【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第107話 終わる、暗夜

 オラ知ってるっぺよ。御空様が何か独り言をつぶやく時は良くないことが起きているときだっぺ。

 今までもそうなんだから絶対にそうだっぺよ!

 でもだからと言ってどうすることも出来ないっぺ。無力なオラは青空の下で畑を耕すしかないっぺ。今年も丸々と肥えたコンテンツが実を付けたっぺねぇ!

 

『エイ、残念ながらガラスズタズタ大作戦は中止です!』

『それは本当に良かった』

 

 いつの間にかおぞましい名前付いてるんだけど、セナノちゃんとの仲直りコンテンツに。

 あれって、腕を傷つけてそれをきっかけにみたいな話じゃなかった……?

 その作戦名だと俺、すんごい血まみれにならない?

 

『エイはコンテンツがなくなってよかったと思っているという事ですか?』

『すごく残念で今にも膝から崩れ落ちてしまいそうです。しかし私がこうして二本の足で立っているのはヨシノリ君を相手にコンテンツを生成するという矜持があるからに他なりません!』

『良い心掛けですね、感心感心。では、貴女の為に新しい天移キャンペーンを始めてあげましょう^^』

『わ、わぁい』

『コンテンツの裏にあるシールを集めて応募すると、空を纏えます^^ 人類では決して手の届かない空白という概念をいつでもそばで感じることが出来ますよ!』

『それって感じて良いの?』

『喜びなさい』

『やったぁ!』

 

 こんなに嬉しい事はないね!

 ソラはいっつも俺みたいな矮小な存在を気に掛けてお得なキャンペーンを用意してくれていて嬉しいなぁ!

 

『では、これよりそこの人間モドキの制止を振り切って外に出てください。そしてあの人間の元に駆け付けようとするのです』

『成程、それでエイという人間の精神の未熟さとセナノちゃんをどれだけ大切に思っているかをヨシノリ君に見せつけるって訳か』

『良い学習能力です。代わりにオソラキャンペーンに応募してあげます!』

 

 それ応募するの俺一人では……?

 

「……なあ、セナノさんとネネは大丈夫なのか?」

 

 丁度ヨシノリ君が俺にそう問いかけてきた。

 良いアシストだヨシノリ君。君にもキャンペーンに応募する権利を与えよう。

 

「大丈夫です。お姉ちゃん達はとっても強いですから……!」

「そ、そうか」

 

 僅かに震えた声が不安をヨシノリへと伝える。

 彼の目に映るエイという少女は、落ち着かせるために自分の中に不安を押し殺そうとしているように見えるだろう。

 俺はヨシノリ君へと無邪気な笑顔を取り繕うように笑った。

 ヨシノリ君、この笑顔は嘘なんだ。二重にな!

 

「前だって、悪い人たちをボッコボコにしたんですよ! 異縁存在を操る悪人だったんですが楽勝でした。私なんて出る幕もありません!」

「そうか」

 

 ヨシノリ君は俺の様子から何かを察したようだった。

 俺を気遣うように、静かに相槌を打つ。

 自分よりも焦っている年下の子を見て冷静さを取り戻したのだろうか。

 先ほどまで狼狽していたとは思えない彼は、落ち着いた声で言った。

 

「そんなに強いんだな。なら、安心だ」

「……はい。大丈夫です。この街は救われますし、ヨシノリ君のお母さんだってきっと」

「…………ああ、そうだな」

 

 ヨシノリ君は頷いた。

 その表情は晴れないが、俺の事を優先しているのだろう。

 彼はテーブルの上に置いてあった菓子袋をわざと音を立てて漁ると、その一つを取り出した。

 皆で食べられるスナック菓子だ。

 

「じゃあ、待っている間これ食っても良いかな? 安心したらお腹減っちゃってさ」

 

 俺も一緒に食べられるようにと気を使っての事だろう。

 

『寂しさ2割の笑顔』

『はい(従順)』

 

 俺は笑みと共に了承する。

 

「いいですよ」

「エイちゃんもこっちで食べよう」

「……はい」

 

 後はセナノちゃんとの楽しい思い出でも要所要所で差し込んでいけばコンテンツとしては仕上がるだろう。

 さて、じゃあお菓子を頂くとしましょうかね。楽しみだなぁ。

 

『エイ、待ってください。間もなく人間達が帰ってきます』

『あ、もう?』

『はい。なので、ここは一つ人間達を助けに行く未遂を起こしてください。この人間モドキに悟られ止められる形で』

『仰せのままに』

 

 一歩踏み出したところで俺は足を止める。

 気が付いて訝し気にしているヨシノリ君へと、俺は嘘だとすぐにばれそうな声を上げた。

 

「あ、ああ。そうでした、思い出しました!」

「どうかしたのか」

「実は二階にもっと美味しいお菓子を隠していたんです」

「お菓子……?」

「はいっ!」

 

 嘘を嘘であると匂わせ俺は頷く。

 

『ソラ、セナノちゃん達が戻ってくるまでの時間は』

『三分』

『了解!』

 

