【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
【縁理庁緊急任務書】
文書番号:EN-YKG-087
任務分類:異縁封鎖任務(危険指定)
任務対象:A階位縁者10名 観測員10名
発令部門:縁理庁対縁災課 第二局
■ 任務
A級異縁存在の複数体同時処理、及び迷宮封鎖任務
■ 概要
██市郊外に所在する中学校にて、数週間前より異縁的報告が続発。
調査のため派遣された縁者チーム1組(計7名)が消息を絶った。
当初、指定地域で確認されていた周期型異縁存在による現象だと判断され、現地縁者チームが派遣された。
しかし現場で複数の縁波密度を感知、当班は緊急を要するとしてNARROW使用許諾の申請。その後通信が途絶。
観測機器に記録されていた映像、そして縁波密度、封応値からアーカイブを参照し、A級異縁存在8体の同時顕現であると判明した。
以降、■■■中学校をZONE指定し、大規模な処理作戦へと移行。
■ 任務目的
・救難信号を発している縁者一名の生存確認および救出。
・当該ZONEにおける異縁存在の実体を確認、処理。
・迷宮の解体と、周辺地域の安全の維持。
■ 追記事項
縁理庁内の会議において、これは夜神楽の前兆であると結論付けられた。
これまでの夜神楽の出現パターンを参照し、あと3日以内に夜神楽が顕現する可能性が高い。
その為、当任務の終了時刻は明日の正午とする。
これ以降、異縁存在は夜神楽の一部として認識され、作戦指揮権も夜神楽対策班へと譲渡される。
また、人員が確保でき次第、可能な限り迅速にS階位縁者を当任務に派遣する。
発令署名:縁理庁 対縁災課 第二局 局長 ███
発令日:西暦20██年10月■日
■
縁者になった時点で楽に死ねない事はわかっていた。
異縁存在という理不尽を相手にするには人間の体はあまりにも脆く、脳みそは堅物すぎる。
しかし、なかなかどうしてその死が目の前に迫っていると実感してしまうと受け入れがたいものだ。
何の変哲もない中学校は、朝だというのに静けさに包まれている。
普段であれば、活気の溢れる声が聞こえるのだろう。
チャイムに慌ててこの急こう配な坂を上る生徒もいるかもしれない。
しかし今はどうだ。
まるで廃墟のように異常に静まりかえった中学校は、傍から見ると何の変哲もないが、それでも既に縁者チームを一つ殺しているのである。
「あの敷地内にいるのか? 8体も?」
縁者の男はもう何度も同じ問いを観測員に投げ掛けていた。
そして、安全な場所から淡々と情報を流すだけの観測員から送られてくる言葉も同じだ。
『はい。正確には特記事項のA級が8体。それ以外の異縁存在も確認できています』
「それをたった10人の縁者で対処? 死ねってのかよ」
『縁理庁は人的被害を最小限に抑えるべく、最新鋭の対異縁存在兵装を用意しました』
「それは見た。見たうえで言ってんだ」
今、男を含めた縁者の前には一丁のサブマシンガンが置かれている。
形状はP90に近いが、細部には異縁存在の為の必要な改造が為されていた。
『御空式構文刻印型祈祷具カラワリを使用した際のシミュレーションの任務成功率は60%を維持しています。まだ実験段階の兵装の為、特殊弾カートリッジは3種類ですが、あの場に顕現した異縁存在には全て有効です』
「お前は40%で俺達に死ねって言うんだな」
『そうならないようにサポートするのが私達です』
のらりくらりと躱す観測員に舌打ちを返し、男はカラワリを手に取り中学校へと向かう。
その顔は怒りに満ちていて、到底これから死ぬことを受け入れたようには見えない。
追従するように、一人の丸眼鏡の縁者が小走りで近づいてきて銃を担ぎながら笑う。
「しょうがないさ。アイツらも仕事なんだ」
「お前は相変わらず甘いな」
「マユルにも最近そう言われた。お父さんは優しすぎるって」
