【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第106話 惑わす、影

 辺りの異縁存在は全て消え去り、残されたのは二人だけ。

 遠くの方で響く大きな破砕音や鳴き声は、ネネが戦っているからだろうか。

 まるでそれがこことは別の世界で起きているかのように感じられる程、今二人の前には静寂だけがあった。

 

「――何を言っているのかしら」

 

 ようやく絞り出した声の震えをセナノは語気を強めることで誤魔化した。

 それは恐怖か怒りか。少なくとも笛吹へと向けるその視線からして友好的な物でない事は確かだ。

 

「んー、怒った? ごめんね、本当は仲直りしたい筈なのに」

「別にそんな事は言ってない。私が聞きたいのは貴女がどうしてそれを知っているのかという事よ」

 

 セナノは未熟ではあるが、その精神は幼くない。

 喧嘩と呼べるほどにわかりやすい態度はとってこなかった。

 やり取りこそ必要最小限ではあるが、事前に知らされていなければ二人が喧嘩をしていると悟るのは難しいだろう。

 つまり笛吹が喧嘩について知るには。

 

(廻縁都市で私達を監視していた……?)

「廻縁都市で私達を監視していた――とか言うんでしょ?」

「っ!?」

「あれ、当たった? いえーい! ……あ、思考を読んでいるわけじゃないからね。読ませないようにこっちを蹴り続けるとかもうごめんだし。セナノちゃんってば判断が早すぎるからなー」

 

 笛吹は縁石に腰を下ろすと、レジ袋を漁り始めた。

 その光景はやはり学校終わりの学生にしか見えない。

 仮にも異縁存在が跋扈するこの街で、アイスを取り出し食べようとしている姿を見ていると、セナノもうかつには手を出せなかった。

 存在そのものが普通過ぎるが故に異常なのだ。

 

「貴女……何が目的なの」

「だーかーら、エイちゃんと仲直りするなって言ってんの。それが今は一番ベストなんだって。マジ、私の言う事信じたほういいよ? あのムキムキちゃんは会話通じなかったから、セナノちゃんに直接言うしかないんだってー。怪しいかもしれないけど信じてよー。……ん! このアイス美味ぁ!? ちょっと食べてみなよ!」

「いらない」

「あ、そう。じゃ、独り占めしちゃおー。エイちゃんはアイス食べてくれたのになぁ」

「っ!? 貴女エイに接触したのね!」

 

 詰め寄るセナノを意に介さず笛吹はアイスを口に運ぶ。

 そして頬を押さえて美味しさを大げさに表現しながら、笑顔で頷いた。

 

「うん」

「いつよ!」

「今日」

「は? ……あの子はずっと私か師匠と一緒にいた筈……」

「まあまあ難しい事は考えるなよー。余計なエネルギー使っちゃうよぉ? あ、でさー、エイちゃんは絶対に仲直りするって言ってたんだよ。あんなに真っ直ぐな目で言われちゃ流石の私も諦めるしかないよね。嫌われたくないし」

「……エイ」

「エイちゃん、良い子だよねぇ」

 

 アイスを食べ終えた笛吹は、新しくお菓子を取り出す。

 そしてまるで星でも眺めるように漆黒の空を見上げながら、グミを口の中に放り投げた。

 

「だから守りたいんでしょ? 守れるほどに強くなってようやくエイちゃんと対等になれると思ってる。……あ、これは私の予想ね? 違うなら違うって言ってね、恥ずかしいから」

 

 しかし、返ってきた答えは沈黙であった。

 それはこの場において何よりも肯定の意味を持つ。

 

「情熱を持つのは良い事だけど、ちょっとタイミング悪かったなぁ。仲直りするなら、別の場所でやってね。とにかく、このシミュレーション中は駄目。絶対に仲直り禁止でーす!」

 

 両手を胸の前でクロスさせて笛吹は首を勢いよく横に振る。

 無邪気な姿は、しかし今はセナノの神経を逆なでするだけであった。

 

「なんなのよ貴女……!」

「貴女達の愛すべき隣人だよ。先輩と言っても良いね」

 

 笛吹は残りのグミを全て口の中に放り込むと、立ち上がりスカートについた砂を払う。

 

