【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
ルウと二人並んで夏の遊歩道を進む。
山の麓に作られた簡素で味気ないその道は、時折老人がすれ違うだけであった。
この日差しの中だと、木陰など大した意味をなさない為、そもそもこうして歩いているだけでも酔狂と言える。
しかしだからこそ、周りに聞かれない話をするならば案外ここは適していた。
尤も、青空の下という開放感から誰かに聞かれているような気はするのだが。
「――って事で、セナノちゃんの中にいる凄い神様が、ずっと仲直りをループしているんだ」
アイスを片手にルウは説明を終えた。
自分への褒美とばかりに彼女はアイスを口の中に放り込み、残った木の棒で空に浮かぶ雲をなぞる。
ちなみにこれで四本目だ。
「な、成程。わかったようなわからないような感じで「また敬語」……ごめん」
ルウに敬語を指摘され、ヨシノリは素直に頭を下げる。
こうして距離を縮められるとヨシノリとしては無駄に勘違いをしてしまうのでやめて欲しい所なのだが当の本人はその事に気が付いていないように満足そうに笑っていた。
「まー、縁者じゃない人が突然そんな事を言われても、困惑するよねー。何か質問ある? 私がなんでも答えちゃう」
「え、えぇっと……じゃあ、まず一つ」
「はい、どうぞヨシノリ君!」
未開封のアイスキャンディーを突き出されヨシノリは戸惑う。
すると更に押し付けられた為、彼は短く礼を言って受け取ると問いかけた。
「なんで俺なんだ。ルウってネネ達の仲間なんだよな? だったら、直接言えば良いだろ。それが無理なら、ネネにでも頼めば首根っこを掴んででも引き離してくれるぞ」
「へっへーん、聞かれると思ってたよそれ! 予想通りだね!」
じゃあ先に説明しておくべきでは? と思ったがヨシノリは口に出さない。
代わりに言葉を飲み込むように彼はアイスキャンディーを口にする。
「私は途中でループに気が付いて先に神様と戦ったんだけど、勝てなかった! ……あ、負けた訳じゃないよ? 引き分けだからね! で、目を付けられて私の行動は注意深く監視されているって訳」
「監視?」
辺りを見渡すが、それらしいものはない。
あるのは青々とした街路樹と塗装の禿げたベンチだけである。
「あっはははは、大丈夫大丈夫。セナノちゃんの神様はそこまで目が良い訳じゃないから。……ただ、彼女達の近くに行くとバレちゃう。そうすると、問答無用で最初からやり直しなの。電話も手紙も駄目だった。もう私だけじゃ打つ手なし。ループしている間は外にも出られないから他の縁者に助けを求める事もできない」
「だから俺か」
「そう!」
ルウは新しいアイスを取り出して頷く。
「幼馴染だから彼女達への発言力もその辺のモブよりはあって、尚且つ神様に警戒されない。こんなに適した人材は中々いないよ?」
「うーん、丁度良い所にいたから利用されている感じがするな……」
「はははっ、確かに否定はしないよ。縁者は本来、一般人を巻き込んじゃいけない。でもこれはしょうがないよぉ。一応、謝礼も出るからさ」
「……どれくらいか聞いても良い?」
「卒業までバイトしなくても良いくらいには。三桁万円は約束しよう! わははー!」
「おぉ!」
幼馴染の姉が起こした事件だという事もあるが、明確な報酬を提示されたことでヨシノリは完全にやる気になっていた。
一夏の不思議な体験にプラスして現金報酬。
男子高校生である彼が食いつかないわけがない。
「なんだか、やる気が出てきた!」
「おおそれは良かった! じゃあ、質問があればさらにどうぞ!」
「えーっと……仲直りするとループするのはわかったが、神様は何を考えてそんな事をしているんだ?」
「ここで報酬への深掘りとかじゃなく、真面目に質問するの凄いな君。……神様はね、幼子みたいなものなんだよ」
「幼子?」
意外な答えだった。
ヨシノリの想像する神は、どれも恐ろしく、そして敬うべき全能である。
だからこそこの仲直りでのループにも壮大な理由があると勝手に想像していたのだ。
