【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
久しぶりに地元に帰るエイ~!
楽しみエイねぇ、一回り大きくなった自分を見て涙する両親が今から目に浮かぶエイよ。
きっと、感動するエイ!
『エイ、今から苦痛を1.2倍にします。いいですか?』
『いいわけねえだろ』
『しました』
『じゃあ聞かないでよぉ……』
こっちが狂って苦痛をやり過ごしているというのに、我らがちびっ子上位存在はお構いなしだ。
さっきの俺の幸薄巫女演技にキャッキャしていたと思ったらこれだもんね。
満足という概念が存在しないのか?
『ふふふ、先ほどの演技は凄く良かったですね。私、愛おしさのあまりうっかり天移しそうになってしまいましたよ』
『うっかり殺そうとしたって言ってる?』
『殺す……?』
『ああごめん、俺ってばもう命がない存在だったわ☆彡』
『^^』
何笑ってんだてめえ。
「エイ、寒くない?」
「はい。セナノさんが隣にいるので暖かいです」
「そう……ならいいわ」
澄目村行きの車は、ひっそりと出発していた。
ヘリコプターで大騒ぎしながら来た時とは大違いである。
『エイ、苦しいですか? 苦しいですよね? 可愛いですねぇ』
『狂ってるねぇ』
俺の体を襲う気まぐれの不調は、抗うだけ無駄である。
こういう時は、それすらも楽しむのだ。
乗りこなせ、この大苦痛の大波を。
そして最後には素晴らしい人生を手に入れるのだ。
「……っぁ」
さーて、今回の苦痛は……眩暈かぁ。
目の奥からグルグルと攪拌されているような感覚と、頭から血の気が引いて冷たくなっていく感覚が中々に強烈だ。
これを車で移動中に与えるのはもう悪趣味とかそういう次元じゃないね。
助手席からこっちを見てニコニコしている君に言っているんだよ、ソラ。
『エイの苦しそうな顔は可愛いので、つい』
『ついじゃないよ。……えっ』
こ、こいつ俺の思考を読んだのか……!?
『読んでないですよ』
『なーんだ』
良かった良かった。
思考が読まれているんだったら、あまりにも俺がピエロじゃないか。
ソラのやつ、紛らわしい事をしやがって。
「エイ、大丈夫? なんだか、具合が悪そうだけれど」
「……だ、だいじょうぶ、です」
俺は青い顔で笑みを浮かべる。
額にはうっすらと汗が滲んでいるが、これは俺の努力のたまものだ。
流石に顔色の操作うんぬんは言っている意味が分からなかったが、これくらいは練習で何とか出来るようになったのである。
「でも、顔色が悪いわよ? 少し止まって、休憩する?」
「いいえ」
俺はセナノちゃんへと手を伸ばす。
そして、その手を弱弱しく握りしめた。
「少しだけ、こうして手を握っていても良いですか? それだけで、いいんです……」
「勿論よ」
セナノちゃんは俺の手を労わる様に優しく握り返してきた。
それから俺にさらに近づき、ぴたりと肩をくっつける。
彼女の体温が伝わってきて、なんだか心まで温かくなってきた気がした。
「本当に辛かったら、私に言って」
「……はい」
辛いです(大声)
でも、自分はまだやれます!
だからこそ、次の無双系なろう主人公の座には是非とも私めを……!
僅かな力で手を握り返して意思を伝えると、セナノちゃんはそれよりも強く握り返す。
言葉よりも相手の気持ちがわかるコミュニケーションは素敵だね。
まあ、神様とは握手してもコミュニケーションが失敗することが多々あるんだけど。
『あ、そう言えばオソラ霊峰にある泉で水浴びをするので透け透け巫女♂の準備をしておいてくださいね』
『どう準備しろってんだ』
そもそもこんな状態で水浴びを……?
そんな事をセナノちゃんが許すと思ってんのか?
自分で言うのもなんだけど、俺ってこの子にすっごく愛されているぞ?
人工物たっぷりの純愛だぞ? 勝てんのか?
勝てるとしても手加減はしてくれねえか?
「……エイ、私が貴女の苦しみを全て受け止められたなら」
ほらね? これ、独り言だぜ?
俺に言ってるんじゃなくて、思考がまろび出ているだけだぜ?
愛されてまいっちゃうね。
後部座席で、二人でぴたりとくっついて座る姿はもう仲良しとかそう言う次元ではない。
しかも俺が頭をセナノちゃんの方にこてんと乗せちゃったりしてね!
きゃー! こんな状況じゃなかったら、本当にセナノちゃんの事を好きになっていたかもしれねえ!
