【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
何も見えない筈なのになんで視界が広がっているんだ……!?
意味の分からない感覚に頭がおかしくなりそうだぞ。
『ソラ、俺の視界をナイナイした?』
『はい。そして代わりに空の目をウメウメしました』
『しちゃったかぁ……』
『これで私と同じ視界を共有できますよ。そしてここぞという場面で眼球を青くできます! 事件解決後、いつも通りの笑顔で振り返りその目の青さで異常性を伝えましょう!』
『メリットあるの?』
『私が喜びます』
『この上ないメリットだなぁ』
まあ御空様が怒って世界を滅ぼすよりはマシだから……。
俺は世界を救う為の誇りある役目を担っているんだ。誉だなぁ。
『それに貴女もこのままだと暇でしょう? それとも監視役の人間を操って、エイにテーザーガンでも撃たせます?』
『俺、御空様の視界で世界を覗いてみたいなぁ!』
『そうですか。ではあの対災主級鎮圧構文封入式電撃銃はしまっておきましょう』
なんでそんなものを災主級側が持っているんですか……?
『結構自信作なので、いつか披露させてくださいね^^』
しかも作ってる……? 災主級用の鎮圧兵器を災主級が趣味の為に自作してる……?
それ人間の役目ではないだろうか。
どうして鎮圧する対象のおかげで装備が充実するんだよ。
『さて、それでは見物させて貰いましょうか。これで潮哭ノ巫女のコンテンツを味わうことが出来ますよ』
『……そう言えば、前に漫画を渡したとか言ってたね。何を渡したの?』
『ただのラブコメですよ!』
意外だ。
ソラの事だから、ずぶずぶ共依存バッドエンド系を渡すと思ったのに。
『もっと詳しく言うなら、ずぶずぶ共依存系ラブコメです!』
な?
ドンピシャだったろ。
『いやぁ楽しみですねぇ!』
『っすねー』
俺は自身を包む窮屈な拘束感と目の前に広がる街の景色に自身の五感を破壊されながら適当に返事をする。
表も裏も縛られすぎでは?
■
エイが拘束されセナノが一人で調査を始めた頃、シオとミナコもまた目的地へと到着していた。
「到着ー!」
「あんまり大きな声出さないで! 変な人達が来たと思われちゃう!」
街を見下ろす位置にひっそりとたたずむコテージは、長年誰も立ち入っていないのか、窓は薄汚れ、バルコニーには枝や葉が散乱していた。
かつては陽に照らされ眩かったであろう白い塗装も、鋭利な何かで掻き剥がされたような跡だけが残っている。
「シオ、本当にここなの? なんか、ちょっと暗いかも。掃除してあげたくなっちゃうね」
「うーん、八方塞さんのくれた観測所の位置と、各縁者のリストを見ると……やっぱりここだよ。あ、あそこに車が停まってるよ。やっぱりここで合ってるんだ」
コテージの裏には、黒いワゴン車が一台停車していた。
シオも見覚えがある、機材や異縁存在輸送のための特別製の車だ。その耐久性は幾度となく行われた非人道的実験により証明済みである。
「一階の扉が僅かに開いてる……。中に縁者と派遣職員がいるみたい。ミナコ、慎重に行こう。こういうのはファーストコンタクトが大事だよ」
「友達になれるかなぁ」
「うーん、どうだろう。そもそも私達みたいに自由に動いていることが特例だからなぁ。S階位の案内が無ければまだあの病院だろうし」
この潮哭ノ巫女によく似た怪現象を探る為、二人は他観測所を巡る手筈となってた。
有用な手掛かりがあれば収集し、可能であれば協力して貰う為に人当たりの良いミナコと比較的無害で常識的なシオが抜擢されたのである。
「よーし、じゃあ行くよ。たのもー! 私は海原ミナコ! ……A、いや、Cだっけ……うーん、まあ結構低めの階位の縁者だよ! 是非ともここを担当している縁者と派遣職員とお話したいな!」
「ちょ、声デカいって! お仕事中に邪魔しちゃ悪いって」
「そっか。まあ怒られた時は素直に謝ろうね」
「……え、私も? なんで!?」
理不尽な謝罪が決定した事に驚いたシオがミナコの肩を掴み、揺らそうとする。
その時、コテージの玄関扉がゆっくりと開いた。
「なんだ、うるさいな!?」
扉を開けたのは、目つきの鋭い女性の縁者であった。
縁理庁所属縁者の証明である黒い服を着た彼女は、この暑さに耐え兼ねて大きく着崩している。
そのだらしのない恰好の事もあり、彼女はどこかバツが悪そうにしながらシオとミナコを見た。
「あ、出てきた。こんにちは! 私は海原ミナコって言います。縁者です! で、こっちが派遣職員のシオ!」
「どうも……その、うるさくしてすみません。
「ああそうだ。……お前たちは……」
柴沼はシオを一瞥し、理解したような声を上げる。
「ああ、別の観測所の奴か。どうした、こんな所まで。持ち場を離れて良いのか?」
「いいのいいの。こっちはS階位の案内があったから」
「S階位の案内って事は、エリア4の奴らだな。それはご苦労な事だが、どうしてわざわざここに来た」
「……それが、八方塞さんが観測資料を集めていて。私達はそのお使いに来たんです」
シオがそう答える。
すると柴沼はわざとらしくミナコに向けて答えた。
「まさかそんなことまでさせられるとはな、ご苦労さん」
「……ぁ、えっと、あはは」