 提示された時間から逆算し、俺はすぐさまヨシノリ君にわざと引き留められるようにその部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 ヨシノリが感じたものは、危うさであった。

 自分とは違う世界で戦っており、知識や経験もあるのだろう。

 しかしその瞬間のエイという少女は、等身大の女の子にしか見えなかった。

 当たり前のことで悲しみ怒る、姉妹の事が大好きなただの女の子だ。

 

「待ってくれ」

「どうかしたんですか?」

 

 部屋を出ようとしたエイを呼び止める。

 彼女は少しだけ歩いた先で足を止め振り返った。

 相変わらずその顔は落ち着いている。しかし、それは幼い精神で必死に取り繕った嘘の落ち着きであった。

 

(よく考えればそうだよな。俺よりも小さいのに平気なわけがない)

 

 セナノ達が強いという事は事実なのだろう。

 しかしそれは同時に、エイがこうして見送る事も多かったことを意味する。

 足手まといにならないようにと保護対象の相手に回る彼女の動きは妙にこなれていた。これが初めてではない筈だ。

 

 そんな彼女が、自分に悟られる形で感情を知られている。

 ヨシノリはそれに直感的に異常を感じたのだ。

 

「……変な事を聞くようだけど、まさかセナノさん達の所に行こうとしてないよな?」

「……」

 

 エイは小さく目を見開く。

 しかしすぐに笑顔を浮かべた。

 

「何を言っているんですか。お菓子を取りに行くだけですよ。だからヨシノリさんはここで待っていてください。……すぐに戻ってきますから」

「待って!」

 

 制止の言葉を無視してエイが駆け出す。

 が、女子中学生に追いつくなどヨシノリにとっては簡単であった。

 廊下を出てすぐ、玄関にたどり着く前に彼女の手を握ることに成功したヨシノリは思い浮かんだ言葉を取り敢えず並べる。

 

「待ってくれ! 落ち着いてセナノさん達大丈夫だから!」

「っ、離してください」

 

 手を引っ張り何とか拘束から逃れようとするが、か弱い少女が抜け出せるはずもない。

 最初は抵抗をしていたが、やがて諦めたようにエイはその場に静かに立ち尽くした。

 

「……エイちゃん、お姉ちゃん達が心配なんでしょ」

 

 エイは俯いたまま頷く。

 

「ネネから聞いたよ。セナノさんと喧嘩をしたって」

「っ!」

「喧嘩したままお別れなんて想像したら、そりゃ怖くなるよな」

 

 脳裏に浮かぶ母の顔を必死に抑え込んでヨシノリは気丈に振る舞い笑って見せる。

 エイよりも数年長く生きている彼は、彼女よりも嘘をつくのが少しだけ得意だったようだ。

 自分の不安を全て笑顔の裏に隠し、ヨシノリはしゃがんでエイと顔を合わせる。

 

「守られるだけの俺が言うのも情けない話だけど、待っていようよ。絶対に帰ってくるから」

「……はい」

「ん、いい子だ」

 

 ヨシノリは手を伸ばし、 かつて自分が父親にそうされたように頭をゆっくりと撫でる。

 途中で無神経だったかと思い直したが、エイが抵抗せず静かに受け入れていたので、ヨシノリはそのままエイが落ち着くまで頭を撫でた。

 

 やがて、エイがポツリと呟く。

 

「……あの人は、いつも私を守るために傷ついてしまいます。強いから、自分はエリートだからって、無茶をするんです」

「……そっか」

「私、あの人に傷ついて欲しくありません。だから……もっと強くなりたい」

「ああ、きっとなれる」

 

 なんの根拠もない肯定。

 しかし、それが今は何よりも彼女に必要だったのかもしれない。

 

「いつか、絶対にあの人の役に立ちます。こうして守られる形じゃなくて、一緒に戦えるようになりたいんです……」

 

 ずっと思っていたことなのだろう。

 エイのその言葉は彼女のこれまでのどんな言葉よりも純粋で力強く聞こえた。

 

 少しでも不安を和らげようとヨシノリがその言葉に頷こうとしたその時である。

 

「――二人でなにをしているの?」

 

 声のする方を見れば、いつの間にか玄関が開け放たれセナノとネネが立っていた。

 二人共会話に必死で気が付かなかったようだ。

 ネネは相変わらずの仏頂面で靴を脱ぎ、平然と家の中に入る。まるで学校から今帰ったと言わんばかりの気軽さだ。

 対してセナノは何か言いたげにこちらを見たまま動こうとしない。

 

「今帰ったぞ。エイ、ヨシノリの保護ご苦労だった。それとヨシノリ」

 

 彼女はヨシノリを見て、顔に似合わぬピースサインを作る。

 

「お母さんは保護した」

 

 それが、この暗く凄惨な夜が終わる最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『わざと聞こえるタイミングで感情を吐露してみました』

『シェフを呼んでください(おててパチパチ)』

『コンテンツを格式高い料理だと思ってる?』

 

 

 

 

 

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