【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第134話 カイニュウ

 高く深い青空が見えるここはメゾンドハッカイの屋上である。

 さんさんと照り付ける太陽と吸い込まれてしまいそうな青の空は、未だに夏の様相を呈していた。

 これほどまでに堂々とした異常気象があるだろうか。

 陽に照らされ白んだ街並みを見下ろしながら、シオは無意識の内に汗をぬぐった。

 

「暑い……」

「私が日陰を作ってあげよう!」

 

 広げた両手が角のようになり奇妙な生き物にも見える影が傍に生まれる。

 シオは礼を言うと、そこに潜り込んだ。

 

「うひー、ありがとミナコ。また倒れる所だったよ」

「その時はまたおにぎりをあげよう!」

「おにぎりを万能薬だと思ってるね?」

 

 直射日光さえ避ければ、高所へと吹き付ける潮風は中々に心地が良い。

 これで海が陽光を反射しきらきらと鮮やかな色を見せてくれたのならいう事はないのだが、相変わらずその場所だけは鬱屈とした色をしていた。

 

「邪魔しないように、私達はこのまま端っこにいようか」

「うん。ここからはエイちゃんのお仕事だからね」

 

 彼女達が屋上へと来た理由はただ一つ、エイが空澱大人の力を行使する為であった。

 広い屋上の中心にはエイ。

 そしてもしもの時に備えてそれぞれのNARROWを構えたセナノとネネが二メートル程距離を空けて立っている。

 どちらもすぐに動き出せる距離であった。

 

「では、師匠と八子さんも戻って来たので、今度は私の出番ですね!」

 

 エイは両手を胸の前で握り、ふんすと鼻息を荒くする。

 張り切っている彼女の姿はまるで運動会で親に良い所を見せようとする子供だ。

 微笑ましく見守るセナノやネネとは違い、八子はどこか緊張した様子で服の裾をそっと握った。

 

「この目で実際に見て、緊急事態であると判断した。私と八方塞、そしてセナノの三人のS階位の許可があれば上も文句はあるまい」

『僕はここからスマホで見ているだけですけどね。すみません、出不精なもので』

「構わん。そういう構造なのだから、恥じることも悪く思う事もない」

『……かっこいい』

 

 スマホから漏れ出た言葉は八子の怒りに当然のように触れた。

 

「チッ……それで、実際に何をするのか教えて貰って良いかな」

 

 意識を逸らすための問いだった。

 そしてそれは十分すぎるほどに効果をもった答えとして返ってくる。

 

「今からここに御空様を呼びます」

「……御空様って、空澱大人? え、本当に!?」

「はい。と言っても御空様は全てを見ているので、改めて意識をこちらに向けて貰うだけですが」

「各観測所に言わないと!」

「大丈夫です。ここだけに視線を向けて貰えば良いんです」

 

 エイの視線は既に空を捉えていた。

 やがて両腕を広げ、空を抱きしめるような姿勢をとったエイはそっと呼びかける。

 

「たた なが ひそ くく ことはら みなし な いず みよ」

 

 言葉に人間の理解できる意味は存在していない。

 それは世界を覆う天蓋、万物全ての上に存在する者へと向けられた祝詞である。

 

「来たわね」

「……来たか」

『っ、うわっ、なんだこの感じ!』

 

 最初に理解したのはS階位達であった。

 異縁存在にはフィクションで語られる魔力や霊力などというものは存在しない。

 故にその肌で感じ取るのは死であった。

 

 人間の理解の外にある怪物より無邪気に手渡される残酷な未来を経験則から予測し己の体が無意識の内に警告するのである。

 

 世界から音は消え、入れ替わるように辺りから沸き立つのは蝉時雨。

 風も波も木々も全てが空の支配の下にあった。

 

「これが空澱大人……」

 

