【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第118話 欺く、心

 空が黒く染まる。

 それを夜と呼ぶことは出来ないだろう。

 安寧も静寂もない、奇々怪々にして騒々たる闇は、まるで世界全体をただ暗幕が覆ったかのようであった。

 

 月も星もない世界は異常を示している。

 未だに街中を行き交う人々の足音や蝉の声は、夏の昼下がりにまだ取り残されているかのように変わりがない。

 

 じっとりと肌を覆うような暑さもまだ太陽がそこに在る事をしめしているようだった。

 

「どうなっているんだ、これ」

「夜神楽が前倒しになったようね……エイ、貴女はここでこの人を守っていて。すぐに戻るわ」

「わかりました!」

 

 セナノは迷いなく、薄暗い部屋を抜け出す。

 その時には既にヒバリを起動させており、焔を纏った小鳥はセナノの後を火の粉を散らしながら追従した。

 

 全て予定通りだ。

 

「師匠、外の様子がおかしいです」

「……ああ、私も目視で確認した。異縁存在もな」

 

 入り口が破壊された玄関の前、ひしゃげて潰れた異縁存在だったものが痙攣しているのが見えた。

 ネネはその手に黒色に先端が染まったドアを持っており、彼女がそれを何に使ったかは明白だ。

 

「まさか、それで異縁存在を?」

「ああ。仕方が無かった。決して、間違えてドアを壊した事を誤魔化すためにこれを武器にしているわけではない」

「間違えてドアを壊したんですね」

「何故分かった」

 

 異常事態でも二人はまるで緊張感の無いやり取りを続ける。

 一人はこうなることを知らされていたが故に。

 そしてもう一人はこの程度はどうにでもなる為だ。

 

「夜神楽にしては早いようですが……もしや師匠の方で設定をいじりましたか?」

 

 セナノが玄関でネネと並ぶ頃には、辺りは異縁存在で溢れていた。

 それでも道行く人々は変わらず日常を謳歌している。

 まるで太陽が未だに在るかのように眩し気に空を見つめた少女が、そのまま大口を開けた乳白色のヒト型に頭から齧りつかれる。

 友人と共に自転車に乗っていた青年は次の瞬間には首が落ち、身体も遅れて自転車から落ちるが友人は背後にいない誰かと共に会話を続けながら奥の闇へと消えて行く。

 

 日常と非日常が歪に混ざり合う世界は地獄という表現が生ぬるい程であった。

 

「私は何もしていない。前にミラクにすごく怒られたから、やってない。だから知らない」

「そうですか。……師匠、何者かが介入して来たとは考えられませんか?」

「何者か?」

 

 ネネの問いにセナノは頷き言葉を連ねた。

 

「そうです。まるで私達を迷宮内に閉じ込め、異縁存在で殺そうとしているようには見えませんか。……私かエイを狙った、封縁五家ではないでしょうか」

「一理あるな……真正面から仕掛けてこないのはまさに奴らの常套手段だ」

 

 過去に何度か封縁五家との戦闘経験がある彼女は、その意見に賛同しつつも首を傾げる。

 

「だが、どうにも引っかかる。奴らは面倒くさい精神性をしているからな、こういう時は大抵姿を現すんだ」

「今回はよほど慎重に動いているとは考えられませんか」

「それもある。……が、セナノ」

 

 ネネはセナノを見下ろす。

 その目に映るセナノはいつもより少しだけ小さく見えた。

 

「何か隠していないか」

「……いえ」

「私の勘は良く当たると評判だ。私自身もそう思う」

 

 彼女は決して愚かではない。

 S階位として縁者を続けるという事は、何度も理屈の外にある行動で生き残ってきたという事だ。

 理由なき直感。それをネネは理屈以上に信じていた。

 そしてそれは今、弟子の中に妙な違和感を浮き彫りにしているのである。

 

「何かあるなら、話して欲しい」

 

 セナノはネネをじっと見つめる。

 それから、渋々と言った様子で告げた。

 

「…………実は封縁五家らしき影を見ました。確証がなかったので黙っておこうと思ったのですが」

「いつだ」

「師匠がエイと一緒に家を出て行った後です。突然、家の外から誰かの視線を感じて……私が気が付いたと知った瞬間に逃げたのでしょう。その後、周りを探しましたが見つかりませんでした。だから、何かが私達を監視しているのではないか、と」

「そうか」

「ですが、あくまで私の推測に過ぎません」

「いいや、参考になった。お前は感覚が鋭いからな」

 

 ネネはセナノの頭を撫でて、安心させるように笑った。

 

「ではまずは、この事件を巻き起こした犯人を捜すとしよう。この街の異縁存在を全て倒せば出てくるだろう」

.

