【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

200 / 200
第200話 祈り、例えば一人になったとして

 泉に頭を浸していたおかげだろうか、セナノは次第に頭が冷えて冷静になってきた。

 どこからか聞こえてくる川のせせらぎ音が今はとても心地よく、風も穏やかで木漏れ日も丁度良い。

 己の心をひたすらに鋼とし、脳内で数千に及ぶ異縁存在との仮想戦闘を経てセナノは冷静さを取り戻していた。

 S階位たるもの、その精神は揺らいではならないのだ。

 

「はぁ、楽しかった! こんなに賑やかに水浴びをしたのは初めてですっ」

 

 自分の傍に腰かけて、エイはそう言って笑っている。

 しかし決してそちらを見てはいけない。

 見れば、無防備な巫女の体を直視してしまうからだ。

 濡れて張り付いた衣服はもはやエイの体を隠す役割を放棄している。

 おまけに泉でかなりネネとはしゃいだせいで、きっちりと締めていた帯は緩み、胸元が陽の元に晒されていた。

 そんな姿を見てしまえば最後、セナノは再び一人で泉に飛び込まなければいけなくなる。

 

「大変良い水浴びだったな。年甲斐もなくはしゃいでしまった」

「師匠、また今度あれやってください。水の上を走るやつ!」

「わかった」

 

 二人はセナノのように悶々としている様子はなく、清く楽しそうだ。

 この様子だと、明日も行きかねないだろう。

 

「セナノさんセナノさん、明日も……」

 

 予想通りだ。

 

「……中に水着とか着れないの?」

「村のしきたりですので」

 

 そんなどスケベな因習なんてあってたまるかと言いかけたセナノだったが、そんな風に考えている自分が一番のどスケベだと気が付き口を閉ざす。

 そして「……っす」と小さく言葉ですらないそれとともに頷いた。

 

「ありがとうございますっ。……あ、そうです。明日はお弁当とか持ってここに来ませんか? きっと楽しいですよ!」

「ほう、それは良いな」

「私、簡単なお弁当なら作れるようになったんですよ。なので、師匠にも食べて欲しいですね」

 

 明日の予定を和気藹々と立てている二人を他所にセナノはひたすらに水面を見つめる。

 が、水面に映るエイの生脚を見てしまい、逆効果にしかならなかった。

 

「そうと決まれば、早く村に戻ってお弁当の材料を集めないと……あぁっ!」

「っ、みっ、見てないわよ!?」

 

 唐突に上がった声に、セナノはついそう答える。

 しかし、見ればエイが不思議そうに首をかしげていた。

 

「見る……? なんのことかわかりませんが、大変です。着替えを忘れてしまいました!」

「え、着替え?」

「はい。タオルは持ってきたんですけれど……うぅ、浮かれてすっかり失念していました」

「そう言えばセナノもびしょびしょだな。私は殆ど脱いでいたから何ともないが……」

 

 そう言われてようやくセナノは自分が濡れている事に気が付いた。

 纏う服はずっしりと重く、少し動くだけでも水がじわっと染みるのがわかる。

 一度気にしてしまえば、中々に不快であった。

 

「早く戻りましょうか。この気温と言えど、風邪を引いてしまうわ」

「いや、ここで待っていろ。10分で戻ってくる」

 

 ネネは嬉々としてその場で屈伸を始めた。

 どうやらここから神社まで走る気満々であるらしい。

 

「そんな、悪いですよ師匠。私達なら大丈夫ですって」

「万全を期すことの何が悪い。体調管理も仕事のうちだぞ。任せておけ、この山道は何度往復しても気持ちが良いんだ!」

「……山を走りたいだけでは?」

「そうだが?」

 

 ネネは嘘をつかない。

 真っ直ぐに胸を張り、はっきりとそう答えた。

 GOサインを出せば、今すぐにでも走り出しそうな勢いの彼女を見て、エイとセナノは顔を見合わせる。

 

