【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
夕日が差し込む頃、ヨシノリは怠惰な時間を過ごしていた。
コンビニで出会った同級生と姉妹の事などすでに忘れ、彼はスマホを片手にソファに寝そべっている。
部活も課題も彼にとっては意識するのも無駄なものだ。
「ヨシノリ、ちょっと買い物行ってくるからー」
「あーい」
母の声に適当な返事をする。
話など詳しく聞いている筈もない。
今、彼の意識はSNSの雑多な情報を摂取するのに忙しいのだ。
「やかんが鳴ったら止めといてねー」
「あーい」
「それと、ネネちゃん達がお風呂借りに来るからー」
「あーい」
玄関が閉まる音が遠くで聞こえる。
暫くスマホを見つめていた彼は、ふと顔を上げた。
「……ん?」
何か聞き捨てならない言葉を母が残していった気がする。
ヨシノリは普段は微塵も使っていない脳みそを使ってゆっくりと母の言葉を思い出していった。
そして。
「えっ、あいつ来るの!? なんで!?」
今までネネが家に来たことなど一度もない。
それなのに、お風呂を借りに来るというのは果たしてどういう風の吹きまわしなのだろうか。
慌ててスマホを使い、ヨシノリは母へと連絡を繋げた。
「ちょ、母さん! さっき、ネネがウチに来るって言った!?」
『もう、どうしたのそんなに慌てちゃって。前からよく来ていたじゃない』
「……え?」
そんな訳が無い。
だってネネという少女とはあくまで家が近いだけの同級生で――。
「……あ、確かにそうだったわ」
『寝ぼけているの? ネネちゃんとは昔から仲が良かったでしょ貴方。いいから、ネネちゃん達をお願いね?』
「あーい」
通話を終えて、ヨシノリは思い出す。
自分はネネと同級生かつ家ぐるみで仲が良かった事を。
数年前に越してきたのだが、親同士が非常に仲が良くその娘達とも自然に仲が深まっていたのだ。
「んー、ネネ達来るのかぁ」
ヨシノリは別に深く考えることはないと、ソファに再び体を沈める。
部屋に響く時計の針の音や、やかんのお湯が沸き始めた微かな気配、換気扇など、今までは気にならなかった音がやけにはっきりと聞こえた。
それが緊張だと理解したヨシノリは困惑する。
別に今までもこんな事はあったというのに、自分はどうしてしまったのだろうか。
「……なんだか落ち着かねえな」
スマホを置いて、ヨシノリは立ち上がる。
そして普段は滅多に使わない掃除機へと手を伸ばした。
「別に暇だからするだけだしな」
高校二年生、ヤマモトヨシノリ。
同級生の到来を前に、あまりの緊張にリビングの掃除を決行。
やかんの縛りにより、彼は今自室に逃げ込むことを封じられていた。
もしも自室に戻ってよいなら、勝手に風呂を貸してドア越しに何度か会話をして終わっていただろう。
が、それが今回は偶然にも封じられていたのだ。
「……何をやってんだ俺は」
掃除機をかけながらふと我に返ったその時だった。
インターホンが鳴り、扉の開く音がする。
彼女は以前から、鳴らせば勝手に上がっても良いと思っている節がある。
両親がそれを許すものだから、ヨシノリもそれを完全に受け入れていた。
「ネネ、昼ぶりだな――って、大丈夫すか」
顔だけ出して廊下を覗けば、そこにはお風呂セットを持ったネネとエイ、そして何故か一人だけ土に汚れているセナノの姿があった。
「ヨシノリ、悪いが風呂を借りるぞ。お前の母さんには既に伝えてある」
「あ、ああ。いいけど」
「じゃあ、先にお借りしますね」
そう言って、セナノは廊下の奥へと進んでいく。
彼女が脱衣所に入ったのを確認したヨシノリは、ネネを手招きした。
「お前の姉ちゃん転んだ?」
「ああ。採掘場で」
「なんで?」
「鍛えていた」
「…………そっかぁ」
昔からネネはよくわからない。
なら、姉がよくわからないのも当然だった。
(もしかして鍛えるって口癖は姉ちゃん由来なのかな。いっつもネネの世話をしているイメージあるけど、意外とネネと同じなのか?)
