【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
【縁理庁正式報告書】
文書番号:EN-RPT97452
提出者:東園ネネ(S階位縁者)
補遺:三鎌セナノ(S階位縁者)
■ 概要
ZONEに荒鍔がいた。
だから殺した。想像以上に弱かったから本体はあそこにはいなかったかもしれない。
補遺;■■県■■山脈に位置する特異現象再現迷宮において、稼働一日目が繰り返されるという現象が発生。
夜神楽を再現するシステムへと構文による干渉を行い、内部に居た東園縁者、三鎌縁者、折津縁者を殺害、あるいは蒐集を目的とした大規模な計画を実行した模様。
■発生状況
12:30 空が暗くなった。
13:03 解決
補遺:一日目の繰り返しに気が付いたのはZONE外に出た後であったため、ZONE内での時間は正確性に欠ける。(時間の流れにも干渉があった可能性を考慮)
その為発生状況は今回に限り観測結果を兼ねて報告する。
■観測結果および推定
所詮は雑魚だった。
折角ループするなら記憶を持ち越させてくれれば特訓も出来たのに。
補遺:ZONEの特性を利用した時間の巻き戻しは残留物や構文の劣化から推測するに200以上行われている。
が、そのいずれも失敗に終わっており家や他場所に存在した東園縁者のNARROW使用痕がその数だけ戦闘があった何よりの証左であった。
次の自分達へのメッセージを残した時もあったようだが失敗に終わっている。
■被害
無し。
私と弟子は強い。
補遺:全員体に異常は見られないが、折津縁者に一時的婚姻欲求が発現。別途報告した疑似媒介体による新たな現象再現の副作用とみられる。
その場で疑似的な婚姻を果たすことで精神洗浄を行ったが、後日検査を行い再度報告をする。
また、データ体が東園縁者に特別な好意を抱くなどの異常も確認されたのでZONEは一時的に稼働を停止し全ての構文を検査、再構築中(既に迷宮管理課に通達済み)
■考察
また封縁五家が悪さをしていた。
一度、封縁五家狩りをする方が良いと思う。
私なら勝てる。
補遺:今回の事件は縁理庁管理迷宮の構文に存在していた脆弱性が明らかになる物だった。
異縁存在や迷宮は日々、人間を脅かす進化を続けている。
であるにも関わらず、変わらず同じ構文を使い続ける我々縁者の傲慢が今回の様な事件につながったのではと考えざるを得ない。
今後このような事件を起こす対構文侵食型異縁存在が生まれないとは限らない。
荒鍔がしびれを切らしてZONE内に姿を現したから良かったものの、そうでなければ私達はまだZONE内で同じ1日目を過ごしていた筈である。
■提言
余裕。
補遺:今回の事件を経て、ZONE使用時にもオペレーターが必要であると感じた。私達縁者は、自己認識だけではなく、外部からの観測により自己の存在を確立させる必要があるかもしれない。
■補記
ここならセナノさんが書いて良いって言っていたので書きます。
セナノさんも師匠もすごく頑張っていたので、ご褒美とか欲しいです。
私はジュースを作れるというジューサーというものが欲しいです。
お願いします。
補遺:折津縁者が報告書に興味を示した為、補記を与えることで鎮静化。無視した場合、今後空が見える場所に晒された全ての書類に異常現象が発生する可能性を考慮しての判断であった。
今後も補記に折津縁者の報告を書かせる許可を求める。
■
帰りの車は、来る時よりも賑やかであった。
それも全て、エイとセナノの関係が修復されたからである。
「えへへ……セナノさん、今回は私達の勝ちですね」
「そうね。すごく頼りになったわ」
「ふふん!」
「でも、空纏いを使う時は私に許可を取る事。私だってNARROWを使う時は許可申請をするんだから」
「えー、してない時もあるじゃないですかぁ」
