戦鎚とったからパラディ島行くわ   作:匿名

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おまたせ、待った?

遅くなってごめんよ。


トロスト区襲撃③

 

 

 カラーン…………カラーン…………。

 

 トロスト区全体に響き渡る、あまりに頼りない鐘の音。

 前線で巨人の掃討を行いながら、徐々に戦線を後退してきたノルドたち支援班に伝わる住民の避難完了の撤退の命令。

 

 (ようやく鳴ったか。かなり前から補給が来なくなったから戻るに戻れないけどねっ!!! これは原作のジャンが補給班に怒鳴りつけるのも納得)

 

 だが、あまりに遅すぎた。

 本部に巨人の群れが集り出したのを確認したノルドは、それ以降なるべくガスの消費を抑えていたので五割ほど残っているが、エレン巨人発覚の場に居合わせないのはダメだろう、という考えのもと壁を超えることはしなかった。

 

 そして周りを見渡せば、壁を超える量のガスが無くなり、動く事が出来なくなった訓練兵たちが多く居た。

 駐屯兵団はほぼ全滅、残ったのは中衛に居ながらも巨人の脅威に晒され、戦い逃げてきた面々だった。

 

 幸いなことに、ここら一帯は巨人の掃討が済んでいるため敵はいない。皆が屋根に佇みどうしようもない絶望に苛まれていた。

 

 班と別れたノルドは辺りを見回して、クリスタやユミルが居ないことを確認する。恐らくは原作通りに早い段階で上に逃げることができたのだろうと判断した。

 

 そして、アルミンが絶望オーラを漂わせる空間があったので、エレン一行がやられたことも把握した。

 

 (あー、こう見ると結構悲惨だな。ほんと救えなくてすまんって感じ。一応世界が悪いってことで)

 

 誰かが聞いたらポイントが下がりそうな発言を心の中でするノルドは、取り敢えずミカサが来るまでは暇だなと近くの屋根に座った。

 

 

 

 立体機動を使っての巨人狩りは中々楽しかった。

 身長が低い巨人はリーチが短く、手を伸ばしたところで彼を捉える事は出来なかった。高身長にしても地面ギリギリを移動する彼を掴むには前屈みになったり、腰を落としてくるので非常に隙が大きい。

 大半は脚の腱を削いだ後に、うなじを斬り取る。これで攻略できた。巨人討伐数、補佐数で表せば合計で十体は軽く超えているだろう。

 

 

 

 ここ数時間の出来事を思い返していると、ふと視線を感じて目を向けた。

 そこには、なにやら複雑な顔してこちらを見つめてくるアニがいた。

 

 何故にそんな複雑そうな顔をしているのだと、話を聞きに行こうと膝に手をついて立ち上がった直後。

 ノルドのほうを見ていたアニのもとに、住民の避難を担当していた後衛から急いできたのだろうミカサが汗を切らしてやってきた。

 

 何事かと話したのち、ミカサはずっと呆然とした様子を見せていたアルミンの所へと向かった。

 ノルドは動こうとしたタイミングだった為、中途半端な体勢のまま止まってしまった。

 

 (まぁ、後で聞いたらいいか)

 

 アニが向けた複雑な表情、その理由についてはトロスト区を離脱した後で聞こうと考えているようだ。

 

 

 早く聞きに行った方がいいぞー。

 

 

 

 

 『――――以上5名は自分の使命を全うし…壮絶な戦死を遂げましたっ!』

 

 その後、アルミンからエレン含めた班員の死が叫びを伴って報告される。

 

 その事実は周囲にいた同期たちに少なくない衝撃を与えた。アルミンが一人だけで、この場に居ることから彼の仲間が全員やられたのは予想は出来ていた。

 

 しかし、伝えられる内容に驚きを隠せない。

 成績上位として認められた、言ってしまえば自分たちより強いエレンが死んだ。巨人に対して並々ならぬ感情を持った彼ですら、たった数時間の内に呆気なくやられてしまうその事実に。

 

 それを目の前で聞いていたミカサは、一言二言アルミンに話し立ち上がる。

 

 それから始まるのは推定≪鼓舞のようなもの≫

 

 要約すると、

 

 私は強いから本部に行ける。

 臆病なお前たちはそのまま何もせず死ぬのか?

