【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第105話 介入する、普遍

 肺に突き刺すような痛みが走ろうとも、足を止めてはならないとヨシノリは本能的に理解していた。

 

「気張りなさい、男の子でしょう?」

「ぜえっ、ぜえっ、ちょ、速っ」

 

 異形共の目を盗むように三人は街を駆けていた。

 目的であるセナノ達の家は、いつもであれば5分で辿り着くのだがこの状況ではそうはいかない。

 

「ヨシノリさん伏せて」

「うわっ」

 

 袖を掴まれ、エイと共に地面に転がったヨシノリのすぐ頭上を何かが通り抜けた。

 生暖かい風が首筋を撫で、様々な声で執拗にあいさつが耳元に流れ込む。

 何かがすぐ上にいる。

 それを理解したヨシノリはただ祈る様に目を瞑り地面に伏せるしかなかった。

 

「うぅっ……」

「良く避けたわ、任せなさい」

 

 強気な声と共に、頭上で何かが弾ける音が聞こえた。

 そして自分の背中に降りかかる妙に温かい液体。

 

 恐る恐る顔を上げれば、丁度脚を降ろしたセナノがそこにはいた。

 

「ああいうのは蹴ってやれば良いのよ」

「そんな簡単な訳ないだろ……!」

「ほら、いいから立って。行くわよ」

 

 そうして再び三人は進む。

 時折足を止め、異縁存在をやり過ごし、あるいはセナノがその暴力的な足技で仕留め、着実に前へと進んでいた。

 

「な、なあその……ネネが言っていたNARROWって何なんだ? それがあれば、これが終わるのか?」

 

 前を進むセナノではなく、隣のエイにこっそりと問いかける。

 彼女は戦闘要員ではないようで、異縁存在が接近した場合やヨシノリが危ない時に知らせてくれる役割を果たしていた。

 そして時折ヨシノリがする質問に対して答える役も彼女である。

 

「NARROWは、私達縁者の中でも凄い人たちだけに渡される凄い武器です! セナノお姉ちゃんとネネお姉ちゃんはどっちも凄いのでNARROWを持っているんですよ!」

「そうなのか……」

「私はまだなので、精進が必要ですね」

 

 少し寂しそうに笑うエイに、言葉を選んでいたヨシノリの頭上で突如として鈴の音が聞こえる。

 見上げれば、大口をあけた怪物がまさに自分を飲み込もうとしていた。

 

「え」

「呆けないで、死ぬわよ」

 

 声と共にヨシノリの頭上を足が通り抜ける。

 今までと同じようにこの異縁存在もまた、セナノにより蹴り殺される運命を辿ったようだ。

 

「エイ、お喋りも良いけれど周囲の確認は怠らない事。それと貴女にNARROWは必要ないわ。私が守るから」

「……ありがとうございます、セナノお姉ちゃん」

「さっさと行くわよ。今はどうにかなっているけれど、必ずNARROWは必要になる」

「あ、ああ」

 

 そうして三人は歩みを進める。

 幸いな事に、誰一人として欠けることなく家まで辿り着くことが出来た。

 それも偏にセナノとエイがいたおかげだろう。

 

 二人の間に妙な空気が流れていることはすぐに察したが、それを抜きにしても二人の行動は噛み合っている気がした。

 

 

 

 

 セナノが家に滞在していた時間は1分も満たなかった。

 彼女はリビングに立てかけられていたギターケースを無造作に掴むと、背負う動作すら惜しいと言わんばかりにすぐさま踵を返す。

 

「これが必要だったのよ」

「ギター?」

「入れ物は見せかけ。中身は全く違うものよ」

「成程、そうなんすか」

 

 セナノに適当な相槌を打ちながら、ギターケースを眺めるヨシノリ。

 そんな彼とエイに、玄関でセナノは足を止めて振り返った。

 

「アンタ達はこの家にいなさい。ここは安全だから」

「え?」

「私は住民の救助と異縁存在の処理に入るわ。ここから先はきっと貴方を守れなくなる」

 

 暗に足手まといだと告げている。

 ヨシノリはすぐにそれを理解し、静かに頷いた。

 が、意外な事にそれに異を唱えたのはエイである。

 

「待ってください! 私も行きます! 私だって縁者です!」

「見習いのね。ヨシノリの護衛だって立派な任務よ。貴女もここにいなさい」

「でも、それは……!」

「いいから、黙って命令を聞きなさい。……私はS階位なのよ。言う事には従いなさい」

「……っ」

「せ、セナノさん流石に言いすぎでは……?」

 

 恐る恐る会話に割って入ったヨシノリをセナノは容赦なく睨みつけ、何も言わずに外へと向かう。

 扉が音を立て無情に閉まり、ヨシノリはただ立ち尽くすしかなかった。

 

「……エイちゃん」

 

 隣で俯くエイに、ヨシノリは必死に言葉を探す。

 しかし、慰めの言葉も今は彼女を傷つけるだけだろう。

 

「…………私は、私の役割を果たしましょう。ヨシノリさん、こっちへ」

 

 顔を上げたとき、その目は少しだけ充血しているように見えた。

 暗がりではよくわからない。もしかすると、赤い月の光がそう見せただけかもしれない。

 

「突然こんな事に巻き込まれて大変だったでしょう。お風呂は壊れていますが、それ以外は大丈夫なので、リビングにでも行きましょう」

「あ、ああ」

 

 エイに追従して、ヨシノリは廊下を歩く。

 今までの経験から無意識の内に彼は床の軋みにすら気を配り、音を立てないようにしていた。

 そんな彼に気が付いた様子のエイは、振り返って笑う。

 