「アレは緊急時よ。でもね、そういう時って報告書が必要なのよ……。あれ、本当に面倒くさいの。任務報告よりも面倒……。貴女もそういうのを書きたくなかったら、私に許可を取りなさいね」
「報告書書いてみたいです!」
「そう来たかぁ……」
後部座席で並んだ二人は、一緒の窓から外を眺めつつ会話を続ける。
それをラジオのように聞きながらハンドルを握るネネの口元には笑みが浮かんでいた。
「後で書かせてあげるわよ。でも全部は駄目よ? 私が良いって言った所だけ。少しずつ書いていきましょう」
「はいっ!」
エイからすればそれは少しでもセナノと同じ場所に立ちたいという事なのだろう。
それを理解しているからこそ、セナノも否定はせず受け入れる。
その姿は今までのセナノとは少し違った。
「それにしても散々な訓練だったわね。まさか封縁五家にまた絡まれるなんて。師匠はどう思いますか?」
「弱かったな」
「そういう事じゃないんですけどねぇ」
「強いて言うなら、私には荒鍔の抜け殻に見えた。本体ではないし、意思も感じられない。封縁五家にしてはやり方も杜撰だな。まるで自分から事件を気づかせ解決させようとしていたようにも思える」
それは過去に何度も封縁五家と対峙し勝利してきたネネだからこそ感じ取れる違和感であった。
ZONEに干渉できたとしてもそれは彼女の中では封縁五家であるという証拠にはならない。
封縁五家か否かを判断するために彼女が重視するのはもっと感覚的な――。
「エゴがなかった」
「エゴ?」
「封縁五家はそれぞれ異縁存在に対して正気とは思えない考え方をしている。荒鍔であれば迷宮の神格化と芸術性だ。奴らは迷宮を度々自分の作品として世の中に解き放っている。今回だって、私達を閉じ込めた筈なのに自ら台無しにした。それが解せない」
「……成程、流石は師匠です」
「セナノもいずれわかるようになる」
「はいはいっ! 私もわかるようになりますかね!」
「ああ、勿論だ」
運転の傍らの雑談であっても、エイにとってそれは認められた一つの証である。
彼女はその言葉をまるで心の奥にしまい込むように胸を手で押さえ、たまらなく嬉しそうな表情をした。
バックミラーでそれを確認したネネは、懐かしさに笑みを浮かべる。
「ふっ、まるで昔のセナノだな」
「私ですか……?」
「セナノも今のエイのように一人前になろうと必死だった。私の任務に同行しては、少しでも役に立とうする。少し褒めただけでも飛び上がって喜び、ミラクに報告していただろう?」
「~~っ! 師匠! それは内緒にしてくださいよ! エイがいるんですから!」
時すでに遅し。
エイは目をキラキラと輝かせて後部座席から身を乗り出していた。
「師匠、もっとお話を聞かせてください!」
「師匠、言わないでください!」
「むうこれは困ったな」
「村の霊峰」
「エイ、なんでも教えてやろう。聞きたい事はなんだ」
「師匠!? というか、村の霊峰って何よエイ!」
エイはセナノを見ると、得意げに人差し指を立て自らの唇へとあてがった。
「ふふ、内緒です」
(か、顔が良い……)
エイの想像とはまったく違う所で刺さった結果、セナノは標的を再びネネへと変える。
そして彼女はそのエリートな頭脳により、強引な話題転換を実行した。
「そう言えば師匠が運転なんて珍しいですね! わざわざ車を借りて自ら走るだなんて!」
「まあ、これから行く場所はなるべく人が少ない方が良いからな。それに運が悪い事に迎えの黒服が女だった。あれは良くない」
「え?」
「海に行くぞ。このまま任務だ」
「「えっ」」
驚愕する二人と言葉足らずの一人を乗せて、ワゴン車は進む。
一つの事件の終わりは、新たな事件の始まりと共に訪れた。
『さて、漫画を返してもらいに行きますか』
『な、なにが始まるんです?』
『コンテンツ発表会?』
『それはいつもじゃないか!』