 生きたければついてこい。

 

 といった感じだろうか。

 

 言語力が異なりすぎて、何を言っているのか原作で知っているはずのノルドですらあまり理解できなかった。

 エレンが死んだと思って曇りまくってるけど、頑張って喋ってるミカサかわいいなーくらいである。

 

 しかし、彼女が何を言っていてもジャンがフォローして全員で本部に向かうことは決まっている。ガスの量を調べ、ブレードの状態を確認する。

 

 (あ、ブレードの予備がもうない。このなまくらで頑張るかぁ)

 

 刃こぼれが酷くなったそれを交換しようとしたが、鞘に予備がなくノルドは黄昏た。

 

 そして言いたいことはなくなったのか、同期へ言葉を返したミカサは一人飛び出した。

 皆がその背中をただ見つめているだけだった。誰一人としてミカサを追おうともしない状況で、覚悟を決めた一人の男が立ち上がる。

 

 「おいっ! 俺たちは仲間に一人で戦わせろと学んだか!?」

 

 ジャン。

 

 「お前ら、本当に腰抜けになっちまうぞっ!」

 

 その言葉を皮切りに、優秀だった仲間が動き出し、呆然としていた彼らもそれに触発されて次々と動き出す。

 当然、ノルドもジャンの言葉を聞いて、いの一番に飛び出している。

 

 並走するのはアルミンとコニー。

 先頭を行くミカサが次々と巨人を倒しながら進む様子に、コニーは感嘆の声をあげていた。

 

 「しかし、ミカサはすげぇな。どうやったら、あんなに速く動けるんだ?」

 

 いや、とアルミンは心の中で否定する。そして彼も同様に考えていた。

 

 (本当に吹かしまくっているな。ガスの残量もそうだが、身体への負担が半端ないぞ)

 

 実際に立体起動はGの圧力が凄まじく、かなり動きは制限されている。アッカーマンでも短時間といえど、負担は無視できるものではない。

 

 道を立ち塞ぐ巨人を倒したミカサは、より強くガスを吹かせ加速する。

 

 ――――はずだったが。

 

 ぷしゅっ。

 と間の抜ける音が聞こえると同時に、ミカサにあった勢いが完全に切れる。

 

 慣性に肉体を支配され、また筋肉の負担も相まって、碌に受け身を取ることが出来ず落下していく。

 

 「ミカサッ!?」

 

 それを見たアルミンはすぐさま、軌道を変更してミカサの下に行く。

 そしてジャンもまた同様に、ミカサのもとまで行こうとしたのだが。

 

 「ジャン! お前は皆を先導しろっ!!! おれがアルミンにつく!」

 

 そばにいたコニーが向かうことを止めた。

 

 「いや、オレもっ!」

 

 「何言ってんだ! 巨人はまだいるんだぞっ! お前の腕が必要だろうがっ!」

 

 一度は、コニーの制止を無視して一緒に行こうとしたが強く止められたジャンは、その言葉に逆らえず行くことが出来なかった。

 そこへノルドも声を掛ける。

 

 「ジャン、俺も行く」

 

 「はぁ!? てめぇもってどういうことだ!」

 

 「俺なら、あいつらを五体満足で本部まで送り届けてやるって言ってんだ。だから安心して進めっ!」

 

 確かに、三人より四人のほうが生存確率は高まる。

 数瞬だけ葛藤したジャンは覚悟を決めたように強い眼差しを向けた。

 

 「死んだら、死なせたら、絶対許さねぇ。それとミカサに指一本たりとて触れんじゃねぇぞっ!!! 女誑し!」

 

 激励か罵倒か。もはやどっちか分からないセリフを吐いたジャンに、ノルドは頷いた。

 

 「当然っ! ここで死んだら勿体ないからな」

 

 それを最後にノルドはワイヤーの軌道を正面からミカサが落ちていった方へと変更した。

 

 「くそがっ!」

 

 その背を見つめ、一度悪態をついた彼は意識を切り替え本部を目指した。

 

◇ ◇ ◇

 

