【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
「こんにちは」
「こんにちは」
「こんにちは」
「こんにちは」
はい、こんにちは!
うるさいから少し黙ってくれると助かります!
そして全員、そのおぞましい箱を頭から取れ!
……取った方がグロテスクならそのままで良し! 無理を言ってごめんね!
「もう少しだ、走り続けろ!」
「はい」
「よっしゃあ! シオ、乗り心地はどうかな!」
「うおぇっぷ……」
「ぜぇっ……ぜぇっ、こひゅ……」
「師匠、エイとシオがそれぞれ別ベクトルで限界です」
「構わん」
「えぇ……」
どうして三人は全速力を10分も維持できているんですか?
人間の体の構造的に速度が上がっていくのもおかしくなーい?
俺、一応は空澱大人に体を強くしてもらっているんですけど!
『ソラ、俺はもっと速く走りたいよ。体力が無くてこのままだと置いて行かれちゃう!』
『内臓が今は無いのでこれ以上は早く走れませんよ。肺が二つとも無いのは流石に持久力の低下に繋がっていますねぇ』
『なんてことしてくれたんだ』
オソラナイナイの中でも過去一で全部持っていってない?
『仕方が無いですよ。それらは内臓を捻り潰すことをトリガーとして対象を殺します。なので、最初から無くしてしまえば呪いの対象からは逃れる事が出来る。これがロジックです』
『ほんとかなぁ』
『この箱達は中々厄介ですからね。まあ私なら箱の中身を空白にすればすぐに無力化できますけど。恐らく一度でも空っぽになればその瞬間に構文が破壊されるでしょう。それは良くない。コンテンツが世界から一つ減ってしまいます』
『だから俺の内臓をナイナイする方法を取ったと?』
『はい。これが最も安全かつ、エイの苦しむ顔も楽しめますからね』
『一石二鳥って訳かぁ! 御空様の賢さにはまいったぜ!』
っざけんな。
「エイ、大丈夫!? 貴女だけ顔色がほぼ呪いを受けたみたいになっているわよ!?」
「こひゅ……こひゅ……あい、さつが、ずっと聞こえて……」
「師匠、ヒバリを起動する許可を!」
「許可する」
走りながらセナノちゃんはギターケースを開ける。
その瞬間、中から弾かれたように飛び出してきたのは燃える小鳥であった。
『認識接続、オース・リンク開示。確認しました』
セナノちゃんの一定だった走るリズムがそれをきっかけに不規則なものへと変化していく。
それは音と歩幅による祝詞と舞。
全力疾走中のセナノのそれは、普段よりもずっと速くヒバリを成長させていった。
が、セナノちゃんはそれを使って何を……?
「ヒバリ、エイを掴んで飛びなさい」
「こひゅ?」
途端に俺の肩を温かい何かが掴み上げ、浮遊感が襲う。
それからすぐに俺の視点は少し上昇し、足は空を切るようになった。
お、オイラ、空を飛んじまってるよ!
……いや違う、これ餌として捕まった小動物だ!
「ヒバリであっちまで運んであげる」
「あり……がと、ござ……ぜぇっ、ぜぇ」
「まずは呼吸を整えなさい。それから答えて。挨拶って何?」
ヒバリに掴まれたまま、俺は呼吸をゆっくりと整える。
どうして肺が無いのに整えられているのかは、あまり考えたくはないのでやめた。
「街の至る所に箱を被った人々がいます。全員が女性で、じっとこちらを見つめている。動くことはなく、ただずっとこんにちはって呼びかけているんです」
「……師匠、結構マズくないですか」
「大丈夫だ。内臓がねじ切れるだけで済む」
「それは済むって言わないですよ師匠」
「内臓を修復できる異縁存在は無数にある。それに、マンションに近づけば近づくほどに理性を保った個体が増えていくだろう。マンションが近いからな」
俺、本当に今味方の所に向かっているんだよね?
