【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
ヨシノリとネネが語り合ったことはそこまで多くはない。
ネネがそこまで会話を進んで行わないという事もあるが、それ以上に二人は距離を測りかねていたのだ。
互いに打ち明ける事の出来ない秘密があるというのも理由の一つかもしれない。
何故ここにいる、とネネが問えばヨシノリははぐらかす。
エイの迷宮についてヨシノリが問えば、ネネは真顔で首を横に振った。
そんなこんなで雑談以下の会話を続けていた二人だったが、やがてヨシノリはこう切り出した。
「――縁理庁を潰さないか」
それが彼の本題だったのだろう。
ヨシノリはそう提案してから一言も発さない。
峰の奥をゆっくりと流れる入道雲を見ながら、彼はネネの返答を待っているようだった。
対するネネは何を考えているのかわからない仏頂面で自販機を眺めている。
「無理だな」
彼女はそう言うと立ち上がり、自販機へと歩いて行った。
迷うことなくスポーツドリンクを二本分購入した彼女は、そのうち一本をヨシノリへと投げ渡す。
「私は秩序を保つ存在だ」
「今の縁理庁が秩序だと? 冗談のつもりか?」
スポーツドリンクをキャッチしたヨシノリの表情は不愉快そうだ。
しかしネネは彼の視線など気にも留めていない様子でヨシノリの隣に再び腰を下ろした。
「そうだ。冗談のようなアレが今はこの世界の秩序なんだ。やり方はどうであれな」
「お前は非道を見過ごすのか?」
「私の前で起きた事なら見過ごさない。だが、縁理庁という巨大な組織を解体してまでそれを行おうとは思わないな」
「……そうか」
「意外だったか?」
「いや、お前はそういう奴だった。意外と頭が回るし、冷静に物事を見ることが出来る。たまに抜けているけどな」
ヨシノリはスポーツドリンクを呷る。
良く冷えた爽やかな甘みが喉奥へと流れていく心地よさは、データ体であろうが関係ないらしい。
「けれど、そうか。やっぱり、お前は縁理庁側か」
「今縁理庁が潰れれば、管理している異縁存在や彼らに助けられている人々が被害を受ける。アレも一枚岩ではない。本当に人のために動いている者もいるのだ」
「お前みたいに?」
「ああ」
「そりゃありがたいね。幼馴染のふりをして傍に潜り込むことが人のために動いている人間のやることだってんなら、俺にはとてもじゃないが真似できないな」
「……それは」
「悪い、今のは流石に意地悪過ぎた」
ネネの表情が少しだけ曇った瞬間を、ヨシノリは見逃さなかった。
偽りであろうとも長年共にいたという記憶が、彼女の心情を理解させる。
ネネは本心から、人々の為に動いているのだ。
だからこそ、相容れない。
「じゃあ、ここまでかな」
ヨシノリは空になったペットボトルを潰す。
こぶし大になったそれを彼はゴミ箱へと軽く投げ捨ててみせた。
見事な放物線と共に入ったペットボトルに、ヨシノリは自慢げだ。
「どうだよ。お前は出来るか? S階位様」
「舐められたものだ」
ネネは中身を一気に飲み干すと、手の中でペットボトルを握りつぶす。
するとそれは完璧な球体となった。
「えぇ……」
「フンッ!」
ネネの放った球は放物線を描くことなく、真っ直ぐゴミ箱へと向かう。
そしてゴミ箱に真横から穴をあけて、そのまま入ってみせた。
「どうだ」
「…………やっぱお前こっち側に来いよ」
「断る」
ネネは立ち上がると、カミキリを担ぐ。
その視線はヨシノリへと向けられていた。
「では、拘束する」
「仕事熱心だな。まあ、最後に一つ忠告だけ聞いておけよ」
「なんだ」
「間もなく訪れる夜神楽についてだ」
