【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
押忍! 熱血御空塾! が開始されて既に三日目である。
俺を唯一救い出せるコンテンツガールのセナノちゃんはまだ戻る気配はない。
それもこれも、ソラが次々とオソラ異縁存在を世に放っているせいだ。
この神様、マジで終わってます。
コンテンツ引き延ばしの為だけにバケモンを使っているみたいです。
セナノちゃんを筆頭に皆に迷惑が掛かっていて申し訳ないと思う反面、現地に居なくて良かったとも思う。
まあ、こっちも地獄なのだが。
『エイ! そんなものですか! 貴女のコンテンツに対する情熱は! 真にコンテンツを愛する者なら、自らの意志で脈を弱くし、血流操作で顔面の色を変えてみせなさい!』
『とんでもねえ無茶言い出したよ』
『私が以前出会った流離のコンテンツ職人は容易く行っていましたよ!』
『それ人じゃないからだよ』
御空様と出会える時点で人間じゃないっぺよ。
どこの異縁存在だよそれ。というか空と海以外にもそんな奴いるのかよ勘弁してくれ。
はぁ、異縁存在と同じことを俺にやれって言われてもなぁ。
『演技なら出来るけど、体の機能の操作は流石に……』
『いつまでも人間気分でいられると困りますよ』
『新人と人間をイコールで認識している?』
今日のソラは眉毛をマジックペンで太く書いて、頭には青い日の丸の鉢巻をしていた。
そして手に持っているのは有刺鉄線を束ねて作った棒。
なぜそこまで再現しておいて、竹刀ではなく殺傷性の高い武器を……?
『いいですかエイ、貴女の体は既にまともではありません』
誰のせいだよ。
『内臓が無いのに生きている。それは全てコンテンツへの情熱があるからです。だから、常識に囚われず、自身の肉体を支配してください』
『……う、うーん、そこまで言うならやってみるよ』
だからその有刺鉄線棒をちらつかせないでね。
そもそもさっきまでそれ、蜘蛛の群れじゃなかった?
『こ、こうかな……』
俺は自分の中に脈とつまみをイメージする。
頭の中で音のボリュームを下げるようにつまみを捻っていった。
な、なんだか本当に元気が無くなってきたかも……。
『流石ですね、エイ。やれば出来るじゃないですか^^』
くらくらと揺れる頭には、ソラの甲高い言葉が響く。
演技ではなく本当に体調を崩すとこういう時に不便だ。
俺は脳内で脈のつまみを再び捻り、脈をぐんと上げた。
「ふぅ」
『良いですよエイ。ヨイの時よりも体の使い方が上手いです! 流石の上達ぶりですね』
『……俺のご先祖様の時も同じことを?』
『あの時は逆に顔色を良く見せるように使っていましたけれどね!』
『逆かぁ』
たまにソラが口にするヨイという空写は本当に真面目な子だったようだ。
折津の血がそうさせるのか、俺と同じくらいには純粋で正義感に溢れていたのだろう。
『さて、それではこれからエイの様子を見に来る人間を相手に不穏チラ見せコンテンツを開始します』
『はい』
『その他にもいつも傍にいる人間なら気が付くような異変をちりばめて、着々とコンテンツを仕込みましょう』
『はい』
今から俺の家にミラクさんが来る。
オペレーターをよく担当してくれる人で、俺やセナノちゃんにも気を掛けてくれる良いちびっこ先生だ。
セナノちゃんに頼まれてこの衰弱巫女♂の様子を見に来てくれるようだが、まさかこれからコンテンツに巻き込まれるとは思うまい。
『よし、楽しみますよ』
『はい』
ソラはソファにふんぞり返るように腰を下ろし、俺は車椅子に戻る。
そして次の瞬間、足の感覚が7割ほどなくなった。
ソラがリアリティの為に足の感覚をナイナイしたのである。
これで立ち上がったり歩くときもふらふらと危なっかしくなるという寸法である。
『ではまずは、窓の外を物憂げな表情で見つめるのです。台詞は現地のエイに一任します』
ソラも現地にいるだろ。
■
セナノから申し訳なさそうな声と共にお願いをされたのは二日前の事だった。
まだ早朝と呼べる時刻にも関わらず、平然と事務作業とオペレーションを同時並行していたミラクのスマホに連絡が入ったのである。
曰く、エイの様子を見て欲しい。
任務が立て続けに入り、家に置いてきたエイの事が気になるようで、セナノはソワソワとした様子でそう頼んできたのだ。
セナノが誰かに頼みごとをすること自体が珍しく、ミラクは二つ返事で了承し、現在に至る。
今は朝の7時。
セナノは関東平野に落下した巨大な雲型異縁存在の処理をしていることだろう。
(それにしてもセナノさんは忙しいですね。新型NARROWの有用性が知れ渡ったからでしょうか……?)
