【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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村に生まれた唯一の生贄候補故に少女として育てられたい人生だった


第2話 因習村脱出儀式崩壊RTA

 15歳になった。

 時は来た、それだけである。

 

 つまり俺は贄になるのだ。

 逃げたいのは山々だが、この閉塞的な環境と絶対に勝てない上位存在のせいで無理だったのである。

 なので、5年かけて俺は覚悟を完了していた。

 

 まあ、今世なんて人生のロスタイムみたいなもんだったし。わはは。

 

 でもまだ『おもしれー人間』で生かしてくれるルートも信じてるぞ……!

 あの夏から一度も姿を見せないけど、少しは期待しているからなソラ……!

 

「エイ……不甲斐ないお母さんでごめんね……!」

「そんなことはないよ。ありがとう、母さん。父さんも」

「……本当にすまない」

 

 これが空心祭の一か月前の会話である。

 

 それから俺は一度も会話をしなかった。

 それが生贄に捧げられる者に課せられたルールだからだ。

 

 一段階目『言葉の澱引(よどび)き』。

 これは人間を限りなく空っぽにするために行われる行為であるらしい。

 料理で言うなら、血抜きだろうか。

 

 ケンジさんも遠巻きに眺めながらも決して話しかけては来なかった。

 そりゃそうだ。だって俺が失敗したら御空様が何するかわかんねえし。

 

 そうして一か月を無言で過ごし、8月の最も空が青い日に第二段階へと移行するのだ。

 それが今、『笑面(しょうめん)の刻み』という儀式である。

 

 これは祝詞をあげながら、笑顔の面をかたどったシンプルな面を被せる儀式だ。

 料理で言うならたぶん火入れです。

 

「ではこれより、空心祭を始める」

 

 村長の言葉と共に、俺は真夏の炎天下を巫女服から色を抜いたような白い装束に面を付けて歩く。

 向かう先は、禁足地として普段は立ち入りが禁止されている澱見ヶ嶺(よどみがみね)だ。

 

 俺が生まれる前のことだが、あの嶺を開発しようと外部から来た人々は次の日には全員心神喪失状態になって空を見ながら笑っていたらしい。怖すぎだろ。

 

 長い道を、汗ダラダラで歩いて一時間、ようやく頂上に到着した。

 

 村長たちは全員その場で目隠しをはじめ、俺を囲んで座る。

 この後、村長が祝詞をあげて、俺が舞えば御空様に捧げられるのだ。

 

「……たた なが ひそ くく ことはら みなし な いず みよ くう……くう……」

 

 村長が朗々と意味の分からない言葉を吐き出す。

 曰く、それは言葉ではなく音の羅列であるそうだ。意味がない事にこそ意味があるらしい。

 

 それが終わると俺は面を付け、両手を空に大きく広げた。

 次第に空は青さを増し、辺りは妙に静かになっていく。

 あれだけやかましく鳴いていた蝉の声も、嶺に吹く風の音も消える。

 

 空が俺を見ている感覚だけがそこにあった。

 

 これが最終段階『空心の舞い』の始まりである。

 俺が空澱大人に捧げられる準備が整い、いよいよその時が来たのだ。

 

 転生したのに全然無双できずに女の格好させられて因習村で踊らされる。

 これもう尊厳破壊だろ。

 

「……」

 

 空がこちらを見ていることを確認したら、練習通り舞を始める。

 不思議と恐怖はなかった。

 不自然なまでに青い空は確かに俺だけを注視しているように感じるが、それも発狂せずに受け入れられている。

 御空様に具体的な形が存在しないことが理由だろうか。

 

 ここで如何にもな化け物が出てきたら流石の俺も気を失っていた可能性がある。

 何人かはこの舞の最中に気が狂ってしまうそうだが、俺は舞を終えることが出来そうだ。

 

 まあ、舞い終わったところで俺は所謂神隠しに遭うのだが。

 発狂と神隠しどちらがマシかについてはあまり考えたくはない所だ。

 

「――」

 

 そうしてどれだけの間、舞っただろうか。

 一分も経っていないようにも思えるし、もう一時間以上経ったようにも思える。

 空を見上げたまま踊り続けるため、周りの様子を窺う事も出来ない。

 何がきっかけで終わるのか、それすらもわからない状況で俺は踊り続けるしかなかった。

 

「お元気でしたか?」

 

 不意に、背後から声が聞こえた。

 

 次第に辺りから蝉の声が聞こえ始める。

 そして肌を焦がすような太陽の日差しや髪を撫でるように吹く風も感じ始めた。

 しかし俺には直感的に分かる。

 まだ、世界はおかしなままだ。

 

 夏らしさで覆われた世界は、未だにどこか作り物めいている。

 蝉の声も、風も、日差しでさえ、ナニカが模倣した産物に過ぎないのだ。

 

 俺は舞をしながら、動作を利用して背後を見る。

 そこには、水色の髪の少女が笑顔で立っていた。

 

「見事な舞ですね。良く練習してくれたようでうれしいです」

 

 舌足らずな口調で、甘い声。

 しかし、どこか落ち着きと俯瞰した価値観を感じた。

 

「もう、舞は止めていいですよ、エイ」

 

 その言葉に俺は恐る恐る舞を止める。

 せめて殺すなら気持ちよく殺してくれ。

 でも出来れば助けてくれ……!