 「おい、お前ら! 死んでないな!」

 

 ノルドが彼らのもとに到着したのは、推定エレン巨人が同等の体格を持つ巨人の首を殴り飛ばし、弱点であるうなじを踏みつぶした直後であった。

 

 「んで、どういう状況? それにこの死体は……」 

 

 ある程度分かっていたが、ここで何事もなかったかのようにしてしまえば優秀アルミン君が『っ違和感』的な感じで、ノルドを警戒してしまうので彼は尋ねたのだ。

 

 「わ、分からない……。でも、あの巨人は巨人を殺す奇行種、だと思う」

 

 そう言って指さすのは、普通の巨人であれば反応を示す距離にいる人間を無視し、巨人がいる方向へと歩く巨人だった。

 

 (初対面だな、エレン巨人さんよ。それにしても造形いいよね)

 

 「なんでもいいけど、早くいくぞ! 時間がないっ!」

 

 コニーが急かすように言った。それも当然だろう。この近くにはエレンのおかげで巨人がいないとはいえ、本部に向かう途中にはまだまだ沢山いる。

 これ以上本部に集まり過ぎたら、その包囲網を突破して補給場に行くのは難しくなる。コニーの懸念は最もだった。しかし、残念ながらすぐに向かうことが出来ない理由がある。

 

 「待ってくれっ! ミカサのガスが空っぽなんだ」

 

 「はっ!? おい、まじかよ。どうすんだ、お前がいなくて!?」

 

 ミカサのガスが無い。緊急事態どころではない。

 いくら彼女といえど立体機動が出来なくては、巨人の餌になるしかない。

 

 「やることは決まっている」

 

 しかし、アルミンは既に覚悟を決めていた。

 普通だったら、ガスの残量がまだあるノルドが渡すべきだろうが、そうしてしまうとエレン巨人を本部まで導く。周辺で暴れるおかげで巨人が補給場に入ってこない。巨人を掃討し終えた後、うなじからおはようございますを皆が確認することが出来ない。という負の連鎖が起こってしまうので、何も言わなかった。

 

 「僕のもあまり入ってないけど、急いでこれと交換するんだ」

 

 「アルミン!」

 

 「こうする以外にない! 僕が持っていても意味がないんだ。でも、今度は大事に使ってくれよ。みんなを助けるために……」

 

 そう言って、自身の残量が少ないガスボンベを空っぽのボンベと交換した。

 ついでにブレードも足し終えた彼は、代わりにと既に短くなった刃を手に取った。

 

 「すまない、これだけは置いていってくれ。流石に、巨人に生きたまま食べられたくない」

 

 その刃をすっと取ったミカサは、ポイっと投げ捨てた。

 

 「アルミン、ここに置いていったりはしない」

 

 ミカサは座り込んでいるアルミンの手を取り、立ち上がらせる。

 

 「で、でも巨人が大勢いる所を、人ひとり抱えていくなんて」

 

 そうミカサの言葉を反論しようとしたアルミンだったが遮られた。

 

 「助けられた命を粗末に扱うのか? アルミン」

 

 「えっ?」

 

 「さっきのミカサとの話、少しは聞こえた。エレンがお前を助けた、そしてお前はその命を無駄にするのか? エレンの死を無駄にする気か?」

 

 畳みかけるように言葉を飛ばす。

 エレン関係であれば、今のアルミンの心に深く刺さるだろう。

 

 「それにな、アルミン。ミカサにこれ以上、幼馴染が死んでいく苦痛を味わわせるのか?」

 

 「あ」

 

 考えもしなかった。自分が死んだあと、ミカサがどう思うか。

 どこまでも自分勝手な、無力な自分に嫌気が差した果ての自殺願望だった。

 

 「教えてくれ、アルミン。確かにここには大勢の巨人がいる。だから、そんな場所から脱却できる提案を…………」

 

 「そんなの、あるわけ『グオォォオオオオ』――っ!?」

 

 アルミンの弱気な発言を否定するかのように遮るのは、巨人を殺す奇行種の雄たけびだった。

 話を遮られて怒るでもなく、アルミンの頭の中に一つの可能性が浮上した。

 