明確に悪意をもった対応に、シオは一瞬酷く傷ついた顔をして気まずそうに笑う。
しかしそれも柴沼からしてみればどうでも良い事だ。
「確かに今回の派遣職員はストックだから、いつもみたいに雑用を任せられないのは残念だったな。観測データが欲しいならくれてやる。こっちは追加のストックが来るまでは手持ち無沙汰だからな」
「そっか。ありがと」
ミナコは笑顔のままそう答える。
そしてそのまま柴沼へと手を伸ばした。
高身長の彼女が手を伸ばす様は、笑顔であろうとも妙な威圧感を感じさせる。
肩に置かれた手に柴沼が首を傾げる間もなく、すぐに肩へと激痛が走った。
「ぁあっ!?」
「質問したのはシオでしょ。どうしてそんな意地悪するの? 私、悲しいよ」
「何をするお前っ!? 痛っ、ふざけるなぁ!」
肩を掴む手にさらに力がこもる。
変わらず明るいからっとした笑みで、しかしミナコは柴沼の肩を握りつぶそうとしていた。
自分への対応で怒っている。
それを理解したシオは、慌ててミナコへとすがりつく。
「ミナコ駄目だよっ! やめて!」
「シオがそう言うならしょうがないなぁ。はい、解放してあげる。許しはしないけど」
「――ぐぁっ……なんなんだお前! こんな事をして、上が黙ってないぞ!」
「いいから、データ頂戴」
「誰がやるか! くそっ、ふざけた事をしやがって! そいつを人間扱いして善人ぶっているのか!? 派遣職員だぞそいつは! それにただのストッ――」
「もういいや! うるさいから、次に行こ!」
言葉を遮る様にミナコはそうシオに告げる。
その目を見て、シオと会話を心がける姿はまるで柴沼に見せつけているかのようだ。
「この人じゃなくても他に縁者はいるでしょ。そっちに行こー」
「あ、え、えっと」
「二度とここに来るな! クソがっ!」
「来ないよ」
それは普段のミナコからは考えられない程に平坦な声だった。
何かが人を模しているような作られた音。
思わず柴沼は口をつぐみ、最後にシオをひと睨みするとコテージの中へと戻ってしまった。
大きな音を立てて鍵を掛けたので、もう会う気はないのだろう。
「じゃ、行こうか」
「あ、うん……」
「どうしたの? お腹空いた?」
「そうじゃなくて……その、ありがと。私の事、普通の人として扱ってくれて」
情報収集の目的が達成できなかったが、しかしシオの心は少しだけ救われた気がしていた。
少なくとも、自分には立場なんて関係なく仲良くしてくれる友人がいるのだから。
「もう、普通の人じゃなくて友達でしょ。ほらほら次に行くよー。あ、ワゴン車借りちゃう? 私は免許持ってないけど」
「私もだよ。というか、勝手に借りたら柴沼さんが怒っちゃう。また歩こう」
二人は森の小道を進む。
次の目的地は、ミナコの持つ武骨なスマホに記されていた。
「ここから一キロだって。暑いとちょっとの距離でもしんどいねー。シオ、辛かったらおんぶするから言ってね」
「うん、ありがと」
他愛もない話をしながら二人は進んでいく。
海から吹き付ける潮風が山の木々を駆け抜け、彼女達を包み込むように通り過ぎて行った。
■
「――なんなんだ、あいつらは!」
柴沼は怒りに任せそう叫んだ。
仕事をひと段落させ、休憩をしていたところだった彼女からしてみれば最悪の来訪者であった。
「即刻、上に報告してやる。ストックに情が湧いてるのも報告対象だな。この計画からさっさと外れて貰おうか」
柴沼はスマホを取り出す。
変な情を持つと碌な結果に繋がらない事は長年の経験から理解していた。
だからこそ、彼女も派遣職員を計画通りの道具として扱ったのだ。
「……チッ、圏外か。田舎はこれだから困る」
苛立ちながら柴沼は再び玄関へと向かった。
ワゴン車に備わった特殊な通信機を用いる為である。
「さっさと報告して次の派遣職員を――は?」
扉を開けたとき、目の前に広がっていたのは静かな夜だった。
月も星も見当たらない穏やかで満たされるような暗闇が辺りを染め上げている。
(っ、潮哭きに釣られてきた異縁存在の仕業か!? 時間の操作、あるいは迷宮の可能性だってある!)
異縁存在の任務はいつも想定外で命がけである。
柴沼は経験から迅速にワゴン車へと駆けだした。
内ポケットからは既に支給された封縁杭をとりだし、いつでも安全な結界を作れるように準備もしている。
(クソ、今日はとことんツイてないな! この現象だと私狙いというよりは全体に生じた現象型の異縁存在か。さっさと各所に連絡をして、S階位辺りに処理をして貰わないと)
柴沼は冷静にそう考える。
そして、暗い足元を照らそうと当然のように小型ライトを取り出し、ワゴン車がある筈の方へと向けて点灯した。
「……は? なんだこの社――」
ぱん、と小さな拍手の音がコテージに響く。
それと同時に夜は消え去り、辺りには今までと変わらぬ風景が残されていた。
古びたコテージとそれを囲む針葉樹。
その景色の中に、柴沼の姿は無かった。
「あ、メールだ。柴沼さんが結局データを送ってくれたよ。それとさっきはごめんなさいだって。寝不足で気が立ってたみたい」
「そうなんだ……ちょっと目つき怖かったもんね。でも、後でお礼をしないと」
「まあ、いいんじゃない? もう会わないだろうし」
元気娘が不意に見せる歪んだ独占欲、良いよね……。