【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
オーレツレツレツレツレツ!(笑い声)
演技で完璧に相棒を欺くのは気持ちが良いオレツねぇ!
……そんな訳ないよぉ! 苦しくてそれどころじゃないんだよぉ!
『エイ、人間の顔をご覧になりましたか? あの顔が見たかったんです。人間の表情はやはり喜びと絶望に限りますからね』
『その二択で最悪な方を選ぶことってあるんだぁ』
普通は喜ばせる方を選ぶのでは?
……いや、こいつの場合全員を天移して喜ばせるとか言いそうだからどっちもどっちだな。
『澄目村の方も準備はできたので、あとは貴女とこの人間が行くだけですね』
『えっ、脳焼きリゾートって澄目村なの? 帰省じゃん。うわぁ、俺如何にも怪異って感じで出てきたから、再会するの気まずいなぁ……』
『安心してください。キャストの教育は全て終わっていますから^^ 貴女はいつものように伸び伸びと演技をしてくれれば良いのですよ』
一度たりとも伸び伸びと演技したことねえよ。
ずっと前後左右から刃物を突き立てられている気分だわ!
『……ん? いや待て待て待て、キャストの教育ってなんだ』
『み~んなも、いちどおいで~♪ 澄目脳焼きオソラ~ンド~♪ \テンイテンイ!/』
『トラウマCMソングが出来ちゃった』
可愛らしくソラは歌を口ずさんでいる。
ベッドに腰かけパタパタと足を振って、本当に楽しそうだ。
俺は未だにこんな状態なのにねぇ。
『最後にはああやってぇ……それで、あーんな風に脳を焼いてぇ……それで後悔の中でエイを天移してぇ……』
『今、俺の死期が定まった?』
『エイには命とか無いので死期は無いですよ』
『死ぬ自由すら剥奪されてるの本当に怖い』
ソラは楽しそうにこれからのことについてあれこれと考えているようだ。
うーん、恐ろしい。まるで玩具で遊ぶような感覚で人生を消費する予定を立ててやがる。誰かー! 大人のすっごく強い人を呼んでー! それでどうにかして頂戴ー! 頼れる大人の人ー!
『……エイ、今回のコンテンツが完結したら次のコンテンツは何が良いですか?』
『えっ、次? 俺って天移になるんじゃないの?』
『はい!』
はい、じゃねえよ。なんでちょっと生存をちらつかせたんだよ君。
『その後の事です。エイは忘れてしまうでしょうけれど、一応は希望を聞いておこうと思いまして。ずっと曇らせで遊ぶのは飽きますからね。中々に良かったので、人間と一緒に天移してこのコンテンツは一度壮大なフィナーレを迎えます。最終回は巻頭カラーですよ』
『んなもん連載すんな』
というかやっぱりセナノちゃんもナイナイされるやんけ!
逃げてくれセナノちゃん! 君は俺に出会わなかったら普通にエリートで素敵な人生を送れるはずだったんだ!
散々弄ばれて、最後には知らねえクソ田舎の上位存在に殺されるなんて、そんな悲惨な事あるかよ!
俺はチョウチンアンコウの先端みてえなモンだ。薄幸純粋虚弱巫女は疑似餌でしかない!
『ちなみに、おすすめは謎の異縁存在ハンター系ヒロイン♂です。人間、助けまくります。人間の笑顔、最高!』
『ほんとぉ?』
『はい!』
『でも絶望と同価値なんでしょ?』
『焼肉とお寿司ですね』
どっちも食い物である辺り、本当に好みの問題でしかないんだね人間の感情が……。焼肉を沢山食べたから、次はお寿司でも食べたいねぇってだけだコレ。
『エイはよく力を使って活躍したがっていましたよね? そういう漫画も私はたくさん読みました。なので多少は理解があるつもりですよ。好きなコンテンツを言ってみてください』
『い、いいのか?』
『はい』
俺は恐る恐るその願望を告げる。
『……な、ならソラの力で無双して、俺TUEEEEしてもいいか?』
『はい^^』
『っ! そのまま美少女を沢山ヒロインにしても?』
『はい^^』
『俺一人でインフレを更新して敵を瞬殺しても!?』
『……エイ』
ソラは俺の頭を撫でる。
相変わらず全身が苦しいが、それでも今までよりもこの苦しみが甘美に思えた。
『全部、OKです^^』
『ソラ……!』
『なので、曇らせコンテンツを最後まで完遂してくださいね。そうすれば、約束のものを与えます。神様、嘘つかない』
『監督……!』
どうやら、これは俺の女優♂生活で長い事未払いだった給与のお話だったらしい。
ソラ、お前は人を弄ぶだけの上位存在じゃなかったんだな! オソラ事務所にも福利厚生があったんだ!