 「…………もしかしたら、だけど」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 補給所にたどり着いたジャンの目の前には、二体の巨人が破壊された壁から顔を覗かせていた。

 ようやくここまでこれたというのに、ジャンの中にあるのは絶望だけだった。

 

 しかし――――。

 

 「なにっ!?」

 

 その二体の巨人は、何かに殴り飛ばされた。巨人がいた場所に新たに現れたのは、同じ巨人。

 そこに映るのは目の前にいるジャンに全く興味を示さず、ただ殴り飛ばした巨人に向かって雄たけびを上げる変な巨人だった。

 

 驚愕に思考が止まる間もなく、次の展開が訪れる。

 

 パリンッと先ほどジャンたちがやったのと同じような方法で、誰かがやってきたのだ。

 それは序盤に別れたノルド達だった。

 

 「お前たちっ! 無事だったんだな」

 

 「送り届けるといっただろう?」

 

 「…………はっ、やるじゃねぇか」

 

 こんな時であるにも関わらず、互いに軽口を叩きあう。

 

 「みんな! あの巨人は巨人を殺しまくる奇行種だっ! しかも、俺達には興味を示さない! あいつをうまいこと利用できれば、俺たちはここから脱出できる!!」

 

 そして、この状況に追いつかない他のメンバーにコニーが、エレン巨人について説明する。

 

 「巨人を利用するだなんて、そんな、夢みたいな話――」

 

 「夢じゃない。奇行種でもなんでも構わない。ここであの巨人に長く暴れてもらう。それが現実的に私たちが生き残る最善策」

 

 ミカサはジャンの言葉を遮り、主張した。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 アルミンの作戦が正式決定し、リフトに乗って巨人を誘き寄せる人たちは自身が使う銃の手入れを行っている。

 逆に巨人討伐組は、確実に成功してもらうために少しでも休息をとっていた。

 

 ノルドも討伐組として参加する。

 しかし、他の面々と役割が少し異なる。補給所内にいる巨人が七体のままなら、誰かがミスをした時のフォロー。

 もし、八体に増えていた場合はそのまま討伐に加わる形だ。

 

 ガスが無かろうと閉所など壁や柱を足場として動き回れる彼が臨機応変の補佐役に選ばれた。

 

 

 そんな彼は、皆が準備で忙しくしているところを座りながら見ていた。休息中である。意外なことに隣にはアニもいる。

 アニが二人きりでは無い時、用事なしに彼へ近づくのは珍しい。

 格闘術や他の訓練、食事時以外では同期の前で接触することはまずない。

 

 作戦に失敗すれば、これが最後だから…………なんてロマンチックなこと彼女が言うわけ────乙女アニなら可能性はあるな。

 

 しかし、残念ながらアニがノルドのそばにいるのはちゃんとした理由があった。

 

 

 「ねぇ、ノルド」

 

 「どうしたんだい、アニ」

 

 ノルドは同期から貰い受けた未使用のブレードを、一本一本確認しながら問いに返す。

 

 「ユミルやクリスタと…………その…………したの?」

 

 「っ!?」

 

 ビクゥッ!!!

 まるで猫のように一瞬で全身が飛ぶようにノルドの体は震えた。

 危うく落としそうになったブレードを、何とか耐えてプルプルと震える手でそっと鞘に納める。

 

 アニはその一連の動作である程度察したのか、ジトッとした視線をノルドに向けた。

 

 「昨夜、二人を連れて外に出ていったからさ……気になってたんだけど…………やったんだね」

 

 「……………………酒って怖いよな」

 

 彼女の問いには答えなかったが、ほとんど答えを言っているようなものだ

 

 「……………………馬鹿」

 

 小さな、とっても小さな罵倒。それこそ、隣にいるノルドすら聞かせる気のない呟き。

 しかしながら聞こえてしまった彼には、ざっくりと刺さったようだ。

 

 ノルドは『ぐふっ』と自身の心臓に刺さった言葉の矢を服越しに掴み、座ったまま頽れた。

 

 (そうですよね、ゴミですよね。分かります。でもね、昨夜ユミルに無理矢理飲まされた後の記憶が無くて、朝起きたら彼女らと一緒に寝ていた俺の心境もご理解ください)