ソファに座りテレビを見始めたネネを見ながら、ヨシノリはそんな事を考える。
と、その時服の裾がちょいちょいと引かれた。
見れば、エイがこちらを見上げている。
上二人とは違い、こちらは純真無垢で小動物的な愛らしさがあった。
「やかん、火を止めなくて良いんですか?」
「え? ……ああっ!」
いつの間にかやかんはけたたましく甲高い音を鳴らしていた。
ヨシノリは慌てて火を止め、ホッと胸を撫でおろす。
最悪の事態は避けられたようだ。
「ありがとう、エイちゃん」
「いえいえ」
「ヨシノリ、あっついお茶が欲しい」
「はいはい」
馴れた様子でヨシノリはいつものようにお茶を用意する。
「……あれ、湯呑どこにやったけ。お前用のやつ、前に洗ってここに置いておいたはずなんだけどなぁ」
記憶だと確かに湯呑をしまっていた筈の場所には、きっちりと別のものが置かれている。
その妙な感覚に首を傾げていると、いつの間にか傍にネネが立っていた。
「うおっ!? どうした、お茶が待ちきれなかったか?」
「ヨシノリ、見てくれ」
「え?」
そうして差し出されたのは、握り拳ほどの大きさの銀色の何かだった。
いびつに丸まっており、まるでアートのようにも見える。
「なにこれ」
「ドアノブ」
「は?」
「ぎゅっとしたらぐにゃってなった。ドアノブは鍛えていなかったが、私は鍛えていた。それだけだ」
「……え、俺の家のじゃないよね!?」
「大丈夫だ。これは私の家のだ」
「それも大丈夫じゃないよね!?」
「あ、湯吞がこんな所に」
「今湯吞に興味ある人いないよ?」
ネネはテーブルの中央に在った湯呑を手に取る。
そして、満足そうに戻っていった。
「一体なんだったんだ……って、テーブルの真ん中にわざわざ置いていたかな。ま、いいか。エイちゃんはオレンジジュースでいい?」
「ありがとうございます!」
「うんうん、お礼が出来て良い子だねえ」
お盆に急須とオレンジジュースを乗せてヨシノリはリビングへと戻る。
そしてそれぞれに飲み物を献上して、自分も腰を下ろしたその時だった。
「あの……ヨシノリさんとは付き合っている設定なんですか?」
「ぶふぉっ!?」
思わず麦茶を吐き出すヨシノリを見て、エイは自分の質問が聞かれていたのだと悟ったのか、あわあわと手を無意味に動かし始めた。
「ええっと、これはその、質問が……そのっ、師匠……じゃなくて、ネネお姉ちゃんに対するその……」
「…………以前、私が告白されすぎてお前に恋人のふりをして貰ったことがあっただろう。その時の事を、今になって聞きつけたらしい」
「え、そんな事……あったなぁ」
思い出される記憶の中では、確かに自分が恋人であると公言していた。
意外にも周囲からの反応は「まあ当然か」程度の物であり、結果として騒ぎにならなかったことは覚えている。
それを聞きつけた両家の両親がそれぞれすぐに婚姻を進めようとしたのは焦ったが、今となっては良い思い出だ。
「エイちゃんはどこからそんな話を聞いたのかな?」
「えっと……私の学校? でクラスメイト? が発表? してました」
「なぜずっと疑問なんだ……まあ、いいや。とにかく、その噂は訂正して良いよ」
「え、でもそうしたらクラスメイトがネネお姉ちゃんに告白しちゃいます! それは嫌です! ヨシノリさん、その……良ければまだしばらくの間は恋人でいてくれませんか」
「えっ、それはその俺は別に損はないけど……」
チラリとネネを見る。
が、本人はなんの関心もないのか、お茶を飲んでいた。
それはそれでムカついたヨシノリは少し声を張り上げる。
「ネネは良いのか?」
「構わん」
「俺より男らしい答えだな……じゃあ、まあその……まだ恋人って事で」
「わあっ、ありがとうございます!」
何が嬉しいのかエイはニコニコとして、頭を下げた。