彼女は一日ごとに別の場所で最低A級の異縁存在を片っ端から処理しているようだ。
いくらSランクと言えども頻度が段違いである。
(私も若い縁者に負けていられませんね。セナノさんが安心して任務をこなせるように、エイさんのお世話を頑張らないと!)
事前情報は、足の怪我。そして食いしん坊。
ミラクは対策としてふわふわのスリッパとおにぎりを二つとお弁当を持参していた。
「……初めて来ましたけど、重圧が凄いですね」
まるで空気そのものが意志を持って自分にのしかかっているような、息がつまる重圧が辺りには満ちている。
ミラクは立ち入りが厳しく制限されたエントランスホールを抜け、エレベーターに乗り存在しない階へと到着した。
ただ一柱の為に用意されたその階層には本物の扉が一つだけであり、その先にエイとセナノは住んでいる。
「よーし」
ミラクは深呼吸をすると、インターホンを押した。
それから覗き穴から自分の姿が見えるように無意識に背伸びをする。
が、1分待っても返事すらない事でミラクは首を傾げた。
「……? 寝ているのでしょうか」
毎朝毎晩セナノが電話で安否の確認はしているそうだ。
今日の朝も通話はしたようなので、その後に二度寝をしてしまったのかもしれない。
そう考えてミラクはドアノブに手を掛ける。
扉はすんなりと開いた。
重々しい見た目とは裏腹に、ミラクを招き入れるように軽い音がかちゃりと部屋に響く。
「お邪魔しまーす。エイさん、起きてますかー?」
廊下の明かりは点いていた。
恐らくは常に明るくしているのだろう。
いつでもセナノが帰ってきて良い様に。
「エイさーん?」
扉を開けリビングへとミラクはこっそり入る。
眠っている事を考慮してそっと入ったのだが、意外にもエイはそこにいた。
明かりのついていないリビングに薄っすらと差し込む外の光が、エイを照らしている。
「たた なが ひそ くく ことはら みなし――」
彼女は歌うように何かを口ずさんでいる。
ベランダに続く大きな窓の前で車椅子に座ったまま空を眺めていた。
その横顔は白く、まるで死人のようにも見える。
やがてエイはおもむろに手を持ち上げ、そのままベランダの外に伸ばした。
「っ、駄目です!」
それが何を示していたのかはわからない。
しかしこのままだとエイが消えてしまうのではないかという嫌な予感が確信と共にミラクを突き動かしたのだ。
「……あ、いらしていたのですね」
大きな声を上げ駆けてきたミラクに驚きもせず、エイはゆっくりと振り返る。
そして今にも消えてしまいそうな程に優しく微笑んだ。
「エイさん……! こんな所でどうしたんですか」
「御空様とお話していました」
「御空様……?」
「はい」
エイは空を指さす。
そこには廻縁都市特有の鉛色の空が広がるばかりだった。
「今はもう去ってしまいましたが、先ほどまでそこにいたんですよ」
「そう……ですか」
穏やかな口調と落ち着いた仕草。
果たしてエイという少女はこれほどまでに静かであっただろうか。
ミラクの知るエイとは未知のものに好奇心を溢れさせ、溌溂とした元気で周囲を笑顔にする太陽のような少女だった筈だ。
「ミラクさん」
「ど、どうしましたか!? 私、今日はお世話に来たのでなんでも言ってください」
「お腹が、空いています。たぶん」
エイはそう言ってお腹を撫でた。
それから、指を一本立てて言葉を続ける。
「おにぎりを一つ、いただけますか?」
「それくらいならお安い御用ですよ。というか、それだけで良いんですか? セナノさんから、エイさんはいっぱい食べると聞いていたのですが」
「いえ、一個で十分ですよ」
差し出されたおにぎりを受け取り、エイは一口食べる。
それからハッとした様子で顔を上げ、ミラクを見た。
「……中に唐揚げですか……!?」
「はい。食の傾向が男子高校生だと聞いたので」
「おぉ……」
エイは感嘆の声を上げながら二口目、三口目と続く。
そして数分後にはおにぎりを食べ終えてこういった。
「これなら二個は食べられますね」
「ありますよ」
「本当ですか!? その、やっぱりもう一個貰っても……?」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」
おにぎりを食べた後から、その言動は良く知るものになっていた。
その事に内心でホッとしながらミラクは近くのソファに腰を下ろす。
「セナノさん、早く帰ってくると良いですね」
「ふぁい!」
おにぎりを口に頬張りながら頷く姿は、やはりいつもの彼女だった。
『そんな……、あのエイがおにぎり二個で満足するなんて……』
『普通は満足するんだよ。毎朝フードファイトさせられる俺の身になってくれ』