【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第14話 目を覚ませ僕らの都市が何者かに(ry

 ヘリの着陸と共に、ローターの音が徐々に収束していく。

 足元には、金属と構文術式が組み合わされた着縁盤が広がっていた。

 微かな共鳴音が足裏を震わせ、外界とは明らかに異なる場への到達を告げている。

 

「ふぅ……風が止みましたね」

「ここは風も、許可がないと通れないのよ」

 

 セナノは冗談めかしてそう言いながら、先にヘリを降りる。

 その背を追ってエイも一歩ずつ、慎重に足を運んだ。

 

 廻縁都市。

 それは人の理を外れたものを受け入れるために築かれた、世界から切り離された場所だ。

 目の前にあるのは、中層の市街区に接続する迎縁門(げいえんもん)のひとつであり、構文障壁を通過する専用ルートである。

 

 門の両脇には、無表情な護衛縁者たちが並び立っていた。

 普段からあまり無駄話は好まない縁者たちであることは知っているが、それでも妙に空気が張り詰めていた。

 彼らの視線がセナノではなく、隣へと注がれているのをセナノは気配で察する。

 

 無理もない。今、セナノの隣にいる存在は、災主級の疑似媒介体として特別搬送されたのだ。

 

「呆けてないで、さっさと行くわよエイ」

「あ、はい!」

 

 門を見上げて口を開けるエイにそう声を掛け、視線を無視するようにしてセナノは足を進める。

 エイはと言えば物珍しげに周囲を見回しながら、まるで観光に来た子どものように門をくぐった。

 

「すごい……ここは全部、空から隠れているんですね」

 

 深い霧のような物が空を覆っているこの場所では、青空は欠片も見えない。

 しかし、それでも昼間であると認識できる程度には十分に明るかった。

 

「そうよ。普通の人には見えない都市なの。地図にも存在しない」

 

 門の先には、白い舗装の路地が緩やかに続いていた。

 それがただの塗装ではなく、構文として機能することを知る者はあまり多くはない。

 

 その先に見えるのは、無人で運行する搬送車、構文結界で囲われた花壇、儀式用の塔と祈念装置、そして監視カメラではなく感情検知式の構文柱が等間隔で配置された、異様な街並みだ。

 

 ここは特別な人間だけが住まう場所。

 縁と縁のはざまで生きる者たちの、選ばれた棲処である。

 

「……なんだか、空気が重たいですね。でも、嫌いじゃないです」

「そう? 慣れれば、案外居心地がいいのよ。変人しかいないけど」

 

 セナノは口元に笑みを浮かべるが、その目は一瞬だけ街の上層を見上げた。

 

 観測塔のいくつかには、すでに上層監視局の目が入っているはずだ。

 エイが到着したことを、彼らが見逃すはずがない。

 

「これから案内する部屋は、あなた専用に用意されたものよ。たぶん、前の私の部屋よりも広いわ。あと頑丈」

「セナノさんも一緒に住むんですよね? 私、お友達と一緒にお泊りするの夢だったんです」

 

 エイは嬉しそうに手を叩き、次いで少し照れくさそうに口元を押さえる。

 

「あっ、私ったらすみません。はしゃいじゃって……えへへ、恥ずかしいです」

「……私が男だったら危なかった。……ん? 逆か?」

 

 恥ずかしそうに頬を朱に染めたエイはひょいと手を伸ばし、セナノの袖をつまんだ。

 その仕草に妙な柔らかさを感じながら、セナノはますます混乱しそうな頭を押さえた。

 

(やっぱりどう見ても女の子なんだけど、この子! いやでも、さっき見たしなぁ……。早くなれないとなぁ……)

 

 エイは男である。

 それを認識しようとすると、脳みそがまるで異縁存在の攻撃でも受けたかのように混乱するのだ。

 

(距離感が近いのもマズイわ。あと、なんか嗅いだことのない良い匂いするし)

 

 エイと出会った時から感じていた、花のようでお香にもよく似た落ち着く匂いはもはや嗅いだだけでエイとイコールで結びつくまでになっていた。

 

「まあとにかく、はぐれないで付いてきなさい。貴方が迷子になるって、洒落にならないから」

「はい!」

 

