【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第157話 ボウソウ

 数か月前、SKY-9が観測した空澱大人と潮哭ノ巫女の争いは原因不明のエラーにより記録されることはなかった。

 そのエラーを観測していた人間すらも謎の記憶障害によりその事を一切忘れている。

 

 故にこれは初めて記録される空と海の争いであった。

 

「何が起きているんだ」

 

 黒服の眼下では、空と海が互いを飲み込むように争っていた。

 それに従うように啄空天咬と海喰尊は何度もぶつかり合い、互いを喰らい合おうとしている。

 一体いるだけでも人類が滅びかねない存在がその場に三体――いや、四体。

 愚かにも、彼はここでようやく気が付いた。

 

「ま、まさか潮哭ノ巫女も……!?」

 

 シオマネキにより海喰尊が呼び寄せられたのではなく、より強大な存在が召喚したのだ。

 それに気が付いたからと言って、彼が出来る事はない。

 彼に許されたのは、祈るように両手を組むことだけだ。

 

「あ、あぁ……」

『副主任……辺りの数値が災主級の顕現を示しているのですが……これはシオマネキでしょうか』

「い、いや違――」

「あははっ」

 

 坂を下って行ったはずのエイが、笑い声と共にいつの間にか彼の隣にいた。

 彼女は青い目で彼の顔をじっと見つめている。

 口元に浮かんだ笑みは、これから彼が何を言うのか試しているようにしか見えない。

 

「……シオマネキで間違いない。アレが今、巨大な異縁存在を相手に戦っているんだ」

「ふふふふふ」

『そう、ですか? 成程わかりました。必要であればこちらから八方塞縁者を派遣しますが』

「いや、いい」

 

 考える間もなく黒服は断る。

 この争いを見て彼は悟ってしまったのだ。

 この空の前ではそんなものに意味など無いと。

 自分達がどれだけ恐ろしい存在に見下ろされてい生きていたのか、と。

 

「我々は何故、こんなものを操れると考えていたんだ……」

 

 現実から目を背けるように彼は蹲る。

 その頭上では、依然として笑い声が響いている。

 

「ははははははっふふふふ!」

「許してください……許してください……」

 

 彼はただ子供のように許しを請うことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「楽しいねぇ!」

 

 固まった様に青い空と、底が存在しない海が互いを侵食し合う。

 この世界で最上位に位置する災主級二体の迷宮は、互いに譲ることなく拡張され続け、辺りの物を破壊し続けていた。

 

 全てを吸い込む空と飲み込む海。

 それらは次第に世界を原始の姿へと戻していた。

 

「うわーん! 何が起きてるのー!」

「シオ、今すっごく怖い?」

「怖いに決まってるよぉ!」

「そっかぁ。いいね」

「何がいいの!? ねえこれどうなってるのー!」

 

 巨大な嘴が空から降って来るのをうっかり見てしまい、シオは涙目でミナコにより強くしがみつく。

 対してミナコはその嘴を見て命じた。

 

「ぶん殴れ!」

 

 海喰尊は拳を握ると空へめがけて拳を放つ。

 嘴と拳は勢い良くぶつかると、その倍以上の威力で弾かれた。

 

 啄空天咬と海喰尊はどちらも喰らう事を本質とする為、両者が干渉し合い弾かれたのである。

 

「……うん、出てきたのがあの嘴でよかったな」

「何がいいの? めっちゃ大変な状況だよ」

「でも性質が海喰尊と同じだから、こうして平和に争えている」

「平和……」

 

 シオの眼にはまるで災害後のような街が広がっており、現在進行形でその凄惨さは増している。

 それが果たして平和と呼べるのだろうか。

 

「見てよ、エイちゃんは自分で攻撃は仕掛けてこない。きっと今のあの子の中身はこの嘴を操る事だけを可能としているんだ」

 

 エイは両手を広げ、くるくると笑いながら波の高い岸壁を軽い足取りで歩いている。

 彼女の異常行動が始まって今に至るまで、彼女が直接攻撃を仕掛けてくるようなことはなかった。

 

「だから、このまま海喰尊を出しておけば嘴の攻撃は無力化できるね。つまり私達側の被害はゼロ」

「あ、あの街の被害は……」

「わはは! ……もしかすると、エイちゃんはこれを想定して私達でも対応できそうな化け物を召喚したのかも」

「え?」

「自分が暴走した時の事を考えていたのかもって話」

 

 その言葉にシオはエイを見ようと目を凝らす。

 しかし、常人の視力では、遠くに小さな青が舞っているのがかろうじて見えただけだった。

 

「だって、私達の戦いを本気かつ一瞬で止めるなら、もっとデッカイの出すもん」

 

 啄空天咬は彼女が使役する異縁存在の一体でしかない。

 それをミナコはよく理解していた。

 

「エイちゃん、そんなリスクまで負って私達を止めようとしてくれたんだ……。なら、助けてあげないと!」

「そうしたいのは山々なんだけどねぇ」

 

 ミナコは困り顔で首を横に振った。

 

「暫く戦って分かったけど、私達はこれ以上は何もできないね」

「どうして?」

「そりゃコンテ……空澱大人は今、エイのお願いを忠実に叶えている最中だと思うんだ」

「お願いって……戦いを止めるってやつ?」

「そう。あの時争っていたのはシヲと海喰尊。だから、その両者をぶっ飛ばせばお願いは叶う。シヲはもう遷海したから、残った海喰尊を消そうとしているんじゃないかな」

「戦いは終わってるのに? もう大丈夫だよって教えてあげれば止められない?」

「暴走してるっぽいしねぇ。命令コマンドミスったようなものだし、このままずっと海喰尊を消そうとするだろうね。そこにもしも私達が直接介入すれば、更に空澱大人の行動がぐっちゃぐちゃになる可能性が在る。最悪、お願いを邪魔する海を敵認定して全て消そうとするかも。そうなれば戦争だよね!」

「嬉しそうだね……」

 

 エイに負けず劣らずの笑顔でそう告げるミナコは、やはり人外の感性を持ち合わせているようだった。

 彼女はそのまま吐き捨てるように言葉を続ける。

 

「今の人類も調子乗って来たからそろそろリセットしても良いとは思ってるからね」

「えっ」

「嘘嘘! 冗談だよー。シオが望まない限りそんな事しないよー。それよりも、あの子を止める方法でしょ?」

「う、うん」

「そうだなぁ、エイちゃんの意識が復活すればいいんだと思うけど……肝心のそれが出来そうな子がまだいないな」

 

 ミナコは周囲を見渡す。

 しかし、今の状況を打開できるはずの赤い髪の少女は見当たらない。

 

「あの子、こういう時は真っ先に駆け付けてくるんだけど……どこいるんだろう」

 

 その答えは、天に棲む者だけが知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、後はあの人間を用意できれば良いのですが……潮哭ノ巫女が深海ナイナイしたので、ちょっと見失ってます。エイ、もう少し足裏アチチでも良いですか?』

『駄目です! せめて痛覚ナイナイしてください!』

『それはちょっと……』

『なんでぇ!?』

 

 

 

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