【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
ギージギジギジ!
男子高校生の恋路を近場で眺めるのは楽しいギジねぇ!
『キャッキャッ』
ご満悦な我らが神は屋根の上で足をパタパタしながらこちらを見下ろしている。
時刻は間もなく午後二時。いつもならセナノちゃんの隣でうとうとお昼寝タイムという名のコンテンツを捧げる時間なのだが、今日は違った。
何故なら、ヤマモトヨシノリとかいうNPCで遊ぶからである。
「きょ、今日は天気いいな」
「そうだな。暑い、用件は早く言え」
「あっ、悪い」
ヨシノリ君は俺と共に家を訪れていた。
蒸し暑い玄関先で向かい合って立つ師匠とヨシノリ、そして少し離れて庭から観察する俺とセナノちゃん。
今まさに青春が始まろうとしているのだから、特等席で見させてもらうとしよう。
「じ、実はな」
彼の目当ては勿論、ネネお姉ちゃんこと師匠である。
どうやら彼は師匠の事が好きみたいで、会う口実を考えていたみたいだ。
俺には課題がどうのとか言っていたが……へへっ若人よその割に手ぶらなのは一体どういう事かな^^?
嘘をつくならバレないように用意周到かつ緻密かつ柔軟に言葉を選ばなきゃ。上位存在を相手に欺き続けている俺からのアドバイスだぜ!
『……^^』
あれあれぇ!?
これじゃあまるで俺もヨシノリ君のコンテンツで遊んでいるみたいだぁ!
ま、たまにはいいよね! 俺だって誰かを掌の上で弄びたいし!
『エイ』
『は、はい』
『楽しいですね^^』
『……! はい! なんだか楽しいよ!』
『エイが可愛くて私も楽しいですよ^^』
村の民の喜ぶ姿を見て楽しむだなんて、やっぱり御空様は善神だったんだなぁ。
村の皆でこれからも毎日お供えするっぺ!
山の開発を強引に進める余所者や遊び半分で村の伝統を覗きに来る若者グループを捧げるっぺ。そして全員、もれなく御空様によってTSしてコンテンツ送りっぺよ!
「そ、その……ネネ」
「なんだ」
「少し、歩いて話さないか」
「暑いと言ったのが聞こえていないのか?」
「……そっちの方が鍛えられると思うんだ」
「わかっ……いや、少し待て」
ヨシノリ君は師匠の扱い方を心得ているようだった。
確かにあの人は鍛える事に対して並々ならぬ執着があるもんな……。
ZONEのNPCって凄いなぁ、この辺もしっかり考慮して動いてんのか。
もう人間と変わらないね。ちょっと疑ってしまう程には動作や言動に生命が宿りすぎている。
『ソラ、アレで本当にNPCなの?』
『はい。ZONEのNPCですよ。と言っても私から見れば人間と大差ないですけれどね。気に入ったら、人間にして持ち帰りますか?』
『ペットとは訳が違うだろ』
『? ですが、愛玩目的なら人間と変わりませんよね?』
『せっかくソラと同じ目線で楽しんでいると思ったのに急にアクセル踏まないで』
ヨシノリ君を掌に乗せて二人でケタケタ笑っているつもりだったのが、ヨシノリ君を掌に乗せた俺をさらに掌に乗せているのがソラなのかもしれない。
この辺は深く考えると精神衛生にあまりよろしくないのでやめておこう。
今は目の前のご馳走を堪能しないとね!
