【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第127話 ミカタ

 その存在は縁理庁により厳重に管理されている。

 例えS階位であろうとも、その名を知る者は少なく仮に一般の縁者がその名を知れば、即座に記憶の洗浄処理が行われるだろう。

 空澱大人などに続く第三の管理型災主級異縁存在――潮哭ノ巫女。

 セナノ達がその名を覚えているのは、偶然が重なった結果に他ならない。

 霧笑事変によりその存在が知られることになった空澱大人とは違い、潮哭ノ巫女はまだ秘匿された超常の存在だ。

 

「あれ? こういう時、人間は再会を喜ぶと思うんだけど……違ったかな」

「潮哭ノ巫女……!?」

「ミナコだよ。少なくとも今はね」

 

 ミナコは自分の顔を指さして快活に笑う。

 その内側に何が入り込んでいるのかを知っている二人からすれば、その笑みも機械的なものにしか見えない。

 彼女の髪を揺らす風すらも用意されたものに思えてしまう。

 

「そんなに警戒しないでよ。一緒に灯らぬ社をぶっ飛ばした仲じゃん? エイちゃんも、相変わらず元気そうでよかったよ」

 

 その言葉に嘘偽りはなく、まるで長年連れ添った友の様にミナコはセナノへと手を差し出す。

 意外にもそれを拒否するように間に立ったのは、エイであった。

 

「……なんのつもりですか」

「あれれ、なんか嫌われてるな私」

「当たり前です。今だって潮哭が辺りに満ちている。……貴女、人を無差別に殺しているじゃないですか!」

 

 空を視点として持つ者だからこそ、エイだけは正確に知っていた。

 この街でどれだけ凄惨な事件が今も起きているのかを。

 突き付けるように、責め立てるように告げられたその言葉に対してミナコは変わらず笑い続けている。

 まるでその表情が気に入っているかのようだ。

 

「確かに起きてるねえ。異縁存在の窓になり得る存在だけじゃなくて、一般人もまとめて沈めている。それも雑だ。あれじゃあ死ぬよ。潮圧で死ぬ」

 

 レジャーシートに体を投げ出したミナコは、リュックサックからおにぎりを取り出すと遠くに見える海へと視線を向けた。

 それから心地よい潮風を浴びながらおにぎりを頬張る。

 

「良い風だ。磯の匂いも綺麗で潮騒も賑やか。きっとあの街では多くの人が海と共に生きてきたんだろうね」

「だったらどうして」

「私は何もしてないよ」

「そんな訳ありません。だって、これは間違いなく潮哭ノ巫女の力でしょう!」

「エイ、落ち着きなさい。……嘘をついているようには見えないわ」

 

 空澱大人と潮哭ノ巫女の戦いをここで始めるわけにはいかない。

 故にセナノはあくまで冷静にエイを宥めた。

 が、理由はそれだけではない。

 過去、行動を共にした経験からセナノはミナコという存在を信頼していたのだ。

 

「前に灯らぬ社を処理した時も人のために動いていた。今回もそうなのかしら」

「勿論! 私は人間を愛しているからね。母が子を愛するように。あるいは花を愛でるように」

 

 自身の隣を手で示し、座る様に促すミナコ。

 それを見て互いに頷いたセナノとエイは、少し離れた場所に腰を下ろした。

 

「まあ、まずはおにぎりでもどうぞ」

「申し訳ないけれど、朝食は決まった時間に食べる事にしているの。そしてもう朝食は済んでいるわ」

「流石はエリート! じゃあエイちゃんどうぞ」

「……む」

 

 おにぎりを差し出されたエイは、ミナコとおにぎりを交互に見つめそれから手に取った。

 それから疑うようにそれを観察して、青空へと一度捧げるように持ち上げる。

 空に変化はなく、相変わらず静かで深い青だけがそこにはあった。

 

「……問題はなさそうですね。いただきます」

「はい召し上がれー」

「もぐ……うまぁっ!? セナノさんこれ美味しいですよ! 海苔の深くきめ細かな風味とふっくらとしたお米! それに塩気が完璧な鮭が真ん中にぎっしりと詰まっていて――」

「貴女さっきまでの警戒はどうしたのよ」

「ハッ、そうでした! ……ミナコさん、今の状況を説明してください。何故、潮哭が起きているのですか」

 

 お茶を受け取りながら、エイはキッと睨みつける。

 しかしその迫力は全くと言って良い程になくなっていた。

 

「さあ? 言ったでしょ。私は何もしていないって。詳しい事は……縁理庁の方が良く知っているんじゃないかな」

「……どういう意味かしら」

「そのままの意味だよ。私はあくまで管理されている異縁存在。つまりは道具。道具が持ち主よりもその行動に対して深く理解していると思う? 私の方が聞きたいくらいだよ。……どうしてこんな馬鹿な事をしたのか」