「じゃあ」

「お願いしましょうか?」

「わかった!」

 

 ネネは喜びと共にその場で跳躍する。

 そして近くの木の上へと飛び移った。

 

「すぐに戻る!」

 

 一つ、また一つと木を飛び移っていくその姿は、巨体からは考えられない程に俊敏である。

 

「凄い速いですね。村でもあんなに木登り上手い人いませんよ」

「木登りの範疇越えているでしょあれ」

 

 木々の向こうにネネを見送り、セナノはエイと二人きりになった。

 自然と口数は減り、それぞれが水面を眺める事となる。

 

「……澄目村は、いい所なんです」

 

 エイがそう言った。

 泉に舞い落ちた深緑の葉を足先で遊びながら、エイは言葉を続ける。

 

「最初に村長さんにあんな風に扱われて、きっと村の人達も昔のように扱ってくれないでしょうけれど。それでも、私はやっぱりこの村が好きです」

 

 言葉から伝わってくる感情は安堵だろうか。

 いつの間にかセナノがいる事を確かめているように、エイはぴたりと体を寄せた。

 

「嫌いになったらどうしようって思っていました。もしも皆さんが私の事を空写としてしか見なくなったら、胸を張って澄目村が好きだと言えないのではないか、と」

 

 故郷を愛せない。

 それは限られた世界で生きてきたエイにとっては何よりも恐ろしい事だった。

 澄目村は過去のエイにとっては、世界の全てだったのである。

 

「少しだけ見方が変わっただけよ。村長さんも、あなたを大切に思っているわ」

 

 安い慰めしか出来ない自分をセナノは恨んだ。

 

「だと、良いんですけれどね。少なくとも、私は皆さんが大好きですから。この空の向こうに行った後もきっと私は澄目村を守る事が出来ます」

「っ」

 

 空を見上げそう告げるエイに、セナノは何も言えなかった。

 エイは相変わらず、自らの運命を受け入れている。

 その献身的な根底は揺るぐことなく、恐らくこれからもそうなのだろう。

 きっと空に還るその時まで。

 

「今日もセナノさんと師匠のおかげで良い一日です。毎日が楽しくて、大好きな人が傍にいて……私は幸せ者ですね」

「なに馬鹿な事を言ってんのよ」

「わっ」

 

 セナノはエイの頭にタオルを被せると、わしゃわしゃと水気を拭きとっていく。

 最初はタオル越しに指の腹で優しく押すように水分を吸収し、それから毛先へと向かって優しくふき取る。

 もう慣れたものだった。

 何度こうしてエイの頭を拭いただろう。そして、お返しに拭かれただろう。

 

「これからもその幸せは続くわ。感謝しなさいよね。このエリートが保証してあげるんだからさ」

「ふふ、そうですね。ありがとうございます」

 

 髪を拭かれるまま、エイは心地よさそうに目を細める。

 揺れる木々、小さく波が立つ水面、風に髪と共に揺れる白いタオル。

 暫くエイはそれを何も言わずに堪能していた。

 

 やがて、タオルを受け取ったエイはセナノの背後に回る。

 自分よりも大きくで逞しい背中に微笑んだエイは、手を伸ばして懸命にセナノの頭を拭き始めた。

 

「セナノさんの髪はいつ見ても綺麗ですね。水に濡れていると本物の夕焼けみたいです」

「結構目立つから、任務中はどうかと思うけれどね」

「私は好きですよ」

「なら私も好き」

「じゃあじゃあ、伸ばしてみませんか? きっと綺麗ですよ!」

「えぇ、面倒よ。サッと洗ってサッと乾かせるほうがいいわ」

 

 実際、エイの拙い拭き方でも十分に乾き始めていた。

 利便性を重視するセナノは昔からこの髪型だ。

 しかし、それ以上に優先することがあるなら伸ばすことも厭わないだろう。

 

