【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第156話 オオゾラ

 護国型異縁存在はその性質上、人類存続に特化した作りをしている。

 過去、何度も日本を救ってきた実績から、その存在を知る職員達の間ではいざという時の便利な最終兵器という認識をされていた。

 しかし、本当にそうだろうか。

 

「あははっ」

 

 空、海、地はこの世界を構成する全てであり、故に人々は常に感謝を忘れるべきではなかった。

 傲慢にも、人がそれを操れるなどと思ってはいけなかったのだ。

 

 空に捧げるべきは喜びの感情。

 笑顔を空に捧げ、悲しみは胸の内にとどめる。

 澄目村ではもはや童歌にもなっているそれにこそ、空に対する接し方の本質が示されていた。

 

 だからこそ、疑似媒介体と呼ばれる存在を深く悲しませる行為は本来禁忌とされている。

 

「A-E1……?」

 

 突如として笑いだしたエイの異常を察知した黒服が恐る恐る白い布をゆっくりと持ち上げる。

 と、目の前に青い瞳があった。

 

「っ!?」

「……」

 

 遠くで聞こえていた彼女の笑い声はいつの間にか止み、目の前にエイが屈んでこちらを見つめている。

 髪や目の色こそ違うが、その顔立ちはエイと瓜二つであった。

 

「な、なんだ貴様!?」

「ふふっ」

 

 エイはキョトンとした後、黒服の顔をじっと見つめながら小さな笑いをこぼし手を伸ばした。

 

「あははははははは!」

 

 伸ばされた手は白い布を掴み、勢いよく取り払った。

 雲一つない青空を舞う白い布は一つだけではない。

 突然吹いた夏の風が、職員全員の布を取り払いその姿を青空の元に晒したのである。

 

「なっ、なんだこれは!?」

「布が……!?」

「あれ、もしかしてA-E1か?」

「見ろ、まだ空に裂け目がある!」

 

 白い布の中に隠れていれば安全である。

 その絶対条件が崩され、職員達は騒ぎながら我先にと白い布を取り戻そう必死に手を伸ばす。

 しかし布は落ちてくることはなく、そのままひらひらと舞い上がり青空の奥へと消えていった。

 

「あははっふふふふふふ! きゃははははははっ!」

 

 エイは狂ったように笑い続ける。

 無邪気に、無垢に、穢れを知らない子供のように笑い声を空に響かせていた。

 

「……お前は誰だ」

 

 黒服はエイの一挙手一投足を注視しながら立ち上がると、すぐさま内ポケットに隠していた銃を取り出した。

 新設された武器開発課から送られた対疑似媒介体用特殊電撃銃である。

 その一撃は彼女の意識を奪うには十分な威力であると黒服は確信を持って引き金に指を掛けた。

 

「はははっ」

 

 銃口へと近づいたエイは自身の額にその照準を敢えて合わせ、天を指さす。

 その間も、彼女は常に笑顔であった。

 

「っふふふふ、あはははははは!」

「まさか……空澱大人……!?」

「きゃはははははっ!」

「っ、各員今すぐA-E1を拘束し――」

 

 鳥の声が響く。

 それから聞こえてきたのは短い悲鳴と水っぽいものが弾け、よく潰される音だった。

 今、黒服はエイを注視して辺りを見渡すことが出来ない。

 しかし何が起こったのか、彼は察していた。

 

「おい、返事をするんだ! どうした、早くA-E1を拘束しろ!」

「頭上に嘴のようなものが――」

「おいお前の上にこっちにも――」

 

 声は空しく空に響く。

 彼の背後では、既に事が済んでいた。

 両脇に並んだ職員達は、許しを請うように手を組んで祈りをささげる体勢のまま嘴に咥えられている。

 嘴は今度は人を天へとすぐに連れていく事はせず、咥えたまま主の命令を待っているようだった。

 

「な、なんだ……この異縁存在は……」

「ふふっ」

「な……」

 

 これ以上の会話は不可能であると引き金を引こうとしたその時、巨大な嘴が器用に黒服の持つ銃を咥えた。

 驚き一歩下がった彼がふと上を見上げると、そこには巨大な嘴が静かにその時を待っている。

 

「っ!?」

あっははははははははははは!(安心してください。まだお前は殺しません)

 

 笑い声に混じる形で自身へと向けられた宣告に黒服はいつの間にか銃を降ろしていた。

 どうやら自分は選択を誤ったらしい。

 そう理解した時には既に、空は青く青く染まっていた。

 

『――副主任! 返答をしてください!』

「っ、無事な者もいましたか!」

 