すごく大変だけど、本当に味方でいいんだよねその人。
『箱で顔を覆われて痙攣したエイもいいですねぇ。あの人間に見せてあげたいです』
この神様も味方でいいのかなぁ。
どうしよう、青い箱を用意し始めたら。
「もうすぐだ。速度を上げるぞ」
「はい」
「よっしゃー!」
化け物アスリート三人組はさらに加速しマンションへと向かう。
ミナコちゃんの背中には三半規管が駄目そうなシオちゃん。ヒバリの足の先にはぶらーんと垂れ下がった俺。
そうして俺達は、そこから5分さらに走り続けマンションへと到着することが出来たのだ。
■
背中に揺られて果たしてどれだけの時間が経過しただろうか。
「ほら、着いたよシオ」
名を呼ばれてシオは目の前の建物を改めて認識する。
どうやら目的地に到着したようだ。
「ありがと……うぷっ」
「よく吐かなかったね! 後で、お茶をあげるよ!」
今はこれ以上喋ると色々と出てきてしまいそうなので、シオは手で礼を示して背中から降りる。
地面のしっかりとした感触が妙に久しぶりな気がして、彼女は何度かその場で軽く足踏みをした。
「ふう、準備運動としては良かったわ」
「セナノさーん、降ろしてくださーい」
「ふふっ、今のエイはなんだか洗濯物みたいね。ちょっと写真とっていいかしら」
「勿論です! ぴーす!」
派遣されたエリート組はこの程度で音を上げる事はないらしい。
一人、体力の無さが露呈してはいたがそれ以外は全く問題ないようだ。
(あの子も私と同じように見えていたんだよね)
道中でエイが話したそれは、自分が体験した出来事と同一であろう。
それ故に今の彼女が平気な顔でピースサインをしていることが信じられなかった。
(やっぱり縁者として生きていくならこれくらいは図太くないと駄目なんだ。すっごぉ)
ヒバリに依然として吊るされたまま撮影会をしているエイを見ながらシオは真面目にそんな事を思っていた。
いつの間にかミナコもそちらに向かっており、一緒に写真撮影をしている。
どうやらここに来るまでに余裕が無かったのは自分だけらしい。
「……縁者に混ざる派遣職員って浮きすぎだわ」
聞こえないように呟き、彼女はマンションを見上げる。
外壁が一部剥がれ、手すりがやや錆びている八階建てのマンションは、長い事この土地で潮風に晒されていたであろうことが窺える。
.
駐輪場の端で捨てられるように転がされている子供用自転車は、一体いつから使われていないのか。元の鮮やかだったであろう色は褪せて辺りの景色に溶け込むようにひっそりとしていた。
シオがそれを目にしたのはそばに箱を被った子供がいたからであるが、彼女はすぐに視線を逸らす。
もうあんな思いは沢山だった。
「やはり八階。……本気だな、八方塞は」
エントランスへと続く薄汚れたガラス扉上部にはメゾンドハッカイと刻まれたプレートが設置してあった。
シオは、今だに体に残る倦怠感や眩暈をぐっとこらえネネの言葉に耳を傾ける。
「中に入ればもう安全だ。ハッカイなら、
「八子? 師匠、八子ってお友達ですか?」
「そうだ」
エイの問いに首肯したネネは、迷うことなくマンション内へと足を踏み入れる。
他の者達はそれを見て続いたが、警戒を解くことはない。
なぜならば、ネネはまだその手にカミキリを持ったままだからである。
「さ、私についてこい。今回ばかりは壁は登れん。エレベーターも住人以外は使用禁止だから「出たな泥棒猫ォ!」……お、来たか」
エントランスに入ってすぐ聞こえてきた階段を駆け下りる音と明らかに歓迎していない声。
それは手すりを乗り越え一気に飛び降りると、ネネへと向けて襲い掛かった。
「お前を殺す」
「手厚い歓迎感謝するぞ八子」
振り下ろされた腕をネネはカミキリで受け止めた。
瞬間咀嚼音が響き、受け止めた腕が一本丸まる捕食される。
「あっ、また食べたぁ!」
腕を失ったそれはネネの目の前に降り立つと、不服そうに睨みつける。
今失った片腕を除けば、それはどこにでもいる少女だった。
栗色の髪をボリュームのあるツインテールとしてまとめたメイド服の少女である。
キッと睨みつけてはいるが、元来の可愛さは抜けきっておらず、丸い瞳が特に小動物に見上げられているように見えた。
というか、そもそも背が小さい。
(私よりも小さい。……140くらいかな)
ネネの前に立つと、巨人と小人である。
彼女は依然としてネネを睨みつけたまま警戒する野良猫のように叫んだ。
「またはっちゃんを誘惑しに来たんだろ! そうなんだろ! この卑しい泥棒猫!」
マンション内に響き渡ったのではないかと思われるほどの魂の叫びに対して、ネネは表情一つ変えずにシオ達へと振り向く。
その瞬間に八子は再び襲い掛かったが、難なく防がれ、むしろ腕がもう片方無くなった。
「見ての通り、彼女は私の友人だ」
「お前! 私を馬鹿にしてんのか! 呪う! 絶対に呪う!」
怒る八子に対してネネは無表情ながらもどこか誇らしげに見えた。
『へえ、贅沢に使ってあの人間モドキを作ったんですねぇ^^ おもしろ』
『入ってすぐに怖い事言うのやめてね』