【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
三姉妹になってきゃぴきゃぴすることは本題ではない。
コンテンツ的にはそうなのかもしれないが、目的は違う。
「到着だ」
そう、ここからが地獄なのである。
街の観光なんて出来るわけもない。
飯を食って荷物を自室に運んで、息をつく間もなく俺達は街の中にある謎の採石場へと運ばれていた。
市街地を少し離れると現れる辺りを木々に囲まれた採石場には人影はない。
いくつかの重機や立てかけられたヘルメットなどが、つい先ほどまで人がいたように感じさせるが、俺達と蝉の声以外は何も聞こえてこなかった。
「どこですかここー!」
「このZONE内で唯一、自由に鍛えられる場所だ。先にお前達が何を出来るのかを把握しておきたい。それから特訓メニューを考えよう」
そう言って師匠は背負っていた筒を地面に降ろす。
そして俺とセナノちゃんを交互に品定めをするように見た。
「よし、それじゃあまずはエイだ」
「わ、私ですか」
「そうだ。空澱大人の力を使わず、これだけで私と戦って見せろ」
そう言って師匠は俺へと何かを投げる。
足元に転がってきたのは真っ黒な一メートルの棒であった。
「ん? これは……」
「構文が刻まれた棒だ。これで殴れば大抵の異縁存在は消える。おすすめの装備だ。今回はそれで私を殴って見せろ」
「えっ」
「大丈夫だ。私は鍛えているから、頭を殴られても死なん」
そう言う事じゃないんだけどなぁ。
「セナノさん……」
「師匠はああなったら止まらないから、さっさと殴ってきなさい」
「わかりました……」
俺は渋々棒を拾上げようとする。
が、手にずっしりと伝わる重みが想像以上で、この細い腕では満足に振り回せそうにない。
「重っ!?」
えっ、これをさっき片手で投げてたの?
師匠って本当に人間?
「こい、エイ。10発まずは私をそれで殴って良いぞ」
殴るって言われてもなぁ。
『エイ、わかってますね?』
『わかんないっす』
『空澱大人の力を使わないエイなんて、か弱い美少女♀/♂であるという事を見せつけるのです。汗とか呼吸とか、もう、へろっへろでえっちえちに仕上げてください』
『わかりたくなかったっすけど、わかったっす』
監督からのオーダーだ、従わざるを得ないだろう。
ちなみにソラは今、一際長い杉の木のてっぺんで腕を組んでこちらを見下ろしている。強キャラ?
「い、いきますよぉ……!」
俺は棒を完全に持ち上げることを諦め、ズルズルと引き摺って師匠へと迫る。
迫るというとなんか駆けているみたいだけど、実際はそんな事はない。
もうほぼ徒歩と変わらん。
師匠の目の前に来た時には俺はもう汗だくになっていた。
縁理学園の制服って、暑いんすよ……。
昔の白ワンピが恋しいっぺ。小川に足を浸して、アイスキャンディー食いながらニートしてた頃が懐かしいっぺよ。
「はあ、はあっ……」
「どうした、まだ一度も振っていないが」
「ま、まってっください……えっ、え~い!」
全身を使って俺は棒を横なぎにふんわりと振るう。
それは師匠の靴に当たって、小さく鈍い音を立てて終わった。
「あと9回」
「ぬぐぐぐぐぐ、え~い!」
もう一度俺は棒を振るう。
相変わらずダメージはゼロ。もう棒はただ当たっているだけに等しい。
「ちょ、ちょっと休憩を」
「あと8回」
「し、師匠ぉ」
「あと8回」
「っ、え、え、え~い」
ヘロヘロになりながら、俺は棒を振るう。
か弱い肉体なので、明日は恐らく筋肉痛で腕が一度も上がらないだろう。
『よい汗です。健康的に汗をかきつつ呼吸を乱す。健全なえちえちコンテンツですね』
『健全なえちえちコンテンツなんてないだろ』
『甘いですね。この世には様々なルールの穴を突くための脱法コンテンツが数多く存在しているのですよ? さあ、最後に大きく転んで仰向けになってください。服は乱れていると良いです』
『御心のままに』
地獄のような素振りは、気が付けば後一回になっていた。
俺は目に涙を浮かべ、息が上がった状態で顔を赤くしながらなんとか棒を振るう最後の力を腕に集結させる。
「ラスト、気張れ」
「うぅ……ええーい!」
ぽすん、と足に棒が当たる。
これで10回棒を当て終わったのだが、全身の疲労が半端ではない。
「よくやったエイ」
「こひゅ……こひゅ……ぜえっ……ぜえっ」
「一時間は掛かったが、振るえただけでも良しとしよう」
師匠はそう言って俺の髪を撫でる。
疲労と達成感が相まって、何故だかお褒めの言葉がとても響くよぉ……!