 観測のためにメゾンドハッカイに残された観測班からの通信が、彼の心を少しだけ蘇らせる。

 それがどれだけ残酷な事か、本人すらも気が付かなかった。

 

『そちらで縁波密度の異常数値を確認できました。封応値に至っては計測不能です。しかしこちらからは目視でシオマネキと巨大異縁存在しか観測できません!』  

「観測できない……? だって、あの空の裂け目や異常な空の青さは」

『空? 数値は異常ですが目視では何も……。雲が数個浮かんで、日差しが相変わらず強いだけですよ』

 

 明らかに今自分が目にしている世界と違う証言に、黒服はある考えに至った。

 異縁存在と関わったものなら誰もが知る、認識の相違が起きる特殊な空間こそ――。

 

「迷宮……!? 空澱大人が作り出したのか!?」

『副主任、どういうことですか!?』

「A-E1が――」

 

 口にエイの指先が触れる。

 彼女はクスクスと笑ったまま、もう一方の手の人差し指を立て自分の口元へと移動させた。

 

「……」

 

 その行動の意味する事はよく理解できる。

 黒服はゆっくりと頷くと、やがて一言だけ告げた。

 

「観測を続けろ」

『……? はい、了解しました』

「あははははははっ!」

 

 満足そうに笑うエイは、そのまま黒服から背を向けて歩き出す。

 その先にはシオマネキと海喰尊がいる。

 

 が、数歩歩いた彼女は首を傾げそれから自分の足を見下ろした。

 

「……あはっ」

 

 エイは靴を脱ぐと、そのまま靴下も脱ぎ捨て炎天下のアスファルトに素足で降り立つ。

 そして笑い声を響かせながら、海へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 空の異常な青さを反射して、海はまるで絵具でも混ぜ返したように青く見えた。

 シオマネキが支配する海域以外は全てが青く染まり、まるでその向こうに青空が広がっているようにも見える。

 

「これは空澱大人の迷宮だね」

「えっ、今なんて言った?」

「愛してる」

「えっ……あ、ありがと? って、違うでしょ! 今、空澱大人の迷宮って言ったじゃん! エイちゃんが助けに来てくれたって事?」

「どうだろうなぁ、これ」

 

 ミナコは坂の上を見る。

 港へ続く長く勾配の激しい坂を、丁度エイが駆けている所であった。

 目を見開き明るい表情のまま裸足でこちらへと駆けてくる姿は、およそ正気とは思えない。

 

「前の布教とは違うだろうし、この迷宮は何なんだろう」

「ねえミナコ、そろそろ見ても良いかな……? いい加減に周りの状況を知りたいんだけど」

「やめておいた方が良いと思うけどなぁ――はい」

 

 ミナコはそっと手をどける。

 シオはすぐさま周囲を確認し、最後に空の裂け目から見える嘴を見て、涙目で自らミナコの手で視界を塞いだ。

 

「何も解決してないじゃん……」

「シヲのわからせは完了したよ。でもその後、まさかのダイナミックエントリーがあってね。……エイちゃんが暴走してるかも」

「ええっ!? なんで!?」

「わかんない。まあ縁理庁がまた何かやったんでしょ。アイツら本当にお馬鹿ちゃんだからなぁ」

 

 ミナコは海喰尊の頭の上に移動して、エイを注意深く観察する。

 髪色と目の色以外に大きく変わったところはないが、その中身がエイではない事は確かだ。

 

「それにしてもどうして……」

 

 困惑するミナコの脳内に、不意に蝉時雨が響く。

 それは空が海に干渉し、何かを伝えようとしているという事であった。

 

 間もなく、メッセージは簡潔に告げられる。

 

『姉妹百合NTR見事為。是、空返礼共依存百合感謝上映^^』

「成程ぉ!」

「えっ、急にどうしたの?」

「どうやらあの子はお気に召してくれたようだ。これまで静かに見ていてくれたことだし、今度はこっちが手伝ってあげないと!」

「え、え?」

 

 突然意気揚々と動き出したミナコに困惑していたシオの視界が広がる。

 彼女の視界を隠していた手がどけられたのだ。

 

「なんで!」

「見て欲しいからだよ。エイちゃんの姿を。行くぞ海喰尊! エイちゃんを止めるんだ!」

「どうして急にやる気になったの!? ねえまた何か隠しているんでしょ!」

 

 青い空と青い海。

 水平線は存在せずまるで二つの世界は繋がっているかのようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『協力してくれるようですよ。現地コンテンツ人の協力を得られて良かったですねぇ』

『足裏あっつい! 足裏あっつい! どうして痛みとか苦しみはこういう状況でも俺に来るんすか!』

『エイの可愛い姿を見たくて……』

『歪んでるよぉ!』

 

 




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