【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
廻縁都市にそびえる無数の卒塔婆のようなビルは、縁理庁上層部だけが立ち入りを許されている。
普段は人数も少なく、静謐に満ちた建物だが今日は違った。
白亜の壁と天井に包まれた多角形の部屋の中心の円卓には、数人の仮面が座っている。
白いのっぺりとした仮面の中心には逆さ鳥居が刻まれており、それは身分を証明するものであった。
この部屋で発言をすること自体に、責任と義務が問われる。
故にこの場で交わされる言葉は全て清らかであり、会議は粛々と厳正に進められなければならない。
しかし、そんなかつての掟はもはや権力と名声に埋没した。
「――なんでもいい! シオマネキの代替案を出せ!」
仮面の男が叫ぶ。
テーブルを叩くのはかろうじて自重したようだが、握られた拳が振り上げられるのは時間の問題だろう。
それほどまでに事態は切迫していた。
「 そもそもシオマネキの捜索部隊は何をしているんだ!」
「……4日前の定期連絡を最後に通信は途絶したままだ」
男の問いに、向かいに座っていた仮面の男が答えた。
言葉は投げやりで、先に諦めたのだろうという事が声色からうかがえる。
もはやシオマネキは縁理庁の手の届かないどこかへと消えてしまったのだ。
「だから私は反対だったのだ。災主級を新たに作るなど。それはもはや神の領域だろう」
「なら貴様は夜神楽に対して対策を講じないつもりか!?」
「そうは言ってないだろう。しかし、現状ではシオマネキが存在しないのだから、どうすることもできないだろう」
「あの超巨大異縁存在さえいなければ、こんな事には……」
「それもどうだかな」
男は背もたれに深く体を預けてあざ笑うように言った。
「何?」
「そんなもの、本当に存在していたのか? シオマネキの稼働が失敗し、隠ぺいするために必死に考えた粗末な言い訳では?」
「貴様ッ!?」
「止せ、この塔で流血沙汰などあってはならない!」
仮面の男が席から立ち上がり、殴り込もうとする。
それを必死に止めようと、他の者達が立ち上がり体を押さえつけ、場は混沌を極めていた。
「そもそも災主級が稼働実験段階まで進んだことが奇跡に近いというのに、お前はケチをつけるのか!? そうだったな! お前はいつも私のプロジェクトを邪魔し、蹴落とそうとしてきた!」
「おいおい、仮面を付けている間は皆が同一の存在だろう? これでは会議の公平性があったものではないな」
神経を逆なでするような言葉に仮面の男は限界だった。
「私を愚弄するのも大概にしろ!」
「やめろ!」
「おい誰か、外で待機している職員も呼んで来い! 今日の会議は終いだ! やはり審縁導師様を抜きで話を進めるなど――」
ぱん、と小さな手が鳴らされる。
不思議と耳奥まで響いた音に、その場の全ての人間が動きを止めた。
音のする方を見れば、そこには青い仮面を付けた小さな少女がいる。
「……なんだ、貴様は――ああ、いや、失礼した」
一瞬、誰かわからなかった仮面の男達だったが、すぐにその正体に思い当たる。
彼女は自分達が信頼できる同志ではないか。
「そう焦らないでください、皆さん」
風鈴のような軽やかな声が響く。
それだけで荒れ果てた会議は整然とした形を取り戻した。
「そもそもシオマネキは、本来どういう運用を想定していたのか一度ここで再確認をしたいのですが」
少女の言葉に仮面の男は頷き席へと戻る。
そして咳払いをして説明を始めた。
「今回の夜神楽のルートは、二つの地方都市を通過し廻縁都市を目指すと予測されている。これは複数の異縁存在による予知、神託による確かな情報だ。廻縁都市が壊滅すれば日本はお終いだ。だからこそ、私達は今まで以上にこの夜神楽に真剣に対処しなければならない」
「ふむふむ」
「それに今回は地方都市二つが侵攻ルートの中心にある。廻縁都市うんぬんを抜きにしても、阻止せねばなるまい」
