【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

198 / 208
第198話 添える、あなたに異形の祈りを

 日本に現存する村の中には、特殊な因習で独自の神を祀っている場所も多い。

 周囲から断絶された村の人間が縋る様に自然現象や概念そのものを自身よりも上位の存在として祀るのだ。

 しかしその神の贄までも、因習で作り上げる村となれば話は変わってくる。

 少なくとも、学園中の資料や任務記録を全て閲覧したセナノですらそのような事例はここに来るまで知らなかった。

 

 言うなれば、殺されるために生まれてくる神。

 神でありながら人間の道具以上の意味を持たない存在。

 

 それこそが、ソエであった。

 

「くう、くう」

 

 茂みを抜け、ソエはゆっくりとこちらに近づいてくる。

 口にする言葉はとある神へ向けられた物――澱語の断片であった。

 

「みよ、くう、くう」

 

 ソエは警戒していない様子で、歩を進める。

 まるで人馴れした動物のようであった。

 

「セナノ、ヒバリは起動できるか?」

「1秒貰えれば」

「そうか。なら最初は私が殴り飛ばした方が早いな」

 

 ネネとセナノはソエを見ながら、ゆっくりと互いに離れる。

 そしていつでも動き出せるような陣形を取った。

 二名のS階位が、NARROWを所持した状態。

 少なくとも戦闘になれば処理は確実であろう。

 

 しかし、それが容易でない事もわかっていた。

 

「私が殴っている間に舞を終わらせろ」

「はい」

 

 二人はそれ以上の言葉を交わすことなく、それぞれが動き出そうとして――。

 

「……あっ! 待ってください!」

 

 ネネの背中の上にいたエイが何かに気付いた様子で待ったをかける。

 そしてネネの背中から降りると、そのままソエの方へと近づいて行った。

 

「エイ、危ないわ!」

「大丈夫です」

 

 確信と共に、エイは笑顔でソエに向かっていく。

 ソエもその様子を見て、尻尾を更に激しく左右に振った。

 

「くう、くう」

「……そうですね、お待たせしてしまいました」

 

 憐れむような慈悲に満ちた顔でエイは手を伸ばす。

 それを見たソエは、少しの間その手を観察していたがやがて自らの頭をその手にこすりつけた。

 

「くう、くう」

 

 声は相変わらず不気味で、まるで首を締め上げられた老人のようだが、嬉しそうな事だけは伝わった。

 

「懐いてる……!?」

「空写に対して従属するように作られているのか?」

 

 驚く二人を他所に、ソエは更にエイに体を寄せるとまるで自らの存在をアピールするように全身をこすりつける。

 怖ろしい見た目ながら巨大な猫のような仕草をするソエを見て、セナノ達は完全に戦う気力を無くしていた。

 

「普通の動物みたい」

「見た目で損しているな」

 

 二人の前では、まさにソエがエイにじゃれついていた。

 巨大な熊の手で傷つけないように注意を払っている様子も見受けられる。

 その頭を撫で、髪を梳くようにしながらエイは口を開いた。

 

「この子、きっと私が天移をしに来たんだと勘違いしています」

「それって」

 

 エイは頷く。

 

「待っていたんです、私に殺されるのを。それがこの子の役割だから」

 

 女の顔で、しかし獣の仕草でソエはエイに好意的な態度を示していた。

 理由はただ一つ。

 自らを殺してくれる唯一の存在だからだ。

 

「……私が居なくなって、困ったでしょう? ごめんなさい。貴女の空写は、今戻りました」

「くう、くう」

 

 絞り出すような金切り声で、ソエは喜びを表す。

 しかし今、ソエの願いを叶えてやることは出来ない。

 

「でもごめんなさい。もう少しだけ待っていてくださいね。必ず、役割は果たしますから」

 

 ソエを狩る為に奮起していたエイはもうどこにもいない。

 村人から聞いた話と山から聞こえてきた恐ろしい声が作り上げたソエという恐ろしい怪物のイメージは、既にエイの中で崩壊していた。

 