 

 どれだけ心の中で言い繕っても、どうにかなるものじゃない。ノルド自身それが分かっているので、床に伏した顔を上げる事が出来ずにいる。

 そのままの姿勢で『こんなことになってしまったのは、俺のせいだぁ』と苦し紛れの現実逃避をしていると。

 

 「ふふっ…………何やってんの」

 

 何やら、今のカッコ悪いノルドがツボに入ったのかクスクスと小さく笑い出した。

 

 笑い声を聞きそっと顔を上げたノルドの心の声は以下のもの。

 

 (これは…………アニポイントがそこまで下がっていない!? 底辺とまでは言わんが、ある程度の暴落は覚悟していたんだけど。助かった~)

 

 どこまでもゴミ野郎だ。ペッ!

 

 

 

 『リフトの用意が出来たぞ! 鉄砲もだ、すべて装填した!』

 

 ノルドが好感度の下がっていないアニと、そのままダラダラと話を続けていると、他の皆の準備が整ったようだ。

 巨人討伐組は階段を使い、揃って移動する。

 緊張を紛らわせるためか、コニーはずっと喋っている。

 

 「けどよ、立体機動装置もなしで巨人を仕留めきれるか?」

 

 「いけるさ、相手は3~4m級だ。的になる急所は狙いやすい」

 

 コニーの不安を拾ったライナーは安心させるように言った。

 

 「ああ。大きさに関わらず、頭から下のうなじにかけて――」

 

 「縦1メートル! 横10センチッ!」

 

 先頭を歩くジャンは、コニーとライナーの会話を同調するように繋ぎ、サシャが台詞を奪う。

 

 「何のために俺がいると思ってんだ。安心して失敗しろ、俺がカバーするさ」

 

 「全員が成功したら、あんたの存在価値がなくなるね」

 

 「おっと、そりゃまずい。お前たち、存分にミスれ!」

 

 「それがお前の最後の言葉になるかもしれねぇぞ、女誑し」

 

 フォロー役に抜擢されたノルド、それを茶化すアニ。

 原作ではライナーに言うはずだった台詞をノルドに向けるジャン。

 

 それぞれが自由に決戦までの道行きを過ごしていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 巨人討伐組以外の全員を乗せたリフトがゆっくりと降りていく。そのリフトに乗っている銃を両手に持った訓練兵は、さながら地獄に落ちているかのような気分に陥っていた。

 これから向かうは少なくとも七体は巨人が蔓延る絶死領域。

 

 アルミンが提示した作戦が成功しなければ、リフトに乗った皆も揃ってお陀仏。

 

 無言の時間、聞こえるのは動き続ける滑車の音だけ。

 そして、四方が壁に包まれ閉塞感を覚える時間は終わりを告げる。

 

 壁がなくなり一気に解放感が溢れる。それと同時に、誰かがつばを飲み込む音がした。

 広がるのは、数時間前にガスの補充を行った補給所。見えるは無軌道に無秩序に動く巨人。

 

 天井部には、作戦で視界を奪った巨人のうなじを斬らんとする狩人たち。

 彼らはいまかいまかと、その時を待ち続ける。

 

 大勢を乗せたリフトが停止する。高さはちょうど3~4m級巨人の目に当たるくらいの位置。

 作戦指揮を任されたマルコは巨人の数を確認する。

 

 「5…6…7。大丈夫、数は増えてない」

 

 その言葉で皆が、構えた銃の撃鉄を起こし銃口を四方八方に向ける。

 

 「作戦を続行する……っ」

 

 震える声で小さくか細く、意志を伝える。

 その言葉に反応したのかは分からない。人が多く集まっているのに反応しただけなのかもしれない。しかし、そこを闊歩する全ての巨人が同時に彼らのほうへと無機質な目を向ける。

 

 「ひぃ!?」

 

 「っ……落ち着け! 十分に引き付けるんだ」

 