 全員の視界にあるのは青。

 人間の警戒心など嘲笑うかのように、本能が強制的に空を見上げさせたのだ。

 視線がずらせず、視界を囚われる。

 雲は蒼穹に飲み込まれ、視る物全てを空が満たす。

 見上げているとまるで空へと自分が堕ちているようだ。

 

 その中で動けるのはただ一人、この空に選ばれた者だけだ。

 

「御空様、どうかお答えください。あの海は本当に潮哭ノ巫女ですか? 私達は今、その真贋を見定めなければいけません」

 

 空は言葉を持たない。

 が、目に映る世界に変化はあった。

 

 満たす青がより色を濃くする。

 空が固まったとでも言えば良いだろうか。

 無限に思える程に広い空間はこの瞬間に膨大な質量を持ったように見えた。

 

 自分の目の前に空が在るのではなく、空が居る。

 それは自分達人間とは違う構造で生きている異縁存在であった。

 

「――ふむふむ、なるほど。そうなんですね」

 

 ならばこそ、それと会話できる事がどれだけ異常であるか。

 世界を見下ろす巨人と会話をしているように、エイは相変わらず無邪気な笑顔を浮かべて空と話す。

 

 1分。 

 この街の上に空が顕現した僅かな時間は、永遠に感じられる程に引き延ばされて感じられた。

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

 やり取り自体は非常に簡素なものであった。

 故に全員が耐えられたのだろうか。

 エイが手を叩いた時、その視線は空から外れ逃げるように彼女へと向かった。

 同時に空が柔らかさを取り戻し、辺りを普遍的な音が再び満たす。

 

「あれは潮哭ノ巫女を模した別物です。御空様は呆れています。この世界の理を欺こうとしている愚か者がいると」

「模した……? エイ、どういうことかしら」

「……御空様はそこまでの興味はないようですね。ただ海が動いたから視線を向けてみれば違ったと。あの方からすればそれだけの事なのでしょう」

 

 その言葉は人間を逸脱し、空澱大人の側に立っていた。

 声こそいつものエイであるものの、それを真顔で告げるその姿は彼女が疑似媒介体であることを嫌でも理解させる。

 

「……待ってください」

 

 空は最後にエイへと忠告をもたらした。

 神の気まぐれとも言えるそれは、しかし確かに彼女達へと行動する猶予を与えたのである。

 

「御空様が最後に教えてくれました。あの海を作った愚者の使いがここに向かっていると」

 

 それは謎により停滞したこの状況が動き出す知らせでもあった。

 

 

 

 

 

 

【造海実験経過報告】

 

書類番号:■■-■■■■■-■■■■

提出先:■■課■■班

作成部門:縁理庁 特殊運用室(SOU)

作成日:西暦20██年10月■日

 

■実験目的

【この項を閲覧するには特可認証クリアランスが必要です】

 

■実験方法

【この項を閲覧するには特可認証クリアランスが必要です】

 

■途中経過

【この項を閲覧するには特可認証クリアランスが必要^^ありません】

 

 当初の予定通り八つの観測所に対象となるS0-1を配置。(認識洗浄によるS0-1の製造計画は書類番号:■■-■■■-■■■■を参照)

 

 EN-Ψ-7779-JPの突発的異縁現象であるとして、観測を義務付けることで疑似媒介体化を促し視覚と自己認識に対する接続を順次開始。

 

 S-888との三度の戦闘に於いて、S0-1の自己献身の発動を目視、及び数値で確認済み。

 当初の予定通り、EN-Ψ-7779-JPとの邂逅まで造海実験を繰り返すこととする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■特記

 

 N-000グループの合流によりS0-1の自己献身が加速する恐れあり。

 即座に追加のS0-1を要請。

 

 また、A-E1による実験への干渉を防ぐため、一時身柄の拘束及び監視の特別許可を申請^^

 これを縁理庁による正式な申請と見なし、三鎌縁者が抵抗した場合は現場での処分を認めるものとする^^

 

 

 

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