「……エイは見たいの? 私の髪が伸びた姿」

「そうですねぇ、叶う事なら」

「なら――」

 

 その言葉に、セナノはすかさず答えようとする。

 しかし、タオルが視界を塞いだ。

 そして間もなくエイが被せるようにして名を呼ぶ。

 

「セナノさん」

 

 きっとここに来るまで、何度も飲み込んだ言葉をエイはようやく口にした。

 

「もし私がいなくなっても、どうか悲しまないでくださいね」

 

 相手も見ず、会話の隙間に差し込んだ形だったが。

 それでもエイにとっては伝えるのに勇気がいる事だったのだ。

 

「……っ」

 

 セナノは答えない。

 それが今の彼女に出来る精一杯の抵抗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『セナノちゃん温度差で死なない? 大丈夫?』

『この人間はこの程度では死にませんよ。今までも素晴らしいコンテンツを繰り広げてきたじゃないですか! 期待していますよ、人間!』

『誉なのかなぁ?』

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない(作者:不破ふわる)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

かませ役♂に憑依転生した男が、TSするために頑張る話です▼カクヨム様でも掲載しています。▼※1/15 書籍化決定しました!!!


総合評価:26791/評価:9.46/連載:568話/更新日時:2026年10月06日(火) 21:00 小説情報

TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い(作者:SIS)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

宇宙の果てからやってきた侵略者につかまって、実験でTSさせられた挙句、寄生型の生物兵器を産まされました。▼だけど体を痛めて生んだ子供はやっぱり可愛いよね!▼あ、ダメだよ人間食べちゃ。めっ!! 人里離れて暮らすしかないか……。▼※ハーメルン匿名杯総合第三位! みなさんありがとうございました!▼※カクヨム・小説家になろうでも投稿しています。


総合評価:23652/評価:9.22/完結:158話/更新日時:2026年09月29日(火) 07:33 小説情報

SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!(作者:宇宙のモナカ)(オリジナル:SF/冒険・バトル)

時は2155年。▼ブラック企業の治安維持部隊にTS転生した俺は、一介の労働者として今度こそ前向きに生きると決めた。▼与えられた任務をこなし、生き残るために体をサイボーグ化して効率を極める。▼ただそれだけなのに――▼冷徹に敵を蹂躙する姿から、敵対組織には「白い死神」と恐れられ、▼部下たちからは「過酷な運命を背負い、企業に酷使される悲劇の英雄」として崇拝されてし…


総合評価:8009/評価:8.48/連載:107話/更新日時:2026年10月08日(木) 07:00 小説情報

【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ!(作者:まさきたま(サンキューカッス))(オリジナル:ファンタジー/コメディ)

異世界転生してしまった俺は、顔だけは良い王女様に生まれ変わった。▼今世は溢れる知性と圧倒的なパワーで、チート無双なスローライフを送る!▼……なんて、甘い話はなく。▼生まれ変わった俺は、無駄に良い顔面と王族という権力を持っているだけの凡人であった。▼こうなれば仕方ない。俺の代わりにチートキャラ集めて、無双してもらうか。▼・SQEXノベル様から書籍1巻を発売中で…


総合評価:40836/評価:8.9/連載:104話/更新日時:2026年09月13日(日) 21:00 小説情報

【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ(作者:流石ユユシタ)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

【9月12日発売。書籍発売】▼ 2032年、日本。
この国には異形の化け物――【怪異】が潜む。
だが、その事実を知る者は少ない。
表の世界は平穏を装い、裏でただひとつの集団――陰陽師が怪異を封じるために命を散らしてきた。▼ 倒すことは不可能。
祓うことも不可能。できるのは、ただ寿命を削って封印することだけ。▼ そんな理不尽な世界へ、ひとりの少年が転生した。▼…


総合評価:25381/評価:8.42/連載:110話/更新日時:2026年09月16日(水) 11:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>