【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第130話 セイカツ

 幾度となく階段を昇り、目指すは八階。

 が、既にシオとエイの足は限界に近かった。

 

「あ、足がもうプルプルです……。御空様に助けて貰って良いですか……?」

「絶対に駄目よ」

「ミナコ、おんぶ……吐くかもしれないけどおんぶ……」

「うん! 絶対に嫌だ!」

「「あぁっ」」

 

 二人は絶望したように手すりに摑まる。

 そしてプルプルと足を震わせながら一歩ずつ進んでいた。

 一人は純粋な疲労、そしてもう一人は恐怖体験とジェットコースター体験による三半規管の崩壊が原因である。

 

「頑張りなさい、エイ。この狭さじゃヒバリは無理だから」

「じゃあ、私をおんぶ……」

「…………だ、駄目よ」

「私は吐きませんよぉ!」

「そうじゃないわ! その……えっと」

 

 今のエイは汗をかなり流している。

 暑さと運動により滝のように流れ出た汗は、髪は頬に張り付かせ、服も雨に打たれたようになっており体のシルエットがややわかるものになっていた。

 こんな状態でおんぶなどしてしまえば、どうなるか分かったものではない。

 

(こんな状態のエイをおんぶしたら確実に感情が昂る。そこをかぐとあ様に感知でもされたら……どうなるかわかったもんじゃないわ)

 

 汗を流させるために日本を灼熱の地獄に変える可能性すらある。

 そんな中で、セナノが安易におんぶ出来るわけがなかった。

 そもそもそこまで感情を昂らせることが無ければ問題が無いという事に彼女は気が付いていない。

 汗だくエイとの密着は、セナノにとっては甘美な毒なのだ。

 

「セナノさぁん……足がもうボロボロです……」

「こ、これは……そう! 足腰を鍛えるための特訓よ。もしも昇りきることが出来たら、後でお夜食ラーメンを二回許可してあげる!」

「お夜食ラーメン!? 夜にラーメンを食べていいんですか!? いつもはちっちゃな飴でも怒るのに……」

「トッピングと替え玉も許可するわ」

「わぁい! じゃあ昇ります! 頑張るぞ!」

「えっ、エイちゃんそれでやる気出るの……?」

 

 信じられないとでも言いたげにシオはエイを見る。

 相変わらず足は産まれたての小鹿のようだが、エイの目に再び光が灯っていた。

 

「シオにもご褒美あげようか? うーん、後で私の集めた海の宝物見せてあげる!」

「ごめんそれじゃあこの眩暈は消えないよぉ。私もなんとか頑張るから……気にしないで……」

「そっか。わかった。無理そうだったら言ってね? ここで待機させるから」

「絶対に言わないと誓うね」

 

 色々と見てしまったシオにとってそれはもはや脅しに近い。

 何とか自分から視線を逸らそうと、シオは前を進む二人を指さす。

 

 合流したネネと八子の仲は、お世辞にも良いとは言えないようで、今も二人で随分と盛り上がっていた。

 

「シャァー!」

「猫の真似か。巧いな」

「威嚇してんだよ! くそっ、なんでこいつ呪いが効かないんだ!」

「良い呪いだ。中々に食べ応えがある」

「食べるなぁ!」

 

 騒がしく先導する二人をセナノは少しだけ緊張した面持ちで観察する。

 

(ずっとカミキリが発動している。何かを食べ続けているんだ)

 

 絶え間なく続く咀嚼音は、まるで大量の人々が自分を囲んで晩餐をしていると錯覚させる。

 そう、晩餐だ。華々しく、豪勢に。 

 まるで歯ごたえを味わうように荒々しくかみ砕き、喉ごしを体験するために一気に流し込む。

 ネネが背負うNARROWは、今まさに呪いを楽しんでいる最中だった。

 

「……ねえねえセナノちゃん、隣の人って凄いの?」

「わからないわ。でも、八方塞さんの知り合いでしょうね。相棒の縁者かも」

「ふーん。あれだけ詰め込むなんて、随分な贅沢者だね」

「え?」

 

 ミナコは自分の問いには答えさせておきながら、肝心なところは笑って誤魔化した。

 そしてセナノの不服そうな顔など無視してミナコは問いを続ける。

 

「ちなみに八方塞って縁者は凄いの? 私、結構気になっているんだけど」

「そうね……私が知っているのは「今、はっちゃんの事が知りたいって言った!?」……八子さんが話してくれるんじゃないかしら」

 

 囁くような声に反応した八子は首をぐるりと180度回転させ、ミナコの方を向く。

 そして、今までの不機嫌が嘘のように笑顔になった。

 

「貴女、はっちゃんの事が知りたいんだね! しょうがないなぁ! あのデカブツ食いしん坊泥棒猫とは違うみたいだし、教えてあげるよ」

「今、私は褒められたようだな」

「そうですね師匠」

 

 師匠の自尊心を守るためにセナノは表情を変えずに同意した。

 

「はっちゃんはね、凄い縁者なんだ! なんと、20歳でS階位になったんだよ! 最年少のS階位なんだ!」

「ん? セナノちゃんもS階位なんだよね。今、17歳だっけ」

「……そうね」

 

 嫌なタイミングで話を振られたセナノへと、すぐに八子の視線が向く。

 が、年齢の話題が出た時点でセナノはすでに言葉を選別していた。

 

「けれど、私がS階位にすぐになれたのは新型のNARROWを扱えることや師匠からの推薦があったからよ。八方塞さんはそういったものが無く純粋に己の実力だけでS階位になった凄い縁者。私と比べるまでもなく強く経験豊かな方でしょうね(早口ノンブレス)」

「わかってんじゃーん! 良かったぁ。危うく、角部屋を貸す所だったぁ」

 

(なんだかわからないけど助かった……!)