 この異縁存在もまた、人間が自身の保身のために作り出したものに過ぎない。

 それがどれだけ驕りに満ちた行為であるのか、エイは村に生きる者の一人として受け止めていた。

 

「……くう」

 

 ソエは理解したように首を垂れる。

 そして、元来た道とは別の場所へと軽い足取りで駆け出した。

 

「あっ、行っちゃいました……」

 

 ソエは茂みを抜け、木々の向こうへと消えていった。

 消えた方角を見ながら、エイは申し訳なさそうにして一礼をする。

 

「人の言葉を理解していたな。あれ、相当高位な異縁存在だぞ」

「戦っていたら、無傷とはいかなかったですね」

 

 異縁存在の脅威レベルを測る際、最も簡単な基準が人語を理解できるかどうかである。

 人間と同等の知恵を持つ異縁存在は、間違いなく脅威となるのだ。

 

「……あの子の命を、私は奪うんですね」

 

 悲し気な呟きに、セナノは言葉を掛けようとエイの方を見る。

 と、そこで彼女は辺りが変わっている事に気が付いた。

 

「ここ、泉じゃない……!?」

 

 ソエが消えたことをきっかけに、辺りの光景は一変していた。

 鬱蒼した森と山道は無かった事になり、目の前にはエイが語って聞かせてくれた泉がある。

 

 そこだけ木が生えておらず大きく広がったスペースには、直径五十メートル程の泉が広がっている。

 水はよく澄んでおり、差し込んだ陽の光を受けて細かく煌いていた。

 泉の中から顔を出す樹木にはコケが生えており、その先に咲いた名も知らぬ花に蝶が止まっている。

 鼻腔に広がる香りは、深い森の清らかなものであった。

 

 全てが自然に育まれたこの場所に、人工物は存在しない。

 

「ここです! セナノさん、師匠!」

 

 エイは嬉しそうにそう言って、泉を指さす。

 その姿を見ながら、セナノはふと考えた。

 

(ソエが居なくなったから、泉が出てきたのかしら)

 

 今まで辿り着かなかったのがソエの仕業だとすれば納得はできる。

 そういった空間や認識への干渉能力を持つ異縁存在は多い。

 

(けど、どうしてそんな事を……? あんなにエイに従順なら、困らせる事なんてしない筈。殺されたかったとしても、一時間以上歩かせる意味はない)

 

 ソエがエイによる天移を望んでいたのなら、そんな事をせずに身を晒せばいい。

 村まで聞こえるほどの遠吠えをする程に常日頃から存在をアピールしているのだから、今更山に入った所を狙って惑わせる必要なんてない筈だ。

 

(じゃれているのかしら、それとも何か理由があった……?)

 

 そして、ソエは何故あのタイミングで姿を見せたのか。

 セナノはそんな事を深く考えようとして、途中でハッとした。

 

「今はエイの事を見ていないと」

 

 何よりも大切なのはエイだ。

 泉を見て、嬉しそうにネネに色々と説明をしている自分の相棒の事を考える方がずっと有意義だろう。

 

 そうしてセナノは、一度ソエについて考える事を止めた。

 

 

 

■

 

 

 

 仮にセナノがそのまま考察をしていれば、この可能性に行きついただろう。

 三人を迷宮で惑わせ、一時間も同じ場所に閉じ込める行為。

 

 それは、ソエにとっては、大切な空写を守る行為であった。

 

「――くう、くう」

 

 澄目村と外を隔てるとある山の中腹。

 人の手が入っていない鬱蒼とした森の中には不釣り合いな特殊装備の人間が倒れ伏していた。

 その手にもった銃はひしゃげ、身体からは血が溢れている。

 傍には上半身が潰れた死体や、木の枝に刺さって力なく垂れ下がったものもある。

 

 ソエは空に向かって鳴き、足元で蠢いていた異縁存在を踏み潰した。

 A階位として、とある疑似媒介体の天移テスト用に運搬されていた異縁存在であることをソエが知る筈もなく、異縁存在だったものは辺りに散らばる。

 

