戦鎚とったからパラディ島行くわ 作:匿名
お待たせ、元気?
土日は基本的に、進撃見返してるよ。
おかけでまだまだ続きそう。
感想・評価、誤字報告ありがと!
卒業の日。
「心臓を捧げよ」
「「「「ハッ!!!」」」」
教官の言葉でその場にいた兵士全員が、右手を胸に当て敬礼をする。
104期訓練兵団を担当していたキースを含めた訓練兵団の全教官がこの場に揃っている。これから行われる演説は訓練兵団のトップが進めるようだ。
「本日を以って訓練兵を卒業する諸君らには、三つの選択肢がある」
内容は、これから配属されるであろう兵団について。
「壁の強化に努め、各街を守る駐屯兵団っ!」
駐屯兵団。
最も所属している兵士の数が多い兵団。五年前に街の数や整備する壁の量こそ減ったが、いつまた超大型巨人の襲撃にさらされるか分からない恐怖と戦うことになる。
「犠牲を覚悟して、壁外の巨人領域に挑む調査兵団っ!」
調査兵団。
この物語における最も重要な存在。自由の翼を羽ばたかせ、巨人という未知を既知へと変えんとする者たち。殉職率が異常。
「そして……王の下で民を統制、秩序を守る憲兵団っ!」
憲兵団。
内地で治安維持を主とする兵団。巨人から離れられるということで、ここを目指す兵士は多い。
「無論、憲兵団を希望できるのは先ほど発表された成績上位十名だけだっ!!!」
先ほど発表された成績上位者。
皆一様にまとまり整列している中、十人の兵士が一歩前に並んでいる。
面子は原作とほとんど変わらないが、ノルドが挟まることで何人か繰り下がっている。
五位 ノルド・スカーレッド
104期内での成績だ。
本来なら幼い頃に鍛えられた技術と前世から持ち込んだ博識で、戦闘能力では劣るものの総合でミカサに次ぐ能力は持っている。
しかし優秀すぎればトロスト区襲撃で、中衛に行かせてもらえなくなる可能性やマーレ組に目を付けられる可能性を考慮して、評価を落としていた。
※既にマーレ組には目を付けられています。
…………様々な理由で
その結果、この順位となった。
エレン以下メンバーの順位が繰り下がり、クリスタが押し出される形だ。だが、この世界では既にクリスタとユミルはノルドに付いていくと決めているので関係ない。
順位はちょうどアニとエレンの間に挟まる位置だ。
両方ともに格闘術の訓練から絡みが増えた同期であり、仲はかなり良好だ。
◆ ◇ ◆
あの後も教官からの演説は続いたが、これと言って重要な話はなかったため割愛する。
現在は卒業式も終わり104期の皆は卒業祝賀会に参加していた。当然そこにはノルドやユミル、クリスタの姿もある。
「それにしても長かったなぁ、流石に三年間となると」
「そう? 楽しかったから、一瞬だったよ!」
「俺も短く感じたよ、皆と一緒にいれるのが楽しかったんだろうな」
「あ、私も楽しくなかった訳じゃないぞ? 一応言っとくけどっ!」
三人は同じテーブルを囲い、雑談に興じていた。
手に持っているのは酒。
これはノルド達だけではなく、他の同期も飲んでいた。
この世界では15歳から元服として扱われる。
そのため、壁が破壊されて以降に暗黙の了解で12歳となって入隊した兵士たちは卒業を迎えると同時に酒が解禁されるのだ。
教官が飲みやすい酒を生徒に贈り、兵士として各兵団に送り出すのが通例となった。
「でもノルドが五位だったのは、ちょっと意外。ノルドなら一位狙えたんじゃないの?」
「どうだろうな〜、ミカサが居たからさすがに一位は無理だと思うぞ。それにライナー達も普通に優秀だったから分からないね」
「まっ、意図があったんだろ。私たちには見えてない重要な何かが」
クリスタはノルドの結果について疑問があったようだ。訓練兵になる前から、ノルドとユミルの鍛錬は見てきた。何ならユミルと一緒に鍛えてもらっていた。
だから、もっと成績が上だと思っていたらしい。
概ね正解である。そしてユミルが言ったように意図があったのも正解だ。流石はノルドの将来の嫁たち、ちゃんと分かっているようだ。
「やっぱ分かってるね、俺のこと」
「もちろんっ! 何年一緒にいたと思ってるの」
