【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
「今日は本当にありがとうございました」
別れ際、フラシはそう言って頭を下げた。
セナノはそれを見て呆れながら笑う。
「そんな簡単に頭を下げるものじゃないわよ。貴女はここの神様なんでしょ? だったら、胸を張らなきゃ」
「人間、私を助けられたことを感謝しなさい」
「そこまで横柄にしろとは言ってないわよ」
フラシのその口調が記憶に存在しない誰かを思い出してセナノは思わず顔を顰める。
儀式が終わりフラシが無事に継承された今、セナノの役目はもうない。
折津ヨイに関する貴重な情報も手に入れられたのだから、十分にメリットもあったと言えるだろう。
「これから貴女はずっとここにいるの?」
「はい。私が私でなくなるまでは。そしてその時が来たら、また誰かが私を継ぐのです」
「そう。ま、いつになるかわからないけれどその時が来てまだ私が生きてたらまた手伝ってあげるわ」
「S階位様にそう言っていただけるなんて、頼もしいですね。……三鎌縁者、実は少しだけ気にかかっていることがあるのです」
今まで言うべきか悩んでいたのだろう。
これで別れだという事が後押しして、フラシはようやくその言葉を口にした。
「本来、先代のフラシはまだこの街の神である筈でした。しかし、唐突に不調に陥り、私が代わった」
「何か原因があるって事?」
フラシは空を指さす。
青い青い空が木々の隙間から見えていた。
「他の木森林の話を聞くに、どうにも空に関係する異縁存在の様子がおかしいようですね。三鎌縁者、どうか今代の空の巫女を気に掛けてやってください。もしかすると……いえ、すみません縁起でもありませんね」
「わかってるわ。私が絶対にあの子を守るから」
セナノがこれまで対応してきた異縁存在はどれも空に関係する存在であった。
当然、エイとの関わりは何度も考えている。
「今のところはあの子は元気に朝からモリモリご飯を食べているし、大丈夫よ」
「なら良いのですが……」
フラシはまだ不安げだ。
あまりにもセナノが簡単に言葉を返したのが気になっているのだろうか。
「三鎌縁者、これを」
差し出された手には、束ねられた白い糸があった。
陽を受けてキラキラと輝くそれは、今まさにフラシが纏っている服の繊維と同じだ。
「貴女の糸?」
「はい。良ければお持ちください。並大抵のワイヤーよりもずっと丈夫なので、何かに使えるかと」
「神様から糸を貰えるなんてね。ありがたく頂戴するわ」
「夜神楽も近いと聞いています。これからは一層、用心を」
「ええ、勿論。と言っても私はS階位だし、縁者の中でもエリート中のエリートなのだから、心配はないけれどね!」
自分とフラシに言い聞かせるように、セナノは胸に手を当て力強く宣言する。
頬を撫でる生ぬるい風も、きっとこの言葉を肯定してくれたはずだ。
「それではさようなら。次は是非、空の巫女も一緒に遊びにいらしてください」
「そうね。その時は山ほどの料理もお願いするわ。あの子、食べるのが大好きなのよ」
「ふふふっ、その時は必ず」
フラシは鳥居の内側から手を振る。
これより先にはそう簡単には踏み出せないらしい。
長い間、この神社が彼女にとって世界の全てとなったのだ。
一人山に残り、下山する全員に手を振るフラシの顔はどこか寂し気であったが、それ以上に誇らしげだった。
■
「さ、これでようやく帰れる」
麓の駐車場まで戻って来たセナノは、伸びをしながらスマホを取り出す。
そしてエイに連絡をしようとしたその時、まさにスマホが震えた。
「あらエイかしら――」
そろそろ寂しくなって帰宅の催促の電話が来たのだろうか。
そんな事を考えながら、画面を見る。
そこには、縁理庁の文字。
「……」
猛烈に嫌な予感がしている中、セナノはそっと耳にスマホを当てる。
そして。
『お疲れ様です、三鎌縁者。早速ですが緊急で次の任務が――』
「はぁ、まるで私に対して世界が嫌がらせをしているみたいね」
崩れ落ちそうになる膝に力を入れて、セナノはため息をつく。
果たして、これはいつまで続くのだろうかと。
「……さっさと次の場所に行きましょ」
セナノはうんざりしながらも、車に乗り込む。
幸いにも、帰路に次の異縁存在はいるようだ。
ここから更に遠くへ行かなくて済んだのはむしろ幸運かもしれない。
(さっさと終わらせて今度こそ帰らないと……! エイが私を待っているんだから。きっと寂しくて夜は泣いているに違いないわ!)
