【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
夕日が差し込む頃、俺達はようやく家に着いた。
既に俺に立って歩くだけの力は残されておらず、師匠に米俵のように担がれての帰宅である。
ご近所さんにめっちゃみられて少しだけ恥ずかしかったです。
『エイ、気が付いていますか? 疲労困憊の貴女は合法えちえちコンテンツだという事に。まだこの辺は法整備が曖昧ですからね。昔の判例に倣うしかないので、貴女が裁かれることはありません!』
『その言い方だとかなり黒に近いグレーゾーンじゃないですか?』
『人によっては差分付きで有償プラン行きですね』
『御空様、流石にそれはコンテンツだったとしても上位存在が触れちゃいけねえっぺよ』
『……おや、その注意の仕方だと貴女はそれが何か知っているように聞こえるのですが^^』
マズイ、疲労で頭が回っていなかった。
今まで完璧に転生者であることをこのコンテンツ祟り神から隠し通せていたのに……。
『そ、その……』
『エイ』
『ウィッス』
『まさかエイもそんな事に興味を持つようになったとは思いませんでした。貴女は貴女で自主的にコンテンツを学んでいるようですね。感心です^^ 私が目を離している隙に、あの人間の持っているタブレットで色々と見ましたね……?』
『……はい!』
どスケベ野郎と転生者バレを天秤にかけた俺は、すぐに命を守る選択をした。
こんなふざけたところで死んでたまるか!
『さて、エイ。お風呂が壊れている事にそろそろ人間たちが気が付きますよ』
『あ、そうだ。そんな事を言っていたね』
原理のわからない予言をされた俺はこの家の風呂がもう機能しない事を知っている。
曰く、壊れているらしいが……。
「着いたぞ、エイ」
「ありがとうございます、ネネお姉ちゃん」
「あれだけ動けたのは正直想定外だった。中々に魂は鍛えられている。後は肉体を仕上げよう」
「はい」
ソファに俺はひょいと投げられ、身体が沈む。
あー、落ち着く。
「師匠、私が先にシャワー浴びても良いですか? エリートとは思えないくらいに地面を転がったので」
「構わない。好きにすると良い」
「ありがとうございます。エイも私が先で良いかしら」
「はい。私はまだしばらく動けそうにないので」
顔を上げずにそう答えると次第に足音が遠ざかっていく。
セナノちゃんは凄く頑張っていたからなぁ。
NARROWを使った戦いでも、セナノちゃんは全くと言って良い程に歯が立っていなかった。
まるで子供の様にひょいひょいとあしらわれ、同じS階位とは思えない。
特に師匠がヒバリを素手で掴んだ時は、どうすれば勝てるのかと思ったほどだ。
逆にセナノちゃんはなんでこんな人を相手にエリートを名乗れているの?
「エイ、ご飯はどうする」
「美味しい物をいっぱい食べたいです」
「わかった。胃袋も鍛えよう」
「そっちは自信あります……!」
エイは食いしん坊だと監督から貰った台本に書いてあったので、頑張って食べる所存だ。
「ほう、中々に言うじゃないか。では早速」
「師匠ー!」
「む、どうしたセナノ。ボディソープを忘れたのなら、私の石鹸を――」
「違います! 師匠、お風呂食べたでしょ!」
「……は?」
「え?」
「ちょっと……もう! 二人共こっちに来て!」
俺は師匠に担がれて、そのまま風呂場に連行される。
こじんまりとして生活感の溢れる風呂場は、水色のタイルが敷き詰められており、時の経過を感じさせる銀の浴槽があった。
が、問題はそこではない。
「……噛み痕?」
浴槽やシャワー、壁に至るまで全てに何かが嚙み千切ったような跡が残っている。
使い物にならなくなった風呂場に無数に存在する嚙み痕には、確かに見覚えがあった。
「……私のカミキリに酷似しているな」
「酷似しているな、じゃないでしょう!? どう見てもそうじゃないですか! いつの間に使ったんですか!」
「むぅ?」
「むぅ? じゃないです! NARROWを使う時は申請しなきゃ駄目でしょう!」
