【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
それは本来、空心祭に向けて身を清める為の場所であった。
霊峰からしみ出した清水湧き出る秘境は、これまでも多くの空写がその身を清めてきたのだろう。
本来であればこの機会を利用して縁波密度の測定や水のサンプル回収などやるべき事がある。
しかし、今のセナノにはそんなことはどうでも良かった。
一応、頭の片隅にその事はあるが、後回しにしている。
何故ならば。
「ひゃっ……やっぱりこの泉は冷たいです」
今まさに、エイが泉に入ろうとしているからだ。
エイは素足で傍の流木まで向かうと、腰を下ろし足先を水面に降ろす。
小さな波紋が足先から広がり、水面に映ったエイの姿が揺れた。
「でも、暑いから気持ち良いですねぇ。いつもこの時期だったら、少し寒いのに」
足をとぷんと中に入れ、そのまま体を泉の温度に慣らしていく。
エイは緊張が抜けきった顔で、ゆっくりと泉の中央へと向かっていった。
「セナノ、水着とか持ってたりするか?」
「無いです」
「……そうか。ならこのまま」
「駄目です」
自分も入りたくなったであろうネネが余計な事をする前に、セナノはその手を握る。
泉の中心で、白装束の巫女が実を清めている絵に、ずぶ濡れのロングコート長身女が入っては台無しだ。
「ふふっ、なんだか懐かしいですっ! あははっ!」
エイはずんずんと中心まで向かうと、遂に水深は彼女の腰のあたりまで来た。
それほど深くはないのだろう。
まるでエイが水浴びをするために作られたかのように丁度良い泉だ。
「~♪」
鼻歌を歌いながら、エイは無邪気に笑って両手で水を掬いあげる。
差し込む光が手の中で揺れるように踊る影を創り出し、見ていて飽きる事はない。
それをエイは自分の首元からゆっくりと体へと向けて流し入れた。
「っ」
まだ上半身はその冷たさに慣れていないのか、鎖骨から身体を伝って落ちていく水にエイは小さく声を上げ、体を震わせる。
セナノはそれを見逃さなかった。
(は? 何あの水浴びの仕方? なんで鎖骨から服の中に水を入れるの? 普通に肩から掛ければ良いじゃない! 澄目村って、淫猥な因習も残っているのかしら!?)
酷い言いがかりを内心でつけながら見ていると、エイは二人に手を振った。
「どうしてそんなところにいるんですか? こっちに来て一緒に水浴びをしましょうよぉ!」
「サラシなら行けるか?」
「靴下脱いで足元だけにしてくださいよ。なんでいきなり上から水を被る前提なんですか」
そう言って、セナノは泉の縁で傍にあった岩の上に腰を下ろす。
苔が広がっており、まるでクッションのように柔らかく彼女を受け止めてくれた。
その隣では、ネネが意気揚々と靴と靴下を脱ぎ、泉の中に足を入れたところである。
「……うん、非常に良い!」
「わかりますか師匠! そうなんです。シャワーやお風呂も良いですけれど、泉も良いんですよ!」
パシャパシャと水しぶきを上げながらネネへと近づくエイは、嬉しそうに熱弁する。
「とても心地が良いぞ。エイ、この場所を教えてくれてありがとう」
「いえいえ、私の方こそ満足に歩けないというのに連れてきてくれてありがとうございます」
セナノはその光景を最初こそ微笑ましそうに眺めていた。
が、エイの服に異変が起き始めた辺りで全てが変わる。
「……ん!? 」
元々薄い生地だったのだろう。
水を流し込まれた服は、内側から僅かに透けている。
白い肌がぴっちりと張り付くようにして、服を着ながらにエイの裸体が見え始めたのだ。
(え、あれ透けて……え、下着着けてないの!? なんで!?)
動揺するセナノのことなど知らない二人は、キャッキャッと泉の清らかな冷水で楽しんでいる。
ネネが水を掬い高くからシャワーのようにエイの頭に向けて水を掛けたり、逆にエイが掬った水をネネへと掛けたり。
エイはともかく、ネネももはやずぶ濡れなのだが今のセナノにはどうでも良かった。
それどころではないのだ。
はしゃげばはしゃぐ程、エイのあられもない姿が泉に晒されていくのである。
(こ、これっ……いいの!? なんか、駄目なんじゃない!?)
穏やかにエイを見守るその内心で、セナノは大慌てである。
装束で隠れていたほっそりとした体の輪郭がはっきりとしていき、隠している分余計に何故か背徳的な気分にさせた。
(でもこの泉には滅多に人は来ないだろうし……それにエイも師匠も気にしていないなら私がおかしいのかしら……?)