 ここに集まった彼らの多くは同胞が巨人に喰われる瞬間を目撃している。いたずらに無作為に食べられていった人たちを思い出し、自らが()()なる可能性に恐怖する。

 当然、指揮を任されているマルコとてそれは同じ。

 しかし、ここで怖気付いては全部が無駄になる。震える身体や心に火を灯し、味方が暴発しないよう警告する。

 

 ゆっくりと、確実に、徐々に距離を詰めてくる巨人を正面に捉え、機を待つ。

 

 「……………………待て」

 

 一歩。いまだ遠く。

 

 「………………待て」

 

 一歩。まだ引き付ける

 

 「…………待て」

 

 一歩。もはや外すことは無いだろう距離。

 

 「……待て」

 

 一歩。不気味な顔が視界を覆う。

 

 「待て」

 

 手を伸ばせば、簡単に握り潰される距離。

 

 「用意」

 

 そこまで近づかれて、ようやく引き金に指を添える。

 

 一歩。

 

 距離ゼロ。

 

 「撃てぇええ!!!!!!!」

 

 待ち続けた果てに、熟した機を逃さない。

 マルコの絶叫が響き渡った直後、放たれた無数の散弾が至近距離にいた巨人の目を破壊する。

 

 鳴りやまぬ銃声、銃口から漏れ続ける閃光。

 両方が終わりを告げる直前、潜み続けた狩人たちは一斉に駆け出した。

 

 勝負は一瞬で決まる。

 勢いよく細い足場から飛び出し、リフトのほうを向いている為に無防備にうなじを晒す背中へと強襲する。

 

 流石、巨人討伐組に選ばれただけあって、ミカサを筆頭に大半はうなじを捉え絶命まで導いた。

 しかし、どんな存在にも土壇場のミスはある。

 

 二体。コニーとサシャが担当していた巨人は、斬撃が僅かに逸れうなじを削り取ることが出来なかった。

 着地に失敗し転がるコニーと、振り返る巨人に恐怖のあまり呆然とするサシャ。

 

 「サシャとコニーだっ!!!」

 

 「てめぇの出番だぞっ! ノルドォ!!!」

 

 二人の失敗を悟ったベルトルトが叫び、ジャンはこういう時の為に用意された予備戦力を呼ぶ。

 

 呼ばれたノルドがどこにいるかというと、既にサシャが担当していた巨人のうなじだ。

 もとより、異分子たる自身がいてもこの二人は失敗するだろうと予想を立てていた彼は、彼女らの近くで待っていたのである。

 

 一体目のうなじを斬り飛ばす。

 本来、ガス無しでこれ以上の立ち回りは出来ない。しかし、彼の眼はこの補給所を支える一本の柱とその先にいる巨人を捉えていた。

 

 彼は、力を失い重力に従って倒れはじめる、殺した巨人の後頭部を強く蹴る。

 中継地点として、柱を三角飛びの要領でキックする。さながら赤緑兄弟がする壁跳躍を見ているようだ。

 

 高さは十分。しかし、少しばかし膂力に不安が残る。壁キックだけでは勢いが足りないのだ。

 

 そう判断したノルドは以前、立体機動の訓練で試した回転斬りをすることにした。

 これは、体への負担が尋常ではなく当たり前のように筋肉が悲鳴を上げ千切れたり、関節がぶっ壊れる。

 

 今回はガスによる負担爆増も無いので、腕の筋肉が千切れるだけで済んだ。

 そのかわり、回転によって得られた力は足りない膂力を補い、問題なく巨人のうなじを斬り飛ばす。

 

 残っていた最後の一体が弱点をやられ、地に伏した。

 

 「全体、仕留めたぞっ!!! 補給作業に移行してくれ!」

 

 その様子を確認したジャンが、リフト組へ作戦成功を告げる。

 

 「「「「よっしゃあーーっ!!!!」」」」

 

 その報告を聞いた一同は、高らかに歓声を鳴らす。

 

 巨人を仕留めたノルドは返り血が蒸発するのに合わせて、断裂した筋肉を修復していた。巨人化能力者が治癒を使えば当然、その体から蒸気が溢れるのは必定。しかし、巨人の返り血も蒸発するのだ。誤魔化すことが出来る。

 

(やっぱりアッカーマンはおかしいって。つくづく、俺が巨人でよかったよ)

