【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
メゾンドハッカイを後にしたセナノの後ろをついてくるのは四名の特殊武装隊員とそれを指揮する瘦せぎすの男であった。
四人の隊員が手にするのはそれぞれ取り回しが容易い小銃であり、銃弾一つ一つに対異縁存在用の構文が刻み込まれている。
C級程度の異縁存在であれば、これで十分に処理が出来るだろう。
そしてそれは人間であるセナノにも有効であった。
(私に対する警告もあるわよね……絶対)
S階位という肩書は一人で作戦行動を完了させるだけの力量と知識を示す。
セナノの場合は新型のNARROWを扱えるという事もあるのだろう。
つまるところが、セナノもまた警戒対象であるのだ。
(エイをあんな風に閉じ込めたのは私に対する警告でもある。……まったく、エリートすぎるのも問題ね)
災主級の疑似媒介体を拘束し、未だ縁理庁の息がかかっていないS階位の行動を制限するには非常に有効な手と言えるだろう。
依然として黒服の男達が所属する組織の規模や目的など具体的な情報が存在していないセナノにとってはやりづらい状況だ。
本来であれば、だが。
「――また会ったわね、鏑矢職員様」
港へと続く小さな道は舗装されておらず、雨も降っていないのに妙に湿っていた。
一本道は並んで歩くには狭すぎて、セナノが先導してそれに五人が続く形となっている。
故に、振り返ったときそこには一人の顔だけが見えた。
性格が悪そうでそれでいて疲れ切った三白眼に、褐色の悪い肌。
瘦せぎすの高身長は、季節外れの枯れ枝によく似ている。
彼はセナノの言葉に小さな会釈と共に返した。
「お互い、生きて再会することが出来て何よりです」
「感情が籠ってないわよ。……で、こんな所でもお仕事?」
「残念ながらそうですね。こういった所には旅行で訪れたかったのですが」
「私もそれは同感」
鏑矢はセナノの向こうに見える黒い海を見つめながら呟く。
その声には珍しく感情が乗っており、深い落胆と疲弊が感じ取れる。
しかしそんな事は知った事ではないと、セナノは相変わらず嫌味たっぷりな口調と共に再び前を向き歩き出す。
大股の一歩と半歩を織り交ぜ独特の歩幅で進むその行為自体が、ヒバリに奉納をしているのだ。
周囲には地面に露出した石、あるいは畑へと続く細いパイプを避けているようにしか見えないだろう。
事実、隊員の中にその歩みを注視し、警告するような者はいなかった。
ただ一人、鏑矢を除いて。
「私を相手にヒバリを使う必要はありませんよ。今回は明確に味方ですから」
「味方……? あんな事をしておいて?」
「危害を加える様子はありませんでしたから、私が動く必要はないと判断しました」
鏑矢は淡々とセナノの疑問に答える。
その姿に隊員達は徐々に異変を感じ始め、やがて隊員の一人がゆっくりとその銃口を向けたその時だった。
「■■■■■」
鏑矢の口から言葉が発せられる。
それはこの島国では■■の時によく見ることが出来る小型の■■■であった。
セナノも幼い頃に何度か目にしたことがある、何の変哲もない■■■■■。
しかしどういう事だろうか、発せられたはずのその名は何かが燃える音にかき消され、名前を聞いたという記憶のみがセナノには残された。
鏑矢の背後では、同じように■■■■■の名前を聞いた隊員達が次々と倒れていく。
「……貴方、何をしたの」
「これは記憶処理構文の応用です。あまり褒められたやり方ではありませんが、存在洗浄処分を受けた物の名前を聞くと構文が働き忘れさせようとする。その瞬間に脳は負荷を抑えるために一時的にシャットダウンするのですよ。これ、絶対に真似しないでくださいね」
「私になんともないのは、ヒバリがその構文を焼却したからかしら。そして貴方はそれを見越していた」
「ええ、その通り。言ったでしょう、味方だと」
鏑矢は隊員を小道の端にきれいに並べながら言葉を続ける。
「私は審縁導師様から派遣されたスパイのようなものです。貴女も理解しているでしょうが、今回の一件は相当きな臭い。指令室や一部観測班では潮哭ノ巫女の異常行動として報告されているようですが審縁導師様曰く、これは紛い物であると」
「その口ぶりだと、審縁導師様は何かを知っているのね」
鏑矢は頷き、セナノにだけ聞こえる口調で問いかけた。
「……SOUという組織をご存知でしょうか」
「聞いたことがないわね。縁理庁の部隊?」
「まだそこまでは探れていません。審縁導師様でも見通せないようでして。けれど、今回その組織が関わっている可能性が高いようで、審縁導師様は私を派遣したのです。有給休暇を申請した私を」
