【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第119話 纏う、空

 闇に覆われた空を窓から眺めるヨシノリは、何もできずただソファに座っている。

 既にネネ達はこの事態を終息させるために戦いに向かったようだ。

 

「……俺も戦えたら良かったのに」

 

 少しばかりのアイスキャンディーと一杯の麦茶を目の前に彼は動くことを許されない。

 

 今、リビングは安全地帯と化していた。

 縁理学園より支給された特殊な構文を仕込んだ封縁杭で四方を囲まれたその場所は、今や数百年の祈りをささげた聖域と変わりない。

 何者の呪いも如何なる不運すらも通さない絶対的な防御。

 仮に夜神楽により現れた異縁存在がヨシノリを襲おうとしたとしても、壁に阻まれることだろう。

 

 尤もそれは、低級の異縁存在に限るのだが。

 

「やっほ」

 

 聖域など無かったかのように彼女は平然とそれを真正面から打ち破ってリビングへと足を踏み入れる。

 いや、もはや打ち破ったという感覚すらないのかもしれない。

 ヨシノリと別れたときから何ら変わりなく、まるでまだ夏の日差しの下にいるように軽い調子だった。

 

「ルウ!」

「四本も杭を使うなんてVIP対応だねぇ。随分と丁寧な仕事だ。うんうん、先輩として鼻が高いよ」

 

 彼女はそう言うと、テーブルにあったアイスキャンディーを一つつまみ、躊躇いなくその封を開けた。

 

「……何個目だよ、それ」

「水みたいなものだし、何個でもいいでしょ。水分補給だよ、私も色々と仕事してきたんだからこれくらいいいじゃーん」

 

 ルウはそう言ってソファに体を投げ出し、足をパタパタとして上機嫌にも見える。

 外の地獄絵図など彼女は気にしていないようだ。

 それを見て平気でいられる程、ヨシノリという人間は鈍感ではない。

 

「なあ、ルウは行かなくていいのか?」

「え、どこに?」

「どこにって……また外には怪物がいるんだろ? だったら、縁者として戦った方がいいんじゃないか?」

「あー……いいんだよ、私は」

 

 軽薄に、そしてどこまでも普通に彼女は笑う。

 

「私がいなくても三人で何とかなるだろうね。だって、あの三人って全員が恐ろしいくらいに強いし。むしろ足手纏いみたいな?」

「そ、そうなのか?」

 

 ルウは三本指をヨシノリへと見せつけるように立てる。

 意味が分からず首を傾げていると、彼女は言葉を続けた。

 

「三日あれば、確実に日本を壊滅できるよ。それも全員が違う方法で」

「っ……そ、そうか」

「そうそう。だから私はヨシノリを守る役目を全うするよ。それに、せっかく上手くいっているのにここで私がセナノちゃんに遭遇してループしたら台無しじゃん?」

「……あっ、そうだ! セナノさんとエイちゃんが仲直りしちゃったぞ。いいのか?」

「うん、したねぇ。でも、今回は大丈夫だったよ。傍に告白したてのカップルがいたからかな」

「…………じゃあ、一応は役に立ったのか」

 

 気恥ずかしいような、そうでもないような何とも言えない心持ちでヨシノリは曖昧な返事をする。

 しかしルウはそれをはっきりと肯定した。 

 

「役に立ったよ。ありがとう。おかげでこのループは今回で終わる……さて」

 

 ルウはアイスを食べ終えると、木の棒をゴミ箱に投げ捨てた。

 綺麗な放物線を描きゴミ箱に入った木の棒を見て小さく拍手をしながら立ち上がった彼女はヨシノリへと手を伸ばす。

 

「いい子にはご褒美をあげないとね」

「ご褒美……!」

 

 彼の脳裏に浮かぶのは、当然金銭であった。

 けれど、差し出された手と共に与えられたのは予想外の言葉。

 

「世界の真実を見せてあげる」

 

 彼の運命を大きく捻じ曲げるその誘いは、普遍の中に潜み今その姿を現したのだ。

 

 

 

 

 

 

 街の中を焔が舞い、悲劇を灰塵へと変えていく。

 彼女達が駆け抜けた後にはもう何も残っていなかった。

 

「ここからは別行動だ。セナノ、エイ、巧くやれ」

「はい! 行きましょうエイ」

「わかりました!」

 

 ネネはついでと言わんばかりにその場の小石を放り投げ異縁存在を一体処理すると、近くの屋根へと向けて跳躍する。

 そしてそのまま闇と異縁存在の群れの中へと姿を消した。

 間もなく宙を舞う異縁存在だったものが、彼女の強さの程を何よりも示している。

 

「私達も負けていられないわね」

「頑張ります! ……と言っても、私は人を助ける役目なのですが今のところそういった存在は確認できません。ZONEの異常でしょうか」

 

 セナノが異縁存在の処理、エイが民間人の保護という役割分担の下、二人は街中を駆けている。

 が、最初は確認できたはずの人々はぱたりと見えなくなり、まるでその存在が初めから無かったかのように消え失せていた。

 

「可能性は高いわね。けど、油断しちゃ駄目よ」

「封縁五家がいる可能性が高いんですよね。今度は勝ちましょう……!」

 

 やる気を見せつけるようにエイは拳を握り締め、セナノに鼻息荒く何度も頷く。

 その様子を愛おしそうに見つめながらセナノが頭へと手を伸ばしたその時、空より異縁存在が落下してきた。

 人間の出来損ないのような異形が覆いかぶさるように四肢を広げている。

 

