【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
セナノちゃんを目視で確認!
これよりコンテンツがフェーズ2に移行します!
しちゃいます! 助けて……。
『来ましたよ私達のメインコンテンツが! 彼女と戦える機会なんてそうそう用意できないので、しっかり戦ってください。空纏いも許可します!』
『殺し合いっすか……?』
『ははは、死ぬのはもったいないのできちんと生かしますよ。それに今回はエイの負けイベです。あの人間にボロッボロの状態で救われてください^^』
『そんなぁ!』
いくら神様だからって好き放題にも程があるぞ!
そろそろ俺も一言バシッと言ってやらないとな……!
『ですが、等価交換しましたよね? 足裏、もう痛い痛いじゃないでしょう?』
『あっ、ほんとだぁ!』
『こちらは既に貴女の要求を呑んだのに、今更無かった事にするんですか?』
『えっ、それは……』
『酷いですよエイ。約束は守ってください。それとも空澱大人を相手に約束を破ると? 神との契約を破るとどうなるかご存じで?』
『ど、どうなるんすか』
『^^』
『……実は俺も狂気に落ちた巫女♂をやりたかったんですよぉ! 流石は御空様だなァ! 俺がやりたいタイミングでこんなに好条件で足の痛みを消してくれるなんて! えっ、これこんなに俺に都合が良い取引でいいんですかぁ!? 後で無しにしてくれって言っても駄目ですからね!』
足の痛みは消えたからセーフ。実質勝ち!
そうだ、そうに決まっている……! 俺が立場の弱さから一方的なカス契約を結ばされたわけじゃない……きっとそうだ……!
『では良き所で空纏いをお願いします。今回は問答無用で針金です』
『針金って……?』
『あれを纏うと痛そうなんですよねぇ』
『本当に俺今回死なないんだよね!? うっかりとか止めてよ!?』
『大丈夫ですよ。御空製作所では何よりもキャストの安全を第一にしていますから。命だけは守ります』
尊厳は守ってくれないのね。
でも行くしかない。監督がメガホンを取ったのなら俺に出来る事などこれしかないのだから。
「あはははは――」
勝手に笑い続ける俺の体は、次第に所有権を取り戻すように感覚が戻り始めた。
ふらふらと舞っていたその手足がやがて自分の意志で動かせるようになる。俺の体と言う名のコントローラーを返して貰えたようだ。
とりあえず、ソラから俺に肉体の主導権が変わった時のつなぎ目を不自然に思われないようにしなければ……!
「……エイ、よね」
「――――あは」
名前を呼ばれ俺は一度足を止める。
そしてがくんと項垂れてから、ゆっくりとセナノちゃんの方を見た。
敢えて頬に沢山髪が張り付くように、そして片目しか見えないように調節。
それからセナノちゃんの姿を見た瞬間に目を見開いて、更に大きな声で笑い始めた。
「きゃはっ――きゃはははははははははっ!」
ソラはどうだ……!?
『キャッキャッ』
喜んでいる!
よし、ならば続行だ。
俺は対等かつ正式な契約に従い、狂気巫女♂コンテンツを遂行する!
■
セナノは直感する。
目の前のそれはエイであると。
そして同時にエイではないと。
「あははははっ!」
エイへと続くように、アスファルトに赤黒い線が二本伸びている。
コンクリートに筆で荒く擦りつけたようなそれは、陽に晒されて乾きくっきりと焼き付いていた。
まるでエイの為に世界が用意したレッドカーペットのようなそれは、あまりにも荒々しく生物的であり、鼻を突く鉄のような匂いは潮の香りなどかき消している。
「ふふふ」
一度その足を止めてこちらを視たエイは、より激しい笑みを浮かべる。
やがて駆け出したその足から噴き出す赤い液を見て、セナノは辺りを染めるそれが彼女の血なのだと理解した。
「っ、どうしたのよエイ!」
「あははははははははははっ」
エイは血まみれになった足など関係ないかのようにセナノへと近づいていく。
明らかに普通の状態ではない。
普段のセナノであれば、ここで分析からの戦闘を冷静に行えただろう。
しかし今回は違った。
「私、戻って来たわ。 一人で無茶させちゃってごめんなさい。……だ、だから、ね? 私の言葉に返事をして?」
「ふふふふふふふふふ! きゃはっ!」
水っぽい足音は、血が今も流れ続けているからなのだろう。
エイは片手を伸ばしながら、ふらふらと歩みを進める。
その顔はずっと笑みに侵されていた。
「エイ……私は……貴女を助けに……来た、の……」
