【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第139話 カイザン

【造海実験エリア5報告】

 

書類番号:■■-■■■■■-■■■■

提出者:B階位縁者 柴沼ユキ

作成日:西暦20██年10月■日

 

 

 

■経過報告

 シオマネキは現在、問題なく稼働中。

 半径30キロ圏内に顕現する異縁存在、及び窓を疑似的遷海により吸収し、EN-Ψ-7779-JPとの共鳴を継続している。

 実験開始から現在に至るまでEN-Ψ-7779-JPの顕現は確認できていないため、S0-1の追加を要求すると共に、当初の予定通り観測エリアを拡大し広範囲での実験を申請。

 

 現在、S階位によるシオマネキの処理を観察中。

 二名のS階位がそれぞれ処理に当たったがシオマネキに問題はなく、EN-THEOSの有用個体である可能性は高い。

 

 

■S0-1について

 シオマネキとの認識接続の際にこちらへ助けを求め、狂気的な逃避行動を開始したため麻酔銃にて鎮圧。その後、無事ストックとしての消費を確認。

 この事から、一度シオマネキを認識してしまえば接続は意識下で可能であり昏倒状態でストックとして待機させる事が可能であると考察する。

 その為、次に支給されるS0-1はこの認識接続実験の為に四肢を切断し発狂による自害も不可能な状態が好ましい。

 

 

■補遺

 海は本来EN-Ψ-7779-JPの支配領域であり、造海実験を行った時点で何かしらの介入があるのが道理であるというのが個人的見解だ。

 しかし今、シオマネキは異常値を示すことなく問題なく稼働中であり、潮哭きの予兆も無い。

 言ってしまえば、海が静かすぎるのではないだろうか。

 

 これをEN-Ψ-7779-JPの安定状態と捉えたまま造海実験を続けるのは『霧笑事案』と同規模の異縁現象を引き起こす可能性がある為、実験範囲拡大に伴い、周辺を改めて捜索する必要があると具申する。

 

 SOUの調査能力を疑う訳ではないが、相手は災主級である為入念に準備を怠るべきではない。

 あるいは、既に意識外から何らかの方法で干渉を始めている可能性もある。

 その為、簡易的な意識洗浄機を次ストック供給時に支給して貰いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミナコー、何見てるのー?」

「柴沼縁者のくれた観測報告書だよー。なんも異常は無かったっぽいね」

 

 次の観測所へ向かう道すがら、ミナコはスマホに送られたデータに目を通していた。

 隣では、道中の自販機で買った麦茶をシオがチビチビと飲んでいる。

 

「ふーん。ねえ私にも見せてよ」

「えー」

「いいじゃん、私も気になるし」

 

 シオがスマホへと手を伸ばす。

 が、ミナコが軽く手を上げれば当然届くはずがなかった。

 

「む」

 

 シオは何度かジャンプするが届くはずもなく、ミナコはそれを見て何故か微笑ましそうにしている。

 どうやらシオを小動物とでも思っているらしい。

 

「ふん、じゃあいいよ。次の観測所で貰った報告書は私が貰うからね」

「ごめんごめん。あんまりにも跳ぶシオが可愛くてさ。ちなみに猫じゃらしとか、好き?」

「猫じゃないんだわ」

 

 まだ少し頬を膨らましているシオに謝罪を入れながら、ミナコはスマホを差し出す。

 受け取ったスマホには柴沼から送られたという報告書が映っていた。

 

「造海実験……? ねえ、これって――」

 

 聞き覚えの無い単語に質問しようとシオが顔を上げたその時、目の前でミナコが自身を覗き込んでいた。

 

「ひっ」

 

 表情は抜け落ち、瞬き一つないその目はじっとシオを見つめている。

 いつもの快活さや優しさはどこかへ消え去り、今の彼女はまるで人間によく似ているだけの怪物に見えた。

 

「ミナコ……?」

「シオ」

 

 ミナコの大きな両手がシオの頬を押さえ、目線を逸らせないようにする。

 何かがおかしいと気が付いたシオが動こうとしたその時、耳をくすぐるような潮騒が聞こえた気がした。

 鼻を突くのは、濃い磯の香りであり、まるで海の中に投げ出されたような感覚に陥ってしまう程である。

 

「よく聞いてね」

 

 ミナコは続けて、シオへと言葉を刻む。

 

「柴沼から来た報告書はただの観測データで、異常はなかった。だよね?」

「――――うん」

 

 当たり前の確認に、シオは困惑しながら頷いた。

 返事を聞いたミナコがパッと手を離すと同時に、シオは不思議そうにもう一度報告書に目を通す。

 

 

 

【観測エリア5報告】

 