「くう、くう」

 

 変わらずソエは鳴く。

 しわがれた老人の様に、金属をこすりつけたように、不快で甲高い声で。

 

「くう、くう」

「くう、くう」

「くう、くう」

 

 やがてそれは重なり始め、死骸の周りは大量のソエに囲まれていた。

 老婆の顔、子供の顔、そもそも人間ではない顔。

 胴が熊であったり、背中に蛇の鱗がびっしりと生えていたりと、それらは個体によって姿を大きく変えていた。

 それでも、それらは同じくソエである。

 

 証明するようにソエ達は死骸へ向けて――正確にはまだ生きていた無線に対して鳴き続けた。

 

「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」「くう、くう」

 

 声は重なり、更にその数を増していく。

 こうして、縁理庁が秘密裏に実行した作戦の一つはセナノ達が知るまでもなく完全に失敗したのである。

 

 

 

 

 

 

『どんどん作って遊びましょう!』

『いけぇ! ギャラクシーオソエver2.3!』

『負けませんよ! 私のオソエマキシマと勝負です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【任務報告書】

 

文書番号:EN-OSE-██-109

機密区分:極秘

任務区分:澄目村侵入・疑似媒介体能力測定

提出者:特殊縁者部隊■■班 班長 ■■■■■

任務結果:失敗/撤退

 

■ 概要

 

 ■■県■■郡澄目村への侵入及び疑似媒介体能力測定を目的として、特殊縁者部隊■■班を派遣。

 

 村の外縁より約■■km地点の森林区域へ侵入したところ、未登録の異縁存在複数体と接触。

 交戦の結果、作戦継続は不可能と判断。

 村内への到達に失敗し、撤退した。

 

■ 接触対象

 

 現時点で名称・危険階級ともに不明。

 確認個体に共通した外形は存在しない。

 鹿、熊、猿、猪、犬、人間等、複数種の身体的特徴が不規則に混在しており、個体ごとに構成部位が異なる。(人間の顔面、四肢、発声器官を有する個体も確認)

 

 単独個体ではなく、最低でも■■体以上からなる群れを形成している。

 また、一定の連携行動を確認したことから、群体として非常に発達した情報共有能力を有する可能性が高い。

 

■ 交戦記録

 

 森林侵入後、部隊が運搬していた異縁存在が最初に襲撃を受けた。

 やむを得ず異縁存在を前衛として応戦したが、対象は人間と異縁存在を区別せず攻撃。運搬異縁存在を喪失。

 その後、縁者■■名が襲撃を受け死亡。

 観測隊員のみでの任務続行は不可能と判断し、観測機材及び一部封縁装備を放棄して撤退した。

 

■ 特記事項

 

 対象は、異縁存在を捕食あるいは取り込んでいる可能性がある。

 交戦後に回収された自動観測映像から、任務開始時には確認されていなかった新規個体を確認。

 当該個体には、人間由来と推定される腕部及び、行方不明となった班員の認識票が確認された。

 

 このことから捕食した対象の身体的特徴を自身、あるいは新規個体の構成要素として利用する可能性を否定できない。

 また、行方不明隊員の声を模倣し、撤退中の隊員を呼び戻そうとする行動を確認した。

 

■ 損害

 

縁者

死亡確認 ■名

行方不明 ■名

負傷   ■名

 

運搬異縁存在

喪失   ■体

 

観測機材:大部分を現地放棄

 

封縁装備:一部喪失

 

■ 班長所見

 

 事前情報と現地状況が著しく乖離している。

 対象は単純な異縁存在ではない。

 

 我々が森林へ侵入した時点で群れはこちらの位置、人数、異縁存在を把握していた可能性がある。

 また、運搬異縁存在を優先的に襲撃した行動についても偶発的なものとは考えにくい。

 澄目村への再侵入を行う場合、通常部隊及び使役型異縁存在の投入には反対する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。