【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第141話 スクウモノ

 その男はZONE内に存在する人間の形をした造物である。

 ネネから受けた説明はそうであったし、間違ってはいない筈だ。

 だというのに、何故彼がここにいる? まさか、自力で脱出を……!?

 

『御空様、これは……?』

『さあ?』

 

 ……。

 うーん、駄目だ御空様がすっとぼけいるのか本当に知らねえのかわかんねえ。

 神様相手だと相手の心理を探るのもかなり難しくなってくるな。

 

『取り敢えずこっちで彼のお話を聞いて下さい。もしかするとこぼれコンテンツが手に入るかもしれませんから。しかし、もしも潮哭ノ巫女のコンテンツを破壊しようとしているのなら、その時は客人ではありますが少々手を貸してあげましょう』

『……御空ナイナイ?』

『いえす!』

『oh……』

 

 ヨシノリ君、悪い事は言わないから逃げるんだ。

 どうして君がここにいるのかは皆目見当もつかないが、わざわざ邪神の掌に躍り出る必要はないだろう。

 俺とシオちゃんに続き、君までコンテンツの奴隷になる必要はないんだ……!

 

「どうしてここにいるのですか。貴方は……」

「ZONE内のプログラム、だろ?」

 

 自分の正体を自覚している……?

 

『御空様、コイツ主人公では?』

『ん? 共依存百合怪異譚の主人公が造物の男な訳ないでしょう?』

『っすよねぇ』

 

 シナリオライターの権力が前代未聞すぎる。

 

「色々と助けが合ってな、俺だけはZONEから逃げることが出来た。ようやく、自分で未来を選択することが出来るようになったんだ」

「ヨシノリさん……」

「先に聞いておきたい、君の名前は本当にエイちゃんで合っているんだよな?」

「……はい。セナノさんも、ししょ……ネネさんもそうです」

「そうか。ちなみに姉妹では……」

「無いです」

「だよな。だとしたら遺伝子の多様性が凄いもんな」

 

 やはりあの三姉妹は無理があったらしい。

 そもそも髪色が赤、桜、黒っておかしいだろ。

 身長も次女がずば抜けてるし。

 

「恩人から、あそこは鍛えるための狩場だって聞いたんだ。これも本当だな?」

「……はい」

「そうか」

 

 ヨシノリ君は少しだけ黙り込んだ。

 自分が作られた存在であると改めて理解して辛いのだろう。

 俺はまた別の境遇ではあるが、少しだけなら寄り添えるぞ。

 

「異縁存在ってのは怖ろしい存在なんだな」

 

 唐突な言葉に俺は面食らいながらもなんとか頷く。

 

「あんなのと戦うなら、確かに日夜鍛えてないと駄目だろう」

「はい。特に私はもっと強くなって皆さんのお役に立たないといけませんから」

「役に立つか……」

 

 ヨシノリ君は再び黙る。

 視界がセナノちゃんの方向に行ってるので気を抜くと、脳みそがぐっちゃぐちゃになりそうだ。

 何か喋ってくれヨシノリ君、俺は今初めてのダブルコンテンツシステムにより、脳への負荷が凄いんだ。

 間や沈黙に対していつものようなパフォーマンスは発揮できないぞ!

 

「なあそれって自分の意志なのか?」

「……え?」

 

 ほら! 何言ってるのかわかんなかった!

 ごめんヨシノリ君、もう一度言ってくれ。

 聞こえてはいたんだが、言葉として理解できなかった。

 

「その反応、少しは思う所があるんじゃないのか。お前、俺よりも年下だろ? まだまだ子供なのに、どうして自らリスクを負うんだ」

「……ヨシノリさんの言っていることがわかりません」

「とぼけるなよ」

 

 よりによって重要そうな台詞を聞き逃すかね、俺は。

 どうやら心にでっけえ驕りが巣食っていたようだ。

 コンテンツ制作に慣れたという慢心、それが俺の心を蝕みコンテンツに耳を傾ける事をないがしろにさせた。

 今まで完璧(自己採点)だったからこそ、妙に悔しい。

 ダブルコンテンツシステムを使いこなせないなんて、俺はまだまだだ……!

 

『エイ、気に病むことはありません。誰にでも失敗はあります』

『監督……!』

 

 監督の信頼を無駄にしないために、ここからは一コンテンツも逃さねえぞ!

 

『ですが、二度も同じ凡ミスをしたら天移で一度お勉強です^^』

 

 絶対に逃せなくなった!

 俺の向上心とは関係なく逃せなくなった!