「104期の中で一番お前を理解しているのは私たちだぞ? あ、ついでにアイツも」
酒を飲み、豪華な飯を食べ、口を回す。
ある程度、酔いが回ってきたタイミングで向こうの方から、大きな声が聞こえてきた。
「勝てるわけないっ!」
会場全体に響き渡り、中にいた同期たちは皆、何事かとその方向を見た。
その声はエレンと話しているトーマスから発せられたものだった。
喧騒に包まれていた会場が、すうっと静かになる。
その様子に気づいたトーマスだったが、まだエレンに伝えたいことがあるのか、話を続けた。
「お前だって知ってるよな、今まで何万人喰われたか。人口の二割以上を失って、答えは出たんだ」
トーマスは一度言葉を切り、唾を飲み込む。
そして、結論を告げた。
「人類は…………巨人に勝てない」
その言葉に誰もが声を失う。様々な感情が入り乱れる無数の視線に晒されたトーマスは肩を窄め小さくなる。
だが、面と向かって言われたエレンは何するものぞと言わんばかりに、堂々とした姿勢でトーマスに言葉を返す。
「それで、勝てないと思うから諦めるのか?」
ハッとして顔を下にむけていたトーマスはエレンを見る。しかし、その強く向けられた眼差しに一歩後退る。
「確かに、ここまで人類は敗北してきた。それは巨人に対して無知だったからだっ!」
無意識なのだろうが、先ほどのトーマス同様に大きな声を張り上げ自身の想いを口に出す。
「巨人に対して物量戦は意味が無い。負けはしたが、戦いで得た情報は確実に次の希望に繋がるっ!」
誰もが彼の演説に耳を傾けている。今まで普通ながらも一途に頑張り続けたエレンだからこそ、皆真剣に言葉を聴いていた。
「俺たちは、何十万の犠牲で得た戦術の発達を放棄して大人しく巨人の餌になるのかっ!? 冗談だろっ!」
感情が昂ってきたのか、その眼には少し涙が溢れた。
「俺は巨人を一匹残らず駆逐して、狭い壁の中から出るっ! それが俺の夢だ。」
もはや睨みつけるかのように鋭くした眼光をトーマスに限らず、その場にいる全員に向けた。
「人類はまだ本当に敗北した訳じゃない」
それを最後に、エレンはようやく口を閉ざした。
ハッと周囲を見ると、全員が今の話を聞いていたと気づいたようだ。羞恥からか耐えられなくなった彼は、逃げるように外へと飛び出した。
それについていく幼馴染であるミカサとアルミン。
三人が外に出てなお、会場はお通夜のようにシーンとしており、静寂に包まれたままだった。
どれほど時間が経ったか、あるいは数秒と経ってないのか。少しずつ、会話の声は広がり少し前のような喧騒に覆われ出した。
しかし、さっきとは違い話題となっている内容は今しがたエレンが見せた巨人絶許の決意について。
当然ノルドたちの話題も同様だった。
「へぇ、やっぱりアイツか〜」
頬をついたユミルは意味深にそう呟く。
同期の性格を含めて色々と観察してきた彼女は、エレンを主役と見定めたようだ。
「ん、何が?」
「何でもねぇよ…………それよりクリスタ、さっきの話……どう思った?」
「エレンの話、だよね」
ユミルの問いにクリスタは一度考え込むように目を閉じ、ウンウンと唸る。
「純粋に、凄いなって思う。私は自分が強いとは思えないから、あんな風に次に活かす! って出来ないなぁ」
それを聞いたユミルは、杯に入った酒を一気に煽りゴクリと飲み込んだ。
「……っ……ぷはぁ……お前は変わらないね」
「ユミル、飲み過ぎだ」
「あん? うるせぇな、私の勝手だろ」
ノルドはユミルが酒に強いとはお世辞でも言えない事を知っている。故に、一気飲みなどという酔いが回りやすい飲み方をした彼女を咎めた。
「先日、酔っぱらった君を誰が運んだと思っている? 宿を使ったのなんて、いつ以来だったか」
大半の同期より一足早く元服した彼女の酒飲みに付き合ったノルド(彼はジュースを片手にしていた)は、介護の大変さを既に理解している。
「えっ!? 私聞いてない! また、二人だけの秘密なの! ズルいよぉ」
クリスタもクリスタで酔いが回っているのか、情緒がブレッブレだ。驚いたかと思えば怒り、怒ったかと思えばグズグズと涙を流し始めた。