「師匠、本当に師匠がお風呂を壊したんですか?」
「いいや、私はやっていない。ほら、カミキリはそこにある」
廊下を指さす師匠につられてそちらに顔を向ければそこには、上着を掛けられた筒があった。
確かに訓練中も一度もあれを使わなかったし、帰ってきて早々これの上に上着掛けてたな。
「セナノ、先入観は良くない。確かに嚙み痕がカミキリと殆ど一致していて、かつ私が鍵を忘れるようなうっかりさんだとしてもだ」
「……それは、すみません」
「じゃあ、誰がこんな事を……?」
「わからない」
師匠は近づき、唸り声を上げる。
「うーむ。この噛み痕はなんだろう。考えれば考える程に私な気もしてきた」
「師匠!?」
「エイ、私は無意識の内にNARROWを使っていたのか?」
「師匠は鍛えているかお弁当を食べているかのどちらかだったので、そんな筈はないと思いますけれど」
「そうか……ならそんな気もしてきた。やはり私は悪くないぞ!」
「ちょっと不安になっていましたよね師匠」
セナノの指摘に師匠は答えない。
ただ、噛み痕を見て何やら考え込んだ彼女は「よし」と声を上げた。
「よくわからないので、後回しにしよう」
「「師匠?」」
「難しい事を考えるのは嫌いだ。鍛えていれば後手でもなんとかなる!」
「「師匠!?」」
「セナノ、エイ」
師匠は俺達を見てそれはそれは自信満々に頷いた。
「こういう時は、その辺の家を借りても良い事になっている。大丈夫だ。お風呂なら町中に沢山あるぞ!」
「おお! さっすが師匠! じゃあ実質温泉旅行って事ですね(?)」
「そういうことだな(?)」
「えぇ……」
俺と師匠のハイレベルな会話を前にセナノちゃんはもうついて来れていないようだった。
そうして師匠は俺を担いだまま風呂場を後にする。
「確か、コンビニで会った同級生の家が近い。うちと親同士が非常に仲が良いという事にしておこう。そうすれば、借りられる」
「成程!」
『つまり突然お風呂を借りに来た美少女三姉妹コンテンツという事ですね^^』
御空様の言う通りに事が進んでいるっぺ。
これが災主級……!
「む」
「師匠?」
師匠はリビングまで来ると、窓の方を見て停止する。
窓の外には電柱と塀、そして塀に腰かけて足をパタつかせ「^^」と笑っている御空様だけだ。
「……いるな」
「え?」
「エイ、私は戦う気もないし敵対するつもりもない。だから正直に答えて欲しい」
そう言って師匠は窓の外、間違いなくソラを指さして問いかけた。
「そこに空澱大人がいるな?」
「……」
エマージェンシーだっぺ!
『御空様どうすれば!』
『肯定しつつ、ふわっとけむに巻いて下さい。何かに気が付いている風でいい感じにに』
『曖昧な指示ありがとうございます!』
俺は少し考えるような素振りをして、申し訳なさそうに頷いた。
「はい……御空様はそこにいます」
「そうか」
「何か、私達に伝えようとしているのかもしれません。でも、声が不思議と遠いです……」
「……ZONEの影響下だからか? しかし、災主級がただのZONE程度に阻まれるだろうか」
「わかりません。どこか焦っているようにも……憐れんでいるようにも見えます……」
『コンテンツに浮かれてついうっかり気配が滲み出てしまいました』
わかりたくありません……。
「成程……何かが起きているのかもしれないな」
「師匠どうするのですか」
「どうもしない」
「え?」
師匠はあっさりとそう告げた。
「狙いが私達なら異常の主は向こうから来るだろう。それよりも風呂だ。鍛えた後は風呂と飯。これだけは欠かしては駄目だ。行くぞ、エイ。セナノも、お風呂セットを用意しておけ。シャンプーハットは持ったか? お前は目に泡が入ると泣いて「いつの話してるんですか!? エイの前でやめてください!」……鍛えたのだな」
こんなタイミングでコンテンツの欠片を採取できるとは。貴重な機会だ。
「では行くぞ、ヤマモトヨシノリの家へ」
「はいっ!」
「心配だ……」
そうして俺達は風呂とコンテンツの為に同級生の家に突撃することになったのだ。