『俺、やるよ。この作品を最高のものにして見せる!』
『その意気や良し! では、再びハイパー大苦痛にしてもよろしいですね?(事後承諾) これをこれからのデフォルトにしても良いですね?(現状追認)私の気まぐれで視力とか無告知ナイナイしますね?(確定事項)』
『ああっ、オソラ契約書の裏面を読まなかったせいで色々と決まっちゃった! ……でも、なろう系になれるならOKです!』
因習村で始まったっと思った俺の人生だけど、違ったんだ。
この後に俺の真の人生は始まるんだ!
うーん、やっぱりタイトルはクソ強くてクソ長い方がいいなぁ。
【SSSSSSSS階位の俺に美少女がやたらと集まってくる~上位存在の力を自由に扱えるだけなのに、どうしてそんなに驚くんだ?~】とかいいなぁ……。
異縁存在を囲むように青空を展開して、かっこよく攻撃してぇ!
『ソラ、ちなみにビームって出せる? 俺、ビーム好きなんだよね』
『……うーん』
『どうだ? これは行けるか?』
『うーん……!』
『厳しいか? 流石にオソラビームは……!?』
『ビーム、OKです!』
『ッシャオラァ! 今からもう楽しみだよ次のコンテンツが』
『ふふふ。まだコンテンツ給料日前ですよ^^ まずは目の前のお仕事を片付けないと^^』
『うん!』
よーし、お仕事頑張るぞぉ!
まあセナノちゃんは一時帰宅したから、今は苦しいだけで頑張る事は何もないんだけどね!
■
明るい部屋は、まだいたるところにエイの温もりが残っていると錯覚させた。
エイの療養に向けて、セナノは一度家に帰ってきている。
「……ただいま」
返事はない。
今日、聞けるはずだったおかえりの声はもう二度と聞けないのかもしれない。
不意にそんな事を考えて、セナノは玄関で崩れ落ちてしまった。
「っ、うぅっ……エイ……エイッ……!」
名前を呼びながらセナノは蹲る。
すぐに支度をしてエイの元に戻らなければならないのに、まるで現実を拒否するように体は動かなかった。
まるで冷たいこの世界から隠れるように、セナノは膝を抱き締め玄関の隅に背中を預ける。
すすり泣く姿を過去の自分が見れば、みっともなさに軽蔑するだろうか。
そもそも、過去の自分は何故あれだけ胸を張っていられたのだろうか。
今となってはわからない。
彼女の支柱はいつの間にかエイになっていた。
そしてそのエイが今、消え去ろうとしているのである。
「……エイ」
何度も呼んだ名前を呟き、セナノは目を閉じる。
瞼の裏にはエイとのたくさんの思い出があった。
そのどれもが眩く透き通っている。
彼女は思い出を抱きしめるように膝を抱えたまま、いつの間にか眠りに落ちてしまった。
玄関を照らす天井の明かりがセナノの影を映し出す。
それは最初こそセナノの形であったが、ある時を境にゆらゆらと揺れ始め、輪郭の端から炎のように変わり始めているように見えた。
小さな火種のようだった歪みが、大火のように激しくなり、影は少女の姿から逸脱していく。
それはやがて玄関全てを覆う程に大きな影になり、まるで焚火にくべた薪のようにバチッバチッと音を鳴らす。
果たして影にくべられたものは何だったのか。
焔の影はある程度大きくなると、今度は別の何かを形成していく。
それは卵のようで――。
「……ぁ、寝てた」
セナノが顔を上げると同時に影は霧散して元の少女のものに戻った。
スマホを取り出したセナノは、時間を確認するが、大して時間は経過していない。精々が、30分程度だろうか。
「早く、行かなきゃ」
セナノは、自分にそう言い聞かせ立ち上がろうとする。
と、その時彼女は廊下の端に転がったままの弁当箱を見つけた。
可愛らしい水色の風呂敷に包まれたそれはエイがセナノに作ったものなのだろう。
「…………」
