【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第116話 潮招く、影

 男子高校生の春の訪れを俺は今、この目で目撃していた。

 夏だけどね! あっちぃあっちぃ夏だけど!

 春の風、来てます。彼の胸に灼熱の春一番、吹いてます!

 

「で、付き合ったら何をするんだ」

「え」

「お前は私と付き合いたいと言った。私は了承した。その後は?」

「え、ええっと」

 

 ヨシノリ君の目が泳ぎ出す。

 なんだこいつ、せっかく師匠と付き合えたというのに、何も考えていなかったのか。

 

『ソラ、こういう時のイベントってどんなのが好き?』

『私はせっかく付き合えたと思ったのに残酷に死に別れるのが好きですね』

『ソラ、こういう時のイベントってどんなのが好き? (二回行動)』

『私は自身の愛の重さが相手を傷つけないようにと自制し続けていたけれど、ある時を境に抑えが効かなくなり、傷つけずに守ろうとしていた存在を自らが一番傷つけて汚してしまうのが好きですね(追撃)』

『今のイベントだって言ってんだろ』

 

 なんで監督の理想のシチュエーション聞かされてんだよ。

 そして理想のシチュエーションもだいぶ恐ろしいね、君。

 同じ立場でケラケラ笑っていると思ったけど、全然違ったよ。

 俺、今まですっごく楽しくてワクワクしていたのに、スンってなっちゃった。

 

『まあ、暑いし家に帰れば良いのではないでしょうか? このまま灼熱の中を歩くのはイベントとしては不自然ですよ。こういう細かなノイズがプレイヤーの没入感を阻害するんです!』

『ヨシノリ君の恋愛をゲームにしようとしてる?』

『シナリオ上では傷ついているのに立ち絵で傷が無かったら「うーん」って思うでしょう? それと同じです。家に引きこもりたくなる程の炎天下での初デートなんておかしいですよ』

『……ソラ、ギャルゲとかした?』

『はい! OSR-7090Hyperを搭載した特別製のゲーミングPCです!』

 

 変なグラボ積んでるなぁ。

 

『ちなみに余った異縁存在をくっつけて作ったので、残留意思もあります。実質AIですね』

 

 PC型の異縁存在作ったって事……?

 しかもそれでゲームしてるの? 大丈夫かよそれ。オンラインで何か良からぬものが拡散したりしない? 呪いとか。

 

『話が逸れましたね。私はお家に帰ることをお勧めします。そしてこのデータを家に閉じ込めて、後は煮るなりコンテンツなり好きにしましょう』

『確かにセナノちゃんにも報告しないとな』

 

 よし、であればこの恋のキューピット(異縁存在)が助言してあげよう。

 

「二人共、外は暑いですし一度家に戻りませんか? そこで改めて二人の今後など……ね?」

「ふ、二人の今後ぉ!?」

「今後……そうだな。二人になれば特訓メニューにも幅が出る」

「ネネ?」

「よし、帰るぞヨシノリ。まずは汗を流しながら語らい合おうじゃないか」

「ジムに行くんじゃないんだよな? ……あっ、担がなくても自分で歩けます……」

 

 流れるような動作で担がれたヨシノリ君は、しょんぼりとした顔でそう告げた。

 師匠は「そうか」とだけ言ってヨシノリを降ろす。

 彼女はヨシノリを一瞥してそのまま何も言わずに歩き出した。手を掴んで引き摺らないだけまだマシだろう。

 

 少しだけ師匠が進んだところで、ヨシノリ君が俺にこっそりと耳打ちをしてきた。

 

「なあネネって俺の事、子供だと思ってる?」

「あの人は誰にでもああですよ。恐らく、彼氏でも」

「そうなんだ……」

 

 複雑そうな表情のまま、ヨシノリ君は師匠の後を追って駆け出した。

 それを背後から眺めていると、自然と手を後ろで組んで感嘆の声を漏らしてしまう。

 巨女×男子高校生ですか……。

 

 まるで美術品を鑑賞しているような気持になりながら俺もゆっくりと後を追う。

 なんて平和で素晴らしい時間なんだ。

 こんな時間がずっと続けばよいのになぁ。

 

 

 

 

 

 

 S階位と災主級疑似媒介体がデータとの恋愛ごっこに挑もうとしているその時、ZONEの外では慌ただしく人々が動いていた。

 

 特に縁理庁の災主級を観測することを主にした『特異災害指令室』は今、ここ数年で一番と言って良い程に書類と人々の怒号や叫び声が飛び交っている。

 理由は間もなく訪れるとされている夜神楽、そして――。

 

「SKY-9の演算結果はどうだ!」

 

 室長の証である緋色のネームプレートを右胸につけた小太りの男が叫ぶ。

 それはあちこちから飛び交う声にかき消されそうになったが、幸いにもオペレーターの一人が気が付き反応した。

 

