【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
暗闇を裂くように細い糸がいくつも走る。
それらは全て、灰のドレスを纏ったエイの指先から放たれたものだった。
「お見せしましょう!」
赤い線が空へと伸びる様は、まるで夜という巨大な生物を切り裂いているかのようだ。
対して荒鍔は動くことなく、ただ耳障りな高音を辺りに響かせる。
それはこのZONEで管理している異縁存在の中に組み込まれた絶対的な命令権であり、合図であった。
意思や特性などは一切関係なく辺りの個体が全てエイへと狙いを定め動き出す。
その中にはC級やB級など、通常であれば縁者が事前に準備をしたうえで処理をする異縁存在も混じっていた。
『――ァアア』
初めにエイへと飛び掛かった個体は、自身の声を引き金として現象を引き起こす異縁存在であった。
それは声を聞かせることで対象の認識を歪める。
が、しかしそれはエイには一秒足りとも通用することはなかった。
「邪魔です!」
理屈など無い。
ただ、エイの格が上であっただけである。
それだけで異縁存在の持つ特性を無視し、糸にて細切れにした。
災主級により改造され改良され改竄された伽骸ノ嫁はもはや通常の異縁存在とは一線を画している。
ましてそれをエイは今、完全に自身の力とし操ることが出来ていた。
エイ自身が伽骸ノ嫁になったかのように、強力無比な力は正しく振るわれる。
「やはり伽骸ノ嫁の力がこの場では正解でしたね。これなら逃げ遅れた人を感知しながら異縁存在を処理できます」
糸より伝わる感覚は、まるで第三の目を与えられたかのようにエイに広い視野をもたらす。
異縁存在の数、配置、そして仮に本番であれば逃げ遅れた民間人まで。
その全てを俯瞰して把握することが可能なその力は、夜神楽における一つの最適解と言っても良いだろう。
「セナノさん、私が道を開きます! 行ってください!」
「……わ、わかったわ!」
呆然とその光景を見ていたセナノは唐突に現実へと引き戻される。
ヒバリは準備完了を示すように一度短く空へと鳴いた。
「荒鍔は私が叩くわ。足場をお願い」
「はい!」
糸が幾重にも編み込まれ、その場に赤い足場が完成する。
それは荒鍔へとあっという間に伸びていき、まるでレッドカーペットのようにセナノが足を踏み入れる事を待ち望んでいた。
「お願いします、セナノさん!」
「任せなさい」
軽い跳躍の後に足場へと降り立ったセナノは駆け出す。
その歩幅やリズムは相変わらず奉納に値する完璧なリズムを維持しており、一歩進むたびにヒバリの焔が増していく。
荒鍔の前に到達した頃には、ヒバリは雄々しい翼を広げ大鷲へと変貌を遂げていた。
「舞いなさいヒバリ。こんなくだらない戦いはさっさと終わらせましょう」
闇夜を裂き、ヒバリが荒鍔へと迫る。
行く手を阻もうとする異縁存在は例外なく赤い糸に縛り上げられ、次の瞬間には賽の目状に裁断された。
全ての障害をすり抜けた深紅の翼が広げられ、焼却の構文が荒鍔へと直撃する。
油を吸い込んだ和紙のようにあっという間に焔が広がり、荒鍔の体を飲み込む。
「我ハ、荒……封、五家ノ、一、ダ」
落下する最中も荒鍔は繰り返し同じ言葉を呪詛のように呟き続ける。
しかし、二人にはそれを気にする余裕はなかった。
「セナノさん……!」
「ええ。どうやら、一人ではないようね」
二人は落ちていった荒鍔ではなく今もなお空を見上げている。
そこには先ほど燃え尽きて落ちていった筈の荒鍔が大量に浮いていた。
「我ハ、荒鍔。封縁五家ノ、一人、ダ」
変わらない言葉は相変わらず継ぎ接ぎだらけのようで気味が悪い。
まるで悪夢を見ているかのような光景だが、エイは決して折れることなく睨みつけている。
「封縁五家はなんでもありなんですね。なら、こっちも何でもありですよ! セナノさん、私達のコンビネーションを見せてあげましょう!」
「わかったわ」
顔色一つ変えずに頷いたセナノを見て、エイは床にそっと指先を這わせる。
すると、まるで水面のように波紋が次々と指先から生まれ、地面へと広がっていった。
血のように赤く満たしていくそれは、地上にいた異縁存在達の足を絡めとり、体を侵食していく。
そうして飲み込まれた異縁存在の体は、糸のように解けていった。
「沢山いるなら、こっちも沢山用意すればよいだけです」
エイは異縁存在を分解し、自身の糸へと再構築する。
そうして生まれた無数の糸は、血だまりからいくつも空へと伸び、それぞれが荒鍔へと巻き付いていく。
「……我ハ、荒鍔。封縁五家ノ、一人、ダ」
「それしか言えないんですか? ……ん、何かおかしい気がしますが、難しいことはセナノさんにお任せします!」
漏れなく全ての荒鍔へと赤い糸が巻きつきその動きを制限する。
それぞれは結びつくだけで荒鍔の肉体を裁断することは叶わなかったが、道を創り出すことは出来た。
エイがやるべきことは全て完了している。
「セナノさん!」
「……なるほど、やりたい事はわかったわ」
名を呼ばれただけでセナノはエイの意図を読み取り動き出した。
多くの異縁存在の処理を共に行ってきた二人の間にはもはや多くの言葉はいらない。
セナノは応えるように舞を奉納し、更にヒバリの焔へと薪をくべる。
主の命を受け、ヒバリは一度翼を大きく広げ、それから地上へと向けて一直線に飛来した。
まるで空より落ちる流星のように真っ逆さまに飛び、そして地面に直撃するすれすれで己の翼を血の水面へと一度強く叩きつけ、一転急上昇を始めた。
「同じ構文であれば、ヒバリの焔はどれだけ巨大であろうと燃え広がる。仮に伽骸ノ嫁の構文に焔が移ればそれは――」
焔が地上へと広がり、更にそれぞれの糸を燃やしながら伝っていく。
血の海からいくつも天へと昇っていく焔の柱は、まるで世界の終わりのような光景であった。
焔の昇る先には当然、縛り上げられた荒鍔達。
それらは例外なく焔に飲み込まれ、この星一つない夜空に明かりを灯すように煌々と燃え盛っていく。
塵となり落下していく荒鍔だったものと火の粉が舞う中、エイはセナノを見てピースサインを作り上げた。
「今度こそ、私達で勝ちましたね!」
「……ええ、そうね」
まるで二人の勝利を祝福しているかのように、世界は焔に照らされている。
エイはその目に達成感と希望を写し、セナノの傍にそっと立つ。
セナノはそんな彼を一瞥すると、まるでその事実を刻み込むようにこう告げた。
「私達の勝ちよ」
■
物足りねえっぺよ!
