【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第158話 メイキュウ

 メゾンドハッカイに残された観測部隊の眼は依然として巨大な異縁存在の姿を捉えている。

 時折身じろぎをする以外は何もしている様子がない巨大な異縁存在と、波を立てることの無くなったシオマネキはまるで一枚の写真のように静かであった。

 

「副主任はなんと?」

「この数値は全てシオマネキのもので間違いないと言っていた。A-E1を連れて行ったことで、活性化したのだろうか?」

 

 黒服は30分ほど前にA-E1と多くの縁者と職員を連れて海へと赴いている。

 その後シオマネキと海喰尊が突如として動きを止めたのだから、きっかけはA-E1と考えるのが自然だろう。

 だからこそ、観測班達は実感していた。

 A-E1と呼ばれている空澱大人の疑似媒介体は間違いなく、怪物なのだと。

 

「やはり本物なのですね、A-E1は。見た目や振る舞いが年相応の少女だったので、少し疑っていましたが」

「副主任があれだけ大勢の縁者を引き連れて行った理由も今ならわかる」

「ですが……その、大丈夫なのでしょうか」

「何がだ?」

 

 数値から目を離すことのない観測員は、不安げに告げる。

 

「我々が長い時間をかけてようやく作り出し、緻密な調整を繰り返したシオマネキを、A-E1は一瞬で活性化させたという事ですよね? なんというか、格の違いに圧倒されたと言いますか。私達人間の小ささを知ったと言いますか」

「くだらん事は考えるな。副主任はこういった場合を想定して特殊テーザーガンも用意していたし、拘束具も制作したんだ。A-E1は強大な力を持っているが道具に過ぎない」

「そうでしょうか……」

「そうだ。いいからさっさとデータをまとめて報告書を仕上げろ。副主任が怒ると面倒な性格だって事は知っているだろ」

 

 職員はそう言って観測員の肩を叩くとテントから出て、空を眺める。

 白い雲がまるで群れを成すようにいくつも集まって青空の中を進んでいた。

 

「空の硬化現象もない。大丈夫だ」

 

 自分にそう言い聞かせていると、その時青空の端に何かの影が映った。

 

「ん? あれは――」

 

 小さな影は次第に大きくなっていき、人型であると確認できた時にようやく職員はそれがこちらに落下していることに気が付く。

 もはや回避や防御をとる事も出来ない。

 ただ身を庇うように腕を振り上げた彼の目の前に、それは落ちてきた。

 小規模の爆発のような音が響き、テント内から観測員達も飛び出してくる。

 残された縁者も血相を変えて飛び出してきたが、やがて煙の中に確認した姿に困惑した。

 

「東園縁者……!?」

「急いでいたから跳んできた。驚かせてすまない」

 

 落下の衝撃の割に傷一つない彼女は、カミキリを担ぎ辺りを見渡す。

 

「状況を理解している者はいるか?」

「はい。現在、A-E1によるシオマネキの活性化が成功。巨大異縁存在の処理中です」

 

 ネネの眼の前にいた職員がそう答えるが、ネネは「違う」とその言葉を否定する。

 それからカミキリで海の方を指した。

 

「あれは偽物の光景だ。実際にはエイがよくわからない物を召喚し、巨大異縁存在と戦っている」

「は……?」

「私も途中までは目視で確認できていた。が、エイの救援に向かおうとした矢先、迷宮に押し出されてしまった」

「そ、そんな馬鹿な……観測班!」

「依然として目視で状況は確認できています! しかし東園縁者が言ったものは何も……」

「嘴を視なかったか?」

「嘴……?」

「わからないなら良い。アレは見てはいけない類のものだ。私は同類だから大丈夫だったが、常人では餌になるだけだろう」

 

 ネネはそう言うと、マンションの方を見て大きな声で叫んだ。

 

「八子ー! 私だー!」

「うるさいなお前ぇ! 近所迷惑考えてよ!」

 

 エントランスから姿を現した八子は白い箱を被せた姿のまま、ネネに駆け寄り勢いよく殴りつける。

 それを片手で受け止めたネネは、表情一つ変えていない。

 

「迷宮は感知出来たか」

「は? 迷宮……?」

 

 八子はネネに言われて海の方を見る。

 それから少し唸って、納得していないまま頷いた。

 

「確かに言われて見れば迷宮があるかも……? お前ガサツなのによく気が付いたな」

「中から弾き出されたからな。それが無かったら、気が付いていないだろう」

「気が付かないレベルの迷宮なら大したことないでしょ。私に報告せずさっさと処理してくれば良いじゃん」

 

 ネネは首を横に振る。そして空を指さした。

 

「逆だ。大きすぎて気が付いていないんだ。アレは恐らく、元から私達の世界にあるもの……な、気がする」

「……まさかエイちゃん? オイお前ら、エイちゃんは丁重に扱う約束だろ! 迷宮まで使わせるなんて聞いてない! そもそも空澱大人の迷宮なんて承認下りる訳ないじゃん!」