 遠足に向かう子供のように元気にエイは返事をする。

 しかし突然振り返り、空を仰ぐようにしてこう呟いた。

 

「……やっぱり、ここからでも見えますね。御空様、嬉しそうです」

 

 セナノの背筋に、ひやりとした縁風が通り抜けた。

 この街の上で、空が笑っているというのか。

 

「……そう。なら、きっと今日はいい日になるわ」

 

 静かにそう答え、今度はセナノがエイの袖を軽く引いた。

 これ以上、空を見上げないように。

 

 ようこそ、災主級。

 ようこそ、災厄と縁の都市へ。

 

 こうしてエイという未知の鍵を伴って、廻縁都市の均衡がわずかに傾き始めた。

 

 

 

 

 

 

 ここが廻縁都市かぁ、テンション上がるなぁ!

 

『ようこそ。私もあまりここには足を運ばないのですが、まあ良い所ですよ。脆弱な人間が頑張って私達に抵抗しようとしている姿を見ると、可愛らしくて天移したくなります!』

 

 ソラはずっと俺の隣にいた。

 当然、ヘリに乗った時も。

 でも窓の外の青空を見ろってこいつが言ったから、それに従って無駄な行動をしたのだ。

 

『絶対やめてね。来て早々、バッドエンドは流石に嫌だから』

 

 逃げてくれ廻縁都市。

 お前たちの本拠地に、ラスボスみてえな奴が入って来たぞ。

 堂々と、道の真ん中歩いてるぞ!

 

『あ、見てください! この並ぶ構文柱を。これで異縁存在が逃げ出してもわかる仕組みになっているんです』

 

 ソラの指さす方向には機械仕掛けの卒塔婆のような奇妙なオブジェが街灯のように等間隔で並んでいた。

 

『それ、俺達に反応しないの?』

『私はずっとそこに在るんです。だから反応も何もないですよ。これにとっての正常は私がいることです』

『そっかぁ……』

 

 駄目だ、完全に遊び場のような感覚でここを見ている。

 あわよくば助けて貰おうと思ったけど、全然助かる気がしねえや。

 

 最初にこの都市を見たとき、俺は大変感動したのだ。

 機械と怪異が混ざり合った奇妙な都市は、俺が何度も夢に見たフィクションの都市の条件を満たしている。

 こういうごちゃついた構造のファンタジー都市に最初から生まれたかったよぉ……。

 

「そんなにキョロキョロしなくても、これから好きなだけ見られるわよ」

「そう、ですよね……あ、もし良ければ後で一緒にこの都市をお散歩してくれませんか?」

「別にいいわよ」

 

 セナノちゃんの前で、俺は無垢清純美少女♂を演じている。

 これも後ろに演技指導がいるからだ。

 

『エイ、いいですよぉ。今のエイはまさにヒロインです。可愛すぎて今すぐにでも天移したくなっちゃいます!』

 

 したがっても死、逆らっても死。

 どうしろってんだよ俺。

 

「……それと、あまり他の人に話しかけない方が良いわ。中には変な奴もいるからね。せめて話しかけるにしても私がいるときにして頂戴。守れないから」

「守ってくれるのですか?」

「当たり前でしょ」

 

 セナノちゃん……。

 じゃあ今すぐ助けてぇ……。

 それか、俺にソラを懲らしめる最強のNARROWをくれぇ……。

 

『うんうん、やはりこの人間を主人公ポジションにしたのは正解でした』

 

 ここまで気に入った様子を見せているのに、未だに種族名呼びなのが怖いんだよねこの上位存在。

 むしろ、エイって呼ばれている俺がなんなんだよ。

 特別扱いもこわいよ。

 

『エイ、見た目が漫画のヒロインに似ているからと言って軽率にヒロインにしてはいけませんよ? このように、見た目ではなく役割で楽しむのがコンテンツというものです』

『ウィッス』

『エイを守ることで、この人間には価値が生まれます。この価値を共に高めていきましょうね』 

 

 ここまで生かしている理由がコンテンツなのが一番怖いかも。

 

 今の俺には、ソラが登場人物が全員死ぬタイプの作品を気に入らないようにと願うことしか出来なかった。

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