 

 「ノルドォ…………あ、ありがとう、ございますっ! 助かりました!」

 

 「すまねぇ、ミスった! 助かったよ」

 

 アッカーマンは怖すぎると改めて思ったノルドに、助けられた二人は駆け寄り感謝を言葉にしていた。

 

 「気にすんなって、言ったろ? 俺がカバーするって。それより、早いとこ補給済ませてここから出るぞ」

 

 そんな二人にひらひらと手を振って問題ないとあしらう。

 

 「危なかったね。身体、大丈夫?」

 

 そんな彼のもとに、やってくるのはアニ。

 

 「問題ない、ちょっと無茶したがすぐ治る」

 

 「そう、ならよかった」

 

 言葉少なだが、確実に相手を想っているのが伝わるアニの台詞。

 幸い、離れた位置に居る例のあの人には聞こえていない。

 

 「俺たちも補給しよう」

 

 「分かった」

 

 リフトから降りた面々や巨人を倒したメンバーが、補給に移り始めているのを見たノルドは自分たちも補給すべく、傍に居たアニを伴って補給作業をし始めた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そして、ガスの補給を済ませ準備を終えた104期の皆は一斉に外に出て壁の上を目指す。

 一方、ミカサやアルミン、マーレ組、そしてジャンとノルドは先の巨人が見える位置に居た。

 

 「――同感だ。あのまま食い尽くされちゃあ、何も分からず仕舞いだ。あの巨人にこびりついてるヤツラを俺たちが排除して、とりあえずは延命させよう」

 

 「っ! 正気か、ライナー! やっと、この窮地から脱出できるんだぞ!!!」

 

 「例えば、あの巨人が味方になる可能性があるとしたら、どう? どんな大砲よりも強力な武器になると思わない?」

 

 思えば、マーレ組は必死だったのだろうな。

 いま、そのシーンに居合わせているノルドは思った。

 

 (確かに、ライナーも兵士ならそんなこと敵を助けようなんて言わないはずだし、アニに関していえば明らかに喋りすぎ)

 

 互いの考えを図っているうちに、エレンが動き出した。

 なんてことは無い、トーマスを食べた巨人を見つけたからだ。

 

 両手を無くしたエレン巨人はそのまま巨人のうなじに食らい付き、ブンブンと振り回した。

 結果として、周囲の巨人は一掃された。

 

 『グウォオオオッ!!!!!』

 

 「…………何を助けるって?」

 

 勝利の雄たけびを上げる巨人を前にジャンは呆然と呟いた。

 その直後、力を使い果たしたエレン巨人は膝から崩れ落ちた。

 

 「さすがに力尽きたみてぇだな。もういいだろう、ずらかるぞ。あんな化け物が味方なわけねぇ、巨人は巨人なんだ」

 

 しかし、誰も動かない。

 皆一様に、先程の巨人を食い入るように見ていた。

 

 蒸気をあげながら、うなじから何かが起き上がってくる様子を見ていた。

 

 一番最初に動き出したのはミカサ。

 這い出てきた存在を信じられないと思いつつも、可能性にすがり駆け寄っていく。

 

 そこから出てきたのはエレンだった。

 

 ひとまず、巨人の脅威が無い高い場所にエレンごと避難させ、ミカサやアルミンが落ち着くのを待つことになった。

 

 ノルドはふと呟いた。

 

 「人の皮を被った巨人か、はたまた巨人を纏った人間か。お前はどっちなんだ?」

 

 特に何かを考えて発言したわけではない。

 

 エレンに夢中のミカサやアルミン。

 巨人の死体が多く転がった戦場を呆然と眺めるジャンの耳には届かなかった。

 

 しかし、その場にいた他の存在には彼の言葉がしっかりと耳に刻まれた。

 

 (あ、やべっ。適当に呟いたけど、結構まずくね。今の台詞)

 

 

 

 





実はやっていたノルド。
(記憶なし、朝起きたときの惨状から予想済み)

ユミルやクリスタも同様。
(記憶なし、体の違和感からおおよそ予想済み)

あ、私は始祖様に倣ってエレミカ派過激派厄介ファンでので悪しからず。

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