「そ、それは我々も知りません! ただ副主任が沈静化の為にA-E1を使用すると言って連れ出しただけで――」

「もういいっ! 私がちょっと目を離した隙にこれだもんね。縁理庁はある意味凄いわ」

 

 職員に白い箱で頭突きした八子は、ネネへ向き直る。

 今は怒りに身を任せている場合ではない。

 

「で、どうするの。エイちゃんを助けに行くんでしょ?」

「そうしたいのだが、再び入る事は難しそうだ。上空からの侵入も試みたが、それも駄目だった。カミキリも迷宮の境が認知できなければ喰らう事は出来ない」

「ならどうするの」

「それを知るために、セナノと合流する必要がある。アイツはエイの事を理解しているからな。こういった場合の手立ても用意しているかもしれない」

 

 エイの発見から保護、そして現在に至るまで傍にいたのはセナノだ。

 エイ本人の次に彼女に詳しいと言っても過言ではないだろう。

 だからこそ、今の最優先はセナノとの合流であったのだが、事はそう上手く進まない。

 

「だが連絡が出来ないんだ。スマホも通信機も駄目だ」

「あっ、でしたら観測班から連絡しましょうか。三鎌縁者に数人の縁者を派遣しておいたのです。一緒に行動している筈ですよ」

 

 そう言って観測員はすぐさま無線機を繋げた。

 

「こちら観測班、聞こえますか? 直ちに応答してください」

『……こちら鏑矢』

「良かった、繋がった……! 至急三鎌縁者に代わってください」

『それは不可能です。現在、上空に出現した謎の異縁存在により部隊は全滅。三鎌縁者の姿も見失いました。私は嘴から隠れている状態で、動くことが出来ません』

「嘴……」

 

 鏑矢の証言は先ほどネネが言っていた事と合致する。

 

『通信により嘴に悟られる可能性があるので、これで通信を終わります』

「あ、待ってください!」

 

 観測員は慌てて呼びかけるが、鏑矢が再び返事をすることはなかった。

 おそらくは息をひそめているのだろう。

 

「……どうするの、これ。セナノちゃん死んだんじゃない?」

「それはない」

「S階位でも油断すれば死ぬって。それに姿を消したって事はその嘴に」

「例えそうだとしても、あいつにはアレがついている」

「アレ?」

「それを詳しく説明すると私がミラクにすごく怒られる。だから言えない。が、とにかくセナノは死なないから大丈夫だ。早く、合流しなければ」

 

 その時ふと、ネネは自分に突き刺さるような視線を感じ取った。

 周囲から向けられる視線とは違った感情が込められているであろうそれをネネは即座に感知し、その視線の元を見つける。

 

「……お前は」

 

 慌て動き回る観測班から一歩引いた位置で、テントの影に隠れ半身でこちらを見つめている短髪の青年がいた。

 その姿に見覚えこそあれど、ここにいる筈など無い。

 そう思いながらも、ネネはその名を口にする。

 

「ヨシノリ……?」

「は? どうしたの」

「ちょっといい感じに案を考えていてくれ。私は少し確認したいことが出来た」

「え? 丸投げ!? ちょっと待ってよ!」

 

 八子の制止も聞かず、ネネは走り出す。

 同時にテントの影にいた彼も逃げるように動き出したが、S階位を相手に逃げ切る事は容易ではない。

 結局、メゾンドハッカイから抜け出した民家の傍で彼はネネに追いつかれることとなった。

 

「お前、ヨシノリだな」

 

 カミキリをいつでも振り下ろせる状態のまま、ネネは問いかける。

 彼はゆっくりと振り返り、それからネネを見て複雑そうに笑った。

 

「また会ったな、ネネ」

 

 その顔も声も、やはりネネが知るヨシノリで間違いない。

 

「どうしてお前がここにいる」

「色々あったんだよ。それより、セナノさんを探しているんだろ?」

「ああ、そうだ」

「なら安心して待っていてくれ。今、俺の知り合いが呼びに行ってる」

「知り合い?」

「ああ」

 

 ヨシノリはそう言って、近くの縁石に腰を下ろす。

 それから自分の隣を指で示した。

 

「まあ座れよ。今回俺達はもう何も出来そうにないんだから。……少し俺と話そう」

「わかった」

 

 素直に従うネネを見て、ヨシノリは再び笑う。

 

「やっぱり今までのお前も素なんだな。嘘じゃないってわかってちょっと安心した」

「ヨシノリ、お前は何者だ」

「俺は俺だよ」

 

 それは誤魔化しではなく、彼の本心からの言葉である。

 こうして二人は、青空の下でぽつぽつと語り合い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『成程ぉ、どうやらもう一人のコンテンツ職人が手を貸してくれているようですね。それを伝って私達もあの人間の後を追いますよエイ!』

『あちちちちち! 足裏あちちちち! 真夏のアスファルトは凶器ですよ御空様!』

『あはは!』

『何笑ってんだぁ!』

 

 

 

 

 

 

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