【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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六章 シオナキ編
第124話 ジョショウ


 ワゴン車からご機嫌よう、村のアイドル折津エイです。

 特技は上位存在へのゴマすりとコンテンツの制作な俺ですが、今はお仕事の為に移動の真っ最中。

 黒髪がチャームポイントのカワイイ女の子♂(上位存在付き)な俺は、実はアイドルなんだ。

 

「S階位二人に依頼だなんて、余程の緊急事態ですね」

「ああ、どうやら縁理庁管理の異縁存在が暴走したらしい。既に一つの市を封鎖し、いつでも最上級処理を行える準備をしているそうだ」

「最上級処理……映像媒体を通じて、国民全員の記憶を処理するという事ですね。つまり、事件と市の存在を無かった事にする。あるいは災害というカバーストーリーを制作し、大衆を欺く」

「いずれにせよ、それだけの規模の事件と考えていいだろう」

 

 こんな会話がアイドル内で飛び交ってたまるかよ。

 あまりに嫌すぎて現実逃避をしてしまったが、どうやら俺はここからクソヤバ現場に直行するらしい。

 特訓→結婚→仕事という地獄のような流れに身を任せる俺だったが、そもそも選択権がなかった。

 とりあえず無邪気に質問しながら心構えだけでもせっせとすることにしようかな。

 

「師匠はその異縁存在が何か知っているんですか?」

「まだだ。現地で詳細を話すらしい。どこかで盗み聞きされることを恐れているのだろうな」

「……確かに最近封縁五家の動きは活発ですからね」

 

 俺はセナノちゃんの言葉に同調して頷く。

 もうあの手のいかれた野郎共は勘弁してほしい。

 海なんだから、わいわいキャッキャの水着回にしようよぉ……。

 

 あ、そうだ監督にお願いしちゃおうかな!

 今も逆さになってフロントガラスに張り付いてこっちを「^^」って見ている監督にね!

 ……アレ怖いからやめてくれないかなぁ。車降りたら手形が残っててギョッとするタイプの怪談じゃないか。

 

『監督! 自分、水着いけます! 事務所から許可下りてます!』

『残念ながら今回の私はお客様なので、好き勝手に動くことはできません』

『そんなぁ!』

『差し出されたコンテンツを吟味もせずにあれこれ口を出すなど、あまりにも無粋。コンテンツ初心者であればなおの事。私達は先輩として如何なるコンテンツも受け止める度量が必要ですよ?』

『うぅ、でも……』

『しょうがないですねぇ』

『お!』

『御空霊峰に湖を生やしてあげます^^ 山でも水着回は可能なのですよ。嬉しいでしょう?』

『あぁ、ちがうぅ……!』

 

 厄ネタを元に水着回を練成しようとしたら、厄ネタはそのままに水着回だけが増えた。

 というか厄ネタと比べたらマシってだけで、水着回もだいぶこっちとしては面倒だし不安ですよ!

 くそっ、等価交換に失敗した……!

 持っていかれるどころか、あっちから増えて来やがった……!

 

『安心してください。あと数か月は夏を維持してあげます^^』

『あと数か月したらクリスマスなんですけど!』

『夏祭りと初詣を同時に摂取できるなんて贅沢なコンテンツゾーンですねえ』

『……そうですね!』

 

 駄目だ、オラの村の神様はコンテンツに対して足し算と掛け算しかできねえ。

 何かを減らすという選択肢が無いんだ。無駄に強いから不都合があればごり押しで通すんだ……。

 なんという傲慢。なんという最適解。

 俺が勝てる日は来るのか……?

 

「それにしても、今回は随分と初動が早いですね。いつもならもっと上でくだらない会議をしてからようやく動くじゃないですか」

「経験上、こういう時は縁理庁側のやらかしだ」

 

 師匠はさらりとそう答えた。

 そこには怒りも呆れもない。一体どれだけの任務を行えばこれだけ淡々とそのような事を言えるようになるのだろう。あまり考えたくはない。

 

「やつらは自分のミスを処理する時だけ手早い。S階位をこの事件に三人も投入したという事実から考えるに災主級クラスだな。セナノ、エイ、鍛えるチャンスだ。遠慮なく行くぞ」

「はい!」

「はい……ってS階位が三人って、それはエイの事ですか?」

「違う。八方塞だ」

「え……」

 

 名前らしきものを告げられてセナノちゃんがぎょっとする。

 それから俺を見て、ゆっくりと問いかけた。

 

「エイ、今は女?」

「いいえ!」

 

 今日は男の娘です!

 明日には女の子になっているのでよろしくお願いします!

 

「……ん? じゃあ、あのウェディングドレスって……いや、今はいいわ。ちなみにだけど年齢は」

「もう、忘れちゃったんですか? 私は15歳ですよ」

「そうよねぇ。……師匠、本当に八方塞さんと仕事なんですか?」

「ああ」

「それ、私達少しでもミスしたら死にませんか?」

「ああ!」

「なんで嬉しそうなんですか!」

 

 なんで嬉しそうなんだよ!

 

「死が隣り合わせならば、より鍛えられるだろう。それに死にはしない。臓物がねじ切れるだけだ。気合で治せばどうという事はないさ」

「エイ、あの人の言葉は信用しないで。普通は内臓がねじ切れたら死ぬわ」

「わ、わかりました」

 

 だそうですよ御空様。

 俺の記憶違いでなければ、演技のクオリティアップの為だけに内臓そのものを一度ナイナイされたのですが。

 『ねじ切れる』じゃなくて『無くなる』だったんですが。

 

『ソラ、今の聞いた? 普通の人間は内臓がねじ切れたら死ぬんだよ』

『あははっ、脆弱ですねぇ』

『そういう感想を求めているんじゃないんだよね』

『……うーん、エイの内臓をねじって苦しむ姿を見せるのも良いですが、タイミングが無いんですよねぇ。そうだ! 廻鉄蟲が暴走したという事にして腹部に針金を思い切り突き刺して、あの人間に抜いて貰えば……!』

 

 悪しき者が悪しきインスピレーションを受けてるぅ!

 まずいよ! 俺の内臓がフリー素材ばりにコンテンツ表現の道具にされているよ!

 誰か助けてぇ!

 

「私も初対面の時はそこそこ吐血した。一応、ビニール袋かバケツでも持参するか?」

「嘔吐と同レベルで語らないでください師匠」

 

 俺は緊張から生唾を飲み込む。

 ちなみにこれは演技ではない。普通に八方塞とかいうまだ見ぬ縁者に怯えているだけだ。あと、監督の暴走。

 

「あの……その八方塞さんってどんな人なんですか?」

「私は直接は会ったことはないの。大体の人は会う前に住人にされるか、殺されるから」

「え……?」

 

 それ本当にS階位?

 災主級異縁存在の説明してない?

 

「師匠は何度か仕事をしたことがあるんですよね?」

「そうだな。私は一緒に飯を食ったこともあったが……強いて言えばずっと寝不足だったな。アレでは体を鍛えられないだろう。本人も根っからのインドアだ」

「そうなんですか。うーん、どんな人か想像できません……」

「奴自体はまともだ。だが、取り巻くすべてが最悪な奴だよ」

 

 それから師匠は八方塞という縁者について、嫌な予感しかしない纏め方をした。

 

「奴の肩書は――縁理庁の最高傑作だ」

 

 俺、縁理庁に碌な印象がないんですけど!

 

 

 

 

 

 

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