 

「人間にとっては久しぶりでしょう。面をとって、顔をよく見せてください」

「……はい」

 

 俺は面を取って、視線を合わせる。

 少女を見下ろしている筈なのに、何故か俺が見下ろされている感覚に陥ってしまう。

 

「とても良いですね」

 

 ソラはそう言うと、俺へと手を伸ばす。

 俺が身を屈ませると、ソラは頬を撫でながら笑った。

 

「美しく育ちました。今代の空写は上質ですね」

「ありがとうございます」

 

 無邪気に笑うソラを見て俺は確信した。

 駄目だ、これは殺されるパターンだ。

 上質って単語、生かすパターンで使わねえもん絶対。

 

「では、約束を果たしましょう」

「……え?」

 

 ソラは笑顔で俺に手を伸ばす。

 首を傾げる俺を見て、ソラは不満げに口をとがらせた。

 

「アニメや漫画を貴方に教えると約束しました。けれど、アレは語って聞かせる物ではありません。それに、天移で情報を送ってしまってはエイをすぐに抱擁しなければいけません……」

 

 怖いワード出てきたんだけど。

 何? 天移って。絶対ろくでもないじゃん。

 

「なので、瞬き程の時間ではありますがエイを外に連れ出して漫画やアニメを実際に見せてあげたいと思います!」

「そ、それは……」

「あれ、嫌でしたか? もっと喜ぶと思っていたのに……なら、すぐにでも天移を」

「わ、わーい! 嬉しいなぁ! 死ぬ前にそんな素敵な体験ができるだなんて!」

 

 俺ははしゃいで言葉をかき消す。

 あっぶねー……危うく大チャンスを逃すところだった。

 

「そうですか。それは良かったです。じゃ、行きましょう」

 

 ソラはそう言って俺の手を取る。

 その瞬間、青空が割れた。

 

 凄まじい風が吹き込み、気が付けば周辺は夜闇に包まれた。

 

「夜……!?」

 

 そこでようやく俺は時刻を悟る。

 既に深夜になっていたのだ。

 

 俺の周りには篝火が置かれ、見張り番であろう村人が数人だけ残っている状態だった。

 その中には俺の父親の姿もある。

 

 父は俺を見ると、恐ろしいものにでもあったような表情で叫んだ。

 

「っ!? エイ!? なぜ急に姿を……いや、違う。という事は空心祭は失敗に終わったのか?」

 

 言葉の雰囲気から察するに、俺は舞の途中で姿を消したようだ。

 空が変わったあの瞬間には既にこの世界にはいなかったのかもしれない。

 

 まあ、日本が誇るコンテンツのおかげで戻って来たんだけどね。

 

「人間たちが、エイを見て怖がっていますね。邪魔ですし、天移させましょうか」

 

 そう言って、気軽な動作で何かとんでもない事をしようとしたソラの手を俺は慌てて引き強く握る。

 父さん達には俺しか見えてないのにそんな事したら、俺が神通力使ったみたいになるじゃねえか!

 

「ソラ、駄目」

「そうですか。まあ、エイが良いなら良いのです」

「……エイ、誰と話しているんだ? そこに誰かいるのか?」

 

 俺は答えようと口を開いたが踏みとどまる。

 ここに御空様がいるよぉ^^ って言ったら、たぶん全員発狂するだろこれ。

 

「ソラ、行こう」

「はい! 行きましょうか。エイには見せたいものがたくさんあるんです!」

 

 ソラは無邪気に手を引いて歩き出す。

 その瞬間、俺の周りの景色は昼の真夏になった。

 

 ソラってもしかしてこの空間を通路代わりにしてんの? 暑いんだけど。

 

 

 

 

 

 

 エイが背を向けたとき、誰も手を伸ばすことが出来なかった。

 実の父親さえ、一歩も踏み出せなかったのだ。

 

 理由は単純。

 彼の不自然に伸ばされた手である。

 まるで幼子と手を繋ぐかのように伸ばされた手の先には、間違いなく何かがいた。

 

 エイはそれと当然のように会話をしている。

 

(もしかして、アレがエイが話していたソラという御空様の使いなのか……!?)