丸眼鏡の縁者はそれをまるで誇らしい事のように言った。
男はそれを聞いて無愛想な返事を返そうとしたが思いとどまる。
彼は作戦前の空気を悪くしたくないだけなのだろう。この状況でムードメーカーを買って出る彼にこれ以上相棒である自分が迷惑をかけてはならない。
「マユルちゃんは今、中学生だったか」
「中学二年生だ。縁理学園でも優秀で人気者らしい。自称だが」
「……親子二代で異縁存在に関わるか」
「仕方ないさ。それが木森林なんだから」
丸眼鏡の男はそう言って拳を男に向ける。
男はそれが何を求めているのか気が付いて、呆れて笑いながらその場を通り過ぎた。
「あっ、おい」
「やめてくれよ。他のやつらに恥ずかしい縁者だと思われる」
「そうかな。俺はいいと思うけれど」
不満そうに丸眼鏡の男はそう言った。
そのやり取りが今まで目の前に在った死を遠ざける。
気が付けば、いつも通りの冷たさが頭を満たしていた。
異縁存在と対峙した時、最も不要な物は感情である。
「作戦は頭に叩き込んだな」
「勿論。俺達は裏門から侵入して、2体のA級を誘導だよな」
「そうだ。それじゃあ行くぞ。……おい、死ぬなよ」
「勿論」
縁者達はそうして、いつも通り任務を始める。
それが今生の別れだとは知らずに。
これは、ただの前兆。
ここ数日で各地で起きている悲劇の一つでしかない。
本当の惨劇をもたらす祭日は目前に迫っている。
■
あの悪夢の後、セナノは存外心地の良い眠りを享受できた。
ネネに無理矢理押し付けられたカミキリを抱き枕にしたのが良かったのだろうか。
もう燃え盛る家を見る事はなかった。
穏やかな日差しと名前も知らない鳥の声が、朝を知らせている。
澄目村、二日目の朝は平和に、そして静かに迎えられた。
とは言え、活気が無いわけではない。
民宿を出れば、すぐに村の様子が昨日とは違う事が分かった。
「祭りの準備ですかね」
「恐らくな。見ろ、あの屋台を。どうやら村の中で屋台を出すらしい!」
「一つだけですけどね」
村の公民館前に広がる空きスペースには軽トラが複数台止まり、老いも若きも混ざって作業をしている。
それも佳境の様であり、村の中でもそこだけは祭りの為に華やかであるようだった。
その中には、昨日神社に来たケンジの姿もある。
彼も明るく村人と雑談をしながら、屋台のセッティングをしているようで、昨日見せた憂うような表情はどこにもない。
(この風景だけ見ると、普通のお祭りって感じなのに)
これはエイを空写として受け入れるための祭りである。
その意味を知るセナノには、目の前の光景に心を躍らせる事など出来る訳もなかった。
しかし、当の本人は違ったようだ。
「セナノさーん!」
神社に続く階段の上から、笑顔で手を振るエイの姿が見える。
あれだけ高い場所なら、村の様子は既に知っているのだろう。
そして、恐らくは屋台のことも。
「いつも通りだろ、エイは」
ネネはそう言って先に階段を上り始める。
その言葉の意味する事など、分かっていた。
「私だっていつも通りですよ」
セナノは大きな背中にそう言って聞かせるが、返事はない。
それに少しムッとして、セナノはわざと足音を立てて階段を上りネネを追い越した。
「師匠、お先に」
「む」
ネネはすぐにセナノを追い越すために足を速める。
それを予想していたセナノは、ネネがあっけにとられた一瞬の隙をついて更に上っていた。
「負けた方がエイに屋台奢りで!」
「いいだろう!」
「えっ、どうして二人共走り出したんですか!? でも、どっちも頑張ってくださーい!」
エイは飛び跳ねながら二人を応援する。
その無垢で元気な声は、澄目村中に響き渡った。
エイの残り少ない日常は、こうして今日も幕を開けたのである。
『そろそろですね』
『どっちが? 俺の体がぶっ壊れるって話? それとも夜神楽?』
『どっちもです^^ ダブルパーティーですよ!』
『嫌なパーティーだなぁ』