(ここらで潮時だな)
ついさっきまで真面目な話をしていた彼らは、気が付けば酔っ払い美少女二人と酒強女誑しに変貌していた。
既に会場もだいぶん緩んできているので退出しても問題ないと判断したノルドは、言動が怪しい二人を抱えて夜の街を闊歩する。
どこへ行ったか? それは神のみぞ知ると言っておこうか。
◆ ◇ ◆
エレン含めた全員揃った固定砲整備四班は、壁上に設置されている固定砲を整備していた。
作業に手を止めることは無いが、口を閉ざす理由もないために喋りながら取り組んでいる。
集合が遅くなったエレンをコニーが茶化したり、昨夜クリスタとユミルを連れて出ていったノルドが寝不足気味でやって来たのを興奮気味に問いただそうとするミーナなど。
あれやこれやとしている内に、一つの話題が飛び出た。
「調査兵に入るって…………コニー! 本気なのか!?」
コニーの調査兵団志願についてだ。
小さな村からやって来たコニーは、家族や村の皆に仕送りしたいという考えで憲兵になりたいと、常に言っていた。
そんなコニーが今日になって、給与も安い命の危険が最も高い調査兵団に入団すると言い出した。
エレンが反応しない訳がなかった。
「お前、あれだけ憲兵に入るって言ってたのに…………」
「昨日の演説が効いたみたいね」
エレンからすれば分からない話だ。昨日のは誰かに理解されなくても自身の意志を貫き通すという決意表明のようなもの。
決して憲兵を志す友人を死地に誘うような意図はなかった。
「そう言えばノルドはどこ行くの? やっぱり憲兵?」
そうだ、ここにはコニーやエレン以外にも十位以内に入った猛者がいた。
ウトウトしながらも作業はしっかりと熟していた彼は、ミーナの声を聞いて意識を戻した。
「いや、元より調査兵団だったよ」
「えっ!? そうなの!?」
ノルドの回答にミーナだけではなく皆驚いていた。
確かにジャンが憲兵団にエレンが調査兵団にという具合に何かしら何処に行くと言う話は聞いたことがなかった。
驚きを隠せない中、ミーナはさらに踏み込んだ質問をした。
「いつから決めてたの? クリスタやユミルは?」
「そ、そうだよっ! お前、クリスタにユミルが居るんだろ!? 調査兵団に入ったら死ぬ可能性もあるんだぞ」
ミーナの質問に一同は思い出す。
訓練兵団に所属する前から仲が良いと、常に一緒にいた少女たちのこと。
「それこそ、訓練兵になる前からさ。ユミルにクリスタも一緒だ」
「えええ、てっきり憲兵団に入って二人を養うものかと思ってた」
「確かにあり得た未来だね。でも、調査兵団に行くよ」
どこまでも真っ直ぐに見つめられる目は、澄んでいて彼に迷いが全くないのが見て取れる。
「意志は固そうだな」
「俺はこの世界を楽しみ尽くす。その為に、調査兵団にいく必要があっ「皆さんっ!」――!?」
とっても大事な場面。
普段女の子とばっかり仲良くしていて、真意を話すことが少ない彼がそれを唯一語ってくれそうな重要なシーン。
でも、彼女にとってはどうでもいいことらしいです。
「教官の食糧庫から、お肉盗ってきました」
「「「「「っ!?!?」」」」」
ノルドの話を遮った、いやそれ以上の衝撃が彼らの全身を駆け巡る。
「後で、皆さんで分け合って食べましょうっ! スライスしてパンに挟んで…………じゅるり」
サシャは盗んだ肉をどうするか、未来を馳せている。
しかし、同期から堂々と盗んだ発言を喰らった彼らは戦々恐々としていた。
「何やってるんだっ!? また独房にぶち込まれたいのか!」
「お前は、ほんっとに馬鹿なんだな」
「返してこい」
「お肉なんて、壁破壊されてからすっごい貴重になってるのに…………」
それぞれがこの凶行に頭を痛めた。
「大丈夫ですよ、また壁を取り返せばいくらでも食べれるんですから」
何でもないかのようにサシャが告げた言葉。
しかし、真理を突いたかのような発言でもある。
それに、この発言はサシャが壁を取り返さんとする調査兵団に入団を希望しているかのようにも聞こえる。
皆何かを考えるかのように、シーンと静かになった空間を最初に破ったのは彼。
