【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

185 / 199
第185話 安穏、すぐにあなたの傍へ

 いい加減車の中で目覚める事に慣れてきた。

 六日連続の車中泊により、後部座席のシートは部屋のような安心感をセナノに与えている。

 

「……流石に疲れた」

 

 この六日間、彼女は一人で異縁存在を処理し続けた。

 木森林が関わる事もあれば、帰りの道中で急遽観測された異縁存在の処理だったり種類は様々だ。

 

「まるで誰かが私に嫌がらせをしているみたい。縁理庁に嫌われたのかしら?」

「まさか。S階位である三鎌縁者に嫌がらせをしても得など無いでしょう。むしろ、これから始まる夜神楽に向けて本当は温存しておきたいのでは?」

「夜神楽ねぇ……」

 

 一介の運転手でしかない職員が当然のように夜神楽について知っている。

 と言う事は、それだけ廻縁都市に広まっているのだろう。

 

「この異縁存在の大量発生と言い、なんだか本当に嫌な感じね。息がつまると言うか、安心できないというか」

「S階位様にそう言われてしまうと、我々のような凡人はどうすれば良いのですか」

「神様にでも祈っていれば? 全員で共通の『夜神楽を殺す神』を崇拝すれば窓になるんじゃない?」

「……成程」

「絶対に碌な事にならないから止めておきなさい」

「なら、どうか夜神楽の際はお願いしますね。縁者の皆様が頼りなのですから」

「任せなさい」

 

 一週間も共に過ごしていれば、多少の親近感は湧くようになる。

 運転手としてセナノについて回った職員は、セナノが任務をしている間に仮眠をとり、それ以外の時間は殆どを運転に費やしているのだ。

 この職員はセナノと共にこの地獄の任務期間を乗り越えた仲間と言っても差し支えないだろう。

 

「そろそろ同居人に電話するから、音を遮断するわね」

「……聞きたかったのですが、それって本当にただの同居人ですか?」

「どういうことかしら」

「いや失礼。内容は勿論わからないのですが、話しているときの三鎌縁者がそれはそれは楽しそうというか、嬉しそうというか。……まさか、恋人だったり?」

「ばっ……そ、そんなんじゃないわよっ!」

 

 セナノはそれ以上の否定の言葉が出てこず、勢いのままに遮音構文の刻まれた札を座席に貼り付けた。

 それから後部座席のなるべく端の方により、バックミラーから隠れるようにしてスマホを取り出す。

 

「べ、別に恋人なんかじゃないわよ。私がついて居てあげないと駄目だから、一緒にいてあげているだけの大事な友達ってだけで……」

 

 遮音しているにもかかわらず、セナノはもごもごと言い訳を続ける。

 それはスマホから流れるコール音が消えると同時にぴたりと止まった。

 

『セナノさんっ!』

「おはよう、エイ」

 

 先ほどまで荒れていた筈の声が柔らかくなり、心も穏やかになっていく。

 窓に映る自分の顔を見れば、確かにただの同居人と話しているとは思えない程に嬉しそうであった。

 その顔を職員に見られていない事を確認したセナノは窓に映る自分ではなく、その向こうの景色を見ようとする。

 大して面白くもない街並みも、エイの声を聴きながらだと随分とマシに思えた。

 

「……今日こそ帰るから」

『本当ですか? それ最近毎日のように聞いている気がするんですけれど』

「大丈夫よ。実は、あと二時間で帰れたりして」

『えっ、二時間で!?』

 

 スマホの向こうからガタガタという音が聞こえる。

 驚いて何かを倒したのだろうか。

 

「エイ、大丈夫?」

『大丈夫です! そうですか、二時間ですか……うーん、わかりました!』

 

 妙な納得にセナノは嫌な予感がした。

 こういう時のエイは、斜め上の行動をするのだ。

 

「エイ、何か企んでいる?」

『エッ!? イヤッ、ナニモ!?』

「声、裏返っているわよ」

 

 エイは相変わらず嘘をつくのが下手くそだった。

 そのあからさまに変化した態度にセナノは苦笑する。

 

「一人でピザパーティーでもしようとしたのかしら」

『そんな事しませんよぉ!』

「あら、じゃあ何をしようとしていたの?」

『……教えません!』

 