「セナノさーん! セナノさんも来てくださいよぉ」
「い、いえ私は……っ!?」
水に濡れた腹部が、肌の色を浮き彫りにしていた。
白く柔らかそうな肌と、そして小さくくぼんだ臍。
普段であれば何の変哲もない筈のエイのお腹とおへそが、濡れた布を一枚通すだけでセナノにとっては致死量となってしまうのだ。
「あぁっ! なんでそんなに無防備なのよエイ!」
「ふふふ、大丈夫ですよ。この辺りには悪い異縁存在はいません。ソエも私達には危害を加えないでしょうし!」
「そういう無防備じゃ……」
「どうかしたのか、セナノ。何か、気が付いたことでも?」
「えっ」
セナノは少し黙る。
脳内では様々なシミュレーションがなされ、やがて一つの答えにたどり着いた。
(これ私が指摘したら私が変態S階位になるわね)
三人の中で一人だけ、服が透けていることを気にしている。
それも、恐らくは同性を相手にしているにもかかわらずだ。
なら、どうするのが最適解か。
それをセナノの優秀な頭脳は導き出していた。
「……いえ、何でもないです! 少し心配しすぎたみたいですね! エイ、私もそっちに行くわ」
「はいっ!」
単純ながら、最も適した答え。
そう、気にしない。
例えそれが好きな相手であろうとも、気にしてはいけないのだ。
もしも気にしていることがバレたとしたら、二人からどんな反応をされるかわからない。
(もしも私だけ透けていることを気にしてドキドキしてるってバレたら……)
セナノはその時の事を思い浮かべる。
『セナノ、S階位としての心構えが出来ていないようだな』
『そんな目で私を見ていたんですね。……えっち』
(って言われるわ! ……あ、でもエイにはちょっと言って欲しいかも)
などと世迷い事を考えながら、セナノは泉の中に足を踏み入れる。
冷たい泉の水は、セナノの沸騰しきった脳みそを冷静にさせてくれた。
「どうですか、セナノさん」
「悪くないわね。川とか海ともまた違う感じ」
足裏から伝わる苔の感触も心地よい。
先ほどまで茹っていた脳みそからスーッと温度が抜けていくような感覚も心地良かった。
(よくよく考えたら今のエイを相手にそんな事を考えるなんて狂っているわね。はぁ、自分が嫌になる)
セナノは改めてそう思い直し、ようやくエイを真正面から見た。
自分を見上げる潤んだ目には、きっと色鮮やかで澄んだ世界が映っているのだろう。
濡れた黒髪は頬に張り付き、そのまま輪郭に沿って水滴が伝っている。
掴むことを躊躇してしまう小さな肩や胸、細い胴回りと、薄っすらと透けて見える体は人形のようであり、壊れてしまいそうだ。
「どうかしたんですかセナノさん」
「いえ、少し暑さにやられただけ」
エイは不安そうに近づいてきた。
当然、セナノのいる岸辺は水深が浅くなるので、水の中で揺れていた白い装束が、重力を取り戻す。
結果、腰から下まで服が張り付き、透ける肌色が増えていった。
「おわぁ!?」
S階位とは思えない間抜けな声と共にセナノは、無意識の内にエイの下半身へと視線を向けていた。
透けた肌と、服の切れ間から覗く濡れた太もものコントラストが美しい。
脚の曲線に沿って垂れていく水滴一つ一つが、今のエイを引き立てていた。
奇跡的に、布が重なっているおかげで重要な部分は隠れてはいるが、臀部も殆どが透けていた。
そう、透けていたのだ。
「……え、えい」
「どうしたんですか?」
「し、下着って……どうしたの」
「ああ、無いですよ。この泉で水浴びをする際は、いつもそうだったので!」
「成程、それがマナーだったのか。では私も次来るときはそうするとしよう」
「そ、え? だって、それ……え?」
重要な部分が隠されていることがむしろ、色々と掻き立てる。
そんなエッチなマナーがあってたまるか、とすら思っていた。
「セナノさんも、こっちに来てくださいよ。膝までだったら浸かっても大丈夫でしょう?」
セナノの手を引き、エイがグイグイと引っ張る。
彼女はされるがままに泉の中心部へと誘われていった。
「あ、えぇ、そうね」
「うーん、なんか様子がおかしいですね……」
流石のエイもセナノの異変に気が付いたのか、眉を顰める。
そして、自分の体に視線が向けられていたことを思い出し、ハッとして振り返った。
「あっ、成程!」
振り返りざまに、エイはセナノを再び見上げて自信満々の表情だ。
右手はセナノに繋がれたまま、左手でエイは自身の胸元を広げ、中が見えるようにした。陽光が中をほんのりと照らし、水滴が流れ落ちるその先を見せる。
そしてセナノが動揺する間もなく、エイは告げた。
「今は男だから、大丈夫ですよ」
きっと、自分が今女であると勘違いしたセナノに恥をかかせまいとしたのだろう。
エイは、ネネに聞こえないようにこっそりと告げた。
その瞬間。
「……わぁ」
セナノの脳が限界を迎えた。
彼女は後ろにゆっくりと倒れ込み、泉に体を投げ出す。
「セナノさん!?」
「ああっ、ずるいぞセナノ! 服が濡れるから駄目だって言ったのはお前だろう! もう良い、私もしっかり堪能する」
コートと上着を遠くに投げ捨て、サラシ姿になったネネは今度こそ完全に腰まで体を沈めた。
水に仰向けで浮かぶセナノと、満足そうに息を吐くネネ。
二人を見て、エイはきょとんとしたがすぐに満面の笑みになった。
「そんなに二人が気に入ってくれたなんて嬉しいです! セナノさん、もっと深い所に行きましょう。水が湧いていて、冷たくて気持ちいいですよ!」
「わぁ」
手を掴まれたまま、水面を引っ張られるS階位。
彼女が見上げる空は青く澄んでおり、何故だか笑っているような気がした。
『さて、どうだろう。クライアントの意向通りの仕事をしたつもりだよ。最後の無自覚えちえち囁きコンテンツは俺からのサービスさ』
『ぶりりあんと!(舌足らず) 流石は極東の地に名をはせる孤高のコンテンツァーですね……! 無免許でありながら、多くのコンテンを成功させてきたというその噂に違わぬ腕前です』
『知らない職業だし無免許なんだ、俺って』