くだらない時間稼ぎならカミキリで殴ってしまおうと考えていたネネの手が止まる。
「俺の恩人曰く、今度の夜神楽は過去類を見ない規模であるようだ。今までような数百の異縁存在では済まないらしい」
「何故だ」
「あいつは自然の摂理とか言っていたな。まあ、理由なんて無いんだろう」
他人事のように彼は笑う。
しかし次の瞬間には、彼は真剣なまなざしをネネへと向けていた。
「エイちゃんをもっと守ってやれ。次の夜神楽で使い潰されないようにな」
「言われずともそのつもりだ」
「そうか。その割には、あの子は今回も苦しんでいたようだけどね」
「……会ったのか?」
「会ったよ、話もした。優しい子だ。だから……死ぬのが惜しい」
ヨシノリは立ち上がる。
身長は相変わらずネネの方が圧倒的に高いが、それでも彼は負けずに真正面から睨みつけた。
「俺達ならあの子に相応しい玉座を用意してやれる」
「エイがそれを望むと?」
「いずれな」
「そうか――なら、話は終わりだ」
目の前の存在は、危険思想の持ち主である。
ネネはそう判断し即座にカミキリを振り下ろした。
その行動に躊躇はない。
彼も流石に突然カミキリを使われるとは思っていなかったようで、驚きの声を上げる。
「うおっ……容赦ねえなぁ」
半身が削り取られるようになくなってもなお、彼は平然とそう言った。
「データ体を喰らうのは初めてだ」
「精々よく噛んで食え。と言っても、俺の本体はここにはないから少し味気ないかもしれな――」
言い終わる前に、ネネはヨシノリを完全に喰らっていた。
アスファルトにカミキリが突き刺さる甲高い音が響き、その後から蝉時雨が追いかけてくる。
「……もう少し情報を引き出した方が良かったか」
彼女の声に迷いも後悔もない。
その胸にあるのは、次に会ったならば敵だろうという確信だけだ。
■
陽炎が揺らめく坂道を、ゆっくりと昇っていく。
まるでここに自分達がいる事を噛み締めているように一歩一歩。
「……私、重くないですか?」
「大丈夫よ。私、エリートだから」
いつもの返答に満足したのか、エイは小さく笑う。
そんな二人から少し遅れた位置をミナコとシオが歩いていた。
「シオ、包帯を巻くの上手いねぇ」
「そうかな? ……でも、あれじゃあ暫く歩けないでしょ」
シオの視線の先には、エイの足がある。
足裏は包帯で巻かれており、応急処置としては文句なしだろう。
問題は、その包帯がミナコがどこからか取り出した正体不明の包帯であるという事なのだが。
「大丈夫大丈夫。あの包帯凄いから」
「そ、そう」
「シオにも巻いてあげようか? 折角なら効果を実感できるように傷つけてあげる」
「遠慮します」
シオは駆け足でセナノとエイの方へと向かう。
その光景を見ながら、ミナコは充実感と共に空を見上げた。
相変わらず青空が広がっている。
暫くは暑い日が続きそうだ。
「うーん、今日も平和だ」
色々な出来事を総括して、ミナコはそう結論づけた。
彼女にとって、今までの出来事は心躍るものでしかない。
当然、もう一人にとっても。
「――」
ミナコだけがそれに気が付いた。
廃屋の錆びたトタン屋根の上、白いワンピースを夏風に揺らす青い髪の少女。
彼女もまた、エイ達を見下ろしている。
やがて彼女はミナコの視線に気が付いたのか、一度だけ視線をそちらに向けた。
そして。
「「^^」」
二人は笑顔で通じ合い、それからまた人間達へと視線を向ける。
少なくともこの笑顔が浮かんでいる間は、人類はまだまだ安寧の日々が続きそうだ。
『足裏ジンジンする……』
『車椅子巫女♂祭りを見れると聞いてきました^^』
『あってたまるかよ』
と言っても、その安寧には多くの代償が必要となるのだが。