(別に俺は良いけど……本当にネネはそれで良いのかよ。こんな冴えない男が恋人で)
改めてネネを見てみれば、美しく強い女性であった。
逞しい体は二メートルを超え、それに伴い色々と大きい。
が、それでも体は引き締まっており、顔も彫りが深くまるで海外の女優のようだ。
(こうしてよく見てみると本当に綺麗だな……)
まつ毛も長く、彼女が瞬きをするだけで何故か絵になってしまう程だ。
高校生が想像する美少女とは違うがそれでも本当に美しい少女であることに変わりはない。尤も、少女と呼べる体躯であるかは考える必要があるが。
「――別に、本当に付き合っても良いんですよ?」
「え?」
不意に、囁くようにそんな事を言われた。
驚くヨシノリとは正反対に、エイは小悪魔っぽい笑みを浮かべている。
「い、いつの間にそんな顔をするようになったんだエイちゃん」
「私だってもう中学生になりましたから」
「そ、そっか。今の中学生って凄いんだね。俺の時はカードゲームとカブトムシと川遊びの話しかしなかったのに」
「それはヨシノリさんが子供過ぎる可能性も高いのでは?」
そう言われてよく考えてみれば、確かに中学生時代の自分達を見る女子の目はどこか冷めていた気がする。
もしかすると、あの時点で自分達よりも先に成長していたのかもしれない。
「と、とにかくそう言う事を軽はずみに言っちゃ駄目だよ」
「別に軽はずみじゃないんですけど。ヨシノリさんだったら、お兄ちゃんになっても楽しそうですし」
「そ、それは……」
助けを求めるようにネネを見る。
が、彼女はテレビの旅行特集にくぎ付けだった。
「山籠もり……良いな……」
湯呑を片手に呟く姿はもはや武士である。
「私、サポートしてあげますか?」
対してこちらの小悪魔はまだまだ人の恋路で遊ぶ気満々らしい。
「エイちゃん、駄目だよ?」
「でもでも、ネネお姉ちゃんの事は綺麗だと思いますよね?」
「それは……まあ」
「じゃあ、このまま本当に恋人になっても嬉しいですよね?」
「その……」
甘い地獄が気が付けばそこに展開されていた。
ヨシノリに逃げ道はない。
キラキラとした目で詰め寄るエイに、ヨシノリは必死に顔を背ける。
コップの氷がからんとなるが、それはエイの注意を引くには至らなかった。
「私、漫画で見ました! 恋人のふりをしていた幼馴染二人が最後に結ばれるやつ!」
「くっ、身近に感じる題材のやつをよりによってこのタイミングで……!」
要するに、エイは漫画のそれを現実でも体感したいらしい。つまり、完全に外野として楽しむ気満々のようだった。
「さあ、ヨシノリさん!」
「う、ネネからもなんとか言ってくれ!」
「ん? ……ああ、おかわり」
「おかわりの催促な訳ないだろ」
文句を言いながらもヨシノリは慣れたように差し出された湯呑にお茶を注ぐ。
未だに湯気がたつ茶をネネは礼を言って受け取ると、そのまま一気に飲み干した。
「ん、美味しかった。セナノ姉さんも上がったようだし、次は私達だな」
間もなく、廊下で足音が響く。
ネネの言う通り、セナノが風呂を出たようだ。
「良く分かったな」
「耳は良いんだ」
「……ならさっきのエイちゃんとの会話も聞こえていたのか?」
「聞こえていた。が、特に私から言う事はない」
そう言うと、ネネは立ち上がりヨシノリを見る。
「行くぞ」
「ん?」
「ヨシノリ、行くぞ」
「ん?」
「背中を流せヨシノリ、行くぞ」
「んん!?」
お風呂セットを小脇に、幼馴染は至極真面目な顔でそう言った。
『リアルタイムで記憶書き換わるの見てて面白いな。でもこれ自分がやられていたらと考えると怖いね(笑)』
『そうですねぇ^^』
こういう三姉妹の場合、私は長女が好きです
みんなはどう感じたかな? 班ごとに話し合って、さいごに発表してみよう!