【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
セナノが村人たちからの視線を気にしていたのは最初だけであった。
最初の絡みつくような視線の以降は、エイに対して陽気に接している。
その姿は本当に裏表がない様に見えた。
「セナノさんっ、焼き鳥ですよ!」
「慌てないで、買ってあげるから」
財布を取り出して屋台に向かう。
ぴょんぴょんと跳ねて指さすエイは、焼き鳥の香りに心を奪われたようだ。
(すっかり食欲も取り戻したみたいね。もしかして、このまま澄目村で暮らせば回復できるのかしら)
廻縁都市にいた時とは似ても似つかない今の姿に、そんな希望を抱いてしまう。
この村は、エイにとって都合が良すぎた。
決して裏切らない村人に、体調を安定させる特殊な空間。そして、空澱大人という最強の庇護。
全てがエイをここに留まらせておくべきだと主張していた。
「塩とタレの二種類あるんですねぇ。悩みますねぇ」
焼き台の前で涎を垂らしそうになっているエイを見て、今までの薄暗い思考が全て吹き飛ぶ。
また、余計な事を考えていたらしい。エイの為にも明るく振る舞わなければならないというのに。
「はは、エイ。真っ先にここに来るなんて、いつも通りの食いしん坊だな」
「そういうケンジさんも、焼き鳥が好きだから焼いているんですよね。わかりますよ」
「まあ嫌いではないな。腹が減ったら、好きな時に摘まめば良いし」
「……セナノさん、私この屋台のお手伝いがしたいです」
「つまみ食いしたいの間違いでしょ」
「はははっ、エイすっかり食い意地がバレてるな!」
屋台を取り仕切っていたケンジは顔を上げて、快活に笑う。
そして、手早くパックへとそれぞれの焼き鳥をまとめ始めた。
「えへへ、こんなに美味しそうなんですもん」
「まだ隠れてこっそりアイス沢山食べて居たりするのか? やたらとアイス食べるの好きだったもんな。ほらよ、これは俺からのサービスだ」
「良いんですか!?」
エイは驚きながら、ぎっしりと詰まったパックを二つ受け取る。
それを見て慌てて財布を開いたセナノを見て、ケンジは首を横に振った。
「良いんだ。これくらいさせてくれよ。俺がそうしたいんだ」
「……ありがとうございます」
「ありがとうございますケンジさん! にしても、沢山入っていますけど」
「そりゃ、だってあそこのお連れさんも食べるだろ? あれだけ体が大きいんだから」
「あ、そう言えば師匠は――」
エイに気を取られていたが、気が付けばネネがいない。
ケンジの指さす方向を見れば、そこでは子供たちに囲まれるネネの姿があった。
「でっかぁ……」
「おっきぃ……」
「すっご……」
ネネの両肩に乗り遠くを見渡す子供や、その足元で見上げて愕然としている子供。
とにかく多くの子供に彼女は囲まれていた。
「すごいすごい! 巨人になった気分!」
「跳べばもっと凄いぞ」
「本当!? 跳んで跳んで!」
「トゥアャッ!」
ネネはその場で垂直に二メートルほど跳躍する。
その光景に、流石に村人全員が釘付けになった。
「すごいすごい! 空を飛んでいるみたい!」
「今のすっご……」
「でっかぁ……」
「お前達も、鍛えればこうなれる。食べて、寝て、身体を動かす。これが基本だ」
「わかった!」
子供たちと戯れていたネネは、やがてセナノの視線に気が付いた様子で子供を降ろす。
そして、別れを告げてセナノ達の元へと戻って来た。
「楽しかった」
「珍しい大型犬を見た時と同じ反応されてましたよ」
「良い事だな」
良い事らしい。
「師匠、焼き鳥たくさん貰ったので食べましょう!」
「わかった」
彼女の言葉はいつも通りたんぱくだが、少しだけ口角が上がっていた。
「さて、じゃああっちで食べましょう!丁度良い場所があるん――」
そしてエイが指を差し、意気揚々と向かおうとしたその時だった。
「エイ」
「……っ!」
エイは弾かれたように振り返る。
そこには一組の男女が立っていた。
見ればすぐに分かる。
目つきや鼻立ち、口元など二人からはエイの特徴が散見されているからだ。
きっと、この二人がエイの両親なのだろう。
「お久しぶりですね。勝手に出ていってごめんなさい」
エイは二人の方を向くと、丁寧に頭を下げた。
両親を相手にしているとは思えない程に丁寧な所作だ。
父親らしき男が、近づいていきエイの目の前に立つ。
そして、恐る恐る手を伸ばした。
エイはそれをじっと見つめて、何もしない。
やがて、その手はエイの頭に乗せられた。
ぎこちなく、父親の手がエイを撫でる。
「エイ、外の世界は楽しかったか?」
「はい」
「そうか……」
会話はそこで終わったかに思えた。
しかし、やがて父親が絞り出すように告げる。
「あの時は、悪かっ「駄目ですよ」……え?」
エイがその手を掴み、父親を見上げる。
そして優しく笑った。
「御空様が見ています。澱に引かれたいのですか?」
「……そうだな。喜ばしい事だけ、捧げなくては」
父親は無理矢理に笑う。
その傍に母親は立っているものの、言葉を発することはなかった。
正確には今のエイに掛ける言葉を持ち合わせていないのかもしれない。
何故なら、母親として言葉を掛けるべき機会はとうの昔に過ぎ去ったのだから。
けれど、エイはそれでも二人に微笑みかける。
「お二人も、変わりないようですね」
二人は頷く。
それを見て、エイは最後に告げた。
「これからも、御空様が貴方達を見守ってくださることを願っています」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
二人は礼を言う。
親子の会話は、こうして終わりを迎えた。
そこに血のつながりから来るぬくもりはなかったように思える。
「行きましょう、セナノさん、師匠」
「ああ、わかった。ではこれで」
エイとネネが、先にその場を去る。
それからセナノも両親に一礼をして、追おうとしたその時だった。
「あの子をよろしくお願いいたします」
振り返れば、二人が深々と頭を下げている。
その姿はやはり親であった。
(……私にも、こんな両親がいたのかしら)
かつて神に捧げる事を良しとした事実は消えない。
おそらくその時点で、エイとの間にあった大切な何かは切れてしまったのだろう。
しかしそれでも、最後まで二人はエイの事を想うのだ。
それが後悔や贖罪から来るものであったとしても。
「任せてください。私が必ず、あの子を守ります」
セナノは力強く頷く。
それはきっと、二人が為せなかった事を受け継ぐ意味もあったのだろう。
両親は、それ以上は何かを言う事もなく、村人たちの輪の中へと戻っていった。
きっとこれからはエイの両親ではなく、澄目村の住人として生きていくのだろう。
(……エイのあんな表情、初めて見た)
それは、無垢なエイが初めて取り繕った瞬間だった。
自分の心に蓋をし、エイは両親に淡々と接したのである。
セナノの記憶違いでなければ、エイは一度も二人と父とも母とも呼ばなかった。
遠くにソエの声が響いている。
そのすり潰したような金切り声は、まるで誰かの心を代わりに叫んでいるかのようだ。
『父ちゃん母ちゃん安心してくれ! 俺、あっちで元気に無双系主人公やってっから! 飯も食えてっから!』
『焼き鳥美味しいですねぇ! あの酒屋は未来永劫栄える事を約束しましょう!』
『たまに五感無くなるし、内臓が裏返るけど、元気だから!』