「そこでシオマネキですね」
少女の言葉に仮面の男は頷く。
「そうだ。発生する沿岸部に事前にシオマネキを設置。そのまま海で遷海による大規模な一斉処理を行う。これにより被害はゼロ、情報の統制も容易だ。これが最善策だったのだ」
「シオマネキを失ったのは痛手でしたね。まさかあんなイレギュラーが発生するとは^^」
少女は肩肘を突き、身を乗り出す。
軽薄な態度だが、誰もそれに不満を漏らすことはない。
何故なら彼女はそういう存在なのだから。
「そうだ。シオマネキは審縁導師様にも許可を頂いて始めた一大プロジェクト。それがこんな完成間近でとん挫とは……」
「そう気を落とさないでください。まだ策はありますよ」
「……本当か?」
「ええ! 私達は既に災主級を手に入れているではないですか」
少女の言葉に誰かが呟く。
「――空澱大人」
「^^」
少女は立ち上がり、両腕を広げて声を張り上げた。
「そうです! 今こそあれを使う時でしょう。話によると既に何度か異縁存在の処理に使用し、無事に成功しているのでしょう? なら、使わないと^^」
「しかし、審縁導師様がそれを良しとするだろうか。あの方は、かつて空写の……」
「散々、倫理を無視してきたお前達に、今更何を躊躇することがあるのでしょう^^」
「違う! 私達は記録で知っているのだ。かつて、夜神楽を一人で鎮めた疑似媒介体の末路を。もう一度同じ過ちを繰り返せば……審縁導師様がなんと仰るか」
「……成程!」
少女はポンと手を叩き、頷く。
気が付けば、部屋は無性に暑くなっていた。
「この期に及んでお前らは目上の人間の顔色を窺うのですね! 審縁導師様が怒るから、お前らは空澱大人の疑似媒介体を扱えない」
「…………それは」
「大丈夫^^」
「え?」
仮面の男たちは顔を上げる。
全員が少女ではなく、更に上を見上げていた。
天井はいつの間にか消え去り、そこには雲一つない青空が広がっている。
「そんなものを恐れなくとも良くなりますよ。本当に恐れるべきは何か、この夜神楽をもって愚かで愛しいお前らに教えてあげるとしましょう」
仮面には、認識災害型異縁存在に対する強固な対抗構文が仕掛けられている。
これは異縁存在が人間の認識に潜り込み、内部から組織を瓦解させた前例があるからだ。
故に、このような会議では最上級の構文を扱い、自身の認識に干渉する多くの力を阻害する。
といっても、そんなものはこの空の下では無意味なのだが。
「空澱大人を使いなさい^^ 疑似媒介体を扱い、肉体を酷使し、夜神楽を鎮めさせるのです。その前段階として、何度かテストも兼ねて任務を与えるのも良いですね^^」
蝉の声が頭の内側まで入りこんで、随分とうるさい。
いや、もはや心地が良いのか。
仮面の男たちは空を見上げたまま、ただ茫然とする。
「……ああ、そうだな」
「^^」
肯定の言葉に気を良くしたのか、少女は手を叩きパチパチと笑う。
「あははっ、それじゃあ頼みますよ!」
無邪気な笑い声と共に、ここに一つの方針が打ち立てられた。
それも残酷で、愚かな歴史の繰り返し。
一人の少女を犠牲に多くの生存を得る合理の解は、満場一致で正義であるとされたのだ。
「……監察官に連絡をしなければ」
「俺もテスト用の異縁存在を見繕うとするか」
「では、私も――」
青空の下、仮面の男たちは先ほどの喧騒が嘘のように協力を始める。
正義の御旗を手に入れた悪意は、一人の少女へと今まさに手を伸ばさんとしていた。
『あ、ソラどこ行っていたの? ピザ、もう届いたよ!』
『? 百枚では……!?』
『そんな訳ないだろ。というか、本当にどこに行ってたの?』
『私も注文していたのですよ。コンテンツを日時指定、自宅配送で』
『コンテンツって配送できるんだ……じゃなくって、今度は何……!?』
『^^』
『なんなのぉ!? なんの笑顔ぉ!?』