「俺、その肉食べるよ。最近、ひき肉ばっかだったし」
彼、ノルドは深く考えたわけではなく、疲労が抜けない頭でお肉食べたいな〜と思っていただけである。
しかしながら、その発言は場の流れを決定するには十分過ぎた。
「その肉、俺も食うっ!」
「俺も食うからとっておけよ」
「当然、私もだからね」
それぞれが思い思いに、共犯になることに了承していく。
それを境に完全にゆるふわな空気感に戻っていく。
皆が業務に戻っていく中、エレンは一人街を見下ろしていた。
(独白してんなぁ。そろそろ、準備しとこ)
ああ、いよいよ始まるのだろう。
これまで色んな御託を並べてきたが、世界が動き出すのは間違いなくここだ。
(エレン、見せてもらうよ。
閃光、雷鳴。
そして、全てを呑み込む巨大な影。
呆然と見上げれば、皮膚が無い巨大な顔のような輪郭が視界一面を支配する。
超大型巨人襲来。
唐突にされど必然に。
その情景を理解する前に襲い掛かる蒸気の大波。
ノルドを含めた壁上にいた同期はトロスト区上空へと吹き飛ばされる。しかし、この場にいる全員は兵士。いついかなる時でも、即座に対応できるよう訓練は受けている。
吹き飛ばされた直後には、立体起動装置からアンカーを射出し壁を足場に着地する。
────もっとも、意識が残っていればの話だが。
「全員無事かっ!?」
いち早く状況を理解したエレンが、自身と同様に吹き飛ばされた皆を確認する。声による呼び掛けだけではなく、眼で確認する。
「っ!? サムエル!!!」
全員が立体起動に移れたのか、しっかりと着地しているノルドにサシャ、ミーナたちを見てそう思ったのもつかの間、一人落下を続けるサムエルが居た。意識がないのか、身体は重力に従い徐々に落ちていく。
咄嗟に動いたのはサムエルにもっとも近くにいたサシャ。
固定したアンカーを外し壁を垂直に走り下ることで、推進力を得て自由落下より速く動き、サムエルと距離を詰めたサシャは片方のアンカーを壁に、もう片方をサムエルの脚に刺すことで、救出に成功する。
「危なかった」
それを見たエレンが一安心と息をついたが。
「お、おい。見ろ……………………壁が、破壊された」
コニーがうわごとの様に口から漏らした言葉は、その場にいた全員に浸透するように広がっていく。
皆が、エレンでさえ動揺が隠せない中、響く声が一つ。
「サシャ、サムエルを連れて離脱しろっ! ミーナはサシャと一緒に移動し、詳細を話してこい! コニーは周囲を見張れ、超大型が来たって事は鎧が居る可能性もある! エレンッ!!!」
手早く全員に指示を出すのは、この中で最も成績が高いノルド。
当然、こうなるだろうと考えていた彼は予め指示の内容を決めていた。そして、唯一指示がなかったエレンはノルドから与えられた無言の指示を理解していた。
二人は立体起動で壁上へと昇る。エレンとノルドは超大型を挟んで対称に位置した場所をそれぞれ陣取る。
ノルドは改めて超大型の顔を見る。
(やっぱ、超大型って量産品っていうか、大きさだけを意識して作ったので個性なんてありませんって感じだよな。始祖様サボってら)
こんな時でも、頭の中が余裕なのは往来の性質か。
ボーっと超大型を眺めていると、反対側でエレンが動きだした。
(まず、コイツは固定砲台を壊そうと腕を薙ぎ払────)
原作の知識を下に行動しようとしたノルドは、超大型の挙動を見て足を止めた。
(待て待て待て待て、こいつ何しようとしてる? そんな腕を高く上げても振り下ろすぐらいしか────っ!?)
横ではなく、天高くまで上に上げられた巨大な手はその勢いを殺すことなく一気に振り下ろされる。
固定砲台を狙ったわけではない、壁の破壊を目論んでいたわけでもない。
ただ、純粋に目の前にいる
轟音と共に壁上が大きく崩れる。幸い壁の中身が露出することはなかったが、一歩間違えば原作崩壊待ったなしである。
先の一撃をすんでのところで回避したノルドは混乱していた。むしろ、完全に眠気が地平線の彼方へ吹き飛んだことをも加味すれば、助かったまである。
(何でだ? 固定砲はどうした、ベルトルさんよ。何故に俺?)