「…………それはお気の毒に」
「ええ、本当に。休日に食べる予定でピックアップしていたラーメン屋はどうするおつもりで?」
「どうもこうもないわよ。というか、ちょっと怒ってる?」
「感情処理は週に一度、適切な形で処置を施されているので怒りなどは沸いていませんよ」
なら言葉の端々に見える恨みや怒りはなんだ、と問いかけようとしてセナノはその不毛さを悟り一度、口をつぐむ。
代わりにこれからの事を話した方が余程有意義だ。
「つまり、貴方はここからあの海の正体を一緒に探ってくれるって事で良いのね?」
「いいえ、私はその役目ではありません」
「えぇ……じゃあ何をしに来たのよ」
「私の目的は二つ。SOUの調査と、この事件を東園縁者や貴女が解決できるように影からサポートする事。なので、直接的な行動は控えています」
「控えている、ねぇ」
背後で気を失っている四人の隊員を前によくそんな事が言えたものだと、セナノは内心で呟く。
「貴女の監視は取り除きました。この四人は記憶の改ざんを行い、適切に対処します。貴女は自由に調査を進めると良いです。観測所にでも行ってみては?」
「そこはもう、師匠達が向かってるわ。私は私で色々と探してみるつもりよ」
「成程、そうでしたか。まあいずれにしても、ここで一度お別れですね三鎌縁者」
「そうね」
セナノは簡素な言葉で肯定し、背を向ける。
元々、エイへの対応が癪に障り好ましい人間ではなかった。
時に感情を優先することがあるセナノとは違い、鏑矢は機械的に物事を処理する。
本能的に、そりが合わないのだろう、
「そう言う事なら、私はもう行くわ。ありがとう、それじゃあね」
彼女は足早にその場を去ろうとする。
エイを一刻も早く解放するために急いでいるセナノの足を止めるつもりなど鏑矢には無い。
しかしまだ告げておくべき言葉はあった。
「貴女の中のソレ、使いようによっては国が滅んでしまいます。なので、どうか慎重に行動をなさってください。次に出会った時は敵、なんてことにはなりたくないので」
セナノは足を止める。
「…………それも審縁導師様に教えて貰ったの?」
「あの方は全てを見通しますから」
「そう」
セナノは今度こそ、一度も足を止めることなく進んでいく。
小さくなっていく背中を、鏑矢はただ無表情で見つめていた。
■ 特別対応指示:EN-8773-S
異縁存在番号:現在申請中
名称:■■■■■ 存在洗浄中の為、以降はEN-8773-S
で表記
階級:A階級(認識侵食型実体災害)
■概要
EN-8773-Sは特別指定研究区域ZONE(コード099)でEN-8773に対する日本原生生物の認識実験に使用された個体である。
■■博士の指揮の下、日本に生息する23種の陸生生物を対象として、■■月■■日に大規模な異縁存在封縁実験が行われた。
(これは認識災害型であるEN-8773を23分割し、原生生物により管理する新たな封縁方式の採用実験ですが、鎮縁課や封縁局の承認は得ていません)
実験によりEN-8773を視認した■■■■■は、極度の興奮状態に移行後、心肺停止。
職員によりその場で一度、死亡が確認。
しかし、その五分後に突如として起き上がり、一万ヘルツ以上の高音で数度咆哮。
待機していた縁者が処理のために現場に投入されたが、EN-8773-S化した■■■■■を視認した瞬間に認識攪拌を引き起こし死亡。随時投入された縁者三名も同様に死亡した。
一時間後、A階位縁者三名による処理作戦が決行されたがEN-8773-Sの姿は既に消失。全ての記録媒体においてその姿は確認できなかった。
■顕現現象報告
・映像によるEN-8773-Sの視認
■■日、■■■にて放送されたテレビ番組にて■■■■■の特集が放送。その中にEN-8773-Sが紛れ込んでおり、視聴していた民間人の認識攪拌が引き起こされている(映像制作を行った局員には認識攪拌は認められなかったため、EN-8773-Sは意図的に認識攪拌を引き起こせる可能性あり)
・言語によるEN-8773-Sの侵食
■■県で狩猟中の45歳男性がEN-8773-Sを確認。無線で■■■■■の名前を数名の仲間に伝達後、認識攪拌。
(これ以降、■■■■■という言葉自体に認識を侵食する構文が生成されたことを確認)
■対応
護国封縁プロトコル2を適用。
全国民に対して■■時から■■の間に認識洗浄構文を、音声として投与。
■■■■■の存在洗浄を実施。
■■日、無事に成功。
以降、■■■■■を特別指定単語として永久封縁。
遅れてごめんなさい!
それはそれとして最近、家の近くで■■■■■の親子を見ました。
もう夏が近いんですねぇ^^