 

 ホッとしたセナノを助けるように、運が巡る。

 今まさに、彼女達は長い階段を昇り終えたところであった。

 

「どうやら八階のようだ。さて、どの部屋にいるか教えてくれ八子」

「命令すんな泥棒猫!」

「お前の方がよっぽど猫らしいが」

「フシャァー!」

 

 声にならない威嚇をしてひと睨みした八子はずんずんと奥へ進んでいく。

 と、その時すぐ横の扉が開いた。

 

「あ、八子ちゃん。こんにちは」

「こんにちは八尾さん。今日もいい天気だね」

 

 一室から出てきたのは穏やかそうな中年の男性だった。

 野暮ったい黒フレームが特徴的な眼鏡を掛けたその姿はどこかどんくさそうにも見える。

 

「そうだな。おかげで子供たちが出かけるって言って聞かなくって。こんなの久しぶりだからさ」

 

 言葉を証明するように、元気に扉の向こうから二人の幼い子供が飛び出してきた。

 日差し除けの帽子に短パンと、今からまさに遊ぶ格好である。

 

「あ、八子ちゃんだ! こんにちは!」

「八子お姉ちゃんだー!」

「おうちびっ子達、元気だな。外に行くんだって? だったらきちんと閉じなきゃ駄目だよ?」

「「うん!」」

 

 二人は元気に頷く。

 それから二人は、ネネ達に気が付いたようで興味深そうにその姿を見上げ観察していた。

 

「でっかぁ」

「おっきぃ」

 

 無邪気に駆け寄る子供達を見ながら、八尾は穏やかな声で問う。

 

「……八子ちゃん、彼女達は報酬? お客様?」

「残念ながらお客様。はっちゃんの知り合いだからVIP対応よ」

「そうかぁ。それはそれは」

 

 八尾はネネ達の前に立つと、子供達を引き剥がしながら礼をした。

 

「息子たちがとんだ無礼を。ジロジロと人を見ては駄目だよ?」

「はーい」

「ごめんね」

「いや、構わない。それよりも外に出るなら暑さに気を付けろ。水分補給は大切だ」

「うん!」

「ありがとう、でっかい姉ちゃん!」

「ああ」

 

 子供たちは元気な掛け声とともにエレベーターへと向かって行く。

 八尾もそれを仕方が無さそうに笑い、再び一礼をして去っていった。

 

「つかれましたぁ……」

「い、今の人ベランダで見た気がする……うえっぷ、やば、吐きそ……」

 

 それと入れ違うように、ようやくエイとシオが階段から姿を現すが、どうにもシオの顔色はさらに悪くなる一方であった。

 二人はよろよろとネネ達に近づいていく。

 

「ゴールはどこですか……」

「もうすぐだよ。こっちこっち」

 

 八子はずんずんと奥へ進む。

 通り過ぎる部屋からは賑やかな声が聞こえ、あるいは料理の良い匂いが漂ってきた。

 このマンションは生活と営みで溢れている。

 そう実感する、そんな落ち着く音や香りだ。

 

「ここだよ! はっちゃんの愛しの部屋!」

 

 そう言って八子が指さしたのは何の変哲もない一室だった。

 

『888号室』と刻まれたプレートと古びたドアノブに錆びた郵便受けだけが特徴のその扉の前で一同は止まる。

 

「じゃ入ってよ。泥棒猫は外で待機でも良いけど」

「邪魔するぞ」

「遠慮ないんだよな、こいつ。はぁ、ちょっと待ってて」

 

 八子はそう呟き、扉の前に立つ。

 その瞬間、彼女の頭が縦にズレた。

 

「ひえっ」

 

 まるで両断されたかのように頭部がずり落ち、中から白い何かが規則的に飛び出してくる。

 その光景に誰もが、裏返ったのだと理解した。

 頭部の中に収めてあったそれと、八子の頭部が裏返る。

 

 そうして彼女の顔があったはずの場所には今、白い箱が乗せられていた。

 まるで大理石のように滑らかで、美術品のように鮮やかな白。

 妙な冷たい雰囲気は、それから生の気配を感じないからだろう。

 傷一つない、白い箱。

 故にこそ、それはそこに在るだけで異常だった。

 

「じゃ、閉じたし入ろう。泥棒猫、お前は最後だ」

「むぅ」

「不服そうにすんな」

 

 箱からは相変わらず声が聞こえる。

 先ほどとは違いくぐもってはいるが、それは確かに八子の声だった。

 

「じゃ、ようこそ私とはっちゃんの愛の巣へ!」

 

 箱を被って八子は浮かれた声色で扉を開ける。

 開けた先でネネ達を出迎えたのは、薄暗い以外はなんの変哲もない廊下だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エイ、団地妻♂になるのも一興だとは思いませんか?』

『酔狂だとは思いますねぇ』

 

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