【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
テントの片隅でセナノは周囲を眺めてその時を待っていた。
彼女がするべきは、この場所に根付こうとしている雷冠の構文の焼却。
辺りの安全が確保でき次第、彼女は舞えばよいのだ。
普段は村の祭りが行われているという広場は今、四方をライトで照らされ、セナノの舞を効率化する構文が刻まれた紙垂が巻きつけられた綱で区切られている。
(今までの事件の規模が規模だったから麻痺していたけれど、A級でも普通は大ごとなのよね)
セナノに緊迫感はなかった。
今まで彼女が相対してきたのは、封縁五家や災主級など。
生き残るだけでも偉業と呼べるそれらを相手に任務を遂行してきたのだから、空から神が堕ちてきた程度で何かを思う事はない。
が、緊迫した様子で機材の設置や観測記録を常にとっている職員を見ていると自分が異常だったのだと思い知らされる。
神と人間が同じ場所に在るなど、本来はあってはならない事なのだ。
老人達や職員の反応の方が本当は人間として正しい。
「……いつの間にか私もあっち側ってことかしら」
セナノはスマホを取り出す。
そしてはやる気持ちを抑えて、深呼吸をした。
少しでも早く声を聞いて安心したいとい思いがコール音と共に増していく。
四度目のコールの後、彼女の望んだ声は聞こえてきた。
『セナノさん!』
「ふふっ、そんなに声を張り上げて。私が居なくて寂しかったのかしら」
『大丈夫ですよ。……ちょっとだけ、ちょっとだけ寂しいですけど』
「あんなに格好よく送り出してくれたのは誰だった?」
『私です。でも、いざ一人になると不安で……セナノさん、お怪我はないですか? 任務って危ない事じゃないですか?』
「ん、大丈夫よ。別に私には危険が無いわ。今までの任務と比べたら生ぬるいくらい」
今まで心に引っかかっていたものが取れるような感覚だった。
木森林と話しているときも、職員との打ち合わせの時も、セナノの隣にはぽっかりと空いた穴のようなものがあったのだ。
きっと木森林とエイは仲良くなれるだろう。
きっと職員ともすぐに打ち解けるだろう。
きっとそれが本当の世界の在り方だったのだろう。
自分一人ではなく、傍にエイがいて一緒に任務を遂行する。
それが一番しっくりくるのだ。
一人での任務は、どうにも身が入らない。
『セナノさん、どんな異縁存在を相手にするんですか?』
「うーんそうねぇ、雷の輪かしら」
『へえ…………っ』
「エイ?」
相槌の後、向こう側から声が聞こえなくなった。
が、数秒して再びエイの声が聞こえる。
『すみません、ちょっとくしゃみをしていました』
「別にわざわざミュートにしなくて良いのに」
『だって、セナノさん心配するじゃないですか。風邪を引いたの? とか』
「まあ、そうね。美味しいおかゆを作ってあげたいわね」
『じゃあ風邪を引きましたセナノさん』
「おかゆにそこまでの魅力を……?」
どうやらセナノに心配される事よりもおかゆを食べたいという欲求の方が勝ったようだ。
目の前に居ないというのに、真っ直ぐな目で涎を垂らしたエイの姿が脳内に浮かぶようである。
『それに雷ですか……ビリビリに気を付けてください』
「気を付けるポイントが子供過ぎる。静電気じゃないのよ?」
『あっ、そう言えば下敷きで頭を擦ると髪がびよーんってなるやつ、動画で見たので後で試したいです!』
「完全に静電気扱いじゃないのよそれ」
『…………』
「エイ?」
返事はない。
暫くセナノは返事を待つが、それでも耳に入ってくるのは職員の会話と辺りから聞こえる虫や蛙の声だけだ。
万が一が頭をよぎり、全身が冷水を掛けられたように血の気が引いていく。
「エイ!? ちょっとエイ!?」
『…………なんで、すかセナノさん』
「なんですかじゃないわよ! 大丈夫!?」
『……すみません、セナノさん』
「謝らないで、今すぐに任務を中断して――」
『ねむいです……』
「え?」
聞こえてきた声は気だるげで、それから布の擦れる音がした。
どうやらベッドに横になったのだろう。
ハッとして今の時刻を見れば、既に23時を回っている。
普段のエイならば、すっかり眠っている時間だろう。
「な、なんだ……そういうことね……」
『セナノさんに……っ電話しようかどうか、迷っていたらこんな時間になってしまって…………ふぁ』