「親が喜んでくれたことを繰り返す子供。セナノちゃんさ、エイちゃんと仲直りした時にすっごく嬉しかったんだろうね、神様にもわかるくらいに。だから、神様はその嬉しい気持ちを何度も味わえたら良いだろうなって気を利かせちゃったんだ」
「…………えぇ」
「ね、マジドン引きだよね(笑)」
「巻き込まれているとは思えない他人事感だな」
実際どこか楽しんでいるのだろう。
ルウの言葉には緊迫感がなかった。
まるで隣のクラスで起きた面白い出来事でも話すように、彼女はこの壮大な世界の繰り返しを説明している。
「もうこうなったら、楽しむしかないしね。それにセナノちゃん達を殺すわけじゃない。ただ仲直りの時期をずらしてあげれば良いだけだし」
「そうなのか?」
「そうそう。神様とは言っても全知全能じゃない。限られた時間、決まった場所、そういう条件が全て揃っている場所でだけループは成立する。だから私たちのやる事は至ってシンプル、明日まで彼女達の喧嘩も仲直りも曖昧にすれば良いんだ」
「仲直りをせずに明日を迎えればループから解放されるって事か」
「そう!」
ルウは頷き、褒美と言わんばかりにアイスキャンディーを渡す。
彼はまだ食べ終えていないので、当然両手に持つことになった。
(自分は高そうなアイスで、俺のは箱で買えるお徳用なんだ……)
タダで貰っている時点で文句は言えないし感謝もしているのだが、何故だが釈然としなかった。
「で、結局俺はどうやって協力すればいいんだ。俺がネネに事情を伝えようか?」
「それも悪くはないんだけど、最終手段かなぁ。これでヨシノリ君まで私みたいにあの三姉妹に干渉できなくなると嫌だし」
「成程。じゃあどうする」
「ふふふ……この天才縁者、春目ルウは一つ良い事を考えましたー」
ルウはそう言って不敵に笑う。
縁者の作戦と聞いてなんとなく格好良いものを想像していたヨシノリだったが、次に放たれた言葉は彼の思考を停止させた。
「君、ネネに告白しなよ」
「………………????」
「全てを曖昧にするなら、もっとデケえモンぶつけんだよ!」
「俺が?」
「うん」
「あいつに?」
「うん!」
「告白するの?」
「うんっ!」
「馬鹿なのか!?」
「でもでも、これならセナノちゃんもエイちゃんも喧嘩どころじゃなくなるよ? 三姉妹のよくある喧嘩よりも、もっと面白そうなイベントじゃん」
「いやいや勘弁してくれよ……他にももっと別の方法も……ん?」
会話の中でヨシノリはふと気が付く。
(三姉妹での喧嘩なんて別に今までもあった筈だろ。それなのに、今回の仲直りだけで異常なまでに喜ぶものか? 神様が感知するぐらいに?)
それは果たして本当にただの喧嘩なのだろうか。
そこに燻るものこそ解決するべきではないかと、彼は告白を回避したいがために考える。
が、彼の頬に走った冷たい感触に思考は途切れた。
「ひぁっ!?」
「あっはははは、女の子みたーい。今の、ネネに送ってやろー」
「絶対にやめてね!? というか、本当に告白するの!?」
「うん。そうすれば解決するし、ネネを揶揄う事も……じゃなかった、これが縁者として一番ベストな方法なのです!」
「そうかなぁ……」
釈然としないが、ヨシノリは彼女の勢いに飲まれて渋々と受け入れる事にした。
一応は専門家なので、間違ってはいないのだろう。
「ほら、そうと決まれば即行動だよ。早くしないと、海の方に遅れちゃうんだ!」
「海……?」
「そう。私ってば引っ張りだこでさ、海の方にも仕事があるんだよ。潮哭きに間に合わないよー!」
聞きなれない言葉に興味を持ったヨシノリだったが、すぐに自分にとって重要なのは何かを思い出す。
「告白か……マジで告白するのか……なんか、思ってた世界の救い方じゃないな……」
「頑張れ! 青春だろ!」
「こんなに外野の事情が絡む告白は青春じゃないよ」
ヨシノリの真っ当な意見は、からっとした笑いの元に吹き飛ばされた。
青空の下でルウの笑い声だけが響いている。
少なくとも、ヨシノリには笑える状況ではなかった。
『ほう……そう来ますか。良いでしょう、ではこちらも受けて立ちましょう』
『何が来たの? ねえ何を受けて立つの? ねえ――』