「あははははっ!」
「……ほら、エイ。いっぱい頑張った貴方は休んでいていいから」
セナノは両腕を広げる。
それはもはや現実逃避に近いだろう。
この状況を、敏い彼女は既に大部分理解してしまっている。
誰が敵で、誰が味方なのか。
本当にここで相手取るべきは誰なのか。
それは依然として静かな海か――否。
今まさに青空のように澄み渡った笑顔でこちらに駆けてくる相棒だ。
「……っ」
セナノはエイを抱きしめようと一歩踏み出す。
正しい選択が出来なくなった彼女は無意識下にあった最も優先すべき行動をとってしまった。
「あっははははははは!」
そんな混乱も葛藤も知らずエイは笑い続ける。
白く細い指先がセナノに触れようとしたその時、上空から見ていたヒバリが主を庇うように飛び出した。
「ヒバリ!?」
セナノの命令よりも先に、主人を守るためにヒバリは翼を広げる。
小さな体を一生懸命に大きく見せるヒバリへ、次の瞬間エイの手が触れた。
「きゃははは、ふふふっ」
くすくすと笑うエイの手はヒバリに触れている。
そしてゆっくりとその焔を青く染め上げていった。
「っ!? ヒバリ、一度停止しなさい!」
それは青空による侵食である。
触れた指先で、ヒバリを自身と同じ青空へ変換しようとしたのだ。
『――』
ヒバリは主の命令で、侵食されつつも一度小さな羽根へと戻っていった。
それをキャッチしたセナノは、そのまま後ろへと飛びのきエイを見る。
「エイ! お願いだから正気に戻って!」
「きゃははははは!」
ヒバリを奪われたエイは空いた掌を眺めてきょとんとした後、再びセナノへと向けて歩き出す。
「エイ……どうして……どうしてこんな風に……!」
腹の底から湧き上がってくるのは、怒りと絶望であった。
不甲斐ない自分への怒りと、エイがこんな風に至ってしまった事への絶望。
自分がいない間にどれだけの事があり、エイがどれだけの辛い思いをしたのか。
それはもはやセナノに推しはかれるものではない。
「ははははははは!」
「わたしは……あ、ああぁっ……!」
機能を停止したヒバリを片手に握りしめたまま、セナノはその場に立ち尽くしてしまう。
自分を求めて走って来るエイの姿を見て、彼女の中で何かが途切れてしまったのだ。
「ぁ」
セナノは再び呆然と両手を広げる。
そして。
「あはっ」
セナノはエイを受け入れた。
細い両腕がセナノをしっかりと抱きしめ、セナノもそれに返すようにエイの背中に手を回そうとする。
が、それすらも叶わないほどに彼女の体は妙な感覚に覆われ始めていた。
「ぁ……がぅぁ……」
まるで落ちているかのような浮遊感と暑さが自分の中へと入り込んでくる。
自分と言う存在が解け、空の一つになっていくようなその感覚は人間の脳では許容できない苦痛だ。
故に脳は本能的にその苦痛を和らげるためにいくつもの快楽物質を分泌し、苦痛を和らげようとする。
結果彼女を包んだのは、味わったことのない感覚だった。
(なに、これ……怖いのに、心地よい……)
頭の中には蝉時雨とエイの笑い声だけが聞こえる。
見上げる青空は果たしてこれ程までに青かっただろうか。
「ぁ……そら、に……」
あの場所こそが、いずれ自分が還る場所なのだと悟る。
雲一つない快晴の下、エイの抱きしめる力だけが増していき意識すらも分解されていった。
そのなんと爽快で心地の良い事か。
「あぁ」
胸がすくような感覚と共にセナノが感嘆の息を吐いたその時である。
「――っ、ご、めんなさい」
抱きしめられていた腕が解かれ、胸を押される衝撃があった。
「え」
今まで浸っていた恐ろしい悦楽がぷつりと途切れ、今度こそ本物の浮遊感が体を襲う。
それが、エイが自分を岸壁から海へと突き落としたのだと気が付いた時にはもう手を伸ばすには遅すぎた。
「エイ……!?」
自分を突き落としたエイは笑みを浮かべている。
しかしそれは今までのような狂気的な笑みではなく、涙を目に浮かべ悲壮感を押し殺した小さな彼女の笑みだった。
いつも通りの、セナノが守りたかった相棒の顔だ。
「っ!」
セナノは必死に手を伸ばそうとする。
しかし、空の一端に触れた彼女の体はまだ自由を取り戻していない。
思いも空しく、彼女の体は水飛沫を上げて海の中へと落ちた。
『セナノちゃんの精神がやばそうだったので、リセットの為に海に落としました。いかがでしたか?』
『エイ……! 貴女は澄目村のエンターテイナーですよ……!』
拙者、百合心中好き好き侍。
夏の陣にていざ候。