 少しのためらいが沈黙を生んだようだ。

 隠すという事に向いていない性格のエイは、もう少し突いてやれば本音をぽろっと吐くとセナノはよく知っていた。

 

「じゃあヒントだけでも頂戴?」

『駄目です! サプライズお弁当は本人にはサプライズにしなければいけないので!』

「お弁当……?」

『あっ!』

 

 セナノは予想外の言葉に黙り込み、エイはうっかり重要なワードを行ってしまった事で思考が停止する。

 暫くの間、車の唸る様に低いエンジン音だけが会話の間を繋ぐように響いていた。

 やがて最初に動き出したのは、当然エリート。

 

「私の為にお弁当を作ってくれるって事……!?」

『うぅ……はい』

 

 白状するようにエイは肯定する。

 

『実はハカネさんに簡単なお料理を習いまして、いつも頑張っているセナノさんが少しでも喜んでくれたらと……』

「……それは」

 

 色々と言葉を探す。

 が、気の利いた返答は思い浮かばなかった。

 

「ありがとう」

『いえ。今の私に出来る事なんてこれくらいでしたから』

「それにしても、貴女が料理をするだなんて楽しみね。……ちょっと怖いけど」

 

 電子レンジを触れただけで破壊した事はセナノの中に深く刻み込まれている。

 そんな子が料理を作れるようになったというのだから、その感動は並大抵のものではなかった。

 

「ちなみに、お弁当の中身は何かしら?」

『……』

「あれ、エイ? どうかしたの?」

『……』

「エイ?」

 

 唐突に返答がなくなり、セナノは何度も呼びかける。

 その時、スマホの向こうから小さく拍手の音が聞こえてきた。

 

「え、なんで拍手?」

『セナノさん、電波が少し悪いのか声が聞こえないです……』

「え?いやこっちの声は『残念ですが、今日のおはよう通話はここまでですね。お弁当、期待して待っていてください』……え、ちょっと」

 

 セナノの声が聞こえていない様子のエイは、まくしたてるようにそう言って会話を締めくくった。

 が、思い出したように最後にこう付け加える。

 

『セナノさんにちゃんとおかえりなさいって言えるのが嬉しいです。それじゃ』

「……この程度の任務じゃ私は死なないっての」

 

 それはきっとセナノが帰ってこない事をどこかで想像していたからこそ出た言葉なのだろう。

 だからこそ、おかえりなさいという言葉が今のエイには特別に思えたのだ。

 

「S階位も舐められたものね」

 

 そう言いつつも、心は弾み始めていた。

 セナノは札を剥がして後部座席から身を乗り出すと、職員へと声をかける。

 

「ねえ。少しだけとばしてくれない? 同居人が初めての手料理を振る舞ってくれるの」

「やはり恋人では?」

「違うわよ」

 

 セナノの否定は、踏み込んだアクセルの音でかき消された。

 

 

 

■

 

 

 

 えー、こちら現地の会場内です。

 会場には多くのサポーターが集まっており、凄い熱気に包まれております!

 今日、この廻縁都市で最も狂気的で熱狂的なスタジアムはここオソラマンション(命名)と言って良いでしょう!サポーターもその時が待ちきれずに、興奮している様子です。

 

 丁度近くに監督(神格)がいるので聞いてみましょう。

 

『間もなくキックオフとなりますが、何か一言いただけますか?』

『今回で完全に人間の脳を焼き切り、依存で殺します^^』

『凄い意気込みですね……!』

『この試合に向けて臓物の調整を重ねてきましたから。それに今回からは五感の消失も投入できるので、今までよりもより機動力のあるコンテンツを展開できるでしょう』

『成程! ちなみに、選手の体がイタイイタイで息がクルシイクルシイなのですが、これではプレイに支障が出るのではないでしょうか? もう少し戦術を変えて選手の体を労わるなど……』

『嫌です』

『……』 

 

 そっか、無理とかじゃなくて嫌かぁ。

 

 ……ハッ、駄目だ駄目だ!

 正気に戻ったら俺が壊れる!

 この常軌を逸した大苦痛を乗りこなすには、俺自身がコンテンツの暗黒面に堕ちないと……!

 

『成程、ありがとうございました!』

『^^』

 

 オソラコンテンツァーズとセナノエリートFCの試合、廻縁都市時間で8:30からキックオフです!

 

 ………………助けて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。