「では、次は私の番だな」
「え?」
撫でていた手が、俺の髪をそっと持ち上げおでこを露出させる。
師匠は俺のおでこにそっと指を向けた。
「一撃で勘弁してやろう」
「え、何を――いたぁっ!?」
額に衝撃と痛みが走る。
それがデコピンであると気が付いた時には俺はもう地面に転がっていた。
『ナイス仰向け!』
いやこれデコピンの反動で飛ばされただけだよ。
「うぅ……痛い」
おでこを押さえながら、俺は空を見上げる。
さて監督からはお褒めの言葉を頂けるか……?
『良き』
いただけたようだねぇ。
息は上がり、顔には汗で髪が張りついて、目は潤んでいる。
その光景だけを見れば、何故かいかがわしい気持ちが湧き上がってくる健全えちえちコンテンツがそこには生成されていた。
やれやれ、監督のオーダーに応えるのも楽じゃないぜ。
『いやぁ、何度見ても良いものは良いですね』
?
そんなに繰り返し健全えちえちコンテンツってやったっけ……? よく覚えていないなぁ。
「この棒には特殊な構文加工がされていてな、かなり重い。だから持つだけでも十分にお前は鍛えられるだろう。よく頑張ったな。少し休憩をしていると良い。あそこの小屋は、自由に使って良いからな」
指さす方には、工事現場で使われている仮設の建物のようなものがあった。
どう見ても業者用なのだが、こういう所まで偽装しているとは。
「師匠」
「どうした」
「もう一歩も動けないので、ここで少し休んでも良いでしょうか……!」
「ここは直射日光が厳しいだろう。木陰までは運んでやる」
師匠は俺と棒をそれぞれひょいと担ぐと、そのまま小脇に抱えた。ペットと同じ扱いされてる?
「ここで暫く休んでいろ。……ああ、丁度良いしセナノとの模擬戦でも見ていればよい」
「はい」
木の幹に体を預けて俺は、師匠とセナノちゃんを見る。
模擬戦と聞いた割にはすさまじい迫力だ。
「セナノ、最初はNARROW無しで戦おうか。まずはどれだけ鍛えているかを知りたい」
「言われなくても、最初からそのつもりですよ」
セナノちゃんは不敵な笑みを浮かべて師匠と対峙する。
そして一瞬の沈黙の後に駆け出した。
俺なんかとは比べ物にならない程に速い踏み込みで一気に師匠の懐へと潜り込んだセナノちゃんは、瞬きの間に既にハイキックを繰り出している。
「鋭く良い蹴りだ」
首元に迫っていた蹴りを片手の甲で軽く停止させた師匠はそのまま「もう一度」と告げセナノちゃんを見下ろす。
「っ、まだまだ!」
セナノちゃんはそれから流れるように蹴撃を繰り返した。
いくつものキックを織り交ぜ、時にはブラフを仕掛けて不意を突こうとする。
が、それを師匠は直立不動のまま受け止め続けた。
「足をきちんと鍛えていたようだ。及第点はくれてやろう」
「ありがとうございます。でも、満点じゃないんですね……!」
「当然だ」
足が師匠に掴まれる。
セナノちゃんは何とか振りほどこうとするが、それも無駄に終わった。
「この程度では、生身でA級以上の異縁存在を殺すのはまだ早いな」
「いやそれ師匠だけ――きゃぁっ!?」
足を持ち上げた師匠は、まるでぬいぐるみでも投げ飛ばすかのように片手で軽々とセナノちゃんを投げ飛ばした。
突然の事にセナノちゃんは地面を派手に転がる。
「セナノさん!?」
「おしゃべりに集中しすぎだ。まだまだ、模擬戦は始まったばかりだぞ」
「……っ、そうですね」
よろよろと立ち上がったセナノちゃんはもう限界に近い筈だ。
なのに、何故か笑っていた。
怖いよぉ……なんで笑ってるのぉ?
「いきます!」
「ああ、来い」
再びセナノちゃんが師匠へと蹴りかかる。
何故だかその光景が、師匠と弟子の楽しい戯れに見えて仕方がなかった。
「すご……」
その光景を、俺は口を開けて見ていることしか出来ない。
え、この後にもしかしてまた俺、棒を持たされるのかな。
もう無理なんだけど。
『ソラ、もう疲れた。これ以上今日は特訓したくないよぉ……どうにかしてよぉ』
『大丈夫ですよ! この模擬戦で初日の訓練は終わるので』
『本当?』
『本当です! あ、でもコンテンツは続きますよ! 拠点のお風呂が壊れているので、同級生の家にお風呂を借りに行くコンテンツがあります!』
『やけに具体的だなぁ……』
というか、コンテンツの為に風呂壊されるの確定しているのおかしいな。
あっぶね、普通に受け入れようとしてたわ。
『ソラ、流石にコンテンツの為だけにお風呂壊すのは駄目だよ借りものなんだし……』
『いえ、私が壊した訳じゃないので。安心してください』
『そっか、なら安心だな(?)』
ソラの言葉に俺はホッと胸を撫でおろす。
あー、早く帰りたいなぁ。