今は俺の完璧なメンタルウォールで防御と管理をできているが、この子ってば全てにおいて惚れるポイントしかないからな。
俺じゃなかったら即死だ。
『霊峰にオソラ式鵺、略称オソエを放っているので後で狩りに行きましょうね』
『急に狂った事言うな』
いや、狂ってるのはいつもか。
『澄目村独自の異縁存在の処理の仕方をその人間に見せつけて、エイが生まれた村の閉塞的環境故の異常を満喫してもらいましょう』
『あんまり俺の故郷を改造しないでもらっても?』
『私の玩具箱で何をしようと私の勝手では? それに、今回は整理しただけで澄目村本来の素材の味を楽しめますよ』
『ははっ、それじゃあ澄目村が本当にやばい因習村みたいじゃないっすか』
異常なのは君だけで、村の人は本当に普通だったからね。
俺にも普通に接してくれたし、価値観も現代だし。
たまーに迷い込んだ大学生が一夜で消えたり、山の開発に来た悪徳企業が壊滅する以外は、普通の村だよ。
『テンイテンイ!』
『それ気に入ってるの?』
CMの気に入ったフレーズを真似する姿は本当に子供のようだ。
この姿だけ見れば、本当に無害そうで可愛いだけどなぁ。
■
澄目村は■■県と■■県の境に存在する特別指定区域『ZONE-S9』である。
この村の名前は地図には乗らず、村の人間は一部を除き、外に出る事は許されない。
そもそもそれを疑問に持つ事すらなく、村の中で生涯を終えるのだ。
この村にたどり着くためには地図に載っていない道を進み、山を二つ越える必要がある。
周辺地域の人間にはただの限界集落として情報の統制が為されているため、余程の事が無ければその村に立ち入る者はいない。
そんな村への悪路を一つのワゴン車が進む。
車一台がギリギリ通れるだけの道は、ほんの少し車輪が外側に出ればそのまま山を転げ落ちてしまう事は想像に容易い。
時刻は朝の4時。
陽はまだ山の向こうで、車のライトだけが辺りを照らしている。
照らし出された木々はまるでそれら一本一本がこちらを認識しているように見えた。
「……随分と奥地にあるのね」
セナノは小さく呟く。
自分の肩に頭を預けて、エイはすぅすぅと小さく寝息を立てていた。
苦しみ呻く声がするたびに手を握ってやれば、しばらくしてまた微睡の中に戻っていく。
セナノはエイに気を使い続けながらも、この山道を数時間眺めていた。
(ZONEになっていないのは、余計な迷宮で空澱大人を刺激しないためかしら。それとも、そもそもZONEに村を収める事が出来なかった?)
災主級を祀る村ならば、ZONE指定され、迷宮の内部に存在していてもおかしくはない。
しかし、この道中それらしいものはなく来ようと思えば民間人でも道を辿ることが出来た。
(こんな不用心な……)
縁理庁の杜撰な管理に内心で毒づいていたその時だ。
不意に窓の外、木々に紛れるように何かの視線を感じた。
それも、敵意や殺意のようなこちらを害する者の視線である。
「……異縁存在がいるわ」
セナノは運転手へと短く告げる。
「大丈夫ですよ。この車が運んでいるのは、それらの女王のようなものです」
運転手は平然とそう答える。
その言葉は自分にも言い聞かせているようで、ハンドルを握る手に力が込められた事をセナノは知っていた。
「澄目村は、空澱大人に従属する異縁存在により守護されています。縁理庁の監視システムや防衛フェンスよりもずっと機能的で確実な守りですよ」
「……成程、道理で」
木々の向こうに見えるのは、五メートルはあろうかという体躯の子供であった。
枯れ木のようで妙に長い手足に、あばらが浮き出た胴体。黄色い帽子をかぶった少年は、歯をむき出しにしてこちらを視て笑っている。
間違いなく、車の中にいるセナノを認識していた。
(この子が居なかったら、無事に辿り着くのは困難ね)
異縁存在は何もせず、ただワゴン車を見送る。
「間もなく到着します。降りる準備を」
「わかったわ」
セナノはエイを起こすために優しく頭を撫で始める。
エイはくすぐったそうにするだけでまだ目覚めそうにないが、それでも良かった。今はエイが苦痛を感じない方を優先するべきだ。
「……あれが、澄目村」
陽はまだ昇らずとも、村の輪郭は木々の向こうにぼんやりと見え始めていた。
片手で数えられる程の街灯に照らされた村は、小規模で現代からは考えられない程に閉鎖的である。
(エイはここで育ったのね)
村を眺めていると、セナノの胸の奥底から何かが込み上げてきた。
それの正体に気が付きたくなくて、エイと繋いだままの手を少しだけ握る。
――澄目村。
因習と規則が積み重なり、未だに空を信仰する特異的コミュニティ。
それらがもたらすものがエイへの安寧であることを、今は祈るばかりだった。
『一般入場ゲートはこちらでーす! オソランド楽しんでいってくださーい!^^』
『テンイテンイ!』