「二人に少し相談してくる。実はちょっとした予定があってな」
「悪い」
「構わん。そこで待っていろ」
師匠はそう言って庭の俺達へと近づいてきた。
「あ、こっち来ましたよ」
「ずっと眉間に皺が寄ってるわね」
こっそり覗いていた俺達へとずんずんとまっすぐに向かってきた師匠はそのまま眉間に皺を寄せた顔で言った。
「異変が起こっている……!」
「そうなんですか?」
渋い顔で師匠は頷く。
「ああ。間違いない。私達から声を掛け設定を植え付けない限り、彼らが自動で動くことはない。つまりこうして家に来るわけがないのだ」
「何か心当たりは? 以前に来た時に何か設定を植え付けてそのままだったとか」
「ふむ、前に来た時は確か……あ」
セナノちゃんの問いに師匠はハッと顔を上げる。
「夜神楽があまりにも退屈だったから、町人全員が私の命を狙っている設定にしたな。その時の名残かもしれない」
この人やばぁ。
「まずいじゃないですか!?」
「へぇ、師匠ってそうやって鍛えているんですねぇ」
「ああ!」
「変な事を教えないでください! ……で、それならあのヨシノリとかいう人間がここに来たのは、師匠を殺す為って事ですか?」
「どうだろうな。その時の設定の一部が残っていただけかもしれない。私に積極的にコンタクトを取る……と言った風にな」
「少し楽観的では? 警戒して断るべきです」
セナノちゃんの真っ当な意見に師匠はしょんぼりとする。
仏頂面なのに、何故だが感情がわかりやすい人だ。
「だが、奴は鍛えると言っていた……。鍛える人間に悪い奴はいない。というか、炎天下で会話をするのも良く鍛えられそうだ」
「熱中症になるだけですよ」
「大丈夫だ。私はどんな環境でも生きられるように鍛えている。だからこの青空の下での会話など、私からすれば軽いジョギング程度だ。と、言う訳で……私は今から彼と話をしてこようと思う。唯一の心配事は、私は女子高校生としてはまだ鍛えていないので、会話を続けるとボロが出るかもしれないという事だ」
確かにどちらかと言えば異縁存在のような図体をしている師匠が女子高校生という時点で無理がある。
おまけに口調も野武士みたいだし……本当にこれで良く女子高校生で申請を通したな。上は何をやってんだ。
「なんの心配ですかそれ」
「どちらか、女子高校生あるあるを私にくれ」
「朝起きたら性別変わりがち!」
「ありがとう、行ってくる」
「変なあるある持ってかないでくださいよ!? ……あぁっ、行っちゃった」
俺からのあるあるを授かって師匠は颯爽と去っていった。
その背中は大きくたくましく、頼りがいがある。
師匠……ヨシノリ君との恋路でどうか俺を楽しませてくださいね……!
「――待たせたな、ヨシノリ」
「ああ。二人は?」
「快く送り出してくれた。行こう。このまま町を一周しても構わん」
「行脚する気はねえよ……」
二人はまるで旧知の仲のように言葉を交わしながら家を後にする。
二人が去った後、蝉の声を頭上に受けながら俺とセナノちゃんは顔を見合わせた。
「心配ね」
「師匠がですか?」
「ヨシノリの方よ。師匠とうっかり握手でもして木っ端みじんになったら流石に可哀そうだわ」
「じゃあ、追うんですか?」
「……いえ、夜神楽に向けて準備をするわ」
セナノちゃんはそう言って家の中へと入っていく。
その背中へと少しだけしょんぼりとした声色で言葉を投げかけた。
「私は、その……気になります」
「そう」
いつもなら、ため息をつきながら同行してくれるのだろう。
しかし今のセナノちゃんは俺との距離を測りかねている。
淡白な返事の後、彼女は手をひらひらと振ってこう続けた。
「車に気を付けて、周りに迷惑かけないようにしなさい」
「セナノさんは来てくれないんですか?」
「私はヒバリの手入れがあるからね。ほら、早く行かないと師匠を見失うわよ」
「……はい、わかりました」
コンテンツノルマをクリアしつつ、俺は一度頭を下げて玄関から飛び出した。
コンクリートを叩く足は軽く、タタタという軽快な音が控えめに響く。
『さ、楽しもう!』
『ふふふ、私はもう楽しんでますよ^^』
流石、御空様!
■
足音が小さくなっていくのを、セナノは耳でしっかりと聞き取っていた。
まるで先ほどの会話の空気から逃げ出すようなエイの足音は、セナノを責め立てるように鼓膜に何度も反響している。
「……馬鹿ね」
それは師匠とヨシノリのやり取りを覗こうとしているエイへの言葉か。
それとも守ると言っておきながら、突き放すような言葉を向けた自分だろうか。
エイの存在は日に日に彼女の中でその大きさを増しており、彼女が絡むと正常な判断能力が失われることもしばしばあった。
が、彼女にはそれを自分で解決することはできない。
もっと単純な形にするならばそれは、友達との仲直りの仕方がわからないという事だった。
何故なら縁者を目指してから今に至るまで彼女の隣を歩こうとした人間はいないのだから。
「…………本当、子供みたい。何やってんのよ私は」
セナノは自分の気持ちを無理矢理抑え込んで、振り返る。
今更ながら彼女もエイを追うようだ。
が、彼女が次に目にしたのはいつの間にか玄関に立っていた少女の姿だった。
「――笛吹!?」
どこにでもいる普遍的な少女は、いつの間にか扉を開けこちらを見て笑っている。
笛吹は手を振りながら、玄関の向こうにある陽の当たる世界を背にして言った。
「今日ぶりだね。じゃ、今度こそ邪魔されずにお話といこうか」
何故だが蝉の声がはっきりと聞こえる。
それはまるで自分だけが笛吹と共にこの場所に取り残されたことをあざ笑っているかのようだった。
『……あれ、おかしいな。セナノちゃんならこの辺で付いてくると思ったのに』
『おやおやエイもたまには間違うんですねぇ。でも許しちゃいます』
『わぁい! ありがとう監督!』