【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
師匠からなんかすっげえクレジットカード預かったんだけど、これって何でも買える奴じゃない?
『おお、いいですね^^』
お菓子とかたくさん買って食いしん坊アピールだ!
……いや、セナノちゃんとの喧嘩中なら食欲がない所を見せるべきだろうか。
『ちなみにソラは何か食べたいものってある?』
『何かに縋りつくことでしか生きていけない人間の歪んだ愛ですかね……。まだまだおかわり希望です』
『コンテンツの話ではないですねぇ』
というかどこかでもう食ってんのかよ。
まさかここと同時並行でコンテンツをジュルジュルしているのだろうか。
『他所様に迷惑かけるのだけは止めようね……』
『これは祝福ですよ』
『なら安心かぁ』
こんな澄んだ青空が悪い事をする訳ないもんな!
青空は不吉の象徴じゃないしね!
俺のこの止まらねえ汗だって、暑さが原因だろう。
『ちなみにエイはうっかりさんなので忘れていると思いますが、今の貴方は男ですからね』
『え? あれ……周期的には女の子じゃなかったっけ?』
『数え間違えたんですよ。おっちょこちょいですね』
『……あれ、そうだったかぁ。いけないいけない。気が抜けていたみたいだよ、ありがとうソラ』
『いえいえ、相棒兼監督兼守護神としていつでもコンテンツをサポートしますよ!』
守護神にしては少し私情を挟みすぎな気もするけどなぁ。
相変わらずソラはもう手遅れだ。
そのうち興奮すると空がゲーミングお空になるようになってしまったらどうしよう。
1680万色に光る空とか見上げて五分で気が狂っちまうよ。
『では私はグミが食べたいです。なんだかんだとアレが一番美味しいですね』
どうやら俺の知らないところでお気に入りのグミを見つけたらしい。
災主級があんまりコンビニに立ち寄っちゃ駄目なのでは、と思ったが俺は口にしなかった。命が惜しいから。
『おっけー』
俺はクレジットカードを持ちコンビニへと向かう。
さ、この場所ではどんなコンテンツが俺を拒否権無しで待っているのだろうか。
「――っ!?」
不意に眩暈がした。
その時脳裏に差し込まれるのは、この街を駆ける俺とセナノちゃんの姿。そして……誰だこの青年!?
一見してパッとしないこげ茶短髪の青年はどこの村の奴だっぺ!?
澄目村は怪しい余所者には厳しいっぺよ! 万が一にでも霊峰に許可なく踏み入ったなら御空様の供物にするっぺ!(前例アリ)
『どうかしましたか?』
『ソラ、マズいよ! 俺達は既に異縁存在の攻撃を受けてるよっ! パッとしない青年を脳に刻む異縁存在だよ!』
『何を言っているんですか』
『こっちが聞きたいよぉ! とにかくおかしいんだ。俺の脳が、ぐるぐるに……!』
『おやおや、例えば?』
『さっき俺の脳に…………あれ?』
俺の見上げる空は相変わらず青さが際立っていた。
このまま両手を広げて空を受け入れればどこまでも高く沈んでいくだろうと、そんな確信があった。
ああ、すぐ傍で蝉時雨が響いている。
いや蝉時雨の中に俺が飛び込んだのだろうか。
夏そのものと一体となったような不思議な浮遊感と体を包む穏やかな倦怠感が、ゆっくりと脳へと這いあがっていき――。
『エイ』
『……ハッ!? 俺は一体何を』
気が付けば俺はコンビニの前で立ち尽くしているようだった。
危ない危ない。御空様にもっていかれる所だったっぺ。
『俺の事、天移しようとしてないですよね……?』
『まだシールが溜まってないので大丈夫ですよ!』
『なんかまた変なキャンペーン勝手に始めてない?』
『^^』
ソラは答えない。
こういう時、ソラは絶対に笑っている。
そしてソラが笑っているなら絶対にこれから面倒事が起きる。
俺はデータキャラなので、傾向と対策はばっちりである。
この後、上位存在によるコンテンツショーが待っている確率――99%。
俺が回避できる可能性――0%。
……負けないぞ!