「貴女、何か知っているんじゃない?」

「知らないよぉ。私は空澱大人や開闢蘭(かいびゃくらん)みたいに情報を盗み見るのは得意じゃないんだ。空と大地とは違うの」

 

 おにぎりを食べ終えたミナコは名残惜しそうに指先を舐めて立ち上がる。

 そして誘われるように手すりまで歩を進めると、それに背を預けてセナノ達を見た。

 錆びて変色した手すりはミナコの体重を受けてぎぃと軋んだが、彼女は気にしていないようである。

 それよりも今は、この言葉を告げる方が彼女にとっては大事だった。

 

「仲良く事件を解決しようよ、セナノちゃん。エイちゃん」

「……ひとまず、戦うのはやめておくわ。エイもそれで良いかしら」

「はい。それと、ごちそうさまでした」

「良い食べっぷりで嬉しくなっちゃうな。仲良くやろうね、エイちゃん」

「勿論です。あれだけ美味しいおにぎりを握れる災主級に悪い災主級はいません。よろしくお願いします、ミナコさん」

 

 ミナコは相変わらず親し気に距離を詰める。

 美味しいおにぎりを食べたからか、エイも警戒を解き素直にそれを受け入れていた。

 その光景だけを見ていると、緊張感を持ち続けていた自分がバカらしく思えてきてセナノは思わずため息をつく。

 

「どうしたの? もしかして不安になっちゃった? 大丈夫だよ。今ここには海と空が揃ってる。負けは絶対にないよ」

「そうですよセナノさん。皆で力を合わせて解決しましょう!」

 

 拳を握って力強く頷く姿は相変わらず可愛らしい。

 が、セナノはそこで改めて理解する。

 今、自分の目の前には災主級が二体いるのだ。

 それも殆ど縁理庁の制御が利かない状態である。

 どちらも、個の判断基準に沿ってたまたま人類に都合の良い行動をしているだけに過ぎなかった。

 

「……お願いだから、私と師匠の言う事は聞いてね」

「はい!」

「勿論だよ。……あ、今回はシオちゃんも一緒だからよろしくね。私の友達なんだ」

「さっきの子ね。なんだか苦労してそうな子だったわ」

「そうだね。すごく大変だよ、あの子は。……と、来たね」

 

 ミナコの言葉が途切れるよりも早く、手すりの向こう側から何かが高速で駆け上ってくる。

 それはそのまま屋上の中心へと着地をしてみせた。

 今更正体を探る必要などない。外壁を登り屋上に来る人物など一人しかいないのだから。

 

「む、やはりここにいたのか。シオ派遣職員の言うとおり、どこかで入れ違いになったようだな」

「だ、だから戻ろうって……うぷ、うぇ」

「あははっ、大丈夫?」

「ミナコ……ごめん。しばらく横になる」

「シオー!」

 

 災主級二体とS階位二人に囲まれた、この場で最も非力な少女は人力ジェットコースターによりあっけなくダウンしてしまった。

 レジャーシートにシオを寝かせて、ミナコは困ったように笑う。

 

「えーと……まあ、一人ダウンしちゃったけど、改めて……私がこの観測地点の代表者兼、縁者の海原ミナコです」

 

 差し出された手をネネはじっと見つめる。

 それから手は握らずミナコの顔を見た。

 

「階級は」

「C階位だよ」

「嘘だな」

「……え?」

「見ればある程度、実力がわかる。お前は相当強いだろう。何者だ?」

「……嫌だなぁ、初対面でそんな事を言われると困っちゃうよ。私はただの下っ端縁者だって」

 

 ずいと手を伸ばし、ミナコは無理やりネネの手を握る。

 その間もネネは探る様にミナコを足から頭のてっぺんまでを観察し続け、興味深そうに視線を動かしていた。

 が、これ以上探っても何もないと判断したのか、ネネは諦めたように手を握り返す。

 するとミナコは嬉しそうにより一層笑った。

 

「うんうん、信用してくれて嬉しいよ!」

「別にそういう訳じゃない。例えお前が私を欺いて裏切ったとしても勝てるからな。それよりも優先するべきことがあると判断しただけだ」

 

 こんな場所で仲間割れをしている時間はない。

 ネネがここに派遣されたのは、この街で起きている大規模な異縁存在による現象を処理するため。

 そして、この地に満ちた呪いを喰らう為である。

 

「潮哭を抑える為とは言え、八方塞は随分と派手にやったな。これは引継ぎまでに随分と鍛えられるぞ」

 

 どこか嬉しそうなネネの視線はマンションへと向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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