【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
澄目村は一言で表すならば、ド田舎だった。
軽トラの荷台に揺られながら見送るその景色は、あまりにも現代とはかけ離れている。
陽が上る前から畑に出ており今まさに帰って来た者も多く、降目村と比較するまでもなくさらに田舎であった。
それでもエイにとっては思い出の詰まった村なのだろう。
景色を見るその横顔は、今までセナノが見たことない表情をしていた。
「……帰って来たんですね」
少しだけ悲しそうなのは先ほどの村長の態度があるからだろう。
村長があのような態度を取るのならば、他の村人も同じはずだ。もしかすると、エイの両親でさえも。
「後で、美味しいって言っていた山菜を教えて頂戴。気になっていたの」
「はい! この時期ですと、この辺りではムカゴが採れますよ。もう少し奥に入れば、ムベも採れるのですが……」
足を見て残念そうにエイはため息を吐く。
流石にその足で山に入る訳にはいかないだろう。
(ムカゴ……? ムベ……? キノコとかじゃないの? 何それ?)
セナノは聞いたことのない山菜に内心で首をかしげる。
しかし、取り敢えずエイを背負う覚悟はあるので山にも平気で入る予定だった。
エイを一人背負ったぐらいではセナノの行動に支障はない。
「ふーん、じゃあ後で一緒に行きましょうか」
「いいんですか?」
「別にいいわよ。療養は体と心を休めるものよ。体だけなら、廻縁都市でもよかったわけだし」
これはエイに残された時間を幸せで満たす為の帰省でもある。
故にセナノが出来る事であれば、エイの要求は飲み込む所存であった。
「心も休める。……なら、後で一緒に泉に行きませんか? あそこ、すっごく綺麗でセナノさんにもお見せしたかったんです」
「それは楽しみね」
「それからそれから――」
エイは楽し気にセナノへと村の魅力を伝えていく。
いつもどこで遊んでいたか、どこからの眺めが良いか、食べれる木の実や、大きな虫が採れる木など。
その姿は、廻縁都市で弱り切っていた姿からは想像できない。
それが余計に彼女が村から出るべきではなかったと証明しているようだった。
軽トラはゆっくりと村を走っていたが、神社の前に来ると停車した。
大して広くもない村だ。10分も走らせれば、村の最北端に位置する神社にも到着できる。
山へと続く階段の先には、鳥居があった。
その向こうに神社があるのだろう。
「エイちゃん、着いたよ」
「ありがとうございました、村長」
「これくらいお安い御用さ。ああそうだ、明日と明後日に祭をする予定だからねぇ。良ければ来てくれよ。皆、あなた様に会いたがっている」
「……はい!」
それがエイではなく空写への言葉であることはすぐに分かった。
しかしそれでも笑顔でエイは頷く。
「そう言えば、護衛っていったい何のことなんですか? そう言った話を私達は聞いていないのですが」
セナノは荷物を降ろしながら、問う。
すると村長は首をかしげながら、神社を指さした。
「貴女達の知り合いだって聞きましたよ? 昨日の夕方に突然やってきて、驚いたもんです」
(護衛……縁理庁の寄こした監視かしら。アイツらならやりかねないわ)
セナノの中で、再び縁理庁への疑念と怒りが湧き上がる。
その間も村長は言葉を続けた。
「それにしても大きな人でしたねぇ。私は長年生きていますが、あんな鬼みたいな人は見たことがない。それに、着いてそうそうに鍛えられる場所はないかと言われて困ってしまいました」
「……ん?」
今までぼんやりと堅物の黒服をイメージしていたセナノだったが、脳内のイメージがだんだんとしっかりとした輪郭を持っていく。
「ここまで徒歩で来たと言っていたのに、いやはや都会には凄い人が沢山いるんですねぇ」
「……セナノさん」
「ええ、わかっているわ。たぶんそうよ」
荷物を背負い、セナノはエイを当然の様に抱きかかえる。
そして、自分の推測が合っているのかを確かめるために、やや急ぎ気味に階段へと足を掛けた。
「ここまで送ってくれてありがとうございました」
「困ったことがあればいつでも頼ってください。エイちゃんも、またね」
「はい。ありがとうございます」
遠ざかる軽トラを他所に、セナノは階段を上っていく。
急こう配な坂に作られた階段は、まるで修行のために敢えてそうしているかのようで、上る度に一歩一歩足に負担を掛けていく。
決して楽ではない筈だが、セナノはなんてことの無い顔をしていた。
「凄い。……私、重くないんですか?」
「重くないわね」
「二人分の荷物と、車椅子まで背負ってますよね?」
「そうね」
「それでも重くないんですか?」
「まっっったく重くないわね!」
「おぉ……! S階位って凄い……!」
「ふふん、そうよ。私ってばエリートだから!」
なるべくエイを元気づけようと、セナノはいつもよりも明るくそう言った。
セナノに抱きしめられているエイは、彼女の胸の中でクスクスと笑っている。
その姿を見るだけで、セナノはとても安心するのだ。
「こんな階段、今の私には特訓にもならないわね」
「私なんて、今も昔もヘロヘロですよ。村長さんだって、用事がある時しか上ってきません。お掃除は若い衆の仕事ですから」
「ふーん。にしては結構綺麗じゃない」
階段には葉が少しだけ乗っているが、それも夜のうちに木から散ったからなのだろう。
常日頃から、随分と丁寧に掃除がされているようだ。
「澄目村の皆は御空様を心の底から崇拝していますからね」
エイは当然の様にそう告げる。
きっと空写になるまでは、エイ自身もその村人たちと同じだったのだろう。
今となっては、彼女は崇拝される側になってしまったわけだが。
「さて、これでゴール!」
「お疲れ様ですセナノさん!」
「余裕よ」
階段を上りたどり着いたセナノの前には相当な規模の境内が広がっていた。
小さな村には似つかわしくない程に広く、建物も大きい。
「これを、維持しているの?」
「なんだか落ち着きますね。……空心祭の日以来でしょうか、ここに来るのは」
途端に風が境内に吹き込んだ。
それはエイの到着を歓迎しているようにその長い髪を揺らし、青々とした風で頬を撫でていく。
エイはくすぐったそうに目を細め、髪を抑えながら、セナノの腕の中から降り立った。
「それじゃあ、しばらくはここが私のお家で――」
と、その時だ。
唐突に境内に大きな音が響いた。
腹の底まで響くような低く存在感のある音は、和太鼓に近いだろうか。
「誰かが神社の太鼓を叩いているのでしょうか? お祭りがあるって言っていたから、その練習かも」
「……いやぁ」
その音はまるで巨大な生物の鼓動のように壮大で力強い。
エイは村人が叩いていると思っているようだが、セナノは既にその辺に脱ぎ捨てられているジャケットと木の根元に突き刺さった黒い棒から色々と確信を得ていた。
「行ってみましょう。こんなに素敵な太鼓を叩ける人が村にいるなんて知りませんでした」
「まあ、会いたいのはそうね」
エイとセナノは太鼓がある本殿横の太鼓楼へと向かう。
そこで、彼女達が見たもは――。
「ハァッ! トゥァッ!」
威勢の良い掛け声とともに太鼓を叩いている、ネネの姿だった。
「「師匠!」」
「ヤァッ! タァッ!」
上半身はサラシだけを巻いて大胆に肌を露出し、彼女は汗を流しながら太鼓を叩いている。
その姿は護衛と呼ぶにはあまりにも頼もしく生き生きとしていた。
『えっ、師匠が何故ここに!?』
『そりゃコンテンツの為ですよ^^ 』