自身が居るくらいでこの場面で大きく変わったことはなかったはずだが、と考えていたノルドだったが一つの可能性が浮上してきた。
(まさか、アニか? それなら俺を狙う理由も納得だが……………………だとすれば、いつだ? ベルトルさんから狙われるから、なるべくアニとは隠れて逢瀬を重ねてきたつもりだ。いや、この前のご飯デートの時、女子たちはアニに気づいたと言った。ベルトルさんも気づいたのか、あの普段とは違いすぎるアニに!? あり得ないとは言えないな、アニ大好き好き好き侍のアイツならおかしくない。しくじったなぁ、でも今更もう遅いか。それよか、この場を乗り切る方が先決か。俺が囮になってエレンに頑張ってもらう方針で行くか)
この間、ゼロコンマ5秒
まさしく超速思考。疑問から結論まで導き、次の議題へとシフトチェンジする思考は、もはや異能の領域に足を踏み込んでいる。
回避の際に、壁上から飛び降り壁に刺していたアンカー。それを回収し再び上へと戻る。
立体起動で超大型の周囲を飛び回るエレンは先の一撃でノルドがどうなったか心配していた。超大型に意識を向けながらも、ノルドが居た場所に目を向ける。
すると、ひょこっと向こう側から顔を出す友人がいて安堵の念を覚える。ノルドが五体満足に生きていると分かったエレンは、もう憂いはないと一気に突っ込んだ。
それと同時に、ノルドの生存を確認した超大型は向かってくるエレンを無視して再び攻撃を始めた。今回はちゃんと主目的が頭に残っているのか、ノルドを狙いつつもしっかりと固定砲台も壊す横薙ぎによる攻撃であった。
ノルドはワイヤーとガスによる回避に専念を続ける。なるべく、視界に入り続けるようにすることで、超大型の意識をこっちに向け続ける。
体の大きさの違いにより、まさしく羽虫のように見えているであろうノルドたちを煩わしいと言わんばかりに腕を薙ぎ、振り払っていく。
ノルドは無理せず、風圧の流れに乗り正面の壁上に降り立つ。
逆にエレンは、そのまま超大型の後ろに移動して、無防備なうなじを視界に捉える。
どれほどサイズが異なろうと、巨人の弱点は皆一様に決まっている。
縦に一メートル、横に十センチ。
がら空きの背中からワイヤーを巻き取り、急接近を図る。ついでにノルドも真正面から超大型の眼を狙って近づく。
(鈍間な身体じゃ対応できねえぞ! よしんば間に合ったとしても、両方を対処するのは無理だ!!!)
エレンは勝ちを確信した。
ようやく、人類は巨人に勝利できる!
瞬間。
ゴォと巨人の全身から蒸気が勢いよく発せられた。特に正面から特攻を仕掛けていたノルド方面とエレンがいるうなじ方面には重点的に蒸気が噴出している。
ノルドは、その流れに乗って吹き飛ばされる。
エレンはより強くワイヤーを巻き取り、接近する。
たとえ、蒸気を吹かれようとうなじを斬れれば問題ない。
「いっけぇぇぇぇええええ!!!!」
両手のブレードで一気に切り裂く。
ことはなく、彼が斬れたのは周囲に漂っている蒸気の煙だけだった。
ついさっきまで、目の前にいた巨大な存在が消え去った。
「はぁ!? おわっ」
あり得ない出来事に驚愕を隠し切れない。
刺していたアンカーも宙に浮いている状態となっており、エレンには何が何だか分からなくなっていた。
自身を支えていた物体が無くなったことで、自由落下を始める身体に慌てて、もう片方にアンカーを飛ばし壁に着地する。
「……………………一体、どうなって」
「エレンッ! 怪我はないか?」
呆然とするエレンに対して、声をかけるのは先程の蒸気攻撃で火傷を嫌い吹き飛ばされることを選んだノルドだった。
「あぁ、怪我自体はない。けど、逃がしたっ」
方法は理解できないながら、逃げられたことは分かった彼は悔しさを顔に滲ませながら、問いに答えた。
「生きているならそれで充分。いったん壁上にあがるぞ」
「…………っ…………ああ、そうだな」
もうこの場にいない、あの巨人について愚痴を述べても仕方ない。エレンは喉まで出かけたそれを呑み込み、もう一度巨人が居た場所を睨みつけるかの如く、じっと見つめたあと息を吐き、ノルドの指示に従った。
想い人の変化に気が付かないわけないんだよね。
ある人を無意識に目で追いかけてたり。
貰い物と思われる瑠璃の耳飾りを大事にしていたり。
特定の人物にだけものすごく柔らかい表情を見せてたり。
彼の脳は既に破壊済みでした。
でも彼は破壊の神ですから、問題ないでしょう。