 

「私は、とぼけてなんていませんよ」

 

 探れ、薄ぼんやりとした返答を繰り返しこの会話の主題を探れ……!

 

「じゃあお前は自らこの道に進んだって言うのか? どうして、そんな事を」

 

 ここかッ!

 見切ったッ!

 

「――確かに最初は偶然でした。御空様の気まぐれで村の外に連れ出され、都市というものを始めてこの目で見ました。東京タワーって大きいんですね。村の物見櫓よりもずっと」

 

 穏やかでそれでいて懐かしむ声色は、過去を大切にしている少女だからこそだろう。

 俺は口元だけ笑みを浮かべて、ヨシノリ君の声が聞こえる方へと顔を向けた。

 

「セナノさんと出会ったのは映画館でした。と言っても今はもう使われていないボロボロの廃墟でしたけれど」

 

 ヨシノリ君は俺の言葉を静かに聞いている。

 いいぞ、コンボが続いている。

 

「あの日、きっと私の運命は変わったんです。セナノさんに出会って、全てが輝き始めた。見るもの全てが綺麗で鮮やかで、ご飯は美味しくて、聞こえる音はどれも跳ねるように陽気なんです。村の静けさとは違う、生きてると感じる事が出来る全てがあった!」

 

 ヨシノリ君が何かを言う前に俺はさらに言葉を続ける。

 今までよりずっと明るい声である事を意識して、それが幸福であると信じているかのように。

 

「今の私の全てはセナノさんがくれたもの。だから私は全てをあの人にあげたいんです。この力が役に立つなら、私はどんな地獄にでもついて行きます。……それが私が今も縁者である理由なんです」

「……正義だとか、そういう言葉が出てくると思った」

 

 少しの沈黙の後にヨシノリ君は深く息を吸って言った。

 

「意外でしたか?」

「ああ。けど一番納得できる理由ではあった」

「一応、皆さんを助けたいとは思っていますよ。お友達になった人が死ぬのは辛いですし、心を乱してしまった事もあります」

「わかってる。根底がセナノさんへの想いって事だろ」

「そう言われると、なんだか照れますね……えへへ」

 

 俺は照れくさそうに笑いながら、次弾を装填する。

 よーし、次はセナノちゃんとのあったけえ思い出エピソードを――っ!?

 

「ぅぐっ……」

「エイちゃん……!?」

 

 まるで体に突然大岩を乗せられたように体が重くなり、呼吸が上手くできなくなる。

 頭から血が引いていく冷たい感覚だけがいやにはっきりと感じ取れた。

 

『御空様、ちょっと三半規管ナイナイがキツすぎます!』

『いえ、これはダブルコンテンツシステムの反動です』 

『あ、そっちかぁ!』

 

 何してくれてんだオイ!

 

「はぁっ、はぁっ、うぅ……」

「やっぱり一度、拘束を解いた方が良い。 横になって少しでも楽になるんだ」

「駄目です、それじゃあセナノさんに迷惑を掛けてしまいます。私は我慢できますから、このままでお願いします。ね?」

「……ああ、わかった。やっぱりエイちゃんは良い子だな」

「えへへ、ありがとうございます」

「きっとセナノさんとネネもそうだ。……そんな子たちの心も利用するのか、縁理庁は」

 

 ん? 変な所に憎悪が向かってない?

 俺、ヘイト管理間違えた?

 

「あの人の言っていた通りだな」

「あの人……?」

「ああ、俺を救い出してくれた恩人だ。約束があるから今は名前を教える事は出来ない。けど悪い人じゃない事は誓うよ」

「そうなんですね。一度、会ってみたいです……けほっ」

「悪い、少し喋らせすぎた。もう何も言わなくて良いから」

 

 そんな事を言われて黙る俺じゃねえ。

 御空様が見てるのにコンテンツの奉納をさぼるとか村に祟りがあるっぺよ!

 

「いいえ、お話したいです。……そうしていた方が気が紛れるので」

「……そうか」

「はい。セナノさん達が頑張っているのに、ここでお話しているだけなんて、少しズルいですけどね」

「そんな事無いだろ、お前はよくやってるよ。……セナノさんの方もきっと大丈夫だ。あの人が見に行ったから」

「そう、ですか」

 

 俺はどこか安心した声でそう言った。

 が、それはそれとして。

 

『御空様、セナノちゃんに謎のコンテンツ体が高速で接近中だっぺ!』

『ふふふ迎撃用意だけはしておきますが、まずはお手並み拝見と行きますか^^』

 

 

 

 

 

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