ベッドで枕を抱きしめてひっそり涙を流すエイを想像して、セナノは勝手に胸を締め付けられる。
「急いで」
「なんて気迫。これがS階位……!」
運転手の職員が感嘆の声を上げるが、それもセナノの耳には届いていない。
彼女の頭の中は、早く帰宅することでいっぱいだった。
■
セナノちゃんが家を出てもう5日なんですけど!
全然帰ってくる様子が無いんですけど!
『おかしいですねぇ。道中で何度も異縁存在が現れるみたいですねぇ』
『おかしいも何もソラの仕業だよね?』
『はい。何か問題でも』
『ぐっ、そう真正面から来られると、俺は何も言い返せないよ』
雨目市での任務を終えたと聞いたのが二日前。
そこから毎日のように異縁存在が現れたから帰宅が遅れるとの連絡があった。
『早く帰りたいのに、大変ですねぇ』
『ほんとにね! 俺も大変だけどね!』
熱血御空塾が地獄過ぎる。
特に夜の一人の時間に始まるオソラ大苦痛による演技指導がもうスパルタとかそういう次元じゃない。
胸を押さえてベッドの上で小さく丸まり「うぅっ」とうめく演技を果たしてどれだけ練習しただろうか。
これなら来年のインターハイは良い結果を残せるかもしれない。
『あの人間が帰って来た時に見せる顔が楽しみですね!』
『ソラが楽しみならそれでいいよ……』
それにしても申し訳ない。
ミラク先生たちが俺の様子を見に来てくれるのが本当に申し訳が無い。
その度に、一瞬「ん……?」ってなるような不穏な感じを醸し出してマジごめんね。
「エイちゃん、今日も先輩は帰ってこないの?」
「はい。何でも、また異縁存在が出たみたいでして……」
という訳で、今日はハカネちゃんと一緒にお留守番中であった。
ハカネちゃんはまだ学生さんだもんね。このマンションってなんか雰囲気が怖いし、そもそも知り合いとは言え疑似媒介体と一緒にいるのはソワソワしちゃうよね。
『さて、では例の作戦を』
『はい……』
ハカネちゃんが来ると事前に知っていた我らが神様は、こうおっしゃられた。
セナノちゃんへの手作りお弁当を用意してあげよう、と。
なんだかこれだけを聞くとほんわかしているし、日ごろの恩返しかなとも思うだろうが違う。
この神様、このお弁当を別の事に使うつもりなのだ。
早く帰ってきてくれセナノちゃん!
君の不在が長引けば長引く程に、不穏曇らせコンテンツがどんどん増えていく!
俺はこの前に日記を書かされたぞ。 出会ってから今までの事を一気に、まるで夏休み最終日のような勢いで、でっち上げで作らされたぞ!
そして次はお弁当だ。
君の心にふかーく爪を立ててガリガリやるために、ソラが張り切っているぞ!
「ハカネさん、実はお願いしたい事があるのですが……」
「何? 私に出来る事なら何でも言ってよ」
「実は、お料理をしてみたいんです。セナノさんが帰ってきたら、振る舞ってあげたいので……」
「ぐっ、この子に料理を教えるなんて……そ、それは敵に塩を送る行為に近い……」
ハカネちゃんは葛藤しているようだ。
そうだよね、だって君もセナノちゃんの事が好きだもんね。
既に同棲でアドバンテージを取られているのに、ここで料理を教えるなんて自らの恋にトドメを刺すようなものだ。
断って良いよハカネちゃん! ソラはこっちでなんとかしておくから(無理)。
「わ、わかったよ。エイちゃんももう友達だもんね……!」
「わあっ、ありがとうございます!」
いい子過ぎるのは良い事じゃないぞハカネちゃん。