ
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ミーナ
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ライナー