【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
【護衛派遣依頼書】
文書番号:EN-AE1-SM-██
機密区分:極秘
■依頼概要
A-E1は澄目村にて療養の予定である。
療養期間中の監察については、監察官である三鎌縁者を配置しているが、A-E1の現在の状態および今後の情勢を鑑み、追加の護衛が必要であると独自に判断した。
ついては、A-E1の安全確保を目的として、審縁導師の権限によりS階位縁者を一名、護衛として独断派遣する。
本件は夜神楽およびA-E1を巡る情勢を考慮した特例措置であり、通常の護衛申請を経ない。
■護衛条件
A-E1の護衛任務をS階位縁者一名に委任する。
・澄目村に滞在し、A-E1の身辺を警護すること
・A-E1に危害を加える異縁存在その他の脅威を排除すること
・A-E1の療養を妨げる行為を阻止すること
・緊急時にはA-E1の生存確保を最優先とすること
監察官セナノとは協力関係を維持し、必要以上にA-E1へ接触する必要はない。
任務期間は、A-E1の療養終了、または私からの解除命令が出るまでとする。
任務はA-E1の身辺警護、異縁存在その他の外的脅威への対処、ならびに緊急時におけるA-E1の生存確保とする。
A-E1の療養を妨げる過度な接触および不要な干渉は禁止する。
任務期間は、A-E1の療養終了および審縁導師による解除命令までとする。
■備考
監察官セナノと護衛担当者は、原則としてA-E1を優先して行動すること。
A-E1に対する指揮権は審縁導師に帰属する。
これは正式な編成命令ではない。
私の権限による、独断での依頼だ。
■
「――という訳だ」
境内で、二人はネネと相対していた。
汗だくのネネの体からは今もなお蒸気が上っており、気のせいでなければ高温で周囲の景色が歪んで見える。
こちらに来てから余程鍛えたのだろう。
「成程、審縁導師様から直接依頼を受けたんですね」
セナノは手渡された依頼書を見て納得する。
確かに、S階位の中でも派閥というものが無く、そもそも興味すらない彼女はこういった任務に最適だ。
セナノやエイの顔見知りという事もある。
考えうる限りで一番頼りになる援軍であった。
(審縁導師様、エイの事を考えてくれているのね。後は、鏑矢が何か持ってくるとか言っていたけれど)
道中でも鏑矢に出会う事はなかった。
ネネという最大級の戦力を送ってもなお、鏑矢を使ってセナノに手渡されるそれは果たしてどれ程の代物なのか。
それは同時に、今後それらが必要になる程の何かが迫っていることを証明していた。
が、いずれにせよ気になるのは迫る人類存亡の災害である。
「……師匠、夜神楽の方は問題ないのですか?」
「八方塞達がいる。予測ルートも随分と絞り込めた。それに上層部には何か策があるらしいな」
「策……?」
「ああ。よくわからないが今の彼らは大人しい。気味が悪い程に」
「……なんだか、嫌な予感がしますね」
「同感だ。だからこそ、審縁導師様は私をお前達の護衛にしたのだろう」
ネネは笑ってそう言うと、太鼓のバチをクルクルと回してもう一度叩く。
体の底まで響く音が、セナノとエイの心の中にあった不安をまとめて吹き飛ばした。
「大丈夫だ、私がいる。問題ないさ」
「ありがとうございます、師匠」
「ありがとうございます! それにしても、この太鼓叩く許可を貰えたんですね。村の中でも選ばれた人しか叩けないのに」
「ああ、あの霊峰にあった巨岩に触れた者だけが叩けるだったか?」
ネネは神社の裏から続く山道を指さす。
その向こうにはさらに大きな山がいくつも連なっていた。
「……昨日の夕方に来たんですよね?」
「ああ。それで鍛える場所を色々と聞いたんだ。その時にあの御空霊峰について教えて貰った。だから上って巨岩を――持ってきた」
「え」
セナノが驚いた顔をしたのを見て、ネネは鼻を鳴らして得意げに胸を張る。
「そこを見ろ。あそこにある岩が証明だ」
見れば、神社裏に直径十メートルはあろうかという巨岩が転がっている。
今までは深く地面に刺さっていたであろう部分と露出していた部分の色がはっきりと分かれており、ネネがそれを引っこ抜いて持ってきたであろうことがすぐに分かった。
「なんで持ってきたんですか!?」
「巨岩に触れたと誰が証明できる? 持ってきて見せて、証明出来たら返せばいいだろう。触れるとかいう軟弱な理屈で私が納得すると思うか?」
「それ村長さんにも言ったんですか?」
エイの問いに、ネネは頷く。