「駄目です! やはり何度やっても大規模な海溝の移動と海流の複雑化が48時間後に発生します。このままでは■■県沖にマリアナ海溝と同等の海溝が……!」

「チィッ! 空澱大人だけでも十分だってのに、夜神楽に続き今度は想定外の潮哭きだと!? 頼むよ神様、まだ潮哭き用の住人は刑務所から仕入れていないんだ……!」

「室長、やはり東園縁者はZONEに一週間前に入ったきり応答しないそうです! 同じく同行していた三鎌縁者と災主級疑似媒介体も!」

「よりによって対抗できそうな存在が二人もZONEに……!」

「……応答がないという事は、まさかZONE内でも何か起きているのでしょうか」

 

 オペレーターの不安は、今現状起きている滅亡の兆しにより加速していく。

 本来であれば気にしないであろう一週間程度の音信不通も今は『もしも』の想定をして余計に感情を掻き立てられていた。

 対して室長はそんな彼女へと見せつけるようにわざとらしく鼻で笑う。

 

「ふっ、ネネは特訓馬鹿だからな。前に屋久島に行ったときは一か月は籠って連絡も寄こさなかったじゃないか。今回もそれだ。……アレが死んでいるなら、誰が行っても死ぬだろうよ。大丈夫、いつもの事だ」

 

 オペレーターを落ち着けるようにそう言って、室長は『それよりも』と言葉を続ける。

 今考えるべきは最も効果的なその場しのぎの方法だった。

 

「今日本にいるS階位で動ける者は何人いる」

「今ですと一人、待機中のS階位縁者がいます」

「誰だ」

八方塞(はっぽうとりで)縁者です」

「……パンデミックを抑えるために市街地へクラスター爆弾を使うようなものだが、やむを得ないか」

 

 室長に求められる資質は多くあれど、最も必要なのは人間を数として見る事であった。

 例え一つ一つがかけがえのない命だったとしても、必要とあれば斬り捨てる。

 

「わかった」

 

 悩んだ時間は僅か数秒。

 それだけで室長は世界を救う方を己の命令という形で選び取った。

 

「八方塞に連絡しろ。……それと、胎児とへその緒を確保しておけ」

「胎児とへその緒ですか?」

「零課に聞けばわかる。お得意先があるらしいからな」

 

 その言葉に乗せられた疲労は、今までの緊急事態に対応していたが故か。

 それともこれから起こる大惨事を想像しているからだろうか。

 

「……ハッカイだけは使わずに穏便に済ませてくれることを願うばかりだな」

 

 願うような声はすぐさま周りの声にかき消された。

 

 

 

 

【緊急申請書類|S階位特別派遣用】

 

書類番号 EN-HPT-8888

 

提出日 令和██年■月██日

 

提出者 はっちゃんのカワイイ彼女♥

 

受理部門 縁理庁特異災害指令室

 

 

■ 任務区分

 

・災主級および、災主級疑似媒介体と思われる個体の捕獲。

 潮哭きによる民間人の集団的海洋献身が既に■■海岸で確認されている為、保護ではなく現場の鎮圧を最優先とする。

 

 

■ 派遣対象者情報

 

氏名 八方塞(はっぽうとりで)

 

所属 鎮縁課第零戦術班

 

階級 S階位

 

 

■ 対象異縁存在情報

 

異縁名 潮哭ノ巫女(推定)

 

危険等級 災主級

 

発生場所 ■■県■■市■■■海岸

 

異常概要 海溝の大規模な移動/民間人の精神汚染他

 

現場状況 避難を指揮していた現地縁者との連携は不可能と断定。周辺区域を地盤沈下と土砂崩れを理由に封鎖。

 

 

 

■ 使用階層

 

 対災主級を想定した従来通りの鎮縁を不可能と判断。

 メゾンド・ハッカイの使用を申請。

 なお、15歳以下の子供と女性はハッカイ使用予定地から半径5キロ圏外へ避難誘導済み。残ってる民間人については全員が男性かつ16歳以上とし、ハッカイでの死亡はないものとする。

 

 

 

■ 備考

 

 これはあくまで現場の鎮圧が最優先であり、ZONEからA-E1及び東園ネネが帰還した場合は即刻任務を引き継ぐことに留意。

 

 

 

 

 ようするに、しゃあなしで手伝ってやるだけだよ。

 はっちゃんが報告書面倒だって言うから代わりに書いたけど、助けてって言ってきたのはそっちなのに提出させるとか何様なの?

 後で全員分の上質なへその緒を頂戴。そうすれば許してあげるから。胎児もあるとBERRY HAPPY……。

 ↑

 これははっちゃんに内緒ね!

 

 

 

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