少しわざとらしく、そして何よりも可愛らしい欠伸が聞こえてセナノは思わず近くのパイプ椅子に腰を下ろした。
心配そうに駆け寄って来た職員に手で『問題ない』と伝えながら、セナノは苦笑する。
「実は私も早く貴女と話したかったのよ。同じね、私達」
『ふふ、そうですね』
クスクスと笑う声が聞こえ、それから再び沈黙が支配する。
が、今度は安心してその余韻に浸ることが出来た。
「私も、もう行くわ。追加の任務が無い限り明日で帰れるわね。意外と早かったわ」
依頼書から最低三日は掛かるだろうと想定していたが、思ったよりも簡単に片付きそうだ。
木森林が事前に色々と手配をしており、なおかつ雷冠を空に還す方法が確立されていたのも大きいだろう。
『それじゃあ、今日はお話おしまいですね』
「ええ、おしまいね」
『…………セナノさん』
「何かしら?」
『また明日、お話ししましょうね』
「ええ勿論。それじゃあ、おやすみなさい」
『おやすみなさい……』
安らぎの時間はこうして終わった。
セナノは顔を上げて理解する。
(空気がさっきよりも張り詰めている。準備が終わったって事ね)
後は、自分が舞えば良い。
神へと舞を奉納する舞台は既に整っていた。
「よし。ヒバリ、ちゃっちゃと神様を満足させるわよ」
気合を入れ直して、セナノは舞台へと向かう。
雑草と砂利が混じったその場所は、本来は神への奉納には向かない場所なのだろう。
しかし、その程度はエリートのセナノには関係ない。
舞えば全てが解決する。
神を前にしても自身の道理を通すからこそ、彼女はS階位なのだ。
■
こひゅ(瀕死)。
こひゅ(絶望)。
死にかけでベッドからご機嫌よう、人類代表の玩具です。
さっきまで御空様に『通話相手に悟られないように苦しむ』というカスみてえな注文を受けていました。
『まあ及第点ですね。くしゃみという言い訳は、苦しくて良かったですよ』
『急に心臓を出したり戻したりしないで(正論)』
ちょうどそれが無事に終わったのは良いんだけど、 ソラのサポートが余計なお世話過ぎたのだ。
俺が会話をしている途中で、ソラが俺に心臓を与えたり、抜いたり、半分だけ入れたりと、積極的にガチ苦痛を与えてきたのである。
それが痛いのなんのって。
こんな苦痛を味わうくらいなら、まだトラックに真正面から撥ねられた方がましだ。……いや、やっぱりそっちも嫌だな。
『エイには本物の苦しみの中でお話をして欲しかったのです』
『は? 舐めるなよ? 別に本物の痛み無しでもそれらしい演技できるが? 演者としての矜持があるが?』
これが一番許せない。
俺は今まで演技で華麗にその場を切り抜けてきたというのに、この期に及んで本物の苦痛が無いとリアリティが出せないだと?
それは俺の演技を馬鹿にしているのも同然だ。
まったく、ソラのやつ。俺に既に演技で何度も欺かれているとも知らずにね。
『流石はエイですね^^ ですが、貴女が澄目村に帰った時には常時苦しんでもらう必要があります。24時間常に演技をできますか? 眠っている間は、ずっと穏やかな寝顔じゃないですか。ほんの一瞬露わになる素が、コンテンツではノイズとなるのです』
『成程。質問良いですか?』
『はいどうぞ』
『俺は澄目村に帰って、常時苦しむのですか? それは本当です?』
『はい^^ なので、今から慣れておかないと。オソラ大苦痛はこんなものではありませんよ? それに五感もナイナイされるので、今までのように万全の状態での演技というのはできません』
成程ね。
どうやらソラは来るべき大舞台に備えて俺を鍛えていたみたいだ。
それならそうと先に言って欲しい。
言っても納得しねえけど。でも多少は心持が違うしね。
『オソラ異縁存在はあれ一体ではありません。必ず一週間はあの人間と引き離してみせますので、その間に苦痛をものにしてください』
『苦痛はものにするものではないよ』
『ものにしなさい』
『はい』
『という訳で、特訓コンテンツです! 貴女には新たなステージに上がって貰います!』
来たるべき日に備えて、自分の中にいる神様と特訓をする。
そう考えれば、意外と悪くないかもしれない。
主人公とかって、特訓するもんだしね。
こうなったら、もう受け入れるしかねえや!
『では、まずは内臓雑巾絞り苦痛から』
『勘弁してくれ』
これが一週間続くんすか?
ごめん、やっぱり辛いかも……。