途端に彼女を空腹が襲った。
今まで哀しみと絶望で満たされていた腹が、唐突に空腹を訴えている。
セナノは、それに縋るように四つん這いに移動すると、その場で風呂敷を広げた。
中には玉子焼きと白米だけが入っている。一体、どういう組み合わせなのだろう。
そんな事を考えていると、鼻をくすぐような僅かな味噌と強烈なネギの香りに気が付いた。
どうやら汁物も作っていたらしい。
「……お弁当じゃなくて、朝ごはんじゃない」
いつものように指摘して、セナノは、弁当箱を手に部屋の奥へと進んでいく。
相変わらず足音は一人だ。
台所には小さな鍋があり、中には味噌汁らしきものが見えた。
どう考えてもネギが多い。
「こんなにネギを入れて、どうするのよ……」
あの子が元気に理由を説明してくれると心のどこかで期待して、彼女は一人呟く。
しかし、孤独はそれでは埋まらない。
セナノは、傍にあった椀に味噌汁を注ぎ、その傍に弁当箱を置く。
そして、立ったまま彼女はエイの料理へと箸を伸ばす。
最初に口にしたのは、焼き色にムラがある玉子焼きだった。
「…………っ!?」
じゃりっという食感と共に甘さが脳天を突き抜ける。
絶望に打ちひしがれていた彼女にとってそれは不意打ちの甘さだった。
セナノは、流れるように椀へと手を伸ばす。
味噌汁は時間が経過してぬるくなっている。
しかしそれに構わずセナノは、一気に飲み干そうとして――。
「げほっ!? なっ、なにこれ!?」
むせながらセナノは味噌汁らしきものを見る。
匂いも味も、めちゃくちゃだった。
「こんなの料理じゃ……」
その時、医者の言葉が脳裏をよぎる。
『エイさんの体は、少し前から内臓の大部分が機能を停止しており、感覚器官にも障害があります』
『もう人間としての機能は殆ど停止している。つまりは、死んでいます』
医者の言葉は正しいのだろう。
ならば、これはエイの今を証明するものに他ならない。
「…………っ!」
それがどうしようもなく悔しくて、怒りが満ちて、セナノは再び勢いよく箸を玉子焼きへと向けた。
「なんでっ、なんで言ってくれないのよぉっ!」
叫びながらセナノは弁当を無理矢理食べていく。
体は常軌を逸した甘さと塩気を拒否しようとしている。
しかしセナノは構わずそれを口に運び続けた。
まるで自分を罰するように。エイの今を自らの体に刻みつけるように。
「――っ、ごちそう、さま……」
やがてセナノはそう言って、空になった鍋と弁当箱を見た。
こんな風にエイを蝕むものも食べてしまえたら良いのに、とそんな子供じみた事を考えながらセナノは自らを嘲笑する。
「……馬鹿みたい。こんな事をして」
ふと、セナノは弁当箱の下に何かが挟まってあるのに気が付いた。
それは風呂敷で弁当箱と一緒に包まれていたようだ。
「……何かしら」
それは小さなメッセージカードのようで、可愛らしい字でセナノへのメッセージが残されていた。
【お疲れ様でした! これを食べて、元気を出してください!】
味が滅茶苦茶だったとしても、それには確かに真心があった。
その事実が、今はセナノの心を深く刺す。
「っぁ」
心の奥でせき止めていたそれは、怒りと後悔が混ざり合った負の感情。
それが今、この場にいない者のささやかな思いやりによって解放されていった。
「なんでッ! なんであの子なのよっ! ふざけるなふざけるなふざけるなッ!」
不条理な世界への怒り、至らない自分への怒り、利用しようとする者への怒り。
溢れんばかりの怒りが業火の様に彼女の心に火をつける。
「っぁぁああああああ!」
セナノは一人、慟哭する。
世界はまだ、彼女達には冷たく暗い。
『えっ、全部食べたの!? アレを!? 味覚と嗅覚をナイナイしてようやく食べれるやつを!?』
『愛、ですねぇ』