【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
廃病院で待ち合わせするとか馬鹿じゃねえの?
なあ、馬鹿だろ。なんで自らヤバそうな場所に前線基地を構えるんだよ。
これで別の異縁存在とか出てきたらどうするつもり?
……まあ、勝てそうなのがわんさかいるのはそうなんだけど。
「わあ、ここが縁理庁の秘密基地なんですね」
「違うわ。廃病院を使用しているだけよ」
知ってるわ!
という訳で、俺はワゴン車に揺られてコンテンツ現場に到着してしまった。
逃げる事など出来るわけもなかった。空を相手にどこに逃げれば良いと言うのか。
『うんうん、良いですねぇ。ここはコンテンツで満ちています。霊脈が通っているからでしょうか』
『コンテンツって霊脈を伝わってるの?』
『日本古来のものはそのパターンが多いですね』
ソラが真面目にそう返事をしてきたとき、俺は会話をすることをやめた。
駄目だ。今のソラは会話にならない。
……いや、いつもそうか! わはは!
そもそも神様の言葉を理解しようとしていた俺が烏滸がましいのか。わはは! わはは……。
「ここで現地の縁者と合流することになっている。今頃は屋上で観測中だろうか。セナノ、エイ、行くぞ」
師匠は俺とセナノちゃんを肩に担ぎ、廃病院の壁へと向かって走り出す。
そして壁を数度蹴って、一気に屋上へと駆けあがっていった。
「うわああああ!? これがジェットコースターって奴ですかセナノさん!」
「違うわ。ただのトレーニングよ」
セナノちゃんは慣れているのか、されるがままだ。
それから十秒もせずに俺達は廃病院の屋上へとたどり着いていた。
三半規管がどうにかなってしまった俺は屋上に降り立つもふらふらとする。
「せ、セナノさん……目が……回って」
「もうしっかりなさい。ほら、マシになるまでは私に寄りかかってゆっくりしていいから」
「うぅ、ありがとうございます……」
俺は完璧かつ自然な形でセナノちゃんに寄りかかる。
そして弱弱しく歩を進めた。
『どうっすか監督』
『腕を上げましたね、エイ。隙あらばこうしてコンテンツを生み出すとは』
『勿体なきお言葉だっぺ』
俺の任務はこの地で起きた事件を解決することだが、他にもこのコンテンツモンスターで余計な事件を起こさない事も重要だ。
だから定期的にこうしてコンテンツを補給しないと暴れかねない。
「さて。……私は派遣されたS階位縁者! 東園ネネだ! ここで合流する予定の縁者はいるか!!」
本当に人間かと疑わしくなる程の爆声であった。
師匠が声を張り上げた瞬間、近くの木々から一斉に鳥たちが飛び立ち、俺の手足もビリビリと震えている。
凄まじい肺活量と強靭な喉がなせる業なのだろうが、別に普通に呼んでも良かったんじゃ……。
「うえぁっ!?」
ほら驚いてるじゃないっすか師匠。
「師匠、うるさいです」
「すまない。何か嫌な気配がしたので、少々威嚇した」
「対処法が動物と同じなんですよ師匠。というか、意外と近くに居たみたいですし」
すぐ傍の貯水タンクの上から、一人の少女が情けない悲鳴と共に落ちてきた。
灰色の髪をした、作業着の少女である。
俺は数多くのコンテンツに触れてきた人間なのでわかる。
あの髪色で普通の少女は絶対にあり得ない。あれもコンテンツだ。
「いてて……」
「すまない、驚かせてしまったか」
「心臓が爆発したかと思いました……迎えに行こうと思ってあそこから降りようとしたときに急に叫ばれましたから。というか、さっきまで下の駐車場に居ませんでした?」
「登った」
「え?」
「壁を登った」
灰色の髪の少女は信じられないものでも見るかのようにこちらを見る。
俺とセナノちゃんは同時に頷いた。
「流石はS階位という訳ですかね。まさか道すら自分で作り出すとは。……天才ってのはこれだから」
少女は人当たりの良さそうな情けない笑みを浮かべている。
