【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第117話 終わる輪廻

 この作られた炎天下の中、俺達はややぐったりとして家に到着した。

 正確にはぐったりしているのは俺とヨシノリ君だけであり、師匠は顔色一つ変えていないし、汗も僅かににじむ程度である。

 ……そう言えば、前に助けに来た時も夏とは思えない格好していたな。

 データ人間と災主級疑似媒介体よりも遥かに優れた身体を有しているのか……!?

 そんな……俺がただの人間に負けるだと……!?

 

『ソラ、俺悔しいよ』

『急に何ですか』

 

 珍しくソラが困惑したような声を上げていた。

 まさか俺がこの子にコンテンツ力で勝る時が来たのか……!?

 

『疑似媒介体としてこの程度の暑さに負けない人外パワーが欲しいと思ってさ』

『ですが、それでは比較が出来なくなってしまいます』

『比較?』

『私の力に侵食された貴女が徐々に人間としての機能を失っていく演出をするためには今の貴女は必要なのですよ』

『理路整然と上回って来るとはなぁ』

 

 どうやら俺は今後、暑さを感じる権利すら剥奪されるらしい。

 やれやれ、御空様の自由っぷりには困るっぺね。

 

『少しずつ、人間を卒業していきましょうね』

『卒業って小刻みに来るんだなぁ』

 

 味覚と視覚と聴覚は最後まで残してくれると嬉しいっぺねぇ(強欲)。

 

「やっと着いた……暑いな、やっぱり」

「そうですねぇ……ネネお姉ちゃんは平気そうですけど、大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。かつて、地獄の淵をランニングした事がある。あの時は良かった。……もっと身をすりおろし焦がすような苦痛の中で己を鍛えることが出来たのだから」

「ははは、どれだけキツい部活に助っ人行ったんだよ」

 

 いやそれきっと本当だよヨシノリ君……。

 君の彼女は恐らく人間の中でもトップクラスの激ヤバ戦闘能力と身体スペックを有している。

 スペック表は特撮ヒーローのそれだぞ。

 

「まあお前らがこの暑さになれる特訓は後でするとして――むっ」

 

 何かに気が付いたように師匠は扉へと手を伸ばしたまま立ち止まる。

 その眉間に寄る皺から妙に嫌な予感がひしひしと伝わってきたのだが、俺は無垢に問いかけるしかなかった。

 

「どうしたんですかネネお姉ちゃん」

「何か嫌なものが入り込んだな。急ぐぞ!」

 

 そう言って師匠は扉を開ける時間も惜しいと言わんばかりに扉を蹴り倒して家の中へと消えて行く。

 俺とヨシノリ君はその光景に口を開けたまま呆然とする他なかった。

 

「えぇ……」

「俺、これからあいつと付き合えるかな……体鍛えないと……」

 

 俺たち二人を傍観者から当事者へと引き摺り戻したのは、廊下の奥から聞こえてきた驚きの声だった。

 

「――うわっ、な、なっ何!?」

「あ、セナノお姉ちゃんの声です」

「そりゃ驚くだろ」

 

 師匠とは違い、俺達はきちんと玄関で靴を脱いで家の中へと上がる。

 そしてリビングへとたどり着いた時、入れ違いで師匠が出てきた。

 その手には自分の靴が握られている。靴もデカいっすね……。

 

「セナノに土足は駄目だって怒られた……」

「でしょうねぇ」

「だろうなぁ」

 

 あと、たぶん扉をぶっ壊したのもバレたら怒られると思う。

 

「もう、一体なんなのよ……あ、エイも帰って来たのね」

「はい、ただいま戻りました」

「外は暑かったでしょう。アイスキャンディーがあるから、食べるといいわ」

 

 セナノちゃんは俺の事をちょいちょいと手招きする。

 その手にはとても魅力的な赤いアイスキャンディーが。

 

「わぁ! いいんですか!? そうなんですよ、外が暑くって……! いくらヨシノリさんがネネお姉ちゃんに告白するシーンを見る為とは言え、ヘトヘトです」

「ちょ、エイちゃんまだ言うのは心の準備が――」

 

 ヨシノリ君の言葉を無視して、俺はセナノちゃんに駆け寄る。

 そしてその手にあったアイスキャンディーを受け取った。

 

「言っておくけど、食べ過ぎは駄目よ?」

「はい!」

 

 俺は笑顔と共に包装を裂く。

 ここでのポイントは、力任せに開けることだ。

 こうすることでエイのクソガキ感も演出できるのである。

 

 ……が、それにしても妙だな。

 セナノちゃんが普通に俺と接しているだと……?

 

『ソラ、セナノちゃんがおかしい。俺にアイスキャンディーをくれたんだ。今まで通りに』

『良い事なのでは?』

『確かに良い事ではあるんだけど、俺のセナノちゃんシミュレーターver1.04ではこんな結果は算出されていない。俺の事を気遣いながらも素直になれないセナノちゃんは、この場を去る筈だ。少なくとも俺がアイスキャンディーを頬張る姿を見てほほ笑むはずがない! 誰だ貴様!』

『ほう……エイも中々に良い目を持つようになりましたね。ならこの状況をどう見ますか』

『……わかりません!』

『うーん、赤点』

『だって今までは俺の予測通りに動いていたし、演技で完璧に誘導できていたのに。急に予測できなくなったんだよぉ!』

『なるほど、コンテンツ感覚派に多い悩みと聞きます』

『その言い方だと理屈とかロジカルの派閥もある……?』

『私がそうですが』

『?』

『?』

 

 ここを深堀するとそれはそれで面倒だから一旦放置だ!

 ともかく、セナノちゃんの何かがおかしいのはわかるけど、それ以上はわからないよぉ!

 クソッ、こうなったら直接聞くしかねえよ。

 無垢な美少女♂の演技でセナノちゃんの心をつまびらかにしてみせよう……!

 

「セナノお姉ちゃん……その、怒ってないですか」

 

 恐る恐る下から見上げるように彼女の機嫌を窺う。

 少し前までは手に取る様にわかっていたというのに、今はセナノちゃんの心が見えない。

 端的に言ってちょっと怖いぞ!

 

「怒る……ねぇ」

 

 セナノちゃんは俺の頭を撫で、優しく笑う。

 それはあまりにもいつも通りの笑顔だった。

 

「ごめんなさい、エイ。一人になって少し考える時間が出来てね……このままじゃ駄目だと思ったのよ」

 

 存外立派な理由だった。

 てっきりコンテンツとしてまた変な仕掛けがされているのではないかと思ったのだが、普通にセナノちゃんが人間として出来ているだけだ。疑ってごめんよぉ!

 

「だから、仲直りしましょう」

「なっ……!?」

「はいっ!」

 

 ヨシノリ君は俺達が喧嘩をしていたことに何故か驚いた様子で顔を引きつらせている。

 何故驚くんだい? 彼女は真面目に仲直りを提案しているよ?

 

 

 

 

 

 

 ヨシノリの反応を見た瞬間、セナノはすぐさまそれが自分側の存在であることを理解した。

 

(アレが、笛吹の言っていた協力者ね)

 

 ネネ達が帰ってくる数分前、笛吹とセナノは既に作戦を共有し終えていた。

 その中で何度か笛吹が口にしていた現地の協力者。

 ZONEという紛い物で構成された世界での現地協力者とはどういう訳かと悩んだセナノだったが、ヨシノリを見れば納得がいく。

 

(きっと師匠を引き離したのも作戦の一つね。どうやら、仲直りをすることでループをするって事まで知っているみたい。だけど、そこから先はまだ聞かされていないのかしら)

 

 これからの事を確認するように、セナノは笛吹の言葉を脳内で反芻する。

 

『ループの鍵は正確には仲直りではなく、その際の心の動き。だからやる事は単純だよ、自分という存在がどれだけ愚かな事をしたのか脳髄に刻み込んで、仲直り程度で喜ばなければいい』

 

 笛吹がもたらした作戦はいたって単純。

 心の機微に関する意識の改善だけであった。

 だからこそ準備もなく、かつ容易に、自然にそれは達成される。

 セナノの心を踏みにじり、エイの信頼を裏切るだけでそのループの第一の鍵を破壊したのだ。

 

『後は今日を越えれば良い。と言っても、ずっとそのままだとコロッと本当に仲直りしちゃいそうだし、私からも手助けしようかな』

 

 エイとの仲直りに喜ばず、明日を迎える。

 そのために、笛吹の側で施した手助けもまた、いたって単純だった。

 

『すぐに夜が来るよ』

 

 脳裏にこびりついた言葉を証明するように、青空が黒く染まっていく。

 滲むように、全てを飲み込むように。

 

「な、なんですかこれ……!? セナノさん、空がっ」

「っ、俺の告白は何だったんだよ」

 

 慌てる二人を前に、セナノは冷静にエイの頭を撫でて告げる。

 

「夜が来ただけよ」

 

 エイを見つめる目に動揺はない。

 今はただ、するべきことをするだけだ。

 

 

  

 

 

 

  

 

 

 

 

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