 

 過去、一度だけ父親はエイにだけ見える子供の話を聞いたことがあった。

 曰く、どこにでも現れる、青い髪の少女であると。

 

(今ああやって一緒にいるという事は、空心祭は成功したのか? いや、だがならなぜここにエイが――)

 

 思考を巡らす中、父親がもう一度顔を上げるとそこには既にエイの姿はなかった。

 

「……エイ?」

 

 その問いに答える者は誰一人としていない。

 空は、星一つない闇に覆われていた。

 

 

 

 

 

 

【極秘儀式逸脱報告書】

文書コード:EN-RF-7071-JP-SM-EI

発行組織:縁理庁(えんりちょう)・異縁災祭式調査課

分類:祭儀障害調査記録/空澱大人関連事案/階級Ω-要監絶再調査

 

■ 件名

澄目村における空心祭の異常進行および、生贄対象『折津エイ』の帰還事案について

 

■ 背景

澄目村(所在地:██県██郡██村)は、災主級に対する儀式的信仰を現在まで保持する国内でも数少ない因習集落の一つである。

当地では15年周期で選出される15歳の女性(※形式上は女児)を空写とし、供儀の形式を通して空澱大人に「感情をもって見上げられる者」を捧げる「空心祭」が実施されてきた。

該当祭儀は、当庁による監視下にあり、記録上、過去少なくとも9回の儀式において神隠し事象が観測されている(儀式後、対象の完全消失)。

 

■ 事案発生日

令和██年8月14日(15年周期の空心祭当日)

 

■ 対象

名称:折津 エイ(Oretsu Ei)

 

性別:男(※生後直後の異常出生判断により、空写に擬態化)

 

年齢:15歳

 

出生:澄目村

 

■ 空心祭の進行状況(監視記録要約)

時刻(儀式開始以降) 観測内容

12:00 村長による祝詞の奏上開始。空写(エイ)による舞開始。蝉鳴・風音等の自然音が消失。空青度が計測不能レベルまで上昇。異縁的空視感覚が確認される。

13:12 空写が踊り続けている中、青空上部が一瞬、半球状に開く現象確認。空写が視界より消失。直後、儀式関係者数名が一時的に発話停止・硬直状態に。

 

■ 事案の異常性

本事案において特筆すべきは以下の三点である

 

儀式中における空写の消失と再出現

 空心祭において神隠しは最終段階とされ、対象は物理的にこの現象世界から抹消される。

 しかし本件においては、折津エイは深夜時に再出現した。

 その際、身体的・精神的外傷は一切確認されず、本人の証言は取得不能であるが、明らかな記憶保持と正常な精神活動が認められた。

 

周囲との知覚齟齬

 儀式関係者および監視班が確認した時刻は昼であったが、折津エイが再出現した時刻は夜であった。

 該当地域のみ異常な時間領域の断裂があった可能性がある(※天候観測ログと一致せず)。

 

空澱大人との非致死的接触仮説

 通常、空澱大人との接触は認識崩壊を引き起こし、精神構造を解体する「空視融解」が発生する。

 しかし、対象は直接の会話・接触を経ても無事であり、これは過去に前例を持たない。

 加えて、対象が空澱大人より外界への一時的顕現という恩恵を受けた形跡がある。

 これにより、空澱大人が一時的に人間的感受性に影響を受けた可能性がある(→参考:2020年《霧笑》事案)。

 

■ 仮説:空心祭の意味の変質

空澱大人は、人間を単なる供物として受け入れるだけでなく、観察・対話・共鳴の対象として捉える段階に入っている可能性がある。

 

特に、折津エイに関しては、長期間にわたる共感的対話、自己言及的思考、娯楽文化への欲求といった因子が、上位存在に影響を与えた可能性がある。

 

空心祭はもはや「神への供物」ではなく、「神との接続権」を持つ選ばれた観測者を定期的に選出するためのプロセスに変質しつつある。

 

■ 提言および危険評価

階級再評価:空心祭における接触リスクは従来のS級から《Ω-個体干渉接触》へと格上げを検討。

 

対象折津エイの保護・観察体制の確立。

 外見年齢に拘らず、空澱大人との関係性が持続している恐れがある。

 

澄目村に対する全面的な監視再編

 空心祭が本来の異縁封鎖機構として機能しているのか、再評価が急務。

 

■ 補記

対象折津エイは現在、村を離れていると推測されるが、痕跡は一切確認されていない。

 

村人は消失を受け入れており、口外する兆候は今のところ見られない。

 

本報告書は【縁理庁・縁災本部】への提出をもって、全記録を封秘指定とする。

 

【分類ラベル】

#ENR7071空澱大人

 

#折津エイ

 

#空心祭逸脱

 

#Ω級異縁相互影響

 

文責:縁理庁・儀式災害監査班(班長:██ ██)

発行日時:令和██年9月1日

 

 




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