俺はこれだけ強くなったのに!
無数の糸で相手を細切れにするっぺェ!
『ソラ、他に封縁五家はいないの? 今なら勝てるよ!』
『元気ですねぇ』
応ともさ!
目の前に広がる焔の世界を前に誰が冷静でいられるのだろう。
これを俺がやったのだ。
異縁存在をスパスパと切り裂き、クールに立ち回り、セナノちゃんに見せ場まで作っちゃう。
これが俺の求めていた転生者の姿だよ!
今までみたいに使役する系も悪くはないけど、やっぱり力は自分で振るってなんぼだね! 気持ちが籠るもんね!
封縁五家を相手に、何もさせずに一方的な戦いを繰り広げる。
これはもう俺がS階位になる日も近いなガハハ!
『もうソラったらぁ、こんな力があるなら先に言ってよぉ』
『ふふふ、コンテンツにも順番があるのですよ。……そろそろですね』
『何が?』
『エイ、身体は痛くないですね。魂も違和感はないでしょう』
『うん。前に伽骸ノ嫁を使役した時と違って、内側が痛くなることもないし、大激痛が来る気配もない。ありがとう!』
『うんうん、それでエイは今何がしたいですか?』
ソラは優しくそう問いかけてきた。
やれやれ、今までの俺の言動を知っての問いだろうか。
これだけの強大な力を持っているなら、やる事はただ一つ!
『セナノちゃんと結婚したい!』
『^^』
『……あれぇ!?』
俺は、気が付けばおかしなことを魂で叫んでいた。
この力で無双したい筈なのに、どうしてだろうか急にセナノちゃんと結婚したくなってしまっている。
あ~式場選びてェ~!
『そ、ソラ……?』
『はい』
『デメリットないんだよねこの姿って』
『はい、ありません^^』
『なら、この感情は!? ねえ、なんだかすっごく結婚したいんだけど! セナノちゃんと結婚したいんだけど!』
俺の心を満たすのは結婚に対する欲求である。
セナノちゃんが大好きになったとか、愛が溢れたとかそう言う表現は正しくないだろう。
おかしなことかもしれないが俺は今、結婚という行為がしたくてたまらないのだ。
『空纏いとは、私がオソラカスタムを施した異縁存在と半ば融合する技。であれば異縁存在の思想や特性を引き継ぐのは当然です!』
『それをデメリットって言うんだよぉ!』
『? 痛みもないし感覚もなくならない。それにコンテンツも満たせる。デメリットどころかメリットだらけでは?』
あっ、メリットデメリットって上位存在の尺度だったんだぁ!
神様の提案を自分の都合の良いように解釈して痛い目を見る……教訓系の寓話か?
『ちなみに針金であれば、相手を傷つけ自分の存在を残したい欲、鏡であれば相手と同じになりたい欲など、多種多様なメリットがありますよ』
『ちなみにこれはいつ解除されますか?』
『空纏いを解除すれば終わりますよ』
それを聞いて俺はホッと一安心した。
今も隣のセナノちゃんと挙式をあげる事を我慢してなるべく顔を見ないようにしているので、このまま続くと非常に困るのだ。
であればさっさと解除して……これ解除どうするんだ?
俺、このウェディングドレスの脱ぎ方教わってないんですけど!
『ソラ、このウェディングドレスってどうやって脱ぐの?』
『? 水着型のウェディングドレスにモードチェンジしたいという事ですね?』
『違いますねぇ。空纏いの解除の仕方を聞いていますねぇ』
『ああ、なるほど! それは私の気分です』
『ん?』
『空纏いの一切の権限は私が持っています^^ 気にせず、楽しんで!』
『ひぇ』
だ、騙された!
空纏いって単に、御空様の着せ替えごっこじゃねえか!
『この姿のメリットをそのまま説明して問題ありませんよ。今の人間であればそれを真正面から受け止める事もないでしょうし。さ、主演女優♂の真価を見せて貰いましょうか』
ウェディングドレスの裾を握り俺は絶望を受け入れる。
どうやら俺は道化だったらしい。