『エイ、ちなみに頭の調子はどうですか?』
『えっシンプルな罵倒もコンテンツにした?』
『いえいえ、これだけ暑いと心配で』
ソラがそんなシンプルな心配をしてくれるなんて滅茶苦茶怖いぞ……。
これから何が起きるんだ……!?
『俺は大丈夫だよ。じゃあグミを買いに行こう。後は師匠とセナノちゃんのご飯も』
『わぁい^^』
何故か今は大人しいが……絶対に負けないぞ!
俺は油断しないからな!
『これで六回目ですか。だんだん勘が鋭くなってますねぇ』
何か不吉な独り言が聞こえた気がしたが、きっと蝉の声が俺を惑わせただけだろう。
そうに違いない。
■
ヤマモトヨシノリは、どこにでもいる高校二年生である。
スポーツや勉学に打ち込むことはなく、ただ日々を過ごしている彼はやはり休日と言っても何かすることはなかった。
「……コンビニ行ってこよ」
精々が、近所のコンビニで昼飯を買うくらいである。
ついでに漫画でも買えば、その休日は彼にとっては充実していたと言って良いだろう。
しかし、その日は違った。
「――やあ、こんにちは」
コンビニへと向かう道すがら、ガードレールにもたれかかった少女がコンビニのレジ袋を片手にこちらへと手を振っていた。
どこかで見たような、明日には忘れていそうな普遍的な容姿の女子高校生はヨシノリとまるで旧知の仲であるようにそのまま近づいてくる。
その間もヨシノリが逃げ出さなかったのは、彼の中にも青春に対する憧れがあったからなのだろう。
「あ、あの……俺達ってどこかで会ってましたか」
「ははは、口説き文句にしては弱気だなぁ」
少女は少し前屈みになってヨシノリを覗き込み笑う。
夏服の無防備な胸元につい目が吸い寄せられてしまったが、すぐに気を取り直してヨシノリは上を向く。
相変わらず、空は青い。
「敬語もいらないよ。私と君はこれから一蓮托生なんだから」
「え?」
「ちょっとごめんねー」
言うとほぼ同時に少女は右手を伸ばし、ヨシノリの頬へと添える。
瞬間彼の脳に流れ込んできたのは、いつかの凄惨な夜であった。
「……っ!?」
「どうかな、ヨシノリ君。思い出した?」
「…………こ、これは」
死が、絶望が、その夜が、彼の脳裏に再び刻み込まれる。
うんざりするような蝉の声も青空も今はまるで作り物のようにしか感じられない。
リアリティはあの夜にこそあったのだ。
「今の君の中にあるのは本当の記憶だよ。正確にはこれから起こる事だけど」
「これから? それって――」
「静かに」
ヨシノリの唇に指をあて、少女は空を見上げる。
青空の向こうに何かを探すように見つめ、それから瞳を閉じた。
「……うん、これはセーフだね。処分も必要なさそうだ」
「?」
「うん。色々と面倒事に巻き込まれていてね。……っと、ごめんごめん」
唇から指を外した少女は笑う。
無邪気で悪意を感じさせないその笑顔は、すぐにヨシノリの警戒心を打ち消した。
「私は春目ルウ。セナノちゃん達と同じ縁者だ」
「じゃあ、セナノさん達の仲間という事ですか?」
「うん。けど事情が込み入ってて……時間が無いから本題に入ろう」
青空の下、ヨシノリはこうして再び非日常との邂逅を果たす。
「この世界が異縁存在に侵されている。君の力が必要だ」
今回はレジ袋いっぱいのアイス付きだった。
『ほう、そう来ましたか。ここはお手並み拝見ですね(おててすりすり)』
『何を見てるの? もしかしてもうコンテンツが始まってるの?』
『ははは』
『肯定と見るぞ、その笑い』
『だとしたらなんですか? 私に勝てるとでも?』
『滅相もございません。全てのコンテンツは貴女様の為に』