「そろそろ行くかぁ。ムキムキちゃん来るしね。ちょっと話してみたけど、あの子ってやばいね(笑) S階位の中でもだいぶ話が通じないかも」

「貴女だって話は通じないでしょ」

「お、言うねぇ」

 

 嫌味に対しても笛吹は変わらずヘラヘラと笑っていた。

 軽薄な日常は、まるでいつもそうしているようにセナノへと手を振る。

 

「じゃ、今度は外で会えると良いね。こんなシチュエーションはもうたくさんだよ? いい? 仲直りはぜーったい駄目だからね!」

「……言われなくても」

「そう言っててすぐに仲直りするじゃん君ぃ」

 

 何故か呆れつつ笛吹は肩をすくめる。

 とその時、何かに気が付いたように唐突に顔を上げた。

 

「あ、やばいこっちにムキムキちゃん来る。気づかれたかも」

「師匠……!」

 

 自分が笛吹の空気に飲まれていたことをセナノはようやく自覚した。

 いつの間にか会話を優先しその足は止まっている。

 

(私だけじゃ無理でも師匠がいれば!)

 

 二対一であれば、十分に勝機はある。

 笛吹がネネの接近を察知し、逃げようとしているのが何よりの証拠だ。

 

 ならば、セナノが取るべき手段は一つ。

 

(焔で足止めしつつ、師匠の到着を待つ――)

 

 焼却の力を持つ焔で周りを囲めば、そう簡単には抜け出せない。

 そう思い、ヒバリを動かそうとしたまさにその時である。

 

「駄目だよ、それは」

 

 笛吹はまるでタブレット端末でも触る様に人差し指を下へと動かす。

 その瞬間、セナノの前に赤い何かが落下した。

 

「ヒバリ……!?」

「その焔、ヒバリの状態でもちょっと面倒だからさ。ごめんね、乱暴にしちゃった」

 

 ヒバリはまるで地面に磔になる様に動かない。いや、動けないのだ。

 

「何をしたの!?」

「えー、前に教えたじゃーん。なんて、意地悪だったかな? まあ後でいくらでも教えてあげるよ。じゃねー! ……本当に仲直りしないでねー!」

 

 そう言うと笛吹はその場で軽い音と共に跳躍する。

 軽々と塀を越え屋根に飛び乗った笛吹は、レジ袋を持った手を大きくセナノに振ると、屋根から屋根へと飛び移ってすぐに暗闇の中へと消えて行った。

 

「……っ」

「――大丈夫か!」

 

 間もなく、セナノのすぐ傍に轟音と共にアスファルトを裂きながら影が降り立つ。

 それは拳を異縁存在の血で染めたネネであった。

 

「師匠……」

「セナノ、どうしたの。怪我でもした?」

「いえ。ただ、笛吹と接触して」

「笛吹……! あいつ、やっぱりあそこでボコボコにするべきだった。よくよく考えれば殺さなければセーフなんだから、戦えばよかった。セナノ、笛吹はどっちに行ったの?」

 

 セナノは首を横に振り、ヒバリをそっと持ち上げる。

 地面に押し付けられていたように見えたが、手に取ってみると何も感じない。

 すぐさまヒバリは自分が飛べることを思い出したように翼を広げると、セナノの頭上を旋回し始めた。

 

「もう追いつきません。今は夜神楽の方を優先しましょう」

「そっか。……ちなみに、何かあったの?」

「いいえ、ただ挑発されました」

 

 セナノは困ったように笑みを浮かべる。

 そして、平然と嘘を口にした。

 

「東園ネネは話が通じなくてやばいね(笑)って」

「あいつ殺す」

 

 ほんの少しの真実を織り交ぜ、ささやかな仕返しを笛吹に用意してセナノは誤魔化すように先に歩き出す。

 

「それ以外には何か言っていた?」

「別に何も」

「本当に? 実は私のことを鍛えていないもやしっ子とかほざいてなかった? なら、ZONEごと壊すけど」

「言ってないのでやめてくださいね」

 

 いつものようなやり取りを心がけて、いつもの様な精神状態に努めて、そして彼女はエイの元へと向かった。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほう、そういうコンテンツですか……^^』

『ねえまたコンテンツどこかで観測してるでしょー!?』

 

 

 

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