「ああ。『お前さん、あの岩を持ってきたんか……!? 正気か!?』と驚いていたぞ」
「そりゃ驚くでしょう。後できちんと返してくださいね」
「当然だ。この岩は妙に重くて鍛えられて非常に良いんだ。一度だけで終わらせるのはもったいないと思っていた。それに……ソエのこともあるからな」
「……ソエ?」
「この村の周辺に住む異縁存在らしい」
不意に、風が止む。
今まで神社に吹いていた穏やかな風はまるでそれの到来を察知し恐れるかのように息をひそめた。
静かになった山に、何かの遠吠えが響く。
細く長く、震えるようなそれは老人の金切り声のようで、気味が悪い。
「これは……!?」
「これがソエの鳴き声だ。きっとエイも聞いたことがあるだろう」
「ぇ…………そうですね、私が幼い頃に何度か」
セナノの視線がエイに向けられる。
説明を求められていることに気が付いたエイは、やがて霊峰の方を見て説明を始めた。
「ソエは、空に餌と書きます。村長さんなんかは『御空餌』なんて呼びますね。後は『御添え』とも」
地面に木の棒で字を書きながら、エイは続ける。
「これらは、基本的には村を守ってくれる物の怪です。山に棲み、澄目村を守護し、仇成す者を空に送る」
「伝承を窓にした異縁存在かしら」
「今となってはわかりません。わかっていることは、これからは基本的には村人を襲わないという事。あれの領域に行かなければ無害です。15年の間だけですが」
「15年……それって」
ある時期と重なる事にセナノは気が付く。
「はい、空写の継承の周期ですね。その時に、ソエは空澱大人と当代の空写の最初の獲物となります」
「マッチポンプって事……?」
「セナノさんは、村の入り口に石碑があった事をご存じですか?」
「ええ。確かにあったわね」
それを調査する時間はなかったが、確かに入り口には風化した石碑があった。
「それにはこう記してあります。――われらの顔は空にうつる。ならば空に笑顔をささげよう、と」
エイはまるで当然の様にそれを告げる。
村の者にとっては挨拶に等しい言葉なのだろう。
「これはつまり、空澱大人に私達が喜んでいる姿を見せるという事です。空澱大人はそれを見て何をすれば澄目村の住人が喜ぶのかを理解し、助けてくれます」
「……っ! 成程、わかった気がするわ」
人が喜ぶ行動を取るその理屈にセナノは覚えがあった。
自身の仲直りが喜ばしい事であると勘違いし、何度も同じ日を繰り返した災主級をセナノはよく知っている。
(つまり、異縁存在を処理することが好ましい事であると空澱大人に定期的に学習させているのね。道理で災主級分類の割には人類側に都合が良い筈だわ)
きっかけはどちらか定かではないが、それには縁理庁も一枚嚙んでいるのだろう。
異縁存在を処理する異縁存在の育成方法としては理にかなっている。
「本来であれば、天移した空写と空澱大人によってソエは処理されるのですが……」
「今回は違ったのね」
「はい……うっかりしてました。私が天移した後の話だったので、すっかり頭から抜け落ちてしまっていて」
「仕方が無いわよ。それに、貴女はその分異縁存在を沢山天移して来たじゃない」
「でも、やっぱりソエも天移しないと駄目ですね。……その、なのでえっと……」
エイがなにを言いたいのかを察して、セナノは顔をしかめる。
そしてネネに意見を求めようと視線を向けるが、既に彼女の中で答えは決まっていたようだ。
首をこきりと鳴らしながら、ネネはふんすと息巻いている。
「であれば、行こうか。途中の話はよく分からなかったが、要するにソエを処理すれば良いのだろう?」
「えっ、いや師匠待っ「師匠! 良いんですか!?」……エイ、落ち着いて」
「ああ、問題ない。それに、あの山の中で戦えるなんて鍛えるには丁度良いじゃないか」
「ありがとうございます。私の我儘に付き合っていただいて」
「問題ない。護衛だからな」
「いやそれ護衛の仕事じゃないでしょう……」
どこに護衛対象と山の異縁存在狩りに出かける護衛がいるのだろうか。
しかし、ネネとエイはもうその気だった。
相変わらずエイの体は気を抜けない状況であるし、ネネも何をしでかすかわからない。現に、岩を勝手に持ってきた。
「……はぁ」
ウキウキの二人を見て、セナノはため息をつく。
護衛が増えたのに、何故か心労が二倍になっていた。
『急に聞かれるから焦ったぜぇ! ソラペディアありがとう!』
『いえいえ』
『それにしてもよくそんな嘘をスラスラとつけるね』
『噓じゃないですよ。過去には実際にあった慣例です^^』
『えっ』