「エイ、下がって!」

 

 セナノはたん、と軽くアスファルトを蹴り上げ跳躍するとそれの頭部へとサマーソルトを直撃させた。

 同時にその動作が舞の奉納と解釈され、ヒバリの焔が増し異縁存在を消し炭に変える。

 

 今までのようなステップだけでの舞の奉納ではなく、彼女は直接的な攻撃での舞の奉納も可能になっていた。

 

「ふう」

「凄いですセナノさん!」

 

 それは明確な成長と呼べるだろう。

 しかし彼女はその成長に胸を張る事はない。

 それどころか眉を顰め、消し炭となった異縁存在を見下ろした。

 

「自ら襲い掛かったというよりは、何かに投げ飛ばされたみたいね」

「師匠でしょうか?」

「流石にこっちには投げないでしょ。もしもこんな事をするとすれば――」

 

 セナノは異縁存在が飛んできた方を見る。

 暗雲に覆われた空に、人影があった。

 焼けこげたようなぼろ布を纏ったそれは、確かにセナノ達を見つめている。

 

「……セナノさん」

「ええ、アレが今回の黒幕ね」

 

 セナノの言葉を肯定するかのように、その人影は両手を広げ自らの存在を誇示する。

 告げられた名は、縁者であれば聞き覚えのある忌み名の一つだった。

 

「我ハ、荒鍔。封縁五家ノ、一人、ダ」

 

 カタカタと頭部を気味悪く不規則に動かしながら、それは掠れた声で告げる。

 男とも女とも取れない、かろうじて声として成立しているその言葉は、まるで異縁存在が自分達へと言葉を投げかけているようだ。

 

「継ぎ接ぎみたいな声で、なんだか気味が悪いですね……!」

「それでもやる事は変わらないわよ。ぶっ飛ばすだけ」

 

 セナノは既に舞を始めている。

 言葉による鼓舞よりも戦う姿勢こそがエイを動かすと知っているが故だった。

 

「……確かに、そうですね」

 

 そしてそんなセナノの行動は想定以上の変化をエイへともたらすことになる。

 

「今の私に出来る事を」

 

 過去に自分の大切な人を傷つけ弄んだ封縁五家への怒りは、セナノの想像を超えていた。

 そこに仲直りによる精神面での安定に加え、この繰り返しの中で潜在意識下に蓄積されていった経験がこの瞬間に花開く。

 

 この戦いが偽りであったとしても、エイという縁者の覚悟は本物であると証明するように彼は覚悟を決めていた。

 

「エイ……?」

「私も戦います」

 

 荒鍔を見上げ、エイは胸の前で指を絡め合わせ手を組む。

 

「……たた なが ひそ くく ことはら みなし な いず みよ」

 

 紡ぐ言葉は、空へと捧げる祝詞。

 この場に災主級の視線を向けるために必要な工程だ。

 

 例え暗雲の向こうに在ろうとも、ソレはすぐにエイの願いをくみ取り暴力的な奇跡を生み出した。

 

  蝉の声も夏の日差しもそこにはない。

 しかしエイの目の中に映る鮮やかな青が、彼の髪を揺らす夏風が迷宮が顕現した事を証明している。

 それは、今まで観測されなかった体への迷宮の顕現。

 即ち、空を纏い、そして内包する人を超えた御業。

 

「――装縛(まとって)再臨(おりて)

 

 瞬間、辺りの景色の輪郭が歪む。

 まるで陽炎のように揺らめく歪みの中から、それは突如として現れた。

 赤黒い糸を引く病的に白い指先、継ぎ接ぎだらけのヴェ-ルに、全てが縫われてなかったことにされた顔。

 

「伽骸ノ嫁」

 

 見る者すべての恐怖を掻き立てる悲劇の花嫁は、今まさにエイの忠実な下僕として現れたのだ。

 

「貴女の力、借りますね」

 

 言葉に応えるように、伽骸ノ嫁が傅く。

 するとその体は糸のように解け、エイへと伸びていった。

 瞬く間にエイの服と融合を始めた糸は、潔白を証明する縁理学園の制服を全く別の物へと変える。

 

 風に揺れるスカートは、まるで灰が舞い広がる様に。

 細い手を覆うウェディンググローブは薄汚れた煤にまみれた様に。

 それは祝福の対極。悲劇の中に僅かに残っていた願望を拾い上げ纏う姿。

 

「空纏い……とでも言いましょうか」

 

 まるで冠を戴くように、ヴェ-ルが頭を包み込む。

 灰の中から生まれた花嫁のような姿になった今のエイは、まさしく伽骸ノ嫁と同一の存在である。

 

「え、い……」

「もう一人で戦わせなんてしません。ここからは一緒です! そして――」

 

 灰色のヴェ-ル越しに()は荒鍔を睨みつける。

 

「今度こそ封縁五家に勝ちます!」

 

 偽りの中にも確かに変わらぬ物はあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うんうん、やっぱり男の娘はウェディングドレスに限りますねぇ^^』

『ソラ、ちょ、ちょっとこれ流石にエッチすぎるよ……!』

『大丈夫ですよ。それくらいがちょうど良いんです。さ、後は好きに力を使ってください。なんのデメリットもない大暴れタイムですよ^^』

『本当!? じゃあ、いいやァ! やってやるぜェ!』

 

 




白無垢ではななくウェディングドレスにしたことをここに深くお詫び申し上げます。





でもウェディングドレス男の娘が好きなんです。
故にここからは存分に死合おうぞ(刀を抜く)
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