「大丈夫ですよ。安心してください。……あ、そうだ。お弁当もありますよ。ご飯まだだったでしょう? 美味しいお弁当があるので、どうぞどうぞ」

「あ、あの……」

 

 わざとらしく明るい言葉を連ねながらエイはリビングへと向かう。

 その背中はいつもよりもずっと小さく見えた。

 

 

 

 

 

 異形者どもが跋扈する街を、一陣の焔が吹き抜ける。

 

『認識接続、オース・リンク開示。確認しました』

 

 その電子音声は奴らに対する凶兆であった。

 一体一体の間を縫うようにカラスサイズの緋色の鳥が飛翔する。

 それに追従するように、主であるセナノは疾走していた。

 

「これくらいなら余裕ね」

 

 乱雑に振られた異縁存在の腕を飛び越え、放たれた無数の牙を避け、彼女はその足を止めずに進む。

 その一歩一歩が地面につくまでの間隔や距離までもが計算された奉納の儀式。

 ヒバリと共に街を駆け抜けるその行為自体が、この場では大きな意味を持っていた。

 

「後は民間人設定の奴らを助ければ良い筈だけれど……これは、他にいるのかしら」

 

 周囲には既に生命は無いように思えた。

 生命だったものはいくらでも転がっているが、全て終わりを迎えている。

 

「あのヨシノリとかいう存在を助ける設定だった……? もしかして、最初からそのつもりで師匠は風呂を借りに行ったのかしら」

 

 このシミュレーションの目的を考えている間も焔を足で巻き上げ、異縁存在を焼き尽くしていく。

 蒐集は考える必要が無い分、こういった戦いではヒバリは非常に優秀なNARROWであった。

 問題であった一対多での立ち回りも、これまでの経験からさほど不利にはならくなっている。

 

「ま、いずれにせよ全部焼却すればわかる事ね」

 

 ヒバリが応えるようにより焔を激しくする。

 屋根の上にしがみついていた巨大な蛙の様な異縁存在が一瞬にして焔に飲み込まれて消えた。

 道路を転がるように移動する車輪によく似た異縁存在も、セナノの焔を纏った蹴撃により一撃で沈む。

 

 問題はない。

 このシミュレーションにおいて、セナノが負けることはないだろう。

 あと一時間もすれば、ネネと共にこの夜神楽を終わらせることが出来る筈だ。

 それをセナノと()()は理解していた。

 

「――や、元気にしてた?」

 

 声と共に、それは日常から現れた。

 レジ袋を片手に今しがたコンビニから出てきたどこにでもいるような容姿の少女。

 ブラウンのブレザーにチェック柄のスカートと特に面白味の無い茶髪。

 

 彼女の背後のコンビニ内が赤く染まっていることを除けば、彼女はあまりにも日常の存在過ぎた。

 

「笛吹……!?」

「はいはい、貴女の素敵な隣人笛吹ちゃんですよぅ……って、その反応も飽きたな」

 

 笛吹はクラスメイトを見つけたときのように気軽に片手を上げ近づいていく。

 対するセナノは、低級とは言え異縁存在達と戦い続けている最中だった。

 

「っ、まさかこんな所で出くわすとはね!」

 

 その危険度はネネから十分に教えられている。

 故に彼女はすぐに対笛吹を想定して戦闘パターンを形成し始めた。

 ……が、それは無駄に終わる事となる。

 

「今、お話ししているから静かにお願い」

 

 笛吹が人差し指を地面に向ける。

 その瞬間、セナノが視認していた異縁存在が例外なく動きを止め、まるで何かに押しつぶされるように身をひしゃげた。

 辺りで大量に異縁存在が潰れ、街の一角が赤く染まる。

 

「グッド。聞き分けの良い子達だ。本物と違ってシステマティックだから介入もしやすいね」

「……私とやり合おうって訳?」

「ノンノン、そんなのナンセンスだよ。味方なら守る、敵なら殺す。はっきりしすぎているのがセナノちゃんの悪い癖だね。エイちゃんの無垢さを見習ったら?」

「うるさい」

「ああっとごめん、今はエイちゃんと喧嘩中だったね」

 

 笛吹はレジ袋からジュースを取り出すと無防備なまま飲み始める。

 まるでこの状況に慣れているかのようなその光景に、セナノは動き出せずにいた。

 

(一体なんなの……!? 相手の力もわからない。構文の焼却対象にするべきはどの力……?)

 

 その一挙手一投足から少しでも情報を読み取ろうとするが、あまりにも普通過ぎる彼女からは何も読み取れない。

 まるで初めから異常など無いのではないかとすら思えてしまう程だ。

 

「私、そろそろコンビニ飯も飽きてきたんだよねぇ。ここ、スーパー張りぼてだし。手料理できないのマジ無理。私ってば家庭的でさー」

「貴女とお喋りしている時間なんてないのだけれど」

「ハハッ、時間なんて君次第だよセナノちゃん」

 

 何が面白かったのか、笛吹はわざとらしく笑う。

 そして笑みを浮かべたまま彼女は言葉を続けた。

 

「でも、流石にもう飽きたしいい加減私から直接アドバイスしまーす! 優しいお助け役がいて良かったね! 今日もラッキーデイだよ!」

「アドバイス……?」

「うん」

 

 変わらず笑顔で笛吹は告げる。

 

「――折津エイと仲直りをするな」 

 

 その言葉は予想外で、しかし確かにセナノの心を揺さぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……あっ、あいつもう飽きましたね^^』

『えっ、何を見ているのソラ。やめてよ、急に変な事を言うの』

 

 

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