書類番号:■■-■■■■■-■■■■

提出者:B階位縁者 柴沼ユキ

作成日:西暦20██年10月■日

 

 

■経過報告

 推定、潮哭きと思われる現象は現在も進行中。変化は無し。

 

 

 

 あまりにも簡素なその報告書は、何度見ても拍子抜けだ。

 だからこそ、ミナコは自分にがっかりされないように隠そうとしたのではないかとすら考えてしまう。

 

「これやっぱり柴沼さんに嫌われているから適当な報告書を渡されたんじゃない……?」

「単に報告書が面倒くさいだけでしょ。同封されたファイルにめっちゃ色々なデータ入ってたし。封応値の1時間ごとの推移とか興味ある? 私は小っちゃい文字が苦手ですぐに閉じちゃった」

「うぅ、私もそういうのは苦手なんだよね……一応、学校では習ったんだけど」

 

 縁理学園で習った事を、シオは殆ど覚えていない。

 通っていた記憶はあるのだが、まるで駄目な生徒であった事は自他ともに認める所である。

 

「ねえねえ、そういえばシオってなんで派遣職員やってるの?」

「話したことなかったっけ? お金がいるんだよ、沢山」

 

 シオは空になったペットボトルに視線を落としながらそう言った。

 その姿はどこか後ろめたさがある様にも見える。

 

「本当はミナコみたいに縁者として活動出来れば良かったんだけど、私ってばびっくりするぐらいに縁者に向いて無くてさ」

 

 自分でも擁護が出来ない程である。

 異縁存在を目にする機会があったという理由だけで縁理学園に流れで入学し、それからその場しのぎで生きてきたのだ。

 

「……妹がいるんだ。小さい頃に病気に罹っちゃったんだけどさ、それからずっと寝たきり」

「治らないの?」

「治せるよ、お金があればね。ただ、手術代がめちゃくちゃ高いの! 普通の生活をしていたら一生稼げない額だよ。仮に稼げたとしても稼ぎ切った時にはもう私もあの子もおばあちゃんだ」

「あー、だから派遣職員としてパパっと稼いじゃおうって感じか」

「そう! そういう事。私、馬鹿だからこういう生き方しか出来なかったんだ。私もかっこよくNARROWとか使ってみたかったよ」

 

 縁理学園の門をたたいた時、彼女の中にあったのは縁者という影のヒーローへの憧れと大金を稼げる可能性だった。

 しかし現実はそこまで甘くはない。

 当然のように素質が要求され、知識が前提となり、そして何よりも運が必要である。

 

「ま、ミナコに会えただけでも運が良かったよ私は。おかげで、この任務もこなせそうだし」

「……ふーん。まあ、私達はかれこれ数年は一緒だし、これからもそうでしょ」

 

 パン、と手を叩いてミナコがそう告げる。

 シオはその言葉にどこか照れくさそうに同調した。

 

「そうだね。後はミナコがA階位になってくれたら何一つ文句はないかな。そうすれば私の任務達成報酬も上がるし」

「はははは、責任重大だなぁ。じゃあ早く階位を上げないとね。今はF階位だし……あれ、C階位だっけ? うーん、まあこなせば上がるか! あはははっ!」

「ちょっと不安になって来たかも……あ、見えたよ。次のエリアだ」

 

 指さす方向にあるのは、既に運営が終わっている旅館であった。

 元はそこから景色を一望できたのであろうが、今は朽ち果てるその時を待っているだけの様である。

 

「お、いいねぇ旅館か。地元の潮目村にも旅館があるからさ、この任務が終わったら、一緒に行こうよ。海がきれいだし、畑でなぜか青いイチジクが獲れるし、海産物が本当に美味いし、良いとこだよ」

「異縁存在いなかった?」

「はははまさか。うちでしか取れない特産だよ」

 

 笑いながらミナコは、ちらりと視界の端の岩を見る。

 何の変哲もないただの大岩は、木漏れ日に照らされ独特の陰影を浮かび上がらせていた。

 そしてその上、白いワンピースを潮風に揺らす幼い少女こそ、ミナコがその目で捉えたものだ。

 

「……ふふ、楽しんでくれて何よりだよ」

 

 声は風にかき消される。

 ひときわ大きな風が吹くと同時に、岩の上にいた少女もまた姿を消していた。

 変わらず木々の隙間からは青空が、覗いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺みたいな被害者が目の前で増えてるっぺ……。でも俺には何も出来ないっぺよ……』

『被害者……? エイ、貴女は自分を被害者だと思っているんですか?』

『ははははっ、ジョークっすよ御空様。あっしがそんな事を想うわけないじゃないっすか。マジで日頃のコンテンツの恵みには感謝っすよ。へへっ』

『うんうん、そうですねぇ』

 

 

 

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