【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
突如として冷静さを欠いた縁者が目の前で崩れ落ちる様を、シオは呆然と見つめていた。
顎下に添えられた銃口は的確に自身を貫き、最も手っ取り早い方法で情報の漏洩を防いだのである。
「あっ、死ん……」
「大丈夫大丈夫。あれは気を失っただけだよ。あの銃、ビリビリするだけっぽい」
ミナコはそう言うと縁者に近づき、傍に転がっていた銃を拾いあげる。
そしてわざとらしくいくつかのポーズを取り、キメ顔のまま懐に銃をしまい込んだ。
「いいね、これ貰おー」
「それ駄目なんじゃ……ってそれどころじゃないよミナコ! 私、さっきの話がまだ飲み込めないんだけど……異縁存在を操るって言ってたよね」
「そうだね。どうやらあの海のやつは縁理庁が作ったものみたいだ」
「後は、適した者とその姉……って、それがもしかして……私なの?」
「というか、シオは大丈夫なの? 辛いなら休んでいて良いけど」
「大丈夫……だと思う。とにかく今は何かを考えたいんだ。じゃないと気が狂っちゃいそうで」
頭はやけに冴え渡っており、冷静さも不思議と保てている。
嫌な予感に心が乱れそうになるが、不思議と潮騒が落ち着きを取り戻させてくれた。
海が近いという事もあるのだろう。
自然的な音が彼女にここから先、真実を探るだけの力を与えてくれたのである。
「わかった。じゃあこのまま色々と調査してみよう。この車とか色々と積んでいるんじゃない?」
「車……ミナコ、悪いんだけどそっちは調査をお願いして良いかな? その……私の死体があるのが……」
「おっけー、じゃあシオは旅館の方をお願いね。きっと二階から観測していた筈だから」
「うん」
バンの捜索をミナコに任せ、シオは廃旅館の方へと赴いた。
「気を付けて行くんだよー」
廃旅館の中へとシオが入っていったのを確認して、ミナコは相変わらずの笑顔で虚空へ向けて告げる。
「シオが誰かに手出しされそうになったら、遠慮なく殺してね」
足元で泥が泡立ち、森の奥から手を叩く音がそれぞれ返事として聞こえてくる。
ミナコはそれに快活にサムズアップをして頷くと、早速自身も調査を始めた。
「私も全部を知っているわけじゃないから、ここで色々と知っておきたいけど……うーん、無いな……痛っ!? 頭、ぶつけちゃったよー! たんこぶー!」
一人姦しくミナコは車の中を窮屈そうに動く。
その間、傍に転がっている死体には視線を一度たりとも向けていない。
物邪魔そうに押しのけたりはするがやはり死体その物に興味はなさそうであった。
「こういう場所の探し物って苦手だわ。一回、海に沈めて良いなら別だけど」
大きな体では車の中を自由に探し回る事は不可能だったようで、ミナコは一分も経たない内に口をとがらせながら車からのっそり出てきた。
「車になさそうだなぁ。あっても無いって事にしよう、うん!」
ミナコは自分にそう言い聞かせ、それから一度誰もいない筈の車の上に視線を向ける。
それから再び、縁者へと歩き出した。
「やっぱりここは直接聞くのが一番! 私ってば頭脳が明晰だね! 流石はA階位縁者! ……あれ、C階位だっけ、いやB階位だった気も……」
シオが聞いたら呆れそうな事をぶつぶつと呟きながらミナコは縁者に近寄る。
すると、縁者の体は不自然に宙に浮き始めた。
「壊さないようにしないと」
子供に持ち上げられている人形のように力なく浮かぶ縁者。
仮に素養がある者がその光景を見れば、おぞましい姿の人魚が無数の手で縁者を持ち上げているように見えるだろう。
しかし現実として多くの者の眼に映るのは、快活な少女の前で突如浮いた縁者という光景であった。
「はい起きてくださーい。意識遮断構文とか無駄でーす」
パンと手を叩く。
乾いた音が木霊し、縁者は間もなく目を開いた。
それは眠りから覚めたというよりは、無理やり瞼をこじ開けられたような迅速な覚醒である。
「今から私の質問に答えて貰うよ」
「はい」
縁者は抑揚のない声で返事をした。
「じゃあ早速、お前達の愚かな計画の細かい説明をして貰おうかな。あ、難しい言葉は使わないでね」
「はい。私達は――」
機械が文章を読み上げるように、縁者は言葉を連ねていく。
超常の存在を前に人間が隠し事など出来るわけがなかった。
■
先ほど衝撃的な事があったせいか、今いるこの建物はそこまで恐ろしく感じる事はない。
廃病院とはえらい違いだ。
「よし……!」
中へと侵入し、シオは無事に二階へと到達する。
そこまでの道のりに筆すべき点は何も見当たらない、ただの捨てられた旅館だった。
二階の一室で窓が開け放たれており、この旅館に元からあったであろう大きなテーブルが端に雑に置かれ、その上に軽食の入ったビニール袋とノートパソコンが1台置いてある。
先程までここに縁者がいたのだろう。
そしてもしかすると、自分によく似た何かも。
「……お邪魔します」
吹き抜ける風は心地が良いものだったが、到底それを堪能できるはずがない。
彼女はまるで誰かの目を気にしているかのようにこそこそと、そして迅速にパソコンの前まで移動する。
幸いな事に、パソコンは起動状態であり何かの申請書を今の今まで書いていたことが窺えた。
「早速見つけたかも……!」
緊張で高鳴る心臓を落ち着けるように深呼吸をして、シオはそれに目を通し始めた。
【S0-1ストック増産計画申請書】
文書番号:EN-THEOS-Ψ-7779-S0
閲覧権限:縁理局長、封縁官以上
提出者:縁構主代理実地試験責任者 ■■■ ■■
提出日:西暦20██年10月■日
■申請概要
災主級異縁存在EN-Ψ-7779-JPの使役及び制御を目的として、特殊疑似媒介体『シオマネキ』の開発を継続中である。
現在、シオマネキは、核個体『的井シヲ』外部供給源『的井シオ』の二名を基礎構造として稼働している。
当初の予想通り、EN-Ψ-7779-JPとの完全共鳴には、外部供給源として使用される「的井シオ」の精神構造が極めて高い再現性を要求されることが実地テストにより確定的となった。
そのため、同一人格・同一記憶・同一容姿を付与した代替個体、S0-1の大量生産を申請する。
また、先行投入された7体のS0-1はそれぞれ僅かな差異があったが、問題なく使用が可能であった。
その為、規定数値を僅かに超過した実験個体も数体製造を要請する。
■S0-1の仕様
基本条件は変わらず以下の通りである。
年齢:19~21歳
身長:155±3cm
外見:的井シオと完全一致
記憶:的井シオの幼少期から現在までを移植
自己認識:自身を「的井シオ」であると確信すること
※精神処理は必ず『人格固定処置』『感情誘導処置』『依存形成処置』『認識誘導処置』の四つの処理工程を経ること。
■想定消耗数
年間消耗数:337体
災主級接触時推定消耗数:100~300体。
よって、初年度必要数を五百体とする。
■期待される成果
・災主級異縁存在の完全制御。
・他災主級の新たな疑似媒介体の創出サンプル。
・対異縁戦力の飛躍的向上。
・海域支配権の獲得。
以上につき、S0-1増産施設の建設及び人的資源の追加配備を申請する。
■追記
規定の倫理審査について
本計画はProject EN-THEOS信条第三条、「災主級封縁において人命は資源として扱う」に基づき、倫理委員会審査の対象外とする。