が、最後に呟いた小さな言葉を俺の耳は聞き逃さなかった。
『オソラサービスは、音声もお届けしますよ^^』
逃さなかったというか、逃してくれなかったというか。
「私は的井シオ。封縁派遣職員です。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む。私は東園ネネ。こっちが三鎌セナノ。どちらもS階位だ。そしてこっちが私の弟子の折津エイ。まだ未熟だが、光るものは確かにある」
「よろしく。セナノでいいわよ。それと、敬語じゃなくてもいいから。気楽にやりましょ」
「よろしくお願いします! エイです!」
警戒心など知らないように俺はシオちゃんへと近づき、その手を真っ先に握る。
陽だまりのようなポカポカおててに握られて、シオちゃんは驚きつつもそっと握り返してきた。
「……なんか、皆めっちゃいい人」
「そうです! 師匠とセナノさんはすっごくいい人なんです。それに強くて、かっこよくて……! とにかく凄くて凄いんです!」
「ふふふ、確かに私はエリート中のエリートだから当然の評価ね! シオも頼ってくれて良いわよ!」
「あ、ども」
褒められて上機嫌になった様子のセナノちゃんはシオちゃんにずいと近づき、胸を張って自分をアピールしている。
少しシオちゃんが引いていることに気が付いていないのがまた可愛らしい。
「それで、シオ派遣職員。ここに合流予定の縁者もいると思うのだが、どこだろうか」
「ああ、それならさっき貴女達を迎えに行くって下に降りて行ったよ。まさか壁を登るとは思ってなかっただろうし。まだすぐ下の階にいるかもしれないから、呼んでくるよ」
「私も同行しよう」
師匠はそう言ってシオちゃんを担ぐ。
「えっ」
何が起きたのかわかっていない状況のシオちゃんと目が合った俺達は、とりあえず手をひらひらと振って別れを告げた。
その乗り物、勢いと速度がとんでもねえから気を付けな!
「行くぞ、シオ派遣職員。案内してくれ」
「それはわかったから降ろし――きゃあああ!」
悲鳴の残響と共にシオちゃんはその場から消えた。
今度はきちんと屋上の出入り口から飛び込んだので、そこまでエキサイティングではないだろう。
「私達はここで待っていれば良いわね」
「そうですね。うーん、それにしても良い天気です」
御空様の機嫌を表しているように、空は雲一つない青空である。
俺の記憶が確かなら十月なのだが、今日も30度を超える猛暑だ。
こうも暑いと、流石の俺もソラに文句が言いたくなる。
『ソラ、ちょっと最近『エイ、マンションが気になると言いなさい』……はい』
オーダーが入ったので従順に働くよ!
「セナノさんセナノさん」
服の裾をちょいちょいとつまみ、俺は街の方を指さす。
どこにでもある少し寂れた街並みの中に溶け込んだ一つのマンション。
蛇影窓事案の時に訪れたマンションとどこか似た雰囲気を感じるのは、薄汚れた外装や遠めに見ても劣化がわかるからだろうか。
確かに街並みの一つとして存在している筈のそのマンションは、妙な気味の悪さがあった。
「あのマンションが気になります。なんか、ムズムズするんです」
不安げに見上げた俺に返ってきたのは、優しい手のぬくもりだった。
慣れた手つきで頭を撫でるセナノちゃんに俺はそっと身を預ける。
「あれは味方だから大丈夫よ。まあ使い方を間違えれば即死だけど」
「そうなんですか」
「ええ。だってアレは」
「――呪い。だもんね」
声と気配は唐突に背後から発せられた。
遠く離れた筈の海の潮騒が耳の奥まで届いている。
鼻腔をくすぐるのは、覚えのない懐かしさを抱かせる潮の香り。
「っ、誰!?」
弾かれたように振り返るセナノちゃんと一緒に背後を見る。
そこには、見覚えのある少女がいた。
健康的な日焼けに師匠ほどではないが高い身長。
そう、彼女こそ――。
「やあ久しぶり二人共!」
海原ミナコ。別名、潮哭ノ巫女。
この時点で、俺はもう帰りたくてたまらなかった。