「そうですね。では、エイも呼びます」

 

 セナノはそう告げると、廊下の奥へとエイの名前を呼ぶ。

 すると間もなくエイが顔を見せ、駆け寄ってきた。

 

「セナノさん、呼びましたか?」

「今から異縁存在を狩るわ。夜神楽が早まったと思って頂戴」

「夜神楽……!」

「大丈夫よ」

 

 セナノはエイに笑いかけ、つい先ほど自分がされた行為を真似るように頭を撫でる。

 しかし彼女のそれはただ誤魔化す為に他ならない。

 

「一緒に戦いましょう。慣れない部分はサポートするから」

「っ! わかりました!」

 

 守るのではなく共に戦う。

 その提案をすればエイが喜ぶことをセナノは経験則で知っていた。

 故に今はエイが欲しがりそうな言葉を投げかけ、喜びそうな行動をする。

 仲直りをしたセナノならそうすると、俯瞰的に見た『三鎌セナノ』の行動をしていた。

 

「じゃあまず、ヨシノリを守る様に杭を打って結界を張ってきなさい。実際の夜神楽でも民間人を守ることは多いわ。出来る?」

「はい、任せてください!」

 

 役割をセナノに貰えた事が嬉しいのだろう。

 緊張感など感じさせない無垢な笑顔と共に頷いたエイはそのまま廊下の奥へと駆けて行った。

 

「意外だな」

「そうですか?」

「ああ。お前はもう少しエイを守る事に固執すると思っていた」

「……身の程を知ったんですよ。今の私はエイを完璧に守る事は出来ない。だから弱さも罪も全て背負って今の私に出来る事を全てやる事にしたんです」

「お前……」

 

 覚悟という言葉で言い表すにはあまりにも痛々しい宣言だ。

 しかしネネはそれを受け入れる。

 理由は単純。

 三鎌セナノという少女を信じているからだ。

 

「なら、この夜神楽で鍛えないとな」

「はい。どうせなら私とエイチームと師匠でどちらが多くの異縁存在を処理できるか競争でもします?」

「それは駄目だ」

「意外ですね。そんなに真面目でしたっけ」

「いいや」

 

 ネネは至極真面目な顔でこう言った。

 

「それでは私の勝ちが決まっている。フェアじゃない」

「……言いますね、一応はS階位と災主級疑似媒介体ですよ」

「それだけだろう。取るに足らん……いや、逆にそうするべきか」

 

 ネネは一人で何かに納得したように頷く。

 

「思えば、本気でお前と競ったことはなかったな。一度、ここでS階位としての力量差をしっかりと見せておくことは大切だ。いいだろう競争だ。負けたら後で私の鍛錬に付き合え。丁度、体を鍛えるのに良さそうな村を予約できた」

「まだ鍛えるんですか。いいですよ、勿論望むところです」

「お二人共、お待たせしました! ヨシノリさんはきちんと杭で囲って保護してきましたよ! 外に出ないように言い聞かせてきました!」

「上出来よ」

 

 主が戦闘態勢に移行した事を察したヒバリが高く舞い上がり、開戦の合図となる。

 エイは緊張から拳をにぎり、ネネはNARROWが入った鉄筒を未だ背負ったまま使用する素振りを見せない。

 しかしどちらも既に戦う人間の目であった。

 

(……ごめんなさい)

 

 ただ一人、セナノだけがこの現状がいかに虚しく滑稽であるかを理解している。

 故に彼女は心の中で謝罪を口にする。

 決して届かないと知ってもなおそう念じるのは、自分の中で肥大化し続ける罪悪感を誤魔化す為であった。

 

「よし、それじゃあ始めましょうか」

 

 二人と同じ立場にいる事を示すように、セナノはそう言った。

 これから始まるのは、全てが作られた偽りの戦い。

 始まりが純粋な祈りであったとしても。

 

(今回だけ……今